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2020年12月30日

四捨五入殺人事件 中公文庫 井上ひさし

講演旅行の宿泊先はテレビもない山間の温泉宿。しかも折からの大雨で村に一つしかない橋が流された。孤立した二人の作家の前に起こる連続殺人。事件の背後に横たわるのは、何世代にもわたる村人の怨念か? 本格ミステリーさながらの「密室殺人」、農業問題の視点、演劇的な展開と仕掛け……井上作品の面白さと巧緻が満載。

舞台は東北の農村。井上ひさしの東北の農村が舞台の作品というと、不朽の名作「吉里吉里人」がある。

解説によると、この作品は「吉里吉里人」の連載が中断されていた時に書かれたそうだ。膨大な取材をしていた大作が中断していた時期だけに、「吉里吉里人」の中で展開される日本の農業問題を題材にした作品が書かれたのかもしれない。

内容は、ネタバレになるといけないので詳しくは書けないけど、井上ひさし一流のエンタテインメント。

さすがに文章や設定などに時代を感じるけど、読み進めるほどに物語世界に入り込んでいく。

東北の閉鎖された農村が舞台の連続殺人事件というと、横溝正史のような怪奇的なものを想像するけど、この作品は全体的にのほほんとしている。もちろん、それさえもミステリーのヒントになっているんだけど、いやいや、詳しくは書けない。

「吉里吉里人」を持ち出すまでもなく、井上ひさしはエンタテイメントの中に社会風刺や博物学を忍ばせるドラマツルギーの怪物なので、物語のそこかしこに他の物語世界への扉が隠されている。その扉の向こうには、虚々実々の広大な世界が広がっている。まったく、恐ろしい作家だ。

さて、「吉里吉里人」を読み返そうかな。




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