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2020年07月02日

オケ老人 荒木源 小学館文庫

高校の数学教師の中島明彦は、梅が丘フィルハーモニーに入団するつもりが間違って梅が丘交響楽団に入ってしまう。そこは、老人ばかりの斜陽のオーケストラ。梅フィルは幻想交響曲とかやっちゃう立派なオーケストラなのに比べ、梅響はエグモント序曲さえままならない。若いというだけで指揮者に据え付けられてさあ大変。そこにロシアの国家機密に関係したスパイまで絡んできて、ドタバタの開演。

「登校の曲がり角でぶつかったトーストをくわえた女の子は転校生だった」級のベタなんだけど、そのベタさが心地いい。とはいえ、途中に「おや?」と思わせるトリックがあったり、終盤は息もつかせぬ展開になったりで、最後まで楽しく読める。

タイトルそのままの内容を期待しても裏切られない、楽しいエンタテインメント小説。

オケ老人! 小学館文庫 / 荒木源 【文庫】

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感想(0件)


ボトルネック 米澤穂信 新潮文庫

亡くなった恋人を弔うために東尋坊を訪ねた嵯峨野リョウ。一瞬気を失い崖から落ちた‥はずが、気がついた時には、見慣れた街にいた。ただし、そこは自分だけがいないことになっている街だった。

迷い込んだ世界で、リョウの代わりに嵯峨野家の子供として存在している嵯峨野サキ。最初のうちは、二人の違いといえば、男女の違いと、リョウが高校一年でサキが高校二年というくらいだったのが、いっしょに行動していくうちに両方の世界の違いがいくつか判明していく。

リョウとサキは補完し合う仲ではない。もともと欠落した二人が、補ってくれる映し鏡を見つけたのならハッピーな物語なのだが、そうは問屋が卸さない。リョウとサキの掛け合いは、人が自我の深い底へと降りていく意識のシミュレートだ。なので、全編を通してトーンは暗く、そこに横たわるのは畏怖の闇だ。

これは、人が忘れていた傷口をえぐる小説だ。趣味が悪い。とはいえ、誰もが抱える傷口の物語なので普遍性がある。やれやれ、難儀な小説だ。

ボトルネック (新潮文庫) [ 米澤穂信 ]

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犬はどこだ 米澤穂信 創元推理文庫

ひとつひとつの事柄を精査吟味して、結論への樹枝をたどっていく、昔ながらの味わいのある本格推理小説。大掛かりなどんでん返しなどは無く、推理によってピースがはまっていく様は爽快感がある。

本格推理小説というと、材料の提示部分が退屈なものになりがちだか、本書にそれはまったく無い。主人公と相棒の会話はテンポが良くてユーモラスだし、複数の視点が準備されていて、それらがどこでクロスするのか期待感を持って読み進めることができる。最終的に犯罪を示唆する状況に陥るが、凄惨な感じは無い。これも、本格推理小説の味わいだ。

ロッキングチェアに揺られながら味わいたい一冊。

犬はどこだ (創元推理文庫) [ 米澤穂信 ]

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舟を編む 三浦しをん 光文社文庫

最近は、あんまり一人の作者を読み込むことはしないんだけど、三浦しをんは三冊目。ハズレがないなあ、この人。

本屋大賞も取ってるし、映画化もされてるから、面白さは保証されてるようなもんなんだけど、やっぱり面白かった。こういう、変人ばっかり出てくる小説は楽しい。

辞書を編纂するという、普通は触れることのない世界の物語だが、成長物語あり、チームワークあり、ラブストーリーありで、楽しく読める。読み終わった後には、人間が生きていくための意義とかプライドとかとは何か、を胸にきざまれているという具合だ。この作者が資質として持っている、人間の根源的なものへの探求も味わえる。

面白く読めて、しかも深さもある。素晴らしい。

舟を編む (光文社文庫) [ 三浦しをん ]

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舟を編む [ 松田龍平 ]

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スメル男 原田宗典 講談社文庫

1989年刊行だから、もう30年前の作品。単行本が出た時に気になっていたものをやっと読んだ。

あるきっかけで、主人公の体から東京全都を嘔吐させる異臭がし始めるという、前代未聞の状況で物語は進む。中盤までは、ジリジリとしか展開していかない。まるで「家畜人ヤプー」のような、悪趣味のために悪趣味を語るだけなのかと、何度もページを閉じかけた。

ところが、中盤から物語は突如シフトアップしてトップギアに入る。そこからはもう一気読み。「コインロッカー・ベイビーズ」を彷彿とさせるスピード感。

自分には何かが欠落しているということに恐れおののき、やがてそれを克服していく青春物語とも読めるし、奇妙な状況に陥った主人公のサスペンスホラーとも読める。また、大規模災害を予言したかのような箇所にドキリとしたりする。多角的な味わいのある小説だ。

安部公房や大江健三郎、江戸川乱歩がお好きなら、楽しめることうけあい。

スメル男 (講談社文庫) [ 原田宗典 ]

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連続殺人鬼カエル男 中山七里 宝島社文庫

面白かった。内容はかなり凄惨なので、グロテスクな描写の苦手な人は避けた方がいいかも。

連続殺人事件の犯人探しという、どこにでもあるプロットだが、捜査に走る刑事二人の描き方が素晴らしく、楽しく物語に入り込める。

二転三転する結末や、ミスリードの仕掛けの巧さなどに舌を巻く。上質の本格推理小説であり、心理サスペンスであり、サイコホラーである。

このミス関係の本は面白いね。

連続殺人鬼カエル男 (宝島社文庫) [ 中山七里 ]

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何者 朝井リョウ 新潮文庫

大学生と就活を通して、現代の若者を見事に描ききった作品。上手い作者だと思う。

自分が大学生だったのは35年前だから、「あー、こういうのあるよね」と共感するのは難しい。共感を推進力として物語を進め、少しずつズラしていくことで読者の感情に楔を打つという作風は、だから楽しめなかった。

でも、たぶんこれは自分のせいだ。徐々に年齢を重ねていく自分を見て、ああ年を取ったなと素直に思ってしまう想像力の無さのせいだ。こういう本を楽しく読めるように柔らかでなければ。

と、ここまで考えて、まさかこれも作者に仕組まれた事なのかもと慄然とした。これだけ狡猾な作者のことだ。ありえないことではない。

この作者、恐ろしい人だ。

何者 (新潮文庫) [ 朝井 リョウ ]

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眼球堂の殺人 周木律 講談社文庫

登場人物一覧があったり、建物の平面図が途中で挟まったり、読者への挑戦状じみたものがあったり、古の本格推理小説の味わい。昔熱心に創元推理文庫を読み漁っていた頃のことを思い出した。

探偵役の放浪の数学者が、ふらりと旅に出てしまう金田一耕助とイメージが被ったり、眼球堂という奇妙な建物を作った天才建築家が丹下健三あたりを思い起こさせたり、全体的にサービス満点。

あっと驚くトリックや意外な犯人、クローズドサークルなど、本格推理小説の王道。EQMM(エラリー・クイーンズ・ミステリ・マガジン)なんかを読んでた人なら大喜びでしょう。

眼球堂の殺人 〜The Book〜 (講談社文庫) [ 周木 律 ]

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木洩れ日に泳ぐ魚 恩田陸 文春文庫

登場人物は男と女のみ。次の日からは別々の道を行く二人が、それぞれの思惑を持って過ごす長い夜。お互いの本当に知りたい事は何なのか。そこに真実はあるのか。

男の視点と女の視点が切り替わりながら進む。冒頭から不穏な空気を纏っている。徐々に明らかになっていく二人の関係性、二人が共有している重要な事柄。ミステリーなのかなと読み進んでいくと、あれよあれよという間に物語は展開していく。共有しているはずの事柄が、そうでないとわかった時の驚愕。

これは、えぐられる小説だ。下腹に押し当てられたナイフが、読み進む度にずぶずぶと食い込んでいく。見たくない知りたくない事を眼前に突きつけられる。

人が生きるとは。人を愛するとは。さあ考えろ考えろ、深く深く考えろ。そう迫ってくる。罪深い小説だ。

木洩れ日に泳ぐ魚 (文春文庫) [ 恩田陸 ]

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その可能性はすでに考えた 井上真偽 講談社文庫

これは斬新だ。論理ミステリーとでも言えば良いのか。

事件は十数年前に起こった。舞台は四方を崖に囲まれた山間の新興宗教団体の村。そこで、集団殺人事件が起こる。事件はカルト団体の自害的終焉と処理される。その事件でただ一人の生き残りの女性が、探偵を訪ねて現れる。「私は奇蹟を見たんです」と。人間の起こす奇蹟を信じ、それを証明することにのみ心血を注ぐ探偵が動き出す。

もう、全編ロジックだらけ。女性の回想から論理を組み立て、いろんな登場人物が現れて二転三転どころか四転も五転もする。途中、論理学の原理を表したようなロジックに思わず手を叩いた。こんなやり方があったんだという見本のようなミステリー。

理系のあなたにおすすめします。

その可能性はすでに考えた (講談社文庫) [ 井上 真偽 ]

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なかなかやん
音楽大好き、読書大好き。いろいろ聴きます。DTMなんかもやります。作曲もします。小説も書いてみたいです。
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