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2020年07月02日

あなたが消えた夜に 中村文則 毎日文庫

約500ページの分厚さの中に、圧倒的な物語が詰まっている。ミステリーなんだけど、そして事件は起きるんだけど、作者は執拗に人間を描き込む。深く深海に潜っていくように。

読んでいく中、自分の人生のいろんなシーンがフラッシュバックしていた。記憶の奥底にしまい込んでいたもの達が溢れ出てきた。危ない。この作品は危険物だ。

超ヘビー級の一冊です。心してかからないと、物語に打ちのめされます。でも、これも読書の愉しさなんですよね。

あなたが消えた夜に (毎日文庫) [ 中村文則 ]

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模倣の殺意 中町信 創元推理文庫

1973年の作品。作中に携帯電話が登場しないなど、やはり時代は感じさせるが、この頃に日本人がこんな作品を書いていたことに驚く。

読み進むうちに小さな違和感達が溜まっていき、ラストでそれらが一気に解消される。推理小説の醍醐味。

推理小説の難しいところは、一度トリックやプロットが使われると、公然のものになってその後で使いにくくなるということ。解説によると、このプロットを使った日本人はこの作者が初めてとのこと。

中学生の時に、赤川次郎や鮎川哲也なんかを読んでいたが、日本人の作品でこんなに硬質な物を読んだことがなかった。それも道理で、1973年に単行本として出版されてすぐに評判を呼び、そのまま品切れ入手困難になり「幻の名作」となったらしい。再び陽の目を見るのは1987年に文庫化されてから。そんな経緯の一冊。

いやー、いい物を読ませてもらいました。

模倣の殺意 (創元推理文庫) [ 中町信 ]

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(2020/7/2 17:01時点)
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琥珀のまたたき 小川洋子 講談社文庫

ママと三人のきょうだいは、魔犬から逃れるために別荘でひっそりと暮らす。もう、壁の外の世界とは関わりを持たない。きょうだいはそれまでの名前を捨てて、オパール、琥珀、瑪瑙になった。

小川洋子独特の世界観。おとぎ話のような優しい手触りの物語の底に、悪意や狂気が横たわっている。が、壁の中にいればそれらは姿を現さない。姿を現わすのは、外の世界と関わりを持った時だ。

壁という物理的な囲い、曖昧な時間という囲い、百科事典という世界の全てを詰め込んだ囲い。いくつもの囲いが重なり合い、クロスした特異点で反応してエネルギーを発生する。そのエネルギーは、囲いを壊すのか、それともより強固なものとするのか。

囲いの中にいれば、安定するし安心する。しかし、囲いを意識した途端に外の世界が誕生する。触れてはいけない境目。

これは、普遍的な物語だ。

琥珀のまたたき (講談社文庫) [ 小川 洋子 ]

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RANK 真藤順丈 ポプラ文庫

都道府県の制度を廃止して生まれた関東州。中心に東京を擁し、その周りに生産流通基地を抱える関東州は、世界屈指の経済地域となるが、見返りとして犯罪も多発するようになる。その抑止策として、いたるところに監視カメラを設置する。そして、監視カメラで逐一報告される振る舞いによって、州民をランク付けする法案が可決する。そこには、ランクの低い一定数は処分されることも含まれていた。

600ページの分量を一気読み。これは面白い。

近未来を題材にするアニメとかにありそうなプロットなんだけど、人間がよく描かれていて深みがある。人が生きていく業やさだめが、そこかしこから滲み出てくる。

暴力シーンや殺戮シーンが多いので、人によっては受け付けないかもしれない。それを我慢して最後まで読んでも、カタルシスを得られないという意地の悪さ。ただ、圧倒的ではある。

2008年から2009年にかけて、4つの新人賞を取り、2019年に直木賞を受賞したというから、今一番の注目株。ちょっと追いかけてみようかな。

RANK (ポプラ文庫 日本文学 178) [ 真藤 順丈 ]

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蜜蜂と遠雷 恩田陸 幻冬舎文庫

いまや世界的な国際コンクールになった芳ヶ江国際ピアノコンクール。そこを舞台に天才たちがしのぎを削り、濃密な人間ドラマが繰り広げられる。

楽器業界に身を置いているので、とても面白く読んだ。出場者のひとりに大手楽器店勤務の男性が出てくるが、そんな才能のある人が楽器店に就職するわけないやん、とツッコミを入れたのは置いといて。

有名な国際コンクールに出場するだけで、ほぼ天才と言っていいわけで、それを描くのは大変だ。しかも、音楽を言葉で表現しないといけない。そこはさすが恩田陸。平易な文章で、丁寧に描いている。

ただ、全体として突っ込みが足りないかな。登場人物たちの天才性があまりにものほほんとしているし、音楽の描写がステレオタイプの域を脱していない。音楽と共に生きていくという、真摯で鮮烈で狂気を孕んだ思いが共有できない。

あ、でも面白いですよ。直木賞受賞作というから、ちょっとハードル上げすぎちゃったのかも。

蜜蜂と遠雷(上) (幻冬舎文庫) [ 恩田陸 ]

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蜜蜂と遠雷(下) (幻冬舎文庫) [ 恩田陸 ]

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ロケット・ササキ: ジョブズが憧れた伝説のエンジニア・佐々木正 大西 康之 新潮文庫

軽く読めるものをと買った。一気読み。立志評伝は面白いねえ。

佐々木正はシャープの技術者。熾烈な電卓競争の中で、LSIや液晶を開発。弱小電機メーカーのシャープ(当時は早川電機)を大メーカーに育てあげた。間違いなく日本の戦後復興の立役者の一人。

この時代、電卓に限らず、日本電気、ソニー、日立、東芝、松下、富士通などがしのぎを削って日本の電子技術のレベルを上げていた。子供時代にその波にどっぷり浸かっていたので、次々に発表される新製品や新技術に日本中が浮かれる様をよく覚えている。

当然ながら、その裏には人々の努力があるわけで、あの喧騒の時代を知ってる身としては、やはり天才たちが日本にもいたんだなと改めて感じた。

いい本です。元気が出ます。でも、ジョブスはちょっとだけしか出てきません(笑)。

ロケット・ササキ ジョブズが憧れた伝説のエンジニア・佐々木正 (新潮文庫) [ 大西 康之 ]

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ペーパーバック版 スティーブ・ジョブズ 1 [ ウォルター・アイザックソン ]

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ペーパーバック版 スティーブ・ジョブズ 2 [ ウォルター・アイザックソン ]

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読書の極意と掟 筒井康隆 講談社文庫

高校から大学、社会人の始めの頃まで筒井康隆にかなり凝った。高校一年の時にクラスメイトの西村君に教えてもらってから、古本屋を巡って当時出ていた文庫本はほぼ全て読んだ。そのうちに読むものが無くなって、「虚人たち」「虚航船団」「夢の木坂分岐点」あたりからは、ハードカバーが出版されるのを心待ちにした。

この本は、筒井康隆の読書遍歴の側面から見た自伝で、最後にあるように「筒井康隆のつくり方」だ。読んでいくと、自分が筒井康隆に教わってはまりこんだものたちが登場してくる。大江健三郎、マルケス、山下洋輔、フロイト、パロディ、ナンセンス、スラップスティック、等々。

考えると、自分ができあがってくるのに、かなりの部分を筒井康隆に拠っている。恩人だ。向こうは知ったこっちゃないだろうけど。いや、本当の恩人は、教えてくれた高校のクラスメイトの西村君か。

まさに筒井康隆の種明かし的な本。よくこんな本、出版したなあと思うけど、いやいや、相手は筒井康隆だった。いまだに筒井康隆の掌の上だ。

読書の極意と掟 (講談社文庫) [ 筒井 康隆 ]

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虚人たち改版 (中公文庫) [ 筒井康隆 ]

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虚航船団 (新潮文庫) [ 筒井康隆 ]

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夢の木坂分岐点 (新潮文庫) [ 筒井康隆 ]

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レプリカたちの夜 一條次郎 新潮文庫

これは凄い。なにが凄いって、最初から最後まで、なにがなにやらなんにもわからない。

工員の往本は、残業していた工場でシロクマを見る。どうやらそのシロクマは生きているらしい。生きているシロクマが何故ここに。それから往本のまわりでは、不可解な事がなんの脈絡も無く起こり始める。

とりあえず新潮ミステリー大賞の受賞作だということで、ミステリーとして読み始めるものの、全く要領を得ない。まあ確かに、帯に「ミステリーかどうかはともかく」とか書いてあるんだけど。

じゃあ、幻想小説かというと、いろいろ辻褄が合ってない、というか、合わせようとしてない。幻想小説は、その世界が無矛盾でないといけないからね。

かと言って、カフカ的不条理世界かといえば、細部では不条理なことは何も起こらない。奇抜な状況に陥ったとしても、読者が「あ、こういうことなんじゃね?」と読み進めるだけの情報が、あらかじめ提示されている。

作為が有り余りすぎて、全体として作為を感じないという、落語の一席のような一冊。この作者、要チェックですぞ。

レプリカたちの夜 (新潮文庫) [ 一條 次郎 ]

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イノセント 島本理生 集英社文庫

女性一人と男性二人のラブストーリー。愛憎入り乱れてのドロドロではなく、それぞれに闇を抱えたまま成長してしまった人達の、大人になってから気づく愛を描く。

思ったよりすっきりサクサク読めてしまった。設定自体は既視感があるんだけど、展開が上手い。小説すばるの連載小説だったので、ブツ切れ感はあるものの、次から次へと問題が起こって主人公達がその波にのまれていく。

サブキャラクターが秀逸で、詳しくは書けないけど、なかなかいい味のサブキャラクターばかり。このへんも上手い。

ちょっと下世話な話になりそうなこの設定を、爽やかな一編に作り上げた力量は見事です。

まあでも、間違いなく女性の方が読んで楽しめるでしょうね。

イノセント (集英社文庫(日本)) [ 島本 理生 ]

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火花 又吉直樹 文春文庫

文庫になってたので、買った。

もともと又吉直樹に対しては、Eテレの「オイコノミア」を見たり、せきしろとの共著の自由律俳句を読んだりして、言葉に対する感性や、情報を整理する知性に注目はしていた。

でも、さすがに芥川賞ともなると、なんか祭り上げられちゃったのかな、と斜に構えてしまって、読む気にならなかった。

で、読んだわけですが、面白かった。

人生の苦悩と邂逅という、特に青年にとって避けられないテーマを、泥臭く描いている。たぶん、もっとスマートに描く方法もあると思うが、あえての泥臭さが漫才というジャンルと相まって奥行きを与えている。

又吉直樹の持つ二面性を、上手く表した良作です。

火花 (文春文庫) [ 又吉 直樹 ]

価格:660円
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感想(27件)




劇場 (新潮文庫) [ 又吉 直樹 ]

価格:539円
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人間 [ 又吉直樹 ]

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なかなかやん
音楽大好き、読書大好き。いろいろ聴きます。DTMなんかもやります。作曲もします。小説も書いてみたいです。
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