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2023年06月30日
静かなレーダー
■レーダーやミサイルのLPI化は増々進むだろう
■用途によっては民生品の活用も有効
ステルス機の膨潤に関する話を書きたいと思っているのですが、中々良い資料が無いですね。自分は機体材料屋ではないので、公開資料に頼らざるを得ないのですが、内外共にそれらしきものが余り見受けられません。恐らく、西側と中ロのステルス機の違いはこの辺りに出てくるだろうと考えています。
ところで、Youtubeで多田先生(@sho_tada)の電子戦の話を拝聴していたら、F-22が搭載しているAN/APG-77は所謂、静かなレーダー(LPI: Low-probability-of-intercept)であることを説明されておりました。浅学の為、これは初めて聞く話で、自分の不明を恥じた次第です。
ミリタリーテクノロジーの物理学 第15回「電子戦 II」
https://www.youtube.com/watch?v=NrWShfkBvtU
ステルス機であるF-22が被探知性の高いレーダーを装備しているのは極めて当然の話で、AN/APG-77は周波数拡散技術によってLPI化を諮っていると伝えられています。所謂、SS( Spread Spectrum)方式ですね。うーむ、とある理由でこの二文字には思わず反応してしまいます(w
F-22に搭載されているAN/APG-77
画像引用元: Daderot - 投稿者自身による著作物, CC0, https://commons.wikimedia.org/w/index.php?curid=34902919による。Exhibit in the National Electronics Museum, 1745 West Nursery Road, Linthicum, Maryland, USA. All items in this museum are unclassified. The museum permitted photography without restriction.
SS方式だと信号レベルが雑音レベル以下になるので、信号自体の検出が困難になり、故にESMやRWRで捉えることが困難になります。また、レーダー波はPN符号により拡散されているため、例え受信できたとしてもこのPN符号が分からなければただのノイズに過ぎません。さらに、自分が出した送信波の反射波のみを逆拡散して捉えますから、ECMによる欺瞞も難しくなります。
以上の話から、航空機のレーダーもそうですが、ミサイルのレーダーとして使用する場合、その効果が極めて大きいでしょう。何故なら撃たれた側からずれば、ESMやRWRに引っ掛からないためにミサイル警報が出ず、完全なサプライズアタックとなるので回避手段が取れないからです。
えー、目敏い人はオラの奥歯の挟まった物言いを悟っていただけると思います。(w
ステルス機のレーダーと言われてもう一つ思い出すのは、B-2戦略爆撃機に搭載されているAN/APQ-181です。このレーダーはKバンドで動作し、多数の高精度ターゲティング モードを提供し、地形追従と地形回避もサポートしています。B-2の主な任務として敵国奥深くにある移動司令部や移動式ICBMを探して大型核爆弾で吹っ飛ばすというものがあるのですが、その際にこのレーダーが使用されると思います。このレーダーはプロセッサーが必要とする必要最低限度の電波のみを発信することによって高いLPI化を実現しています。
B-2のAN/APQ-181レーダー
画像引用元: By TMWolf - https://www.flickr.com/photos/64917036@N00/299225935, CC BY-SA 2.0, https://commons.wikimedia.org/w/index.php?curid=5110156
さて、自分的にはLPIレーダーと言われて真っ先に思い出すのは、Thales Nederland社の艦載航海レーダーSCOUTです。
オランダ海軍のデ・ゼーヴェン・プロヴィンシェン級フリゲートのSCOUT(艦橋上)
画像引用元: Torsten Bätge - 自ら撮影, CC 表示 2.5, https://commons.wikimedia.org/w/index.php?curid=1382296による
これは短中距離の航海レーダーで、Xバンドで動作し送信方式は電波高度計などでよく使われるFM-CW(周波数連続変調)方式を使用します。通常の送信出力は1W程度であり、探知距離を抑えれば10mW程度まで送信出力を下げることも可能です(Mk2の場合)。1W時でESMの被探知距離は僅か2km程度と言われており、恐ろしくカヴァードなレーダーとなっています。
なお、こちらも知らなかったのですが同社の艦載対空レーダーSMART-LもFM-CW方式でLPI化されているようです。また、FM-CW方式のレーダーを装備するミサイルとしてはスウェーデンSaab社のRbs-15も忘れちゃいけませんですね。
RBS 15 Mk4 on the DSEI 2019
画像引用元: By Swadim - Own work, CC BY-SA 4.0, https://commons.wikimedia.org/w/index.php?curid=82133183
一つ、特筆するべきことは艦船の航海用レーダーとして我らがFurunoレーダーが使われていることです。
Furunoレーダーを搭載したUSS Jimmy Carter攻撃型原潜
画像引用元: U.S. Navy photo by Lt. Cmdr. Michael Smith
最も行動の秘匿性を要求される潜水艦においてFurunoレーダーが使われるのは奇異に感じるかもしれませんが、Veteranの方が以下のように解説しています。
It is simply being used for navigational safety and collision avoidance, nothing more. Using a commercial off the shelf system allows for easy logistical support and provides a modicum of stealth. It is tough to pick out one Furuno from the other hundred plus commercial radars operating close to shore as being from the submarine. It is easier to blend in the crowd froma radar perspective, but of course in daylight a visual search will clearly identify the submarine for what it is. But visual searches have limited range - you won't see the sub over the horizon usually due to the low profile.
引用元: Quora
https://www.quora.com/Why-do-Surfaced-submarines-use-Marine-radar-of-Raymarine-or-FURUNO-Do-they-disguise-themselves-as-shrimping-boats-Are-consumer-products-superior-to-military-radar
つまり、普段使いするには市販のレーダーで充分であり、海岸近くで運用されている数多くの商用レーダーの中から、潜水艦のモノとしてFurunoレーダーを識別するのは困難なのです。これは多くの偽目標の中に紛れ込むという意味で立派なステルスと言えるでしょう。ステルスとは消えるのではなく、紛れることだからです(魔法のマントじゃなく迷彩に近い)。
これは近い内に解説したいと思います。
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2023年06月13日
F-15在来機はAMRAAMを撃てるのか?
・在来機のAMRAAM管制用RADAR/OFPは既にリリースされている可能性がある
・LOBLのみで運用しても、そのメリットは大きい
とある資格の試験勉強のためにすっかり更新が疎かになりました。。。相変わらずの管理人です(w
能力向上の対象にならなかった本邦のF-15在来機の約100機ですが、もし何処かの国で第二の人生を送るのならそれなりの能力向上が必要です。最も手っ取り早いのはAIM-120(AMRAAM)やAIM-9Xが使えることでしょう。
胴体下にAIM-120を装備したUSAFのF-15C
画像引用元: http://www.deagel.com/library2/ US Air Force Original work of the US Federal Government - public domain
さて、AIM-120の能力を生かすためには、初期・中期誘導の為に慣性データをデータバス(MIL-STD-1553B)経由でミサイルへ送信する必要があります。ミサイルはそれを頼りに目標へ向かい、途中で母機からUTDC(Up To Date Command)を受けて飛行コースを修正し、終末はミサイル自身のアクティブレレーダーシーカーにて目標を捉えます。
自分がAIM-120に間接的に触れたのはLAU-128ランチャーのマニュアルを見た時でしたが、そのマニュアル上でもAIM-120では発射前に機体から慣性データがミサイルに送信されて発射されるとの記述があります。
ご承知の通り在来機にはMIL-STD-1553Bデジタルデータバスが装備されておらず、これが在来機が能力向上の対象にならなかった一因にもなっています。ただ、在来機に何もデータバスが備わっていない訳ではなく、H009と言われるデータバスが実装されています。
これは電気電子学会(IEEE)のフェローであったErwin Carl 'Erv' Gangl氏によると、以下のようです。
When the initial F-15 design was found to exceed the required gross takeoff weight, hardware and functionality were trimmed as much as possible. But there was still a need to reduce the weight a couple hundred pounds more. So the lead engineer grabbed me and asked whether my idea of time-sharing wires would reduce the weight in cabling. I said, "definitely!" There would be weight savings due to fewer wires, fewer connectors, etc.
【訳文】
F-15 の初期設計が必要な総離陸重量を超えていることが判明した際に、ハードウェアと機能は可能な限りトリミングされました。しかし、さらに数百ポンド軽量化する必要がありました。そこで主任エンジニアは私を捕まえて、ワイヤをタイムシェアリングするという私のアイデアがケーブル配線の重量を軽減するかどうか尋ねました。私は「間違いなく!」と言いました。ワイヤやコネクタの数が減るため、重量が軽減されます。
引用元: AVIATION TODAY
https://www.aviationtoday.com/2002/09/01/interview-erv-gangl/
元々は機体重量を軽減するためだったようですね。そしてデータバスの選定を行い、マクドネル・ダグラス社に選定されたのがH009だったようです。これはその後の1553の前身となり、多重化デジタルアビオニクスバスの最初の適用となりました。
ただ、H009はノイズ対策等でハーネスには非常に厳密な制御と厚いシールドが必要という実装上の問題があり、またデータバスの共通化を意図して、より改良された新規格である1553へと進化していきます。そして1553を最初に実装したのはF-16になります。
こうして改良された1553はF-15にもバックフィットされて、これがMSIP機となります。ただ、注意すべきはMSIP機となってもH009バスの部分は残っているということです。これはAAM-4搭載試改修を実施されたMSIP機がH009バス・モニタ・ユニットが搭載されていたことからも分かると思います。
では、在来機にも同様に1553バスを追加すれば良いのではないかと思うのですが、これには実例があり、旧blogでも取り上げています。
旧blogでの投稿記事(F-15のH009バスであります。)
PASCOT(Programable Asychronous Serial Communication Translator)と言われるインターフェイスユニットを通してH009と1553が連接されています。
Highly Integrated Digital Electronic Control -- HIDEC
画像引用元: NASA Highly Integrated Digital Electronic Control -- HIDEC
https://www.nasa.gov/centers/dryden/pdf/88077main_H-1318.pdf の11ページより抜粋
1553が後付け追加出来るのであれば、あとはRADAR/OFPとランチャーさえ備えればAIM-120を撃てるようになるでしょう。RADAR/OFPについては平成10年度契約のAMRAAM運用研究事業で在来機用OFPもボーイングからリリースされているとの噂レベルの話があります。ランチャーについてはLAU-106AをLAU-106A/Aへ改修するのは容易と思われますが、AIM-120を運用できるLAU-128ランチャーとADU-552ランチャーアダプターを搭載するのは難しいかもしれません。
もう一つ考えられるのは、1553データバスを新たに搭載せずにミサイルをLOBLのみ運用してしまうことです。
実際、在来機の手っ取り早い能力向上としてAAM-5の搭載が行われておりますが、1553バスを搭載しないことからAAM-5の最大の利点であるLOAL(Lock On After Launch 発射後ロックオン)能力とHMDによるキューイング機能は使えません。ただ、LOBL(Lock On Before Launch)のみの運用となりますが、AAM-3との比較で約3倍と言われる最大ロックオンレンジと高いIRCCM能力を活用出来ることから、従来のAIM-9LやAAM-3と比べて大幅な能力向上が期待できます。
勿論、LOBLは最大射程はシーカーのロックオンレンジ以内となるので射程も大幅に低下しますが、中間誘導も要らないのでミサイル撃ってそのまま退避も可能です。
在来機といえどF-15は本当に出来た子なので、末永く活躍していただきたいと思います(w
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2023年05月14日
大型機へAAMを積む
・過去にも大型機にAAMを搭載した機体が実戦投入されている
・今後、AAMは大型機の自機防御システムの一部となるだろう
いま、スマホでAir Combat系のゲームをしているのですが、これがなかなか面白い。今まで自分の愛機はF-22でしたけど、面白そうなので今はB-2に代えました。ゲームの中とはいえB-2でドッグファイトやCASをするのは中々楽しいです(^^)
さて、USAFが開発中の戦略爆撃機B-21Raidarは空対空防衛能力を備える可能性が高いとの記事がありました。
画像引用元: By U.S. Air Force Graphic - This image was released by the United States Air Force with the ID 160226-F-YZ123-001 Public Domain, https://commons.wikimedia.org/w/index.php?curid=47192262
U.S. Air Force’s new B-21 bomber will likely have air-to-air defense capabilities
https://defence-blog.com/u-s-air-forces-new-b-21-bomber-will-likely-have-air-to-air-defense-capabilities/
味方のエアカバーが及ばない場所まで出張っていく爆撃機や哨戒機、偵察機等は自機防御のため高度な電子戦システムやデコイ、あるいはチャフやフレアなどの防御手段を備えるのが普通ですが、一歩進んで相手を積極的に攻撃する手段を保有すれば大変心強いでしょう。
大型機同士の空対空戦闘は第二次大戦中でも数多く発生したようであり、実際にお互い哨戒に出た敵味方の大型機が戦場で遭遇し、タマを撃ち尽くすとこまでやりあうような事例があったそうです。
良く知られている話ですが、次期哨戒機(MPA 現在のP-1)のM社初期案はM61A1とAAM-4を搭載するという4発戦闘機のような過激なものでした。後に普通に短魚雷、機雷、対潜爆弾、ASM等を搭載する常識的な案となりますが、内装ランチャーシステムを装備して搭載武器を全て腹の中に収め、またASMの搭載量が最大10発など、現在のP-1とはかなり違いが見られます。
さて、大戦中は別にして今時の大型機にAAMを搭載した事例はあるのかというと、哨戒機であるP-3CやBAE NimrodにAIM-9を搭載した事例があります。
Naval Air Test Center (NATC) のP-3CがAIM-9を発射する様子(1989)
画像引用元: https://commons.wikimedia.org/wiki/File:P-3_Orion_NATC_launching_Sidewinder_1989.jpg
BAE Nimrod MR2がフォークランド戦争中にAIM-9Lを装備してアセンション島から哨戒行動を行った記述
The Nimrod MR2’s self-defence capability was also enhanced by modifying their under-wing hard points to
take AIM-9L Sidewinder air-to-air missiles.17 They flew numerous patrols over the South Atlantic from Ascension Island in support of British operations during the Falklands War.
引用元: The Nimrod Review
https://assets.publishing.service.gov.uk/government/uploads/system/uploads/attachment_data/file/229037/1025.pdf
AIM-9Lを装備したBAE Nimrod MR2
画像引用元: BAE Systems https://www.baesystems.com/en/heritage/hawker-siddeley-nimrod
これらの事例は簡易な改修だと思われます。ではAIM-9Lを装備するには最低限どのような改修が機体に必要になるのでしょう。
電気的なインターフェイス
・ミサイルへのアクティベイト(Master Armオン)
・ミサイルからのロックオン信号の受信(ミサイルがロックオンした旨を射手へ知らせる)
・ミサイルへの発射信号
機械的インターフェイス
・レール式ランチャーのロック解除(Master Armに連動)
以上の構成はミサイルを目標の方角へ向けてミサイル自身のセルフトラックにてロックオンさせて撃つことが出来るだけの構成です。
将来的には自機のレーダー情報や味方のネットワーク情報により、AIM-120Dのような双方向データリンクを持ったミサイルで、後方や側方といった自機の全方位へ遠距離から脅威目標へミサイルを撃てるようになるでしょう。またこれらのミサイルの発射は、自機防御システム等により自動的に行われることになるでしょう。
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2023年05月07日
もがみ型のルーツはシンガポール海軍フォーミダブル級フリゲートだった!?
・後日装備だったMK41VLSも予算化され、さらなる能力向上が期待できる
・もがみ型は内外の毀誉褒貶が激しいフネだが、将来的には新たな時代を開いたフネとして評価されるだろう
毎度なことですが、とある事情で暫く更新できていませんでした(^^)
先日、勝手に姉妹サイトのペンギン先生のサイト「改自衛隊で奏でた交響曲」にもがみ型の電波アンテナに関する記事がアップされていました。
【軍事技術】もがみ型の電波アンテナは興味深い!
大変面白い記事で、当方からコメントさせて頂いたところ、ブログ主のペンギン先生からの返信コメントが非常に興味深い内容だったため、ここに一部を抜粋して紹介させていただきます。
もがみ型は、横須賀の若い装備幹部がシンガポール海軍フォーミダブル級フリゲートを見て大変な衝撃を受けて報告書を作成して技術研究本部や海幕長まで報告したのが設計の始まりでした。(これは意識を180度変えないといけない!と)
防大同期つながりのよしみでで、当時最新鋭のフォーミダブル級を徹底的に研究できました。
艦船主任設計官や海幕装備体系課長まで見学にきてました。
もがみ型設計を担当した、艦艇主任設計官○海将補も、当時横須賀の若手幹部で見ていたのが知られざる話です。
引用元: 改自衛隊で奏でた交響曲
https://fanblogs.jp/sstd7628/archive/293/0#comment
ペンギン先生に依ると、もがみ型のタイプシップはシンガポールのフォーミダブル級フリゲートだったというのです。この話をお聞きして、何か長年の疑問(何処かで見たような艦形)が氷解した気がしました。そしてフォーミダブル級フリゲートはフランス海軍のラファイエット級フリゲートの派生型ですから、元を辿ればラファイエット級フリゲートに行きつく訳です。
wikiに依るとシンガポール海軍フォーミダブル級フリゲートのステッドファストは2008年8月に横須賀へ寄港しています。その後、6隻ある同型艦のうち、テネイシャスを除く全ての艦が横須賀へ寄港を果たしていますので、フォーミダブル級フリゲートを見聞する機会は充分にあったのでしょう。
もがみ型護衛艦
引用元: 海上自衛隊, CC 表示 4.0, https://commons.wikimedia.org/w/index.php?curid=117859360による
フォーミダブル級フリゲート
引用元: By U.S. Navy photo by Mass Communication Specialist 2nd Class N. Brett Morton - This image was released by the United States Navy with the ID 100623-N-8539M-708
ラファイエット級フリゲート
引用元: Franck Dubey - netmarine.net, CC 表示-継承 3.0, https://commons.wikimedia.org/w/index.php?curid=38275による
こうして画像を並べて見てみるとお説ごもっともといった感じです(^^)
個人的にはもがみ型は従来の思想に捉われず、新しい時代の海洋事業部の一翼を担う艦だと思っています。(それだけに毀誉褒貶も激しい訳ですが)
本年度予算でMK41VLSも追加購入され、全艦へレトロフィットされるようですし、今後ESSM Blk2やA-SAMが搭載されれば、一段と能力向上するでしょう。良い艦になることを期待します。
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2023年04月06日
シンSSM
・新SSMはミサイル間通信能力や自立型の脅威回避能力を持っているかもしれない
・エンジンのターボファン化により長射程が期待され、また様々な派生型も構想されている模様
ここ数日、アクセス数が通常の数倍になっていたので、何があったのかと思っていたら、またP-1関連記事がTwitterにリンクされていたようですね。相変わらずP-1ネタは人気でありますな(^^)
ところでATRA(防衛装備庁)からプロモーションビデオが公開されています。その中に開発中の新SSMの映像もありました。
ATLA R&D Projects Progress in FY2022(防衛装備庁の研究開発事業)
映像は陸海空のプラットフォームから発射された新SSMが回避機動をしながら目標へ命中する映像となっています。以前は、研究のみで開発へは移行しないとか囁かれていましたから、社運を賭けていると言われている某社さんにとっては喜ばしいことじゃないんでしょうか。
以前公開されていた画像とは随分外観が異なることと、相手の近接防御火器を避けるために回避行動を取るのが目を引きます。
ただ、従来のSSMが目標手前で機動しないのかと言えばそんなこともなく、例えば88式地対艦誘導弾(SSM-1)の制式要綱にはこんな文言が出てきます。
引用元: 制式要綱 88式地対艦誘導弾(B)
この表の中に「揺動開始距離」という文言が確認できます。世間一般に揺動とは、ゆれ動くこと 又はゆり動かすことを意味すると思いますので、SSM-1はこのような機動を事前に設定できることになります。
88式地対艦誘導弾(SSM-1)試験映像
こちらの映像の0:29辺りにミサイルが変針する映像が確認できます。これが揺動なのか、ウェイポイント通過後の変針なのかは良く分かりませんが、恐らくこんな感じなのでしょう。
(それにしても懐かしい映像。ミサイルが掠ったブイ型標的のポールは暫く立川で野ざらしになってました。当時はレーダーリフレクターではなく、ルネベルグレンズを使っていたのですね。)
まぁ実物でもなくCGで判断するのもなんですけど、この新SSMの映像で関心させられることがあります。それはそれぞれ陸海空の別々のプラットフォームから殆ど同時に発射されたミサイルが、狭い海域にあるそれぞれ別々の目標へ命中していることです。ご存じの通りミサイルは直近の目標か、最もシグネチャが大きな目標へと向かいます。
一度に多数発射されるSSM-1では確率論を応用した精緻なアルゴリズムを用いてミサイルが同じ目標へ集中するのを防いでいると伝えられますが、新SSMではどの様な方法を用いてるのでしょうか。恐らくですが、ミサイル間通信能力を持っているんじゃないかと推察します。
また、映像中の回避行動は単なる機動ではなく、相手の防御火器を避けるように機動しているように見えることから、ミサイル側で脅威を認識して最適な回避機動をするようになっていると考えられます。となると、ミサイル側のセンサーでどのような防御火器を認識して判断しているのでしょう。短距離弾道弾の例ですが、最近のミサイルには相手を欺瞞するため、デコイを搭載したものすらあります。
エンジンの試作が始まっていると映像の中で述べられていますが、これは開発中の小型ターボファンエンジンKJ300のことでしょう。原型であるKJ14は標的機である空対空用小型標的J/AQM-2に使われていますが、元々はMPMS(ATM-4)のジェットエンジン化を目論んで開発されたエンジンです。むしろ、J/AQM-2はこのエンジンの有効活用の為に世に出たものといえます。ターボファン化されたということは、それなりの長射程が期待できます。
新SSMは目標観測弾を始めとして、様々な派生型が構想されているようですから期待したいですね。
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2023年03月14日
防衛装備庁が新型の標的えい航装置RM-30A1を契約
・これら新型の導入により訓練効率やメンテナンス性、安全性が向上するだろう
・従来、標的えい航システムを担ってきた国内メーカー某社は今後、事業撤退する模様
画像引用元: 海上自衛隊, CC 表示 4.0, https://commons.wikimedia.org/w/index.php?curid=57299519による
海洋事業部が長年運用していた写真の標的えい航装置RM-30Aですが、新型のRM-30A1へ更新されることになったと聞いてました。ATLA(防衛装備庁)のサイトを確認すると、昨年12月に契約されたようです。RM-30A1だけでなく、えい航標的、射撃評価装置、ハイブリッドえい航索も同時期に契約されています。
引用元: 契約に係る情報の公表(中央調達分)令和4年度 月別契約情報/随意契約(基準以上)
https://www.mod.go.jp/atla/souhon/supply/jisseki/rakusatu/index3.html
※会社名はマスクしてあります。
RM-30A1はRM-30Aの改良型で、RM-30Aと比較して以下のような特徴があります。
・油圧及び空気圧の動力系を廃止し完全電動化
・えい航索カッターの冗長化(Redundant towline cutters)
・Microprocessor Logic Control Module
【製造メーカーのbrochure】
https://meggittdefense.com/wp-content/uploads/2020/06/RM-30A1.pdf
台湾AIDC社所有のRM-30B(射撃評価装置が追加装備されている)
画像引用元: AIDC Flight Service Business Department http://www.taiwanairpower.org/aidc.html
動力系がフル電動化したことで、メンテナンスや取り扱いが容易になったことが大きいでしょう。特にRM-30Aはブレーキ系を空気圧が担っていましたので、空気圧が不足するとえい航索をカットしてミッションを中止せざるを得ませんから、その制約から解放されたことは大きいと思われます。
さらに大きいのがえい航索カッターの冗長化です。RM-30Aではカッターが1系統しかなく、もし標的えい航中に何らかの不具合が発生して制御不能になって、えい航標的が収容出来ない場合にカッターが使用出来ないと、RM--30A本体を丸ごと投棄せざるを得なかったことから、そのようなトラブルを回避できる可能性が高まります(兄弟機のAGTSのRMK-35では全く別系統のカッターが2系統あり冗長化されている)。
同時に契約されたえい航標的はMeggitt社のTLX-1 Low-level height-keeping tow targetとTRX radar augmented tow targetだと思われます。前者は今まで横浜の某社さんで契約されていた超低高度えい航標的(JAQ-50)、後者は高速えい航標的JAQ-5に当たるものでしょう。
【TRX radar augmented tow target】
https://meggittdefense.com/product/trx-radar-augmented-tow-target/
TLX-1 Low-level height-keeping tow target
https://meggittdefense.com/product/tlx-1-low-level-height-keeping-tow-target/
興味を引くのはこの契約に出てくる「ハイブリッドえい航索」です。これは一体何でしょうか。従来は「標的用えい航索」という契約品名で横浜の某社さんから調達していましたが、これに代わるものです。
標的用えい航索は近接信管の誤作動を防ぐためにケブラー材料を使ったえい航索でしたが、一つ問題を抱えていました。それは使用期限が製造後1年間しかなかったことです。そのため、使用期限内に使い切らねばならず、運用側の悩みの種となってました。もし、使わずに期限切れなんてことになれば、泣く子も黙る霞が関の〇検様に何を言われるか分かりません(w
このハイブリッドえい航索なるものは、鋼索とケブラー等の電波反射を抑制した材料を組み合わせた(ハイブリッド)ものらしく、使用期限が大幅に緩和されているものなのでしょう。
こうして見ると従来、国産化されていた標的えい航装置関連が軒並み輸入ものへと変更されているのが分かると思います。では、従来調達相手先だった横浜の某社さんはどうなるのかというと、どうやらこの分野からフェードアウトされる方針のようです。デルマーターゲットのライセンス供与(このライセンスを保有することが随意契約根拠になっている)に始まる同社のえい航標的の歴史もここに費えることになります(まだAGTSが残ってはいますが、あれも近い将来止めるんでしょう)。
米海軍FJ-4に搭載されたデルマーターゲット
画像引用元: U.S. Navy - U.S. Navy National Museum of Naval Aviation photo No. 1996.253.7225.006, パブリック・ドメイン, https://commons.wikimedia.org/w/index.php?curid=14814590による
ほんと近年マル防からは多くの会社さんが去っていきますね(T_T)
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2023年03月10日
首振りミサイル
・指向性弾頭でも従来型の近接爆破での弾片散布は無駄が多い
・散布される破片や子弾を目標の方向に直に向けることが出来れば、効果は大きい
3月に入って暖かくなってきましたが、花粉の量も尋常ではないようで、花粉症で塗炭の苦しみです(T_T)
自分の場合は目と皮膚の痒み、鼻づまり、頭痛もちょっと来ます。
さて米国空軍研究所が面白いものを開発しているようです。正直、この発想はありませんでした。
AFRL Missile Utility Transformation via Articulated Nose Technology MUTANT
巡航ミサイルや高速の対地ミサイルなどの目標に対しては、近接起爆による弾殻の弾片により破壊する形になるのですが、ただ爆発するだけだと弾片の大きさが不揃いになったりして散布密度にムラが出来てしまいます。そこで予め弾殻に弾子重量・形状を調整された格子刻みを入れて均一化を諮ったり、タングステン等の硬くて重い金属で予め加工された弾子を入れたりします。所謂、調整破片弾です。
他に弾頭に複数の信管を備え、起爆する際に目標と反対側の象限の信管を起爆させ、爆発威力に指向性を持たせる指向性弾頭も存在します。
An AIM-120A advanced medium range air-to-air missile warhead detonates during a test
画像引用元: Public Domain Media The U.S. National Archives
https://nara.getarchive.net/media/an-aim-120a-advanced-medium-range-air-to-air-missile-warhead-detonates-during-1aa428
中距離空対空誘導弾AAM-4の外観
画像引用元: 日本語版ウィキペディアのShiftさん - 原版の投稿者自身による著作物, CC 表示-継承 3.0, https://commons.wikimedia.org/w/index.php?curid=107674464による
上の写真のAAM-4では指向性弾頭と近接信管として4象限アクティブ・レーダー近接信管を備えています。写真では中央翼の前側に黒い長方形のものが見えますが、これがレーダーの窓です。
General Atomics - Blitzer Railgun Land-Based Mobile Combat Simulation [360p]
これはレールガンでの運用構想の映像ですが、散布された子弾が目標を破壊する様子が良く分かります。
ただ、このように破片や子弾をミサイルの同心円状に散布する従来の方法ではその大部分が無駄になることも良く分かると思います。そこで、散布される破片や子弾を目標の方向に直に向けることが出来れば、その効果を従来より大幅に高めることが出来ます。
このAFRL Missileの映像の中で、思わず笑ってしまったシーンがありました(w
画像引用元: https://www.youtube.com/watch?v=J81iY6APmtQ&t=232s より抜粋して加工
これは地上滑走試験の様子ですが(タマはHellfireのようです)、発射前に赤丸内のコネクターがミサイルから射出されて外れています(3:52辺り)。レール型ランチャーから発射されるミサイルの場合、接続されているアンビリカルコネクターが上手く外れるようにしないといけません。
画像引用元: David Monniaux - 投稿者自身による著作物, CC 表示-継承 3.0, https://commons.wikimedia.org/w/index.php?curid=2272437による
上の写真のAIM-9のアンビリカルケーブルは180度半周して接続されて、発射時に前方へ抜けるようになっています。
また、AGM-65の場合は尾部にアンビリカルコネクターがあり、これも発射時に前方へ抜けます。
画像引用元: By Varnav - Own work, CC0, https://commons.wikimedia.org/w/index.php?curid=103517331
ただ、ミサイルによっては弾体の横にコネクターがあるものがあります。例えば空対空誘導弾であるAIM-7です。ちなみに写真内で接続されている白いケーブルはMISSILE MOTOR FIREWIREです。
画像引用元: By Tech. Sgt. Ben Bloker - http://www.af.mil/shared/media/photodb/photos/060509-F-2295B-025.jpg, Public Domain, https://commons.wikimedia.org/w/index.php?curid=780008
このようにミサイルの弾体のサイドにコネクターがある場合、レール式で発射する場合は頭を捻るわけです(w
なので、発射前にぴょんと外れてくれる動作を見た時はすごく感心しました。
では、例えばF-2でAIM-7やAAM-4をレール式ランチャーから発射する際は、ミサイルと繋がっていたアンビリカルケーブルはどうなるのでしょう。答えはご想像の通りです(w
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2023年03月05日
AIM-9X-2 vs AAM-5B
・特にミサイルへのdigital ignitionの導入は注目に値する
・航空事業部は赤外線誘導空対空ミサイルを対ステルス機用として重要だと考えている
3月となり、大分暖かくなってきたように感じます。
暫く、PCから遠ざかっておりました。
気球騒動の際に使用されたこともあって、俄かに赤外線画像誘導空対空ミサイルであるAIM-9Xに注目が集まっています。
画像引用元: Public Domain US Navy - https://acquisition.navy.mil/content/view/full/4705
個人的にAIM-9X-2は世界中で最も先進的なミサイルの一つだと思っています。
製造メーカーのウェブサイトで最新型のBlock IIの記述を見てみます。
Block II variant
The AIM-9X Block II missile adds a redesigned fuze and a digital ignition safety device to improve handling and in-flight safety. It's equipped with updated electronics, including a lock-on-after-launch capability using a new weapon datalink to support beyond visual range engagements.
引用元: https://www.raytheonmissilesanddefense.com/what-we-do/naval-warfare/advanced-strike-weapons/aim-9x-sidewinder-missile
この中で注目されるワードはdigital ignitionとnew weapon datalinkです。
通常、AIM-9のような短距離空対空ミサイルの発射は、ランチャーよりミサイルのロケットモーターへ大電力を流して発火させます。そのため、短距離空対空ミサイルのランチャーにはパワーサプライと呼ばれる専用機構があります。ランチャーからはストライカーポイントと呼ばれる突起状の電極がバネの力で2つ飛び出しており、ミサイル側には柔らかい金属で出来た受電用の電極が2つあってそこに刺さるようになっています(この電極が刺さる圧力には厳格な規定があり、専用のテストセットも存在します)。
ちょっと見難いのですが、拡大していただくとミサイルの前方フック(赤丸)内に円形の電極が2つあることが確認できると思います。
画像引用元: David Monniaux - 投稿者自身による著作物, CC 表示-継承 3.0, https://commons.wikimedia.org/w/index.php?curid=2272437による
パワーサプライがどんなものかと言うと、こんな感じのモノです。
https://aerospacellc.com/wp-content/uploads/2020/01/F-16-AIM-9-CAPABILITIES-25JUNE2019.pdf
なお、パワーサプライは高い信頼性を要求されることから、ランチャーの構成品の中でも非常に高価なシロモノであります。そしてこんなこともありました。
百里基地F-15のミサイル、スクランブル直前に暴発!! (1986年9月4日)
http://komatsuairfield.web.fc2.com/page152.html
この事故の原因は表向きパワーサプライとされていますね(棒)
話を戻してミサイル側にdigital ignitionを備えるということはミサイル側でロケットモーターへの点火が行える=パワーサプライが要らなくなるということになります。
こうなるとミサイルランチャー側は大幅な簡素(軽量)化とコストダウン及び安全性の向上、メンテナンスコストの低減が図れることになります。大雑把に言えば、ランチャーにはミサイルのレールとレール上のロック解除機構(ソレノイド)、ミサイルへ接続するデジタルデータバスさえあれば良いことになります。
これは武器屋さんにとっては垂涎のアイテムでしょう。
さらにこのミサイルにはweapon datalinkを搭載するとされています。日本語風に言うと指令受信装置ですね。所謂、UTDC(Up-To-Data-Command)を実現するものです。これにより、目標の大体の位置に発射しておいて、途中コースの変更の必要が生じたらコマンド指令によりコースを修正することが可能になります(指令自爆も可能かもしれません)。これにより、多目標同時発射や射程の延伸、オフボアサイト能力の向上が期待できます。
AIM-9Xで自分が評価するのは、開発時に低高度目標への射撃試験をちゃんと行っていることです。以前にも述べましたが、赤外線画像誘導で地表を這うように進む超低高度目標を狙うことは、レーダー誘導に比べても技術的に高度なものが要求されます。それは地上には様々な赤外線ノイズ源が多く、その中で真目標を見分けて追尾することは困難を極めるからです。
AIM-9x SIDEWINDER Trial
このビデオではフレアを撒きながら超低空を飛行する標的機(QF-4)を上空から見事に撃墜しています。
翻って我らがAAM-5Bです。
画像引用元: Hunini - 投稿者自身による著作物, CC 表示-継承 4.0, https://commons.wikimedia.org/w/index.php?curid=44536075による
上が従来のAAM-5、下が改良型のAAM-5B。AAM-5Bにはシーカー部に冷却ガスのゲージが無いことが分かる。
実は微力ながら、管理人はAAM-5の開発のお手伝いをしております。なので、思い出深い装備の一つでもあります。また、AAM-5Bの開発の主任はかつて岐阜の誘導武器開発実験隊等でお世話になった方です。
さて、開発元である技術研究本部のGM2室のご担当者から以下のような話を聞いたことがあります。
「レーダーが全く使えないような強度な電子戦の下では、赤外線誘導空対空ミサイルが主兵装になる。」
「ステルス機同士の戦いでは、お互い近づくまで相手を発見出来ない。よって赤外線誘導空対空ミサイルが重要だ。」
以上の話から、航空事業部が赤外線誘導空対空ミサイルを重要だと考えていたことがお分かりかと思います。
また、ご担当者から以下のようなお話もお聞きしました。
「AAM-5の最大の売りはLOAL(発射後ロックオン=空中ロックオン)が出来ることだ。」
LOALの最大のメリットは射程の延伸です。上記のこともあり航空事業部は赤外線誘導対空ミサイルの射程の延伸に重きを置いていたと感じられます。これは初期案には翼の大きさをもっと大きくした案が存在していたこともそれを裏付けると思います(機体側のランチャーアダプターの強度上の問題で断念されました)。
ただ、AAM-5ではAIM-9のような超低高度目標に対する実射試験は行われていません(訓練でやりたいという話はありましたが。。)。
いづれにしても、AAM-5BでもAIM-9X-2ではちょっと差をつけられてしまいました。F-35やF-15能力向上型へのインテグレーションは行われないようですし、AIM-9XやIRIS-T、ASRAAMのようにSAM化も行われる様子もないので、AAM-5はこのままフェードアウトしていくかもしれません。
ただ、F-15在来機へAAM-5Bの搭載は、在来機の手っ取り早い能力向上策として評価したいと思います。
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2023年02月05日
あのバルーンを撃て
・気球をレーダーで捉えるのは難しい
・出来るPはより確実な状態(条件)を作ってミサイルを発射する
珍しくナウでホットな話題を掘り下げます(^^)
U.S. downs suspected spy balloon
某国のものとみられるバルーンを、大西洋上でF-22がAIM-9Xで撃墜したとされるシーンです。このシーンから思うところを述べてみます。
まず、F-22はかなり近距離でミサイルを撃っています。これはミサイルのロケットモーターの燃焼が終わってから余り間を置かずに命中しているところからも分かります。意外に思われるかもしれませんが、一般的にミサイルの燃焼時間はそれほど長くはありません。(参考例: 81式短SAM-1C 5.5秒)
では何故近距離で撃ったかというと以下の理由が考えられます。
(追記)
こちらの記事では5nm(約9km)先から発射したようです。映像をストップウォッチで測ってみましたが、発射から命中まで6.5秒程度、モーターの燃焼時間は3-4秒程度なので、距離的にはそんなもんだろうと思います。
1. 確実を期すため相手を目視できる距離まで接近した。
2. LOBL(発射前ロックオン)で発射した。
3. 上記に関連して相手がコールドガスを使ったバルーンだったためロックオンレンジが短かった。
まぁ1は兎も角として、2と3について説明します。
LOBLで発射するのは確実を期すためです。その際、シーカーポジションが目標に向いているかどうかをHUD上で確認します。なお、一般的に赤外線誘導の空対空ミサイルでは、特に周囲にノイズ源がある場合などの際は意図する目標へのロックオンを確認するため、UNCAGE(レーダーとの連動を解除する)してシーカーをセルフ・トラックさせるべきとされています。これによりHUD上でシーカーポジションが意図した目標へ向いているかどうかを確認出来ます。これでレーダーとシーカーのロックオンが確認出来ればFCSからシュートキューというお墨付きが得られます。
SRMモードの画像が無かったので、以下の写真で雰囲気だけ味わってください。F-18がGunモードでF-22を捉えている様子です。Pipperはオンターゲットしていますが、タマの残弾0なのでGunは使えない状態です。IN LARはLaunch Acceptability Regionの略で、既に選択した兵器の有効範囲内にあることを意味しています。
引用元: By e2a2j - US Navy, Public Domain, https://commons.wikimedia.org/w/index.php?curid=4280111
3のロックオンレンジが短かった件については、相手が赤外線をガンガン発生するジェット機ではなくコールドガスを使ったバルーンであるため背景との赤外線コントラスト差が少なく、シーカーがロックオンし難かったと考えられます。ただ、目標の高度が高いため背景の温度は低く、また雲のようなノイズ源も少ないこと、昼間の為に太陽の輻射熱によりバルーンの赤外線を捉えやすかった面もあります。
あと、もう一つ気にかかるのは機上のレーダーでこのバルーンを捉える件です。バルーンですから高速で移動している訳でもなく、通常のパルスドップラーモードではノイズとして処理されてしまいます。従って目標をを捉えるためにはパルスモードでサーチしたのでしょう。パルスモードの場合は目標をルックアップで見る必要がありますが(クラッター防止のため)、この場合相手は高空ですからこの辺りは問題ありません。
では、管理人が考えた今回の迎撃手順です。
1. データリンク又は管制官の誘導により目標へ向かう。
2. 目標より高度を下げ、レーダーをパルスモードで目標を捜索する。
3. 目標を捉えた後に目視で確認する。
4. 司令部より撃墜の許可を得て、Master ArmをオンにしてSRMモードにてロックオンさせる。
5. ミサイルを機外へ出し、シーカーをアンケージしてセルフトラックでシーカーポジションを目標へ向けさせる。
6. ミサイルが目標を捉え、チャーピングトーンが鳴り出す。
7. HUD上のシーカーポジションから確実にシーカーが目標を捉えていることを確認する。
8. シュートキューが出ていれば発射する。
なお、出来るPはより確実な状態(条件)を作ってミサイルを発射しようとします。
しかし、偵察のため相手国へバルーンを飛ばすってのはどうなんでしょうね。
<追記>
鮮明な映像がありました。これを見るとバルーンと釣り下がっている観測機器の間で爆発しているように見えます。ここを狙って撃ったという言説もありましたが、恐らくはmiss distanceじゃないかと思います。ミサイルがバルーンと観測機器のどちらを捉えていたのかは分かりません。
https://twitter.com/rawsalerts/status/1621980596346953729?s=20&t=4854B7r2enH3tK_rfrskMQ
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2023年01月31日
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