2015年07月05日
本紹介 No. 026『原始仏教 その思想と生活』
『原始仏教 その思想と生活』
前回の本紹介でNHKブックス『ブッダの人と思想』を読みました。
その中で今回ご紹介する本と併せて読むことでより詳しい理解が得られると書かれてありましたので読んでみます。
中村 元 著 『原始仏教 その思想と生活』(NHKブックス 1970)
こちらは純粋に中村先生の御著書です。
構成
B6判、218ページ、図版は白黒のみ
本文構成は以下の通り。
まえがき
一 原始仏教の時代的背景
二 釈尊の生涯
三 原始仏教の基本的立場
四 苦しみと無常
五 自己の探求
六 迷いと理想
七 慈悲
八 不安と孤独
九 初期の教団
一〇 生活倫理の基礎
一一 男女間の倫理
一二 過程における倫理
一三 社会生活における倫理
一四 経済に関する倫理
むすび
初期仏教の成立、教義、初期仏教教団や倫理についての章立てが並ぶ。
内容
本書は釈尊が歴史的人格として実際にどのような生涯を送り、どのような教えを説いたのかを原始仏教とともにNHK FM放送で十二回連続放送した際の原稿に加筆しまとめたものとこのことです。
まえがきに「全仏教史の底に一貫して流れている精神を、その根源に遡り、極めて素朴にして現実的な原始仏教の思想と生活倫理について一般の方々が理解して頂ければ幸せである。」とあり、密教に関わる両界曼荼羅を描きながら「全仏教史の底に一貫して流れている精神」を少なからず感じていた身としては我が意を得たりと意気揚々と読みました。
本書は中村先生のご著書『インド古代史』『ゴータマ・ブッダ』『原始仏教の成立』『原始仏教の思想』『原始仏教の生活倫理』のダイジェスト版の趣があります。
内容の表現につきましては、例えば第六章 迷いと理想には「輪廻とその超克」、「理想の境地の表現」、「やすらぎ」、「安楽」、「生死の超越」、「ニルヴァーナとは何か」、「ニルヴァーナに関する説明」、「現実のうちに生きる」、「解脱した人の死後」といった小項目を設け、それぞれについて原始仏教聖典からの引用とともに解説を行っています。
このとき原始仏教聖典からの引用を二重括弧(『』)でくくり、ほとんどの引用に出典が示されます。ただし全ての引用に出典があるわけではありません。
1970年初版とのことで、文章表現が比較的堅い印象なので読むのに骨が折れますが、その分言葉のひとつひとつに重みがあり文章の細部に至るまで微細な智慧が行き渡っているように感ぜられます。
また、原始仏教聖典を通して様々な哲学的命題に答えているようにも感じられます。
内容の深さと広さに重みを感じる素晴らしい一冊です。
曼荼羅作画とのかかわり
密教の関わる両界曼荼羅ではいわゆる大乗仏教のみならず、ヴェーダやヒンドゥー教の神々が描かれ、その教義の広がりとともに密教の仏教的ルーツとのつながりが不透明に感じられるところもありました。
ざっくり言うとインド仏教の終焉期に密教の成立過程においてヒンドゥー教や土着の信仰や呪術を取り込むことにより教義的広がりを見せたことと歴史的事実としての釈尊の教え(仏教の黎明期)との関わりにどれくらいの親密さがあるのか、もしくは、ないのかについてはっきりしないという不安がありました。
さらに言い換えれば、密教は釈尊の教えとどれくらい同じなのか違うのかを知りたいということです。
仏教の形成期においてはバラモンの教えやヴェーダやヒンドゥー教、また兄弟宗教とも言われるジャイナ教と共通の概念を取り入れながら初期仏教の教義が発展しているようです。
その意味では密教の方向性は初期仏教と遠からずあるかとも思います。
一方で、密教が呪術的要素を取り入れたことは釈尊の望まない方向性であったかもしれません。
原始仏教、部派仏教、大乗仏教、密教と時代や場所によりさまざまにかたちをかえる仏教の中で両界曼荼羅の歴史的または本質的な意味をさらに知りたく思いました。
では、また〜ヾ(。・ω・。)ノ
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