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2015年03月30日

私は犬

私は犬。
名乗るほどの犬ではない。

小さい頃に里子に出され、今の家に貰われてきた。
他にも兄弟がいたが、もうみんな生きてはいないだろう。

奔放で縛られるのが嫌な性格の私は、飼い主さんにたくさん迷惑をかけた。
そこいらにおしっこを掛けたり、他の家の犬に吠え掛かったり。
その度に飼い主さんに怒られ、時には叩かれもした。

だがその後には飼い主さんは必ず優しく撫でてくれた。
私はそんな飼い主さんの手と匂いが大好きだった。

飼い主さんが泣いていた日もあった。
そんな時は、私は黙って飼い主さんの傍に寄り添った。
犬である私に出来ることはそれぐらいしかない。

飼い主さんが遠くに連れて行ってくれたこともあった。
そんな時は、私は思いっきり飼い主さんと遊んだ。
犬である私はそうやって喜びを表現した。

長い年月が経って、私はもう目も耳もだいぶ悪くなった。
なにか病気に掛かっているらしい。
立つのもつらくなってきた。

また飼い主さんが泣いている。
何か悲しいことや辛いことがあったのだろうか?

私はふらつく足で立ち上がり、飼い主さんの傍に寄り添おうとした。
飼い主さんは、立ち上がる私に、震える声で「ダメ!」と声を荒げた。
また私の行動が飼い主さんを怒らせてしまったようだ。
だがその後、必ず飼い主さんは私を優しく撫でてくれる。

私は目を閉じた。
もうなにも見えなくなった。
身体の力も入らない。
だが飼い主さんの手と匂いは感じる。

私は犬。
飼い主さんにはたくさん迷惑をかけた。
飼い主さんは最後まで優しく撫でてくれた。

私はとても幸せだった。
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