2021年03月03日
「痴人の愛」本文 角川文庫刊vol,69
「痴人の愛」本文 角川文庫刊vol,69
「ずるいわまァちゃんは!あんまり要領がよ過ぎるわよ。ところで『浜さん』は二階にいる?」
「うん、いる、行ってごらん」
この楽器屋はこの近辺の学生たちの「溜まり」になっているらしく、ナオミもといちょい来るものと見えて、店員などもみんな彼女と顔馴染なのでした。
「ナオミちゃん、今下にいた学生たちは、ありゃ何だね?」
と、私は彼女に導かれて梯子段を上りながら尋ねました。
「あれは慶応のマンドリン倶楽部の人たちなの、口はぞんざいだけれど、そんなに悪い人たちじゃないのよ」
「みんなお前の友達なのかい」
「友達っていう程じゃないけれど、時々ここへ買い物に来るとあの人たちに会うもんだから、それで知り合いになっちゃったの」
「ダンスをやるのはああいう連中が主なのかなあ」
「さあ、どうだか、そうじゃないでしょ、学生よりはもっと年を取った人が多いんじゃない?今行ってみればわかるわよ」
二階へ上ると、廊下の取っ付きに稽古場が在って、「ワン、トゥウ、スリー」と言いながら足拍子を踏んでいる五六人の人影が、すぐと私の眼に入りました。
引用書籍
谷崎潤一郎「痴人の愛」
角川文庫刊
次回に続く。
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