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2016年02月05日

刑法 平成19年度第1問

問題文
 甲、乙及び丙は、事故死を装ってXを殺害しようと考え、丙がXを人気のない港に呼び出し、3名でXに薬剤をかがせて昏睡させ、昏睡したXを海中に投棄して殺害することを話し合って決めた。そこで、丙は、Xに電話をかけ、港に来るよう告げたところ、Xはこれを了承した。その後、丙は、このまま計画に関与し続けることが怖くなったので、甲に対し、電話で「待ち合わせ場所には行きません。」と言ったところ、甲は、「何を言っているんだ。すぐこい。」と答えた。しかし、丙が待ち合わせ場所である港に現れなかったので、甲及び丙は、もう丙は来ないものと思い、待ち合わせ場所に現れたXに薬剤をかがせ昏睡させた。乙は、動かなくなったXを見て、かわいそうになり、甲にX殺害を思いとどまるよう懇請した。これを聞いて激怒した甲は、乙を殴ったところ、乙は転倒し、頭を打って気絶した。その後、甲は、Xを溺死させようと岸壁から海中に投棄した。なお、後日判明したところによれば、Xは、乙が懇請した時には、薬剤の作用により既に死亡していた。
 甲、乙及び丙の罪責を論ぜよ(ただし、特別法違反の点は除く。)。

回答
1 甲、乙及び丙がXを殺害した行為に殺人罪の共同正犯が成立するか(60条、199条)。丙は実行行為を行っていないため共謀共同正犯を認めるべきかが問題となる。
 共同正犯を含む共犯の処罰根拠は実行行為及び結果に因果性を及ぼした点にある(因果共犯論)。そして、実行行為に加わらなくても共謀をすれば実行行為者に対して心理的因果性を加えることができるため、共謀共同正犯は認められる。
 そして、共謀は主要事実として厳格な証明を要するが、必ずしも謀議行為の立証でなくても、意思の連絡に加え正犯性を基礎づける事情が立証されれば足りると解する。
 甲、乙及び丙は3名でXに薬剤をかがせて昏睡させ、昏睡したXを海中に投棄して殺害することを話し合って決めるという謀議行為を行っているので、殺人罪の共謀が認められる。
2 丙は共謀後に計画に関与し続けるのが怖くなり実行行為を行わなかったため、共犯からの離脱が認められるか。離脱の要件が明文なく問題となる。
 前述のように共犯の処罰根拠が実行行為及び結果に与えた因果性であるから、共犯からの離脱の有無は因果性の有無により判断すべきである。実行着手前は離脱の表明と共犯者の了承、着手後はそれに加えて結果不発生のための措置を取ることを要件とする見解は、それらの行為を行えば因果性の遮断が認められやすいことを示したにとどまり、絶対的な指標ではないと考える。
 本件では、丙は甲に対して電話で離脱の意思表明をしており、甲は了承しなかったものの、実際に甲及び乙は丙が犯行現場に現れなかったことから、もう丙はこないものと思って実行行為に及んでおり、丙が加えていた心理的因果性の遮断は認め得る。しかし、丙は共謀通りXに電話をかけてXを計画上の犯行現場である港に呼び出しており、実行行為及び結果の危険発生に至る物理的因果性を自ら設定している。この因果の流れを遮断するためにはXを港に来させなくする措置が必要であったところ、丙は単に電話で甲に対して離脱の意思を表明しただけである。そのため、物理的因果性は遮断されていない。
 したがって、丙に共犯からの離脱は認められない。
3 甲及び乙がXに薬剤をかがせ、甲がXを海中に投棄した行為に殺人罪の実行の着手および薬剤をかがせた時点で殺人罪の故意が認められるか。Xは計画通り海中投棄によって死亡したのではなく、薬剤をかぐことにより死亡しているから問題となる。
(1)実行の着手について
 薬剤をかがせた行為(先行行為)に実行の着手が認められるか否かについては、海中投棄(後行行為)を行うという計画を含めて行為の一個性が認められるか否かによって判断できる。そして、行為の一個性の判断は、先行行為の必要不可欠性、先行行為の後に後行行為を行いにくくなる特段の事情の有無、両行為間の時間的場所的近接性等の事情を考慮し、先行行為が後行行為と密接な関係にあり、先行行為の時点で結果発生の現実的危険があるか否かによって判断するのが判例である。
 本件は、先行行為はXの抵抗を排して後行行為を行うために必要不可欠であり、先行行為が行われさえすれば後行行為を行いにくくなる特段の事情はなく、両行為間は時間的場所的に近接している。そのため、先行行為は後行行為と密接な関係にあり、先行行為の時点でXが死亡する結果発生の現実的危険性が認められる。
 したがって、先行行為に殺人罪の実行の着手が認められる。
(2)故意について
 行為の一個性が認められた以上先行行為の時点での故意(結果発生の認識・予見)は認めてよい。本件でもXに薬剤をかがせた時点でX殺害の故意は認められる。
3 しかし、甲及び乙は海中投棄による殺害を認識していたのに薬剤をかがせる行為で構成要件が実現しているから、因果関係の錯誤が故意を阻却しないかが問題となる。
 因果関係も構成要件要素であるから故意の対象となると考える。
 そして、因果関係の錯誤は行為者の認識した因果経過と現実の因果経過の齟齬が相当因果関係の範囲内であれば故意を阻却しないと解する。相当性の判断基底は、錯誤が故意という行為者の認識の問題である以上、行為者の計画を基準とすべきと考える。
 本件は、薬剤をかがせて海中投棄するという一連の行為を認識していた甲及び乙にとって、薬剤の作用により結果発生するか海中投棄により結果発生するかはいずれもありうることであり、相当因果関係の範囲内と言える。
 したがって、因果関係の錯誤は故意を阻却しない。
4 乙は薬剤をかがせた後に動かなくなったXをみてかわいそうになり、甲に殺害をおも思いとどまるよう懇請しているが、この行為により共犯からの離脱あるいは中止未遂(43条但書)が認められるかが問題となり得る。
 しかし、薬剤をかがせた行為により既にXの死亡という既遂結果は発生しているため、共犯からの離脱も中止未遂も認められない。
5 甲が乙を殴って気絶させた行為は乙の生理的機能を害しているから傷害罪(204条)が成立する。  以上

posted by izanagi0420new at 21:43| Comment(0) | TrackBack(0) | 刑法
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