2021年03月10日
「痴人の愛」本文 角川文庫刊vol,77
「痴人の愛」本文 角川文庫刊vol,77
「なるほど、するとこの女は外国人の細君だったのか、そう言われれば看護婦よりも洋妾(らしゃめん)タイプだと思いながら、私はいよいよ固くなってお辞儀をするばかりでした。
「あなた失礼でございますけれど、ダンスのお稽古をなさいますのは、フォイスト・タイムでいらっしゃいますの?」
その縮れ毛はすぐに私を掴(つか)まえて、こんな風にしゃべり出しましたが、「フォイスト・タイム」というところがいやに気取った発音で、ひどく早口に言われたので、
「は?」
と言いながら私がへどもどしていると、
「ええ、お初めてなのでございますの」
と、杉崎女史が傍から引き取ってくれました。
「まあ、そうでいらっしゃいますか、でもねえ、何でございますわ、そりゃジェンルマンはレディーよりもモー・モー・ディフイカルトでございますけれど、お始めになれば直(じ)きに何でございますわ」
この「モー・モー」と言う奴が、又私にはわかりませんでしたが、よく聞いてみると、”more more"toiu
意味なのです、「ジェントルマン」「ジェンルマン」「リットル」を「リルル」、総(す)べてそういう発音の仕方で話しの中へ英語を挟みます。
そして日本語にも一種奇妙なアクセントが在って、三度に一度は「何でございますわ」を連発しながら、油紙へ火が付いた様に際限もなくしゃべるのです。
引用書籍
谷崎潤一郎「痴人の愛」
角川文庫刊
次回に続く。
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