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2021年03月12日

「痴人の愛」本文 角川文庫刊vol,79


「痴人の愛」本文 角川文庫刊vol,79



私が自分が野暮な人間であるにもかかわらず、趣味としてはハイカラを好み、万事に付けて西洋流をまねした事は、既に読者も御承知のはずです。



もしも私に充分な金があって、気随気儘(きずいきまま)なことが出来たら、私は或いは西洋に行って生活をし、西洋の女を妻にしたかも知れませんが、それは境遇が許さなかったので、日本人の内ではとにかく西洋人臭いナオミを妻にしたようなわけです。



それにもう一つは、たとえ私に金が在ったとしたところで、男振りに就いての自信が無い。

何しろ背が五尺二寸という小男で、色が黒くて、歯並びが悪くて、あの堂々たる体格の西洋人を女房に持とうなどとは、身の程を知らなすぎる。



やはり日本人には日本人同士が良く、ナオミのようなのが一番自分の注文に嵌まっているのだと、そう考えて結局私は満足していたのです。



が、そうは言うものの、白ル(はくせき)人種の婦人に接近し得ることは、私にとって一つの喜び、いや、喜び以上の光栄でした。

有体(ありてい)に言うと、私は私の交際下手と語学の才の乏しいのに愛想をつかして、そんな機会は一生回ってこないものと諦めを付け、たまに外国人のオペラを見るとか、活動写真の女優の顔に馴染むとかして、わずかに彼等の美しさを夢のように慕っていました。



然るに図らずもダンスの稽古は、西洋の女、おまけにそれも伯爵の夫人、と接近する機会を作ったのです。

ハリソン嬢のようなお婆さんは別として、私が西洋の婦人と握手する「光栄」に浴したのは、その時が生まれて初めてでした。



私はシュレムスカヤ夫人がその「白い手」を私の方へ差し出したとき、覚えず胸をどきッとさせて、それを握っていいものかどうか、ちょっと躊躇(ちゅうちょ)したくらいでした。





引用書籍

谷崎潤一郎「痴人の愛」

角川文庫刊



次回に続く。


三国志演義朗読第60回vol,1(全10回)

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三国志演義朗読第60回vol,1(全10回)



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2021年03月11日

「痴人の愛」本文 角川文庫刊vol,78


「痴人の愛」本文 角川文庫刊vol,78



それから再びシュレムスカヤ夫人の話、ダンスの話、語学の話、音楽の話、・・・・・・ベトオヴェンのソナタが何だとか、第三シンフォニーがどうしたとか、何々会社のレコードは何々会社のレコードより良いとか悪いとか、私がすっかりしょげて黙ってしまったので、今度は女史を相手にしてぺらぺらやり出すその口ぶりから推察すると、このブラウン氏の夫人というのは杉崎女史のピアノの弟子ででもありましょうか。



そして私はこんな場合に、「ちょっと失礼いたします」と、いい潮時を見計らって席を外すというような、器用な真似が出来ないので、この饒舌化の婦人の間に挟まった不運を嘆息しながら、いやでも応でもそれを拝聴していなければなりませんでした。



やがて、髭のドクトルを始めとして石油会社の一団の稽古が終わると、女史は私とナオミとをシュレムスカヤ夫人の前へ連れて行って、最初にナオミ、次に私を、これは多分レディーを先にするという西洋流の作法に従ったのでしょう。



極めて流暢な英語で以て引き合わせました。その時女史はナオミの事を「ミス・カワイ」と呼んだようでした。



私は内々、ナオミがどんな態度を取って西洋人を応対するか、興味を持って待ち受けていましたが、普段は己惚れの強い彼女も、夫人の前に出てはさすがにちょっと狼狽の気味で、夫人が何か一と言二た言言いながら威厳のある眼元に微笑を含んで手を差し出すと、ナオミは真っ赤な顔をして、何も言わずにコソコソと握手をしました。



私と来てはなおさらのことで、正直のところ、その青白い彫刻のような輪郭を、仰ぎ見る事は出来ませんでした。

そして黙って俯向(うつむ)いたまま、ダイヤモンドの細かい粒が無数に光っている夫人の手を、そうっと握り返しただけです。





引用書籍

谷崎潤一郎「痴人の愛」

角川文庫刊



次回に続く。

三国志演義朗読第59回ラストvol,6




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三国志演義朗読第59回ラストvol,6



https://youtu.be/yaa4qrQFVME








2021年03月10日

「痴人の愛」本文 角川文庫刊vol,77


「痴人の愛」本文 角川文庫刊vol,77



「なるほど、するとこの女は外国人の細君だったのか、そう言われれば看護婦よりも洋妾(らしゃめん)タイプだと思いながら、私はいよいよ固くなってお辞儀をするばかりでした。



「あなた失礼でございますけれど、ダンスのお稽古をなさいますのは、フォイスト・タイムでいらっしゃいますの?」

その縮れ毛はすぐに私を掴(つか)まえて、こんな風にしゃべり出しましたが、「フォイスト・タイム」というところがいやに気取った発音で、ひどく早口に言われたので、



「は?」

と言いながら私がへどもどしていると、



「ええ、お初めてなのでございますの」

と、杉崎女史が傍から引き取ってくれました。



「まあ、そうでいらっしゃいますか、でもねえ、何でございますわ、そりゃジェンルマンはレディーよりもモー・モー・ディフイカルトでございますけれど、お始めになれば直(じ)きに何でございますわ」



この「モー・モー」と言う奴が、又私にはわかりませんでしたが、よく聞いてみると、”more more"toiu

意味なのです、「ジェントルマン」「ジェンルマン」「リットル」を「リルル」、総(す)べてそういう発音の仕方で話しの中へ英語を挟みます。



そして日本語にも一種奇妙なアクセントが在って、三度に一度は「何でございますわ」を連発しながら、油紙へ火が付いた様に際限もなくしゃべるのです。





引用書籍

谷崎潤一郎「痴人の愛」

角川文庫刊




次回に続く。


三国志演義朗読第59回vol,5(全6回)


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三国志演義朗読第59回vol,5(全6回)



https://youtu.be/fwo6cF2rSyc


2021年03月09日

「痴人の愛」本文 角川文庫刊vol,76


「痴人の愛」本文 角川文庫刊vol,76



と、杉埼女史はナオミが赤い顔をしたので、皆まで聞かずにそれと意味を悟ったらしく、立ち上がって会釈しながら、

「お初にお目にかかります、わたくし、杉崎でございます。ようこそお越しくださいました。ナオミさん、その椅子をこちらへ持っていらっしゃい」



そして再び私の方を振り返って、

「さあ、どうぞおかけ遊ばして。もう直(じ)きでございますけれど、そうして立ってお待ちになっていらしっちゃ、おくたびれになりますわ」



「・・・・・・」

私は何と挨拶したかハッキリ覚えていませんが、多分口の中でもぐもぐやらせただけだったでしょう。

この「わたくし」というような切り口上でやって来られる婦人連が、私には最も苦手でした。



そればかりでなく、私とナオミとの関係をどういう風に女史が解釈しているのか、ナオミがそれをどの点までほのめかしてあるのか、

ついうっかりして質して置くのを忘れたので、なおさらどぎまぎしたのでした。



「あのご紹介いたしますが」

と、女子は私のもじもじするのに頓弱(とんじゃく)なく、例の縮れ毛の婦人の方を指しながら、

「この方は横浜のジェームズ・ブラウンさんの奥さんでいらっしゃいます。この方は大井町の電気会社に出ていらっしゃる河合譲治さん、」





引用書籍

谷崎潤一郎「痴人の愛」

角川文庫刊




次回に続く。



三国志演義朗読第59回vol,4(全6回)


★★★★★★★

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2021年03月08日

「痴人の愛」本文 角川文庫刊vol,75


「痴人の愛」本文 角川文庫刊vol,75



「ああ、なるとも。ダンスをやったら冬でも一杯汗をかいて、シャツがぐちゃぐちゃになるくらいだから、運動としては確かにいいね。おまけにシュレムスカヤ夫人は、あの通り練習が猛烈だからね」



「あの夫人は日本語が分かるのでしょうか?」

私がそう言って尋ねたのは、実はさっきからそれが気になっていたからでした。



「いや、日本語は殆どわかりません。大概日本語でやっていますよ」

「英語はどうも、・・・・・・スピーキングの方になると、僕は不得意だもんだから、・・・・・・」



「なあに、みんな御同様でさあ。シュレムスカヤ夫人だって、非常なブロークン・イングリッシュで、僕等よりひどいくらいですから、ちっとも心配はありませんよ。



それにダンスの稽古なんか、言葉は何にも要りゃしません。ワン、トゥウ、スリーで、後は身振りで分かるんですから・・・・・・」

「おや、ナオミさん、いつお見えになりまして?」



と、その時彼女に声をかけたのは、あの白鼈甲の簪(かんざし)を挿した、支那金魚の夫人でした。

「ああ、先生、ちょいと、杉崎先生よ」



ナオミはそう言って、私の手を執(と)って、その婦人のいるソオファの方へ引っ張って行きました。

「あの、先生、ご紹介いたします、河合譲治」



「ああ、そう、」





引用書籍

谷崎潤一郎「痴人の愛」

角川文庫刊



次回に続く。


三国志演義朗読第59回vol,3(全6回)

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2021年03月07日

「痴人の愛」本文 角川文庫刊vol,74


「痴人の愛」本文 角川文庫刊vol,74



「僕かい?僕はもう半年もやっているのさ。けれど君なんか器用だから、すぐ覚えるよ、ダンスは男がリードするんで、女はそれに喰っついて行けりゃいいんだからね」



「あの、ここにいる男の方はどんな人が多いんでしょうか?」

私がそう言うと、

「はあ、これですか」

と、浜田は丁寧な言葉になって、



「この人たちは大概あの、東洋石油株式会社の社員の方が多いんです。杉崎先生の御親戚が会社の重役をしておられるので、その方からのご紹介だそうですがね」



東洋石油の会社員とソシアル・ダンス!

随分妙な取り合わせだと思いながら、私は重ねて尋ねました。



「じゃあ何ですか、あのあすこにいる髯の生えた紳士も、やっぱり社員何ですか」

「いや、あれは違います、あの方はドクトルなんです」



「ドクトル?」

「ええ、やはりその会社の衛生顧問をしておられるドクトルなんです。

ダンスぐらい体の運動になるものは無いと言うんで、あの方は寧ろそのためにやっておられるんです」



「そう?浜さん」

と、ナオミが口を挟(さしはさ)みました。

「そんなに運動になるのか知ら?」





引用書籍

谷崎潤一郎「痴人の愛」

角川文庫刊




次回に続く。

三国志演義朗読第59回vol,2(全6回)


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2021年03月06日

「痴人の愛」本文 角川文庫刊vol,73


「痴人の愛」本文 角川文庫刊vol,73



その男はモーニングを纏(まと)って、金縁の分の厚い眼鏡をかけて、時勢遅れの奇妙に長い八の字髯を生やしていて、一番飲み込みが悪いらしく、幾度となく夫人に”No good"とどやしつけられ、鞭でピシリと喰わされます。



と、そのたびごとにニヤニヤ間の抜けた薄ら笑いをしながら、又初めから「ワン、トゥー、スリー」をやり直します。

ああいう男が、いい歳をしてどういうつもりでダンスをやる気になったものか?



いや、考えると自分もやはりあの男と同じ仲間じゃないのだろうか?

それでなくとも晴れがましい場所へ出た事の無い私は、この婦人たちに目の前で、あの西洋人にどやしつけられる刹那を想うと、

以下にナオミのお付き合いとはいいながら、何だかこう、見ているうちに冷や汗が湧いてくるようで、自分の晩の廻って来るのが、恐ろしいようになるのでした。



「やあ、いらっしゃい」

と、浜田はニ三番踊り続けて、ハンケチでにきびだらけの額の汗を拭きながら、その時傍へやって来ました。

「や、この間は失礼しました」



と今日はいささか得意そうに、あらためて私に挨拶をして、ナオミの方を向きながら、

「この暑いのによく来てくれたね、君、すまないが扇子を持ってたら貸してくれないか、何しろどうも、アッシスタントも中々楽な仕事じゃないよ」



ナオミは帯の間から扇子を出して渡してあげて、

「でも浜さんはなかなか上手ね、アッシスタントの資格があるわ。いつから稽古し出したのよ」





引用書籍

谷崎潤一郎「痴人の愛」

角川文庫刊




次回に続く。

「痴人の愛」本文 角川文庫刊vol,72


「痴人の愛」本文 角川文庫刊vol,72



待合室になっている次の間のソファに腰掛けて、稽古場の有様を見物しながら、二人の婦人がさも感心した様にこんなことをしゃべっています。



一人の方は二十五六の、唇の薄く大きい、支那金魚の感じがする丸顔の出目の婦人で、髪の毛を割らずに、額の生え際から頭のてっぺんへはりねずみの臀部の如く次第に高く膨らがして、髱(たぼ=女性の結髪の一つで、後方に張り出した部分。) の所へ非常に大きな白鼈甲の簪を挿して、埃及(エジプト)模様の塩瀬(しおぜ)の丸帯に翡翠の帯どめをしているのですが、シュレムスカヤ夫人の境遇に同情を寄せ、頻りに彼女を褒めちぎっているのはこの婦人の方なのでした。



それに相槌を打っているもう一人の婦人は、汗のため厚化粧の白粉がぶちになって、ところどころに小皺のある、荒れた地肌が出ているのから察すると、恐らく四十近いのでしょう。



わざとか生まれつきか束髪に結った赤い髪の毛がぼうぼうと縮れた、痩せたひょろ長い体つきの、身なりは派手にしていますけれど、ちょっと看護師上がりのような顔立ちの女でした。



この婦人連を取り巻いて、つつましやかに自分の番を待ち受けている人々もあり、中には既に一通りの練習を積んだらしく、てんでに腕を組み合わせて、稽古場の隅を踊り廻っているのもあります。



幹事の浜田は夫人の代理と言う格なのか、自分でそれを気取っているのか、そんな連中の相手になって踊ってやったり、蓄音機のレコードを取り換えたりして、独りで目まぐるしく活躍しています。



一体女は別として、男でダンスを習いに来ようという者は、どういう社会の人間なのかと思ってみると、不思議なことにしゃれた服を着ているのは浜田ぐらいで、後は大概安月給取りのような、野暮くさい紺の三つ組みを着た、気の利かなそうなのが多いのでした。



もっとも歳は皆私より若そうで、三十台と思われる紳士はたった一人しかありません。





引用書籍

谷崎潤一郎「痴人の愛」

角川文庫刊



次回に続く。


三国志演義朗読第59回vol,1(全6回)


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三国志演義朗読第59回vol,1(全6回)



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2021年03月05日

「痴人の愛」本文 角川文庫刊vol,71


「痴人の愛」本文 角川文庫刊vol,71



練習生の内の三人は、とにかく学生ではないらしい背広服を着た若い男で、後の二人は女学校を出たばかりの、どこかの令嬢でありましょう、質素ななりをして、袴を穿いて男と一緒に一生懸命に稽古をしているのが、いかにも真面目なお嬢さんらしく悪い感じはしませんでした。



夫人は一人でも足を間違えた者があると、忽ち、

「No!」

と、鋭く叱(しっ)して傍へや って来て歩いて見せる。



覚えが悪くて餘りたびたび間違えると、

「No good!」

と叫びながら、鞭でぴしりッと床を叩いたり、男女の容赦なくその人の足を打ったりします。



「教え方が実に熱心でいらっしゃいますのね、あれでなければいけませんわ」

「ほんとうにね、シュレムスカヤ先生はそりゃ熱心でいらっしゃいますの、日本人の先生方だと、どうしてもああは参りませんですけれど、西洋の方はたといご婦人でも、そこはキチンとしていらしって、全く気持ちがようございますのよ。



そしてあの通り授業の間は、一時間でも二時間でも、ちっともお休みにならないで稽古をお続けになるのですから、この暑いのにお大抵ではあるまいと思って、アイスクリームでも差し上げようかと申すのですけれど、時間の間は何も要(い)らないと仰って、決して召し上がらないんですの」



「まあ、よくそれでもおくたびれになりませんのね」

「西洋の方は体が出来ていらっしゃるから、私共とは違いますのね。でも考えると、お気の毒な方でございますわ。



元は伯爵の奥様で、何不自由なくお暮しになっていらしったのが、革命のためにこういう事までなさるようになったのですから」





引用書籍

谷崎潤一郎「痴人の愛」

角川文庫刊




次回に続く。

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2021年03月04日

「痴人の愛」本文 角川文庫刊vol,70

「痴人の愛」本文 角川文庫刊vol,70



日本座敷を二間打ち抜いて、靴履きのまゝ入れる桟敷にして、多分滑りをよくするか何かでしょう、例の浜田と言う男があちらこちらへチョコチョコ駆けて歩いては、細い粉を床の上へまいています。



まだ日の長い暑い時分の事だったので、すっかり障子を明け放している西側の窓から、夕日がギラギラと差し込んでいる。

そのほの赤い光を背に浴びせながら、白いジョオゼットの上着を着て、紺のセージのスカートを穿(は)いて、部屋と部屋との間仕切りの所に立っているのが、言うまでもなくシュレムスカヤ夫人でした。



二人の子供が在るというのから察すれば、実際の歳は三十五六にもなるのでしょうか?

見た所では漸く三十前後ぐらいで、なるほど貴族の生まれらしい威厳を含んだ、きりりと引き締まった顔立ちの婦人、その威厳は、多少の凄みを覚えさせるほど、蒼白を帯びた、澄んだ血色のせいであろうと思われましたが、しかし凛乎(りんこ)たる表情や、瀟洒な服装や、胸だの指だのに輝いている宝石を見ると、これが生活に困っている人とはどうしても受け取れませんでした。



夫人は片手に鞭を持って、こころもち気難そうに眉根(まゆね)を寄せながら、練習している人々の足元を睨んで、「ワン、トゥウ、トゥリー」露西亜人の英語ですから、”three"を”tree"と発音するのです。



と静かな、しかし命令的な態度を以て繰り返しています。

それに従って、練習生が列を作って、覚束ないステップを踏みつつ、往ったり来たりしているところは、女の士官が兵隊を訓練している様で、いつか浅草の金竜館(きんりゅうかん)で見た事のある「女軍出征」を想いだしました。





引用書籍

谷崎潤一郎「痴人の愛」

角川文庫刊




次回に続く。


三国志演義朗読第58回vol,5(全6回)


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2021年03月03日

「痴人の愛」本文 角川文庫刊vol,69


「痴人の愛」本文 角川文庫刊vol,69



「ずるいわまァちゃんは!あんまり要領がよ過ぎるわよ。ところで『浜さん』は二階にいる?」

「うん、いる、行ってごらん」



この楽器屋はこの近辺の学生たちの「溜まり」になっているらしく、ナオミもといちょい来るものと見えて、店員などもみんな彼女と顔馴染なのでした。



「ナオミちゃん、今下にいた学生たちは、ありゃ何だね?」

と、私は彼女に導かれて梯子段を上りながら尋ねました。



「あれは慶応のマンドリン倶楽部の人たちなの、口はぞんざいだけれど、そんなに悪い人たちじゃないのよ」

「みんなお前の友達なのかい」



「友達っていう程じゃないけれど、時々ここへ買い物に来るとあの人たちに会うもんだから、それで知り合いになっちゃったの」

「ダンスをやるのはああいう連中が主なのかなあ」



「さあ、どうだか、そうじゃないでしょ、学生よりはもっと年を取った人が多いんじゃない?今行ってみればわかるわよ」

二階へ上ると、廊下の取っ付きに稽古場が在って、「ワン、トゥウ、スリー」と言いながら足拍子を踏んでいる五六人の人影が、すぐと私の眼に入りました。





引用書籍

谷崎潤一郎「痴人の愛」

角川文庫刊



次回に続く。




























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