2016年02月02日
商法 平成21年度第1問
設問1
会社分割のうち、吸収分割(757条以下)の手続きを取ればよいと考えられる。会社分割とは、1つの会社を2つ以上の会社に分けることを言う。吸収分割とは、分割する会社がその「事業に関して有する権利義務の全部または一部」を既存の会社に承継させることを言う。対価として株式等が用いられる(758条条3号4号参照)。その法的性質は、現物出資(金銭以外のものを事業のために提供し、その事業活動によって生じる利益を受取る地位を得ること、199条1項3号)という見解もありうるが、組織法上の特別の契約と解する。
吸収分割をするには、@まずX社とY社との間で吸収分割契約を締結する(757条)。Aそして既存株主や債権者のために事前開示をする(794条)。Bそして、契約で定めた効力発生日(758条7号)の前日までに、株主総会の特別決議を受ける(795条1項、309条2項12号)。この際、反対株主には株式買取請求権が認められる(797条)。C続いて、債権者異議手続を経る(799条)。Dそして登記をし(923条)、E事後の開示をする(801条)。
会社分割の対価として新たに発行された株式が用いられる場合、一株の価値が希釈されることにより、既存株主の残余財産の分配を受ける権利(自益権)や経営に参与する権利(共益権)が影響を受ける。そのため、会社法は「反対株主」(797条2項柱書)に対して「公正な価格」(797条1項本文)と引換えに会社から退出する権利を認めている。これが株式買取請求権である。本件でも、吸収分割に反対するX社株主は、原則として吸収分割に反対する旨を会社に通知し、株主総会において反対することにより(797条2項1号イ)、自己の株式をX社に対して「公正な価格」で買い取らせることができる。
そして、ここにいう「公正な価格」とは、平成17年改正前は吸収分割の決議がなかったならば有すべき価格(いわゆるナカリセバ価格)と定められていたが、平成17年改正で単に「公正な価格」と改められた。これは吸収分割等によりシナジーが生じる場合には、シナジーをも反映させる趣旨である。そして、シナジーが生じる場合には、「公正な価格」とは原則として組織再編契約ないし計画において定められていた比率が公正なものであったならば当該株式買取請求がされた日においてその株式が有していると認められる価格を意味するというのが判例である。その「公正な価格」を算定するにあたって参照すべき市場価格として、株式買取請求がされた日における市場価格を用いることは裁判所の裁量の範囲内である。
本件でも、X社株式の価値は1株当たり1000円であり、承継するY社のA工場の評価額は複数の証券アナリストによれば5億円であるから、客観的には50万株が対価としての相当額であるところ、60万株が対価として交付されているからシナジーが生じる場合に当たる。そのため、1000円にシナジーを上乗せした価格が公正な価格となる。
設問2
事業の一部の譲受けとして、Y社との間でA工場の権利義務の売買契約を締結することが考えられる。この方法だと、Y社にとっては株主総会決議が必要となり得るから(467条1項2号)反対株主の株式買取請求権が発生しうるが、X社では株主総会決議が要求されないため(取締役会決議は必要である。362条4項1号)、反対株主の買取請求権は発生しない。法は、事業の一部の譲受けを、株主総会の意思決定になじむ基礎的変更とみていないからである。
もっとも、本件で事業の一部譲受の対価としてX社が支払うのはX社の株式であるから、この契約を履行するにあたりX社は募集株式発行の規制に服する(199条以下)。本件は、募集株式の対価としてY社A工場を譲り受けるわけだから、この契約はY社から見ると現物出資に当たる。そのため、公開会社であるX社では原則として取締役会決議が必要である(199条1項3号、同2項、201条1項)。この場合に株主総会決議を必要とせず、取締役会決議が原則である理由は、取締役は定款記載の発行株式総数(37条)の範囲内ならばいつでも株式を発行できるが、株式の発行は主に資金調達の目的でなされるため、株式発行の法的性質は取締役の業務の執行(348条1項)と考えられているからである(授権資本精度)。
もっとも、株式の対価である金銭又は金銭以外の財産が募集株式を引受ける者に「特に有利な金額」である場合には、株主総会の特別決議が必要である(199条1項2号、309条2項5号)。「特に有利な金額」とは、公正な発行価額よりも特に低い金額をいい、この公正な発行価額とは、原則として発行価額決定直前の株価に近接していることが必要と解するのが判例である。
本件を見るに、前述のように6億円分の株式が発行されているのにもかかわらず対価であるA工場の価額はその2割安い5億円であるから、発行価額決定直前の株価に近接しているとは言えず、公正な発行価額ではない。もっとも、X社はY社と資本関係を持つことによって、Y社からノウハウの提供を受けることが期待でき、そのことにより業績の改善を見込んでいるのだから、2割程度の割増は、特段の事情として認められる。そのため、本件の発行価額は「特に有利な金額」に当たらず、株主総会の特別決議は不要である。
なお、仮に「特に有利な金額」に当たり株主総会の特別決議が行われたとしても、そこで本件取得に反対した株主に株式買取請求権を認める条文はない。法は、反対株主の株式買取請求権を原則として会社の基礎的変更が生じた場合に既存株主が退社する権利として認めていると解されるところ(例外は182条の4)、株式の有利発行は会社の基礎的変更ではないからである。
ただし、この方法は現物出資された物や事業の価格が過大評価されるおそれがあるため、原則として検査役の調査が必要である(207条1項。例外は同9項各号)。 以上
会社分割のうち、吸収分割(757条以下)の手続きを取ればよいと考えられる。会社分割とは、1つの会社を2つ以上の会社に分けることを言う。吸収分割とは、分割する会社がその「事業に関して有する権利義務の全部または一部」を既存の会社に承継させることを言う。対価として株式等が用いられる(758条条3号4号参照)。その法的性質は、現物出資(金銭以外のものを事業のために提供し、その事業活動によって生じる利益を受取る地位を得ること、199条1項3号)という見解もありうるが、組織法上の特別の契約と解する。
吸収分割をするには、@まずX社とY社との間で吸収分割契約を締結する(757条)。Aそして既存株主や債権者のために事前開示をする(794条)。Bそして、契約で定めた効力発生日(758条7号)の前日までに、株主総会の特別決議を受ける(795条1項、309条2項12号)。この際、反対株主には株式買取請求権が認められる(797条)。C続いて、債権者異議手続を経る(799条)。Dそして登記をし(923条)、E事後の開示をする(801条)。
会社分割の対価として新たに発行された株式が用いられる場合、一株の価値が希釈されることにより、既存株主の残余財産の分配を受ける権利(自益権)や経営に参与する権利(共益権)が影響を受ける。そのため、会社法は「反対株主」(797条2項柱書)に対して「公正な価格」(797条1項本文)と引換えに会社から退出する権利を認めている。これが株式買取請求権である。本件でも、吸収分割に反対するX社株主は、原則として吸収分割に反対する旨を会社に通知し、株主総会において反対することにより(797条2項1号イ)、自己の株式をX社に対して「公正な価格」で買い取らせることができる。
そして、ここにいう「公正な価格」とは、平成17年改正前は吸収分割の決議がなかったならば有すべき価格(いわゆるナカリセバ価格)と定められていたが、平成17年改正で単に「公正な価格」と改められた。これは吸収分割等によりシナジーが生じる場合には、シナジーをも反映させる趣旨である。そして、シナジーが生じる場合には、「公正な価格」とは原則として組織再編契約ないし計画において定められていた比率が公正なものであったならば当該株式買取請求がされた日においてその株式が有していると認められる価格を意味するというのが判例である。その「公正な価格」を算定するにあたって参照すべき市場価格として、株式買取請求がされた日における市場価格を用いることは裁判所の裁量の範囲内である。
本件でも、X社株式の価値は1株当たり1000円であり、承継するY社のA工場の評価額は複数の証券アナリストによれば5億円であるから、客観的には50万株が対価としての相当額であるところ、60万株が対価として交付されているからシナジーが生じる場合に当たる。そのため、1000円にシナジーを上乗せした価格が公正な価格となる。
設問2
事業の一部の譲受けとして、Y社との間でA工場の権利義務の売買契約を締結することが考えられる。この方法だと、Y社にとっては株主総会決議が必要となり得るから(467条1項2号)反対株主の株式買取請求権が発生しうるが、X社では株主総会決議が要求されないため(取締役会決議は必要である。362条4項1号)、反対株主の買取請求権は発生しない。法は、事業の一部の譲受けを、株主総会の意思決定になじむ基礎的変更とみていないからである。
もっとも、本件で事業の一部譲受の対価としてX社が支払うのはX社の株式であるから、この契約を履行するにあたりX社は募集株式発行の規制に服する(199条以下)。本件は、募集株式の対価としてY社A工場を譲り受けるわけだから、この契約はY社から見ると現物出資に当たる。そのため、公開会社であるX社では原則として取締役会決議が必要である(199条1項3号、同2項、201条1項)。この場合に株主総会決議を必要とせず、取締役会決議が原則である理由は、取締役は定款記載の発行株式総数(37条)の範囲内ならばいつでも株式を発行できるが、株式の発行は主に資金調達の目的でなされるため、株式発行の法的性質は取締役の業務の執行(348条1項)と考えられているからである(授権資本精度)。
もっとも、株式の対価である金銭又は金銭以外の財産が募集株式を引受ける者に「特に有利な金額」である場合には、株主総会の特別決議が必要である(199条1項2号、309条2項5号)。「特に有利な金額」とは、公正な発行価額よりも特に低い金額をいい、この公正な発行価額とは、原則として発行価額決定直前の株価に近接していることが必要と解するのが判例である。
本件を見るに、前述のように6億円分の株式が発行されているのにもかかわらず対価であるA工場の価額はその2割安い5億円であるから、発行価額決定直前の株価に近接しているとは言えず、公正な発行価額ではない。もっとも、X社はY社と資本関係を持つことによって、Y社からノウハウの提供を受けることが期待でき、そのことにより業績の改善を見込んでいるのだから、2割程度の割増は、特段の事情として認められる。そのため、本件の発行価額は「特に有利な金額」に当たらず、株主総会の特別決議は不要である。
なお、仮に「特に有利な金額」に当たり株主総会の特別決議が行われたとしても、そこで本件取得に反対した株主に株式買取請求権を認める条文はない。法は、反対株主の株式買取請求権を原則として会社の基礎的変更が生じた場合に既存株主が退社する権利として認めていると解されるところ(例外は182条の4)、株式の有利発行は会社の基礎的変更ではないからである。
ただし、この方法は現物出資された物や事業の価格が過大評価されるおそれがあるため、原則として検査役の調査が必要である(207条1項。例外は同9項各号)。 以上
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