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2014年06月23日

美は江南にあり(故宮博物院D)

1127年、金軍の前に開封は陥落し、北宋は滅びます。以後は、南方の臨時の行在所という意味で臨安(杭州)に都を移し、南宋(1127〜1279)として約150年にわたり存続することになります。

南宋は徽宗の子、高宗が興した国でした。北宋の皇族は金に拉致されますが、たまたま高宗は都開封を離れており、ただ一人難を免れたのです。
1142年、金との講和が成立し、高宗の一族は返還されますが、父徽宗と妻の皇后は既に亡くなっていました。

上海博物館展が昨年東京国立博物館で開催されました。中国絵画を代表する名画が一同に揃う、素晴らしい展覧会でしたが、その中に「人物故事図巻」という南宋時代の絵画も出品されていました。
この絵には、講和によって金から帰還した皇族を迎える南宋の人々が描かれています。中心には高宗と思われる人物がおり、左側に赤い幌車があります。これが、高宗の母を乗せた車でしょう。その後方に棺が二つ。徽宗と皇后を乗せたものです。
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ちなみに高宗は父徽宗の死亡後、各所に残る徽宗の文書を集めて、「徽宗皇帝御集」100巻を編纂します。その序文にある末尾の署名は「臣 構」。構とは高宗の本名で、自らを徽宗の臣下として位置づけたもの、といわれています。
高宗の父への思いが伝わるエピソードです。

ちなみに上海博物館展の図録はすぐに売切れてしまったようで、残念ながら買えませんでした。東博さん、故宮博物院展を機会に増刷してくださ〜い。

南宋が生き残ることのできた原因の一つは、長江の南に広がる江南の豊かな土地と貿易でした。
また、金の貴族の多くは漢の文化に憧れていました。金の第6代の皇帝章宗は、徽宗に心酔し、徽宗の書体をまねたと思われる文書が伝えられています。

南宋と金は初めのころは戦争が頻発していましたが、その後約百年は、おおむね平和な状態でした。
そのため南宋は軍事費を抑えることができ、産業や文化が発展します。
都杭州の人口は百万を突破し、最大で150万人までいたといいます。

また歴代の皇帝も文化に育成に熱心でした。南宋にとって文化の高さを誇ることが、王朝の優位を保つ手段でもあったのです。
北宋の絵は雄大で深遠な大作が多く、反面情緒にかける面もあるのですが、こうした北宋絵画の伝統的技法を踏まえて、南宋では馬遠、夏珪など、多くの宮廷画家が活躍し、詩情にあふれた繊細で魅力的な絵画が多く生み出されました。
馬遠、夏珪の特色は、絵の主題を片方に寄せ、画面の中央に大きな余白を残すという構図にあります。
岩や木々、刻々と変化する空気を自在に描き、詩情豊かな山水画の世界を構築したのです。

牧谿は、南宋の僧侶ですが、日本に多くの作品が伝わり、独特な技法により描かれる、見る者に湿潤な空気までを実感させるような水墨画は、日本絵画史のなかで高く評価されてきたました。
室町時代の3代将軍義満以来の将軍家伝来の中国絵画をリストアップした「御物御絵目録」という文書では、なんと約3分の1が牧谿画とされています。

そのほかにも南宋時代の絵画や青磁、天目茶碗など多くの逸品が日本に伝わり、足利将軍や大名、堺の豪商たちの垂涎の的であり、室町時代の水墨画にも大きな影響を与えました。

雪舟は、明の時代に中国に行きますが、国宝「破墨山水図」に書かれているこの絵の由来では、「大宋国」に行った、と書いています。宋も明も同じ、と思ったのかもしれませんが、一説では日本で当時偉大な中国画家とあがめられていたのは、宋の時代の人たちだったから、とも言われています。

その後も茶道や生け花を通じて、日本文化は宋の文化の大きな影響を受けています。
宋の洗練された文物の数々は、時代を越え、これからも日本人の心を魅了し続けていくのでしょう。

ちなみに世界遺産(文化遺産)として登録された西湖は杭州にあり、松尾芭蕉の『奥の細道』の松島の部分で西湖が登場します。
「松島は扶桑第一の好風にして、凡洞庭・西湖を恥ず」松島の美しさは中国の洞庭湖、西湖にも劣らないだろう…、日本にも古くから西湖の美しさは伝わっていました。

上海までは直線距離で約160キロ、一番早い鉄道を使えばたったの49分で到着します。
私もいつかきっと訪ねてみたいと思っています。

西湖yjimageC7267TAH.jpg
posted by はまやん at 00:00| アート
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