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2021年01月24日

「痴人の愛」本文 角川文庫刊vol,28


「痴人の愛」本文 角川文庫刊vol,28





O dolce Napoli,

O soul beato,




と、イタリア語で歌う彼女のソプラノが、夕凪の海に響き渡るのを聞き惚れながら、

私は静かに魯(ろ)を漕いで行く。



「もっとあっちへ、もっとあっちへ」

と、彼女は無限に波の上を走りたがる。



いつの間にやら日は暮れてしまって、星がチラチラと私等の舟を空から瞰(み)おろし、あたりがぼんやり暗くなって、彼女の姿はただほの白いタオルに包まれ、その輪郭がぼやけてしまう。



が、晴れやかな唄声はなかなか止まずに、「サンタ・ルチア」は幾度となく繰り返され、それから「ローレライ」になり、「流浪の民」になり、ミニヨンの一節になりして、緩やかな舟の歩みとともにいろいろ唄を続けて行きます。



こういう経験は、若い時代には誰でも一度あることでしょうが、私に取っては実にその時が初めてでした。

私は電気の技師であって、文学だとか芸術だとかいうものには縁の薄い方でしたから、小説などを手にすることはめったになかったのですけれども、その時思い出したのは、嘗(かつ)て読んだことのある夏目漱石の「草枕」です。



そうです、たしかあの中に、

「ヴェニスは沈みつつ、ヴェニスは沈みつつ」という所があったと思いますが、ナオミと二人で舟に揺られつつ、沖の方から夕闇の帳を透かして陸の灯影を眺めると、不思議にあの文句が胸に浮かんできて、何だかこう、このまま彼女と果てしも知らぬ遠い世界へ押し流されて行きたいような、涙ぐましい、うッとりと酔った心地になるのでした。



私のような武骨な男が、そんな気分を味わうことが出来ただけでも、あの鎌倉の三日間は決して無駄ではなかったのです。





引用書籍

谷崎潤一郎「痴人の愛」

角川文庫刊




次回に続く。



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