2015年10月25日
特別展「根津青山の至宝」
東京・南青山の根津美術館で開催されている、「財団創設75周年記念特別展 根津青山の至宝 初代根津嘉一郎コレクションの軌跡」展に行ってきました。
初代根津嘉一郎は、明治、大正、昭和を生きた実業家で、同時に茶人としても知られ、根津青山(せいざん)と号しました。その青山、嘉一郎が亡くなったのが1940(昭和15)年。同年、青山の長男、二代目根津嘉一郎が初代の遺志を継ぎ、財団法人根津美術館を設立。本年はそれから75年目に当たるわけです。
同展では財団創立75周年を記念し、書画と茶道具を中心に初代嘉一郎のコレクションの軌跡をたどtっています。
第1〜2展示室は「コレクションの形成と茶の湯」と題し、嘉一郎が東京に活動の場を移して実業の傍ら集めた古美術を収集順にラインアップ。1906年、オークションで当時16,500円という大金で落札し、嘉一郎の名が古美術界に知れ渡るきっかけとなった「花白河蒔絵硯箱(はなのしらかわまきえすずりばこ)」(重要文化財、日本・室町時代)や、一筋の滝の姿に自然への畏敬の念が込められた「那智瀧図(なちのたきず)」(国宝、日本・鎌倉時代)などが並び、嘉一郎の好みや審美眼、茶道具へ関心を深めていった様子を伝えています。
ほかに、仏教美術をあつめた第3室、中国古代の青銅器を並べる第4室、全10巻中8巻が正倉院に収蔵される国宝「根本百一羯磨」の第6巻など古写経コレクションをそろえる第5室が展開。第6室では「永久決別の茶会」と題し、1940年に80歳で逝去した嘉一郎が、亡くなる一週間前に青山の自邸で開催した茶事を再現。茶室に見立てた畳の展示スペースに、赤く焼けた肌に丸い同部が愛らしい「赤楽茶碗」(日本・江戸時代)や「石山寺蒔絵源氏箪笥(いしやまでらまきえげんじだんす)」(重要美術品、日本・江戸時代)などを並べられていました。
国宝の「那智瀧図」は、最新の照明手法により、那智の瀧が白く輝いてみえます。さらに照明が明るくなったことで、この滝のまわりに描かれている杉木立などのディテール、拝殿の屋根などの彩色、この拝殿の屋根を突き抜いて天にのびる杉の大木、地面に塗られた金地等も、よくみることができるようになりました。 滝のまわりの杉の木の木肌には、苔むした緑以外に、打ち付けられた御札が描かれていました。
画面上部の丸いものは月なのか太陽なのか? それは長年、美術界で論争になっており、未だ結論が出ていないそうです。この絵を神道的見地からみると月となり、仏教的見地からみると太陽になるのだということですが、どちらにしろその美しさ、神秘性が私たちみるものを捉えてやまないのはいうまでもありません。
フランスの文化大臣だったアンドレ・マルローは、この「那智瀧図」をみた瞬間に、「アマテラス!」と叫んだと伝えられています。 古来、多くの人の信仰を集めた(今でいうなら最高のパワースポット)、熊野の那智の瀧。多くの絵巻物や曼荼羅図に描かれているのですが、那智の瀧だけを描いたものはたったこの1点だけだそうです。 神仏習合という日本独自の宗教観に基づき、自然の中に宿る神を描いているという意味では宗教画であり、日本の自然への畏敬を描いた風景画でもあります。
今回の展覧会では、他にも国宝「鶉図」、重要文化財「山水図」(祥啓筆)、「猿猴図」(黄筌印)、「蓮燕図」(伝牧谿筆)など、魅惑的な中世絵画の数々を堪能できます。
同時に、初代嘉一郎、青山が茶人であっただけに、茶道具の数々も見逃せません。
秋野蒔絵手箱 14世紀
山水図 祥啓筆1幅 室町時代 15世紀
江天遠意図伝 周文筆・大岳周崇ほか11僧賛 室町時代 15世紀
鶉図 伝・李安忠筆 中国・南宋時代 12−13世紀
周茂叔愛蓮図 伝 小栗宗湛筆 室町時代 16世紀
馬麟筆『夕陽山水図』は、よく見ると雲が夕日に染まる様子や、遠山の山肌や樹木、さらに手前の空を舞う四羽の燕も丁寧に描かれています。画面の大半を埋めるのは、南宋第5代の皇帝・理宗の賛。
伝・牧谿筆『蓮燕図』は、松平不昧公旧蔵で、根津嘉一郎が購入後、記念写真を撮って、すぐ売却してしまい、現在は三井記念美術館の所蔵になっています。
展示室2には、やはり松平不昧公旧蔵品の大きな銅鑼がありました。美音で知られた銅鑼で、嘉一郎の歳暮茶会では、自由に試し打ちして楽しむのを慣例としたそうです。
また、基本的には、展示作品は根津美術館のコレクションによるものですが、中には、石川県立美術館蔵の 《色絵白雁香合》 のように、初代根津嘉一郎が見たがった、または欲しがった美術品も紹介されていました。
秋のさわやかな休日、都心の一等地で第1級の古美術と少し早い紅葉も楽しめました。
財団創立75周年記念特別展 根津青山の至宝
〇開催:2015年9月19日(土)〜11月3日(火・祝)
〇時間:10:00〜17:00 ※入場は16:30まで、月曜休館(一部祝日などをのぞく)
〇会場:根津美術館/港区南青山6-5-1
〇料金:大人1,200円ほか
〇公式:http://www.nezu-muse.or.jp/jp/exhibition/index.html
初代根津嘉一郎は、明治、大正、昭和を生きた実業家で、同時に茶人としても知られ、根津青山(せいざん)と号しました。その青山、嘉一郎が亡くなったのが1940(昭和15)年。同年、青山の長男、二代目根津嘉一郎が初代の遺志を継ぎ、財団法人根津美術館を設立。本年はそれから75年目に当たるわけです。
同展では財団創立75周年を記念し、書画と茶道具を中心に初代嘉一郎のコレクションの軌跡をたどtっています。
第1〜2展示室は「コレクションの形成と茶の湯」と題し、嘉一郎が東京に活動の場を移して実業の傍ら集めた古美術を収集順にラインアップ。1906年、オークションで当時16,500円という大金で落札し、嘉一郎の名が古美術界に知れ渡るきっかけとなった「花白河蒔絵硯箱(はなのしらかわまきえすずりばこ)」(重要文化財、日本・室町時代)や、一筋の滝の姿に自然への畏敬の念が込められた「那智瀧図(なちのたきず)」(国宝、日本・鎌倉時代)などが並び、嘉一郎の好みや審美眼、茶道具へ関心を深めていった様子を伝えています。
ほかに、仏教美術をあつめた第3室、中国古代の青銅器を並べる第4室、全10巻中8巻が正倉院に収蔵される国宝「根本百一羯磨」の第6巻など古写経コレクションをそろえる第5室が展開。第6室では「永久決別の茶会」と題し、1940年に80歳で逝去した嘉一郎が、亡くなる一週間前に青山の自邸で開催した茶事を再現。茶室に見立てた畳の展示スペースに、赤く焼けた肌に丸い同部が愛らしい「赤楽茶碗」(日本・江戸時代)や「石山寺蒔絵源氏箪笥(いしやまでらまきえげんじだんす)」(重要美術品、日本・江戸時代)などを並べられていました。
国宝の「那智瀧図」は、最新の照明手法により、那智の瀧が白く輝いてみえます。さらに照明が明るくなったことで、この滝のまわりに描かれている杉木立などのディテール、拝殿の屋根などの彩色、この拝殿の屋根を突き抜いて天にのびる杉の大木、地面に塗られた金地等も、よくみることができるようになりました。 滝のまわりの杉の木の木肌には、苔むした緑以外に、打ち付けられた御札が描かれていました。
画面上部の丸いものは月なのか太陽なのか? それは長年、美術界で論争になっており、未だ結論が出ていないそうです。この絵を神道的見地からみると月となり、仏教的見地からみると太陽になるのだということですが、どちらにしろその美しさ、神秘性が私たちみるものを捉えてやまないのはいうまでもありません。
フランスの文化大臣だったアンドレ・マルローは、この「那智瀧図」をみた瞬間に、「アマテラス!」と叫んだと伝えられています。 古来、多くの人の信仰を集めた(今でいうなら最高のパワースポット)、熊野の那智の瀧。多くの絵巻物や曼荼羅図に描かれているのですが、那智の瀧だけを描いたものはたったこの1点だけだそうです。 神仏習合という日本独自の宗教観に基づき、自然の中に宿る神を描いているという意味では宗教画であり、日本の自然への畏敬を描いた風景画でもあります。
今回の展覧会では、他にも国宝「鶉図」、重要文化財「山水図」(祥啓筆)、「猿猴図」(黄筌印)、「蓮燕図」(伝牧谿筆)など、魅惑的な中世絵画の数々を堪能できます。
同時に、初代嘉一郎、青山が茶人であっただけに、茶道具の数々も見逃せません。
秋野蒔絵手箱 14世紀
山水図 祥啓筆1幅 室町時代 15世紀
江天遠意図伝 周文筆・大岳周崇ほか11僧賛 室町時代 15世紀
鶉図 伝・李安忠筆 中国・南宋時代 12−13世紀
周茂叔愛蓮図 伝 小栗宗湛筆 室町時代 16世紀
馬麟筆『夕陽山水図』は、よく見ると雲が夕日に染まる様子や、遠山の山肌や樹木、さらに手前の空を舞う四羽の燕も丁寧に描かれています。画面の大半を埋めるのは、南宋第5代の皇帝・理宗の賛。
伝・牧谿筆『蓮燕図』は、松平不昧公旧蔵で、根津嘉一郎が購入後、記念写真を撮って、すぐ売却してしまい、現在は三井記念美術館の所蔵になっています。
展示室2には、やはり松平不昧公旧蔵品の大きな銅鑼がありました。美音で知られた銅鑼で、嘉一郎の歳暮茶会では、自由に試し打ちして楽しむのを慣例としたそうです。
また、基本的には、展示作品は根津美術館のコレクションによるものですが、中には、石川県立美術館蔵の 《色絵白雁香合》 のように、初代根津嘉一郎が見たがった、または欲しがった美術品も紹介されていました。
秋のさわやかな休日、都心の一等地で第1級の古美術と少し早い紅葉も楽しめました。
財団創立75周年記念特別展 根津青山の至宝
〇開催:2015年9月19日(土)〜11月3日(火・祝)
〇時間:10:00〜17:00 ※入場は16:30まで、月曜休館(一部祝日などをのぞく)
〇会場:根津美術館/港区南青山6-5-1
〇料金:大人1,200円ほか
〇公式:http://www.nezu-muse.or.jp/jp/exhibition/index.html