■そのためASM-2Bは地上攻撃が出来るとされているが果たしてそうか
■恐らく、地上施設の攻撃は難しいが艦船への泊地攻撃は出来るであろう
ご無沙汰しております(^^)
93式空対艦誘導弾のwikiのページには以下のような記述があります。
画像引用元: By Hunini - Own work, CC BY-SA 4.0, https://commons.wikimedia.org/w/index.php?curid=52876836
93式空対艦誘導弾(きゅうさんしきくうたいかんゆうどうだん)は、日本が開発・配備した空対艦ミサイル(対艦誘導弾)別称はASM-2[1]、1993年から航空自衛隊に配備されている。改良版(ASM-2/B)は誘導方式にGPSを用いているため、座標を入力すれば対地攻撃も行うことができる。
引用元: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』93式空対艦誘導弾
何かミサイルにGPSが付くと、漏れなく地上攻撃能力が付いてくると言わんばかりですが、果たして本当にそうなんでしょうか?
◆仕様書にはそんなこと一切書かれていない◆
まず、手元にあるASM-2の最新の仕様書はH23.7.19改訂のCP-Y-0067Mですが、その中には地上攻撃に関することなどは一言も書かれてはいないことです。最初の文言である1.1.1 適用範囲には以下のように記述されています。
1.1 適用範囲
この仕様書は、戦闘機(以下、"搭載母機"という。)に搭載し、侵攻艦船に対する攻撃に使用する93式空対艦誘導弾(B)(以下、"ASM-2B"という)について規定する。
勿論、仕様書に書かれていないからと言ってそういう使い方はしないということはありません。開発している内にこういう使い方も出来るだろうと思って試験することもあります。例えば、某観測ヘリから某空対空ミサイルを地上目標に向かって撃ってみようとかです。
ただ、寡聞にしてASM-2Bを地上目標に向かって実射試験したとかいう類の話は聞いてません。また、地上目標相手だと、SSM-1のように地形回避や回り込み等の能力の確認が必要ですが、日本国内にそのような射場は無いため、米国カリフォルニア州ポイントマグー射場のような場所での試験が必要でしょう。そのような話も聞いたことありません(米国での試験なら少なくても公告位出るでしょう)。
◆GPSの搭載の目的はあくまでも誘導精度の向上◆
GPSに関してですが、これがどのように用いられるかは、ASM-2(B)の開発の元となったH12年度契約の「ASM-2の技術改善」の仕様書の中に以下の文言が出てきます。
ア 慣性装置
(ア) GPSからの信号により自己の位置情報をアップデートできるものとする。
また、航空幕僚監部技術部長より装備部長に対して発せられた空幕技1第12号(平成15.1.31)「93式空対艦誘導弾(B)の技術要求事項について(通知)」では以下の文言が出てきます。
(b) 慣性装置
慣性装置は、加速度検出、角速度検出、姿勢角計算、速度計算、位置計算、高度計算の各機能を有するものとする。また、GPS併用航法機能を有するものとする。
つまり、ASM-2(B)で新たに搭載されたGPSは中間誘導をこれ一つで担うものではなく、従来の慣性航法装置(ASM-2(B)では機械式から光学式へ変更されている)を補完するものであるということです。例えれば、時計の時刻の狂いを自動的に補正する類のモノでしょう。
なお、余談ですが慣性航法装置は機械式でも光学式でも航法精度にそれほど差が無く、下手をするとコンベンショナルな機械式の方が精度が高い場合もあるそうです。光学式は機械的可動部分が無いため、メンテナンスが不要で取得価格が安いというメリット(FOGの場合)があります。
慣性航法装置は時間が経つとともに誤差が徐々に蓄積していきますから、途中でGPSにより誤差修正が為されるならば航法精度の大幅な向上が見込めることでしょう。特に最終の目標捜索段階において目標を失探する可能性を低減し、相手に探知される可能性を高める再捜索の回避に役立つでしょう。
2011年のMAKS航空見本市で展示された、ウクライナの "Arsenal "社のジャイロスコープ
画像引用元: Nockson, CC BY-SA 3.0
以下はスウェーデンSAAB社のFiber Optic Gyro(FOG)のページ
https://www.saab.com/products/fiber-optic-gyro-products
(補足)
FOGはRLG(Ring Laser Gyro)より精度は劣るが、コンパクトで価格が安く消費電力が小さい。そのため、ミサイルやUAVに多く用いられる。RLGは主に航空機に搭載される。
<追記>
もしかすると、ASM-2BへのGPS追加は従来の機械式慣性装置からFOGへの変更に伴う航法精度の低下を補うという目的もあるのかもしれません。
◆シーカーは地上目標を捉えられるのか◆
ASM-2のシーカーはIIRであり、アクティブ・レーダー式では持ちえない個艦識別能力、命中点選択能力を持ちます。ただ、基本的に赤外線シグネチャーが大きな艦船を狙うもので、大きな建物とかを狙うのならともかく、小さな目標を狙えるような高い赤外線画像解像度は持っていないと思われます(逆に温度が高いホットスポットはIRCCMの対象になる)。また、地上となると海上と違って雑多な赤外線ノイズがある訳で、それらを排除し目標を正確に識別する能力が求められます。以前、構想されていたASM-D/L(データリンク)も命中精度を上げるための試みでしたが、もし地上攻撃するのならそのような機能が必要になるでしょう。
◆弾頭と信管◆
基本的に対艦ミサイルの弾頭は半徹甲弾になります。それは船殻を貫いて艦の船体内部や艦上構造物の内部へ食い込ませるためです。そのため、信管は必然的に遅延信管になります。地上目標だったら、弾頭は破片効果を狙って榴弾で、信管は着発又は空中炸裂を狙った近接信管が向いていると思われますが、そのような機能はASM-2Bには見受けられません。
<追記>
元々、無印ASM-2でもオートパイロット電子装置から自爆指令を出せますから、GPSの3D座標をトリガーにして起爆指令を出すことによって、疑似的に着発又は近接信管と同様なことは可能ではあるでしょう。
◆では地上攻撃できないのか◆
これまで、ASM-2Bの地上攻撃能力の可否を論じてきましたが、ASM-2Bになって新たに得た又は向上した能力があると考えます。
それは 泊地攻撃能力 です。
例えば以下のような写真の場合です。
HMS アンドロメダとキャンベラ
画像引用元: Ken Griffiths - 投稿者自身による著作物, パブリック・ドメイン, https://commons.wikimedia.org/w/index.php?curid=3531099による
フォークランド紛争時の写真ですが、艦船が狭い島嶼海域に停泊しています。これはミサイル側から見ると非常に難しい目標になります。何故なら、海側から見るとフネは島陰に隠れ、またシーカーに捉えられたとしてもフネの背景には島嶼の地形が入り込むため、艦船との識別が必要になります。さらにこれが港湾ともなると赤外線ノイズ源となる多くの地上施設も存在します。
このような目標を狙うには島嶼の地形を避けて正確に飛翔して背景に地形が入らない方向から狙う必要があります。そのためには非常に高い航法精度と多くのウェイポイントなどの経路をプリプログラムできる機能が必要になるでしょう。ASM-2B改善型はソフトウェアの改善により、新たに導入した地上支援器材によって多方向から目標を攻撃できる飛翔パターンを設定するための初期値(目標の位置情報)を設定できるようになったようです。
つらつら述べてきましたが、ASM-2B改善弾についてはまだまだ不明な点があり(仕様書の黒塗り部分が多いため)、もっと多様な機能があると想像できますが、それらについては今後の課題としておきましょう。
価格:6380円 |