2016年02月06日
刑法 平成20年度第2問
1 甲及び乙がXからY所有の指輪を盗んだ行為に窃盗罪の共同正犯の成否を検討する(60条、235条)。
(1) Xの占有するY所有の指輪が「他人の物」の要件を満たすか。窃盗罪の保護法益は本権ではなく、一応適法な外観を有する占有と解する。なぜならそれらの財産秩序も保護に値するからである。Xの指輪の占有は一応適法な外観を有している。したがって「他人の物」に当たる。
(2) もっとも、甲及び乙はYの「直系血族」(244条1項)であるから、刑が「免除」されるか。「直系血族」に範囲及び「免除」の意義が問題となる。
同条は、法は家庭に入らずという観点から政策的な規定と解する。したがって「免除」とは一審的処罰阻却事由を定めたものと解する。そして、一審的処罰阻却という政策的効果を生じさせるためには「直系血族」の範囲は所有者と占有者の両方との間に存在することが必要と解する。
甲は、X及びYの子であるから、両方との間に「直系血族」の関係がある。したがって、甲には窃盗罪の共同正犯が成立するが、刑が免除される。
一方、乙はXの子であるが、Yとは親族関係がなく、244条1項は適用されない。
この点、乙は指輪の所有権がXにあると誤信しており、錯誤の問題になるとも思えるが、前述のとおり244条は政策的な一審処罰阻却事由を定めた規定であるから、この点の錯誤は故意(38条1項)の存否には無関係であり、錯誤の問題にはならない。
したがって、乙には窃盗罪の共同正犯が成立する。
2 乙が甲に指輪を売却し代金を引き渡すよう命じた行為は、X及びYとの関係では甲及び乙の犯した窃盗罪の不可罰的事後行為であり、また、後述のように丙に対する罪ともならないから、独自の犯罪を構成しない。
3 甲が丙に対し、盗品であることを秘して指輪を売却した行為は、X及びYとの関係では不可罰的事後行為であり、何らの犯罪も構成しない。
丙に対する詐欺罪とならないか問題となるも、盗品であることを告げる告知義務は認められないから、不作為による欺罔行為が認定できず、詐欺罪を構成しない。
4 丙が時価100万円の価値があることを秘して10万円で指輪を買った行為に詐欺罪の成否を検討する(246条1項)。
(1)詐欺罪の保護法益は財物及びその交付目的と解する。そのため「欺いて」といえるためには交付の基礎となる重要な事実を偽ることが必要である。そして重要な事実か否かは売り手と買い手の能力によって具体的に判断すべきである。
本問では古物商という専門家の立場の丙が提示した指輪の価値は真実の価値の10分の1であり素人の売り手甲とすればその欺罔がなければ売らなかったであろう重要な事実を偽っていると言える。
したがって、丙の行為は「欺いて」に当たる。
(2)甲は上記欺罔により錯誤に陥り、錯誤に基づく処分行為により、真正な価値との差額である90万円の財産的損害を受けたと言える。
(3)もっとも、指輪は盗品であり、甲には民法上の返還請求権がないが、前述のように詐欺罪の保護法益は財物の交付目的でもあり、丙は甲の交付目的を害したのであるから、犯罪を成立させることに問題はない。
(4)したがって、丙の行為に詐欺罪が成立する。
5 丙の同行為に盗品有償譲受罪(256条2項)が成立しないか問題となるも、甲と丙に盗品有償譲受けの意思疎通が欠けており、したがって本犯助長性が認められないから同罪は構成しない。
6 甲が売却代金である10万円を自ら費消した行為に委託物横領罪(252条1項)は成立しない。なぜなら、同罪の保護法益は所有権及び委託関係であり、乙と甲との間には保護に値する委託関係が存在しないからである。
7 結論
(1) 甲には窃盗罪の共同正犯が成立するが、刑が免除される。
(2) 乙には窃盗罪の共同正犯が成立する。
(3) 丙には詐欺罪が成立する。 以上
(1) Xの占有するY所有の指輪が「他人の物」の要件を満たすか。窃盗罪の保護法益は本権ではなく、一応適法な外観を有する占有と解する。なぜならそれらの財産秩序も保護に値するからである。Xの指輪の占有は一応適法な外観を有している。したがって「他人の物」に当たる。
(2) もっとも、甲及び乙はYの「直系血族」(244条1項)であるから、刑が「免除」されるか。「直系血族」に範囲及び「免除」の意義が問題となる。
同条は、法は家庭に入らずという観点から政策的な規定と解する。したがって「免除」とは一審的処罰阻却事由を定めたものと解する。そして、一審的処罰阻却という政策的効果を生じさせるためには「直系血族」の範囲は所有者と占有者の両方との間に存在することが必要と解する。
甲は、X及びYの子であるから、両方との間に「直系血族」の関係がある。したがって、甲には窃盗罪の共同正犯が成立するが、刑が免除される。
一方、乙はXの子であるが、Yとは親族関係がなく、244条1項は適用されない。
この点、乙は指輪の所有権がXにあると誤信しており、錯誤の問題になるとも思えるが、前述のとおり244条は政策的な一審処罰阻却事由を定めた規定であるから、この点の錯誤は故意(38条1項)の存否には無関係であり、錯誤の問題にはならない。
したがって、乙には窃盗罪の共同正犯が成立する。
2 乙が甲に指輪を売却し代金を引き渡すよう命じた行為は、X及びYとの関係では甲及び乙の犯した窃盗罪の不可罰的事後行為であり、また、後述のように丙に対する罪ともならないから、独自の犯罪を構成しない。
3 甲が丙に対し、盗品であることを秘して指輪を売却した行為は、X及びYとの関係では不可罰的事後行為であり、何らの犯罪も構成しない。
丙に対する詐欺罪とならないか問題となるも、盗品であることを告げる告知義務は認められないから、不作為による欺罔行為が認定できず、詐欺罪を構成しない。
4 丙が時価100万円の価値があることを秘して10万円で指輪を買った行為に詐欺罪の成否を検討する(246条1項)。
(1)詐欺罪の保護法益は財物及びその交付目的と解する。そのため「欺いて」といえるためには交付の基礎となる重要な事実を偽ることが必要である。そして重要な事実か否かは売り手と買い手の能力によって具体的に判断すべきである。
本問では古物商という専門家の立場の丙が提示した指輪の価値は真実の価値の10分の1であり素人の売り手甲とすればその欺罔がなければ売らなかったであろう重要な事実を偽っていると言える。
したがって、丙の行為は「欺いて」に当たる。
(2)甲は上記欺罔により錯誤に陥り、錯誤に基づく処分行為により、真正な価値との差額である90万円の財産的損害を受けたと言える。
(3)もっとも、指輪は盗品であり、甲には民法上の返還請求権がないが、前述のように詐欺罪の保護法益は財物の交付目的でもあり、丙は甲の交付目的を害したのであるから、犯罪を成立させることに問題はない。
(4)したがって、丙の行為に詐欺罪が成立する。
5 丙の同行為に盗品有償譲受罪(256条2項)が成立しないか問題となるも、甲と丙に盗品有償譲受けの意思疎通が欠けており、したがって本犯助長性が認められないから同罪は構成しない。
6 甲が売却代金である10万円を自ら費消した行為に委託物横領罪(252条1項)は成立しない。なぜなら、同罪の保護法益は所有権及び委託関係であり、乙と甲との間には保護に値する委託関係が存在しないからである。
7 結論
(1) 甲には窃盗罪の共同正犯が成立するが、刑が免除される。
(2) 乙には窃盗罪の共同正犯が成立する。
(3) 丙には詐欺罪が成立する。 以上
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