2021年03月14日
「痴人の愛」本文 角川文庫刊vol,80
「痴人の愛」本文 角川文庫刊vol,80
ナオミの手だって、しなやかで艶があって、指が長々とほっそりしている、勿論優雅でないことは無い。
が、その「白い手」はナオミのそれの様に華奢すぎないで、掌(たなごころ=てのひら)が厚くたっぷりと肉を持ち、指もなよなよと伸びていながら、弱弱しい薄っぺらな感じが無く、太いと同時に美しい手だ。
と、私はそんな印象を受けました。そこにはめている眼玉の様にギラ。ギラした大きな指輪も、日本人ならきっと厭味になるでしょうに、かえって指を繊麗(せんれい)に見せ、気品の高い豪奢な趣を沿えています。
そして何よりもナオミと違っていたところは、その皮膚の色の異常な白さです。白い下に薄い紫の血管が、大理石の斑紋を想わせるように、ほんのり透いて見える凄惨さです。
私は今までナオミの手を玩具にしながら、
「お前の手は実に綺麗だ、まるで西洋人の手の様に白いね」
と、よくそう言って褒めたものですが、こうして見ると、残念ながらやっぱり違います。
白いようでもナオミの白さは冴えていない、いや、一旦この手を見た後ではどす黒くさえ思われます。
それからもう一つ私の注意を惹いたのは、その爪でした。
十本の指頭の悉(ことごと)くが、同じ貝殻を集めたように、どれも鮮やかに小爪が揃って、桜色に光っていたばかりでなく、
大方これが西洋の流行りなのでもありましょうか、爪の先が三角形に、ぴんと尖らせて切ってあったのです。
ナオミは私と並んで立つと、一寸ぐらい低かったことは、前に記した通りですが、夫人は西洋人としては小柄のように見えながら、
それでも私よりは上背が有り、かかとの高い靴を穿いているせいか、一緒に踊るとちょうど私のあたまとすれすれに、彼女の露わな胸がありました。
夫人が初めて、
”Walk with me!”
引用書籍
谷崎潤一郎「痴人の愛」
角川文庫刊
次回に続く。
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