2017年11月08日
「ゲイ・パニック・ディフェンス」の謎
ゲイのキスを目撃することは、
ウジ虫を見ることと同じストレスレベルだった!
生理反応「ゲイ・パニック・ディフェンス」の謎(最新研究)
ウジ虫を見ることと同じストレスレベルだった!
生理反応「ゲイ・パニック・ディフェンス」の謎(最新研究)
街なかでカップルが仲良くイチャついたり、フレンチキスを交わしている光景に出くわしてしまうこともある。微笑ましく感じることもあれば、何かしゃくに障る(!?)こともあるだろうが、そのイチャつきあうカップルがもし男性同士だったら……。
■男性ゲイカップルのキスはウジ虫と同じ生理的嫌悪感!?
いわゆるLGBTへの社会的・行政的な理解が進んできている昨今だが、最新の研究では、そんな風潮に待ったをかけるような報告がされている。異性愛者の男性は、同性愛者の男性同士のキスやイチャつきあいを、まさに汚いものを見るような目で見ていることが実験で確かめられたのだ。
カナダ・聖フランシスコザビエル大学の研究チームがこの5月に社会心理学系学術誌「Psychology & Sexuality」で発表した研究は、LGBTの理解・受容の流れに逆行するものになるのかもしれない。
実験では、18歳から45歳の異性愛者の男性120人に、スライドショー形式で画像を見てもらいながら、唾液のストレスレベルをチェックする作業が行われた。表示された画像には、ペーパークリップなどの身の回りのありふれた物に加えて、男性同士のカップルのキス、男性同士のカップルの握手、男女のカップルのキス、男女のカップルの握手といった画像と、ウジ虫や腐った魚、傷んだ食べ物などかなり気持ちが悪くなる画像もちりばめられていた。
唾液中のαアミラーゼの値はストレスレベルを反映すると考えられており、どの画像を見るとストレスレベルが上がるのかが特定できることになる。
一連の実験の結果、男性同士のカップルがキスをしている画像は、ウジ虫などの気色悪い画像と同程度の高いストレスを生じさせていることが浮き彫りになったのだ。異性愛者の男性は、男性ゲイカップルのイチャつきあいを、気色の悪いものと同一視しているということになる。
「さまざまなスライドショーを見た参加者の唾液中のαアミラーゼの値を調べると、男性2人がキスをしている画像と、気色悪い画像で高い値を示していることがわかりました。両者とほかの画像との違いは際立っていました」と研究を主導した聖フランシスコザビエル大学のカレン・ブレア氏はメンタルヘルス系情報サイト「PsyPost」に話している。
■“嫌悪感”ではなく“不安感”か?
男性同士のカップルのキスを目撃することは、異性愛の男性にとってウジ虫を見ることに匹敵するストレスを与えていることがわかったのだが、ブレア氏によれば事はそれほど単純ではないということだ。というのも、αアミラーゼ値の高さはストレスレベルを表すものの、それが嫌悪感(disgust response)を引き起こしているのか、それとも不安感(anxiety response)を招いているのかまでは識別できないからであるという。
「男性同士のカップルのキスは不安感を生じさせているのかもしれませんし、気色悪い画像は嫌悪感を覚えさせているのかもしれません。しかし生理学的には、その2つの感情を見分けることはできないのです」(カレン・ブレア氏)
つまり男性ゲイカップルのキスは、決して“汚いもの”ではなく、不安感や脅威を引き起こすものとして捉えている可能性もあるということだ。
主にゲイ男性に恐怖を感じ、過剰防衛反応により攻撃することは、一部でゲイ・パニック・ディフェンス(Gay panic defense)と呼ばれ過去に論争を巻き起こした経緯があるのだが、今回の実験結果で、もし唾液の高いストレスレベルが“不安感”を示しているものであるとすれば、このゲイ・パニック・ディフェンスを生理学的に説明できる可能性があることにもなる。
しかし、だからといって普通の人々がゲイ男性に“不安感”を感じて実際に暴力を振るうことはまずないことをブレア氏は指摘している。暴力に出る者にはこの反応とはまた別の問題があるということだ。
そしてあくまでも今回の実験は初歩的な研究であり、今後もっと多くのサンプル数や性別や文化を越えた調査が必要であることが提唱されている。今回の研究はアメリカの中でも保守的と言われるユタ州の成人男性を対象に行われたというのも、ある意味では“特殊条件”かもしれない。
LGBTの理解を進めていかなけれなければならないのは言うまでもないが、ゲイ男性に対するこうした生理的反応は、個人差こそあれまだまだストレート男性の中に残っていることになる。どうすればこうした反応を緩和できるのかということも含めて今後の研究にも注目したい。
(文=仲田しんじ)
タグ:ゲイ
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