2016年05月01日
出光美術館開館50周年記念 美の祝典 T
出光美術館で開催中の「開館50周年記念 美の祝典1ーやまと絵の四季」を見てきました。
1966年、実業家の出光佐三の収集した美術品を公開するために開館した出光美術館。今年でちょうど開館50周年を迎えました。その「記念企画」(解説より)です。同美術館の誇る日本の美術品を3期に分けて紹介します。今回は1期目の「やまと絵」。
まず「美の祝典」展のハイライト、出光が誇る国宝の「伴大納言絵巻」。全長27メートルの画面の中にかの「応天門の変」を題材とした歴史物語を表しています。866年、平安京内裏の応天門に大納言伴善男(とものよしお)(伴大納言)が放火したとされる「応天門の変」を題材に、平安末期に描かれた絵巻です。絵の作者は12世紀の宮廷絵師の常盤光長、詞書は能書家の藤原教長とする説が有名ですが、定かではありません。う。ただ、実在した政治家を主人公に野心や謀略、失脚を描いたストーリーは単純に面白い。実は伴大納言絵巻は上巻だけ詞書が現存しません、説話集『宇治拾遺物語』に収録のエピソードで内容はたどれます。
現在の第1期は上巻。検非違使の出勤から応天門の炎上、そして藤原良房が天皇を諌める場面までが描かれています。
絵巻はほかと区切られた専用のスペースで展示でされています。先にあるのは解説パネル。かなり詳細に情景を記しています。それを踏まえた上で実際の絵巻を見る流れです。
燃えさかる炎のダイナミックな表現に加え、群衆ひとりひとりの豊かな表情や個性的な面立ち、多様な動きにも注目目で追っていくと、人々の声が聞こえてくるような、雑踏の音が聞こえてくるような臨場感があります。
気になるのは、炎上をひとり遠目に眺める衣冠束帯姿の男。状況から放火犯を思わせますが、後ろ姿でよくわからない。伴大納言なのか、それとも別の真犯人か−。不自然な紙の継ぎ目が指摘されるなど、最もミステリアスな場面です。
屏風は、桃山期の「宇治橋柴舟図屏風」と「吉野龍田図屏風」が展示されています。前者のモチーフは文字通りに宇治橋。金色の空間に堂々たる橋が架かっています。右隻には、左右から右上かけて対角線状にゆるい弧を描きながら、金色に輝く橋が架かる。橋の下を流れる川面には、柴を積んだ舟が二艘。画面全景には水車が配され、水流を受けて回っている。水車よりこぼれ落ちる水は、本来は銀色でしたが経年のため黒くなっています。橋と水車というモチーフより、本作品の主題が宇治の情景であることは明らかです。
後者は春の桜と秋の紅葉を表したもの。桜は満開そのものです。紅葉も画面いっぱいに埋め尽くしています。木の幹は逞しく、重量感があります。枝ぶりも左右に震えるかのように大胆です。等伯の楓図を思い出しました。
絵巻ではほか「絵因果経」、「西行物語絵巻」、「長谷寺縁起絵巻」なども展示。元々は絵巻であった「佐竹本三十六歌仙絵」も「柿本人麿」と「僧正遍照」の2幅が出ています。
「絵因果経」とは、求那跋陀羅(ぐなばつだら)訳「過去現在因果経」を絵画化した絵巻物のこと。中国からもたらされ、日本でも盛んに書き写されたといいます。
いこの経典は釈迦の前世においてなしえた善行を説くことから始まり、さらに現世における釈迦の生涯から、舎利仏・目連・大迦葉ら弟子たちの出家に到るまでを記しています。現存する絵因果経の中でも、制作時期が奈良時代まで遡る伝本を「古因果経」と称し、現在五種が知られていますが、その中の一種が本作品である。
絵巻の下段に経文、上段にそれに対応する絵が描かれている。釈迦が前世でどんな修行や善行を積み、なぜ最終的に悟りを得たのかという物語を、わかりやすく伝えてくれる。平安以降に発達する「絵巻」の原初的作品と位置づけられますが、文字と絵を上下に配するスタイル自体は踏襲されませんでした。以降、日本で絵巻は、詞と絵を交互に配してストーリーを紡ぐ形式が定着していきます。釈迦を取り巻く人物が皆、中国・唐時代ふうの装いをしているのが面白い。人獣のような風神雷神も愛嬌たっぷりでかわいいです。
ラストは伝宗達などの初期琳派です。うち伝宗達の「月に秋草図屏風」と伊年印の「四季草花図屏風」が横並びになる様は見事の一言。「月に秋草図屏風」は宵闇に浮かぶ半月の下、可憐に咲く萩や薄、桔梗や撫子などの秋の草花を描き出した屏風である。本作品には俵谷宗達(生没年不詳)の工房で制作されたことを示す「伊年印」印が捺されています。図録では「琳派がその後数多く制作した草花図屏風の中でも最も初発的な作例であり、かつ一群の草花図屏風の中でも群を抜いた傑作である」と述べています。月を示す、銀板が印象的です
「月に秋草図屏風」 右隻(部分) 伝 俵屋宗達 江戸時代
「四季草花図屏風」 「伊年」印 六曲一双 江戸時代 この1画は草花が咲いて金色の空間を華麗に彩っています。
日曜日の夕方前に出かけましたが、館内は思いの外に空いていました。現段階でしたら「伴大納言絵巻」もゆっくり観覧出来ると思います。
続くII期の展示も楽しみです。
開催期間 4月9日(土) 〜 5月8日(日)
休館日 月曜日
開館時間 10:00 〜 18:00(入館は17:30分まで)
金曜日の延長開館は無し
入館料 一般 1000円
1966年、実業家の出光佐三の収集した美術品を公開するために開館した出光美術館。今年でちょうど開館50周年を迎えました。その「記念企画」(解説より)です。同美術館の誇る日本の美術品を3期に分けて紹介します。今回は1期目の「やまと絵」。
まず「美の祝典」展のハイライト、出光が誇る国宝の「伴大納言絵巻」。全長27メートルの画面の中にかの「応天門の変」を題材とした歴史物語を表しています。866年、平安京内裏の応天門に大納言伴善男(とものよしお)(伴大納言)が放火したとされる「応天門の変」を題材に、平安末期に描かれた絵巻です。絵の作者は12世紀の宮廷絵師の常盤光長、詞書は能書家の藤原教長とする説が有名ですが、定かではありません。う。ただ、実在した政治家を主人公に野心や謀略、失脚を描いたストーリーは単純に面白い。実は伴大納言絵巻は上巻だけ詞書が現存しません、説話集『宇治拾遺物語』に収録のエピソードで内容はたどれます。
現在の第1期は上巻。検非違使の出勤から応天門の炎上、そして藤原良房が天皇を諌める場面までが描かれています。
絵巻はほかと区切られた専用のスペースで展示でされています。先にあるのは解説パネル。かなり詳細に情景を記しています。それを踏まえた上で実際の絵巻を見る流れです。
燃えさかる炎のダイナミックな表現に加え、群衆ひとりひとりの豊かな表情や個性的な面立ち、多様な動きにも注目目で追っていくと、人々の声が聞こえてくるような、雑踏の音が聞こえてくるような臨場感があります。
気になるのは、炎上をひとり遠目に眺める衣冠束帯姿の男。状況から放火犯を思わせますが、後ろ姿でよくわからない。伴大納言なのか、それとも別の真犯人か−。不自然な紙の継ぎ目が指摘されるなど、最もミステリアスな場面です。
屏風は、桃山期の「宇治橋柴舟図屏風」と「吉野龍田図屏風」が展示されています。前者のモチーフは文字通りに宇治橋。金色の空間に堂々たる橋が架かっています。右隻には、左右から右上かけて対角線状にゆるい弧を描きながら、金色に輝く橋が架かる。橋の下を流れる川面には、柴を積んだ舟が二艘。画面全景には水車が配され、水流を受けて回っている。水車よりこぼれ落ちる水は、本来は銀色でしたが経年のため黒くなっています。橋と水車というモチーフより、本作品の主題が宇治の情景であることは明らかです。
後者は春の桜と秋の紅葉を表したもの。桜は満開そのものです。紅葉も画面いっぱいに埋め尽くしています。木の幹は逞しく、重量感があります。枝ぶりも左右に震えるかのように大胆です。等伯の楓図を思い出しました。
絵巻ではほか「絵因果経」、「西行物語絵巻」、「長谷寺縁起絵巻」なども展示。元々は絵巻であった「佐竹本三十六歌仙絵」も「柿本人麿」と「僧正遍照」の2幅が出ています。
「絵因果経」とは、求那跋陀羅(ぐなばつだら)訳「過去現在因果経」を絵画化した絵巻物のこと。中国からもたらされ、日本でも盛んに書き写されたといいます。
いこの経典は釈迦の前世においてなしえた善行を説くことから始まり、さらに現世における釈迦の生涯から、舎利仏・目連・大迦葉ら弟子たちの出家に到るまでを記しています。現存する絵因果経の中でも、制作時期が奈良時代まで遡る伝本を「古因果経」と称し、現在五種が知られていますが、その中の一種が本作品である。
絵巻の下段に経文、上段にそれに対応する絵が描かれている。釈迦が前世でどんな修行や善行を積み、なぜ最終的に悟りを得たのかという物語を、わかりやすく伝えてくれる。平安以降に発達する「絵巻」の原初的作品と位置づけられますが、文字と絵を上下に配するスタイル自体は踏襲されませんでした。以降、日本で絵巻は、詞と絵を交互に配してストーリーを紡ぐ形式が定着していきます。釈迦を取り巻く人物が皆、中国・唐時代ふうの装いをしているのが面白い。人獣のような風神雷神も愛嬌たっぷりでかわいいです。
ラストは伝宗達などの初期琳派です。うち伝宗達の「月に秋草図屏風」と伊年印の「四季草花図屏風」が横並びになる様は見事の一言。「月に秋草図屏風」は宵闇に浮かぶ半月の下、可憐に咲く萩や薄、桔梗や撫子などの秋の草花を描き出した屏風である。本作品には俵谷宗達(生没年不詳)の工房で制作されたことを示す「伊年印」印が捺されています。図録では「琳派がその後数多く制作した草花図屏風の中でも最も初発的な作例であり、かつ一群の草花図屏風の中でも群を抜いた傑作である」と述べています。月を示す、銀板が印象的です
「月に秋草図屏風」 右隻(部分) 伝 俵屋宗達 江戸時代
「四季草花図屏風」 「伊年」印 六曲一双 江戸時代 この1画は草花が咲いて金色の空間を華麗に彩っています。
日曜日の夕方前に出かけましたが、館内は思いの外に空いていました。現段階でしたら「伴大納言絵巻」もゆっくり観覧出来ると思います。
続くII期の展示も楽しみです。
開催期間 4月9日(土) 〜 5月8日(日)
休館日 月曜日
開館時間 10:00 〜 18:00(入館は17:30分まで)
金曜日の延長開館は無し
入館料 一般 1000円