2019年11月30日
お化けでちゃったのよDVD
先日、
「お化けでちゃったのよDVD」
というのを近所の八巻電機店というレンタルショップで借りてきて観ていたら、以前自転車通勤をしていた職場があったのだが、その通勤途中にあるお寺が出ていたのでびっくりした。
昔、この寺で行き倒れた人を住職が見つけたのだが、その後餓死してしまったという。
その人の霊がでるというので、制作会社の撮影スタッフが行ってみると、まんまと幽霊の撮影に成功したのだ。
本堂の傍に立っている木の辺りに、白いもやのような人影が、風に揺れるカーテンのようにゆらゆら動くのが映っている。
これは凄いということで、私は友人のKと2人できもだめしに行ってみることにした。
夜の十時過ぎに目的のお寺に着き、DVDに出ていた本堂の横にある木々をビデオカメラで撮影しながら見ていたが、10分、20分と経っても何も起こらない。
これは長期戦になると覚悟して近くのオリジンで弁当を買ってきて、本堂の縁側に座って食べながら幽霊の登場を待った。
「トイレ行きたくなってきた」
そういいながらKが弁当を置き、立ち上がった。
「ちょっと待ってくれよ。こんなところに1人で残ってるなんてムリだよ」
ビデオカメラを撮影状態にして、問題の木が立っている方向にレンズを向けて縁側の上に置き、私たちはトイレに行くことにした。
トイレはお寺の隣にある小さな児童公園にある。
一人用で、最初にKが入って、その後私が入った。
「先に帰ってていいぞ」
トイレの中から私が言った。
「冗談言うな。そんなわけにいくか」
「でもカメラ置きっぱなしだから、早く帰った方がいいだろ」
私はふざけてそう言ったのだが、実際に誰かに盗まれないともかぎらないので急いだ方がいい。
しかしこんな時に限って、じゃーじゃーと小便はなかなか止まらない。
なんとか用を済ませて、私たちはすぐに公園を出て本堂に戻った。
「あっ、カメラが倒れてる」
Kの声が静かな境内に響いた。
ビデオカメラが縁側の下の地面に落ちているのだ。
「まさか、幽霊がでたのか!?」
そう言って私は辺りを見回した。
「うわっ、弁当の中身がない」
Kが声を上げた。
食べかけだったKと私の弁当の中身がカラになっている。
「ここに出る幽霊って、確か……」
私はDVDの説明を思い出した。
行き倒れて餓死した人、だった。
「逃げろ!」
私はKに叫んだ。
「ゴミは持っていかなきゃまずいぞ」
Kはこの期に及んで律儀だった。
私たちはカラになっている弁当の容器をビニールに入れて、急いでその場を離れた。
最寄りの駅までダッシュで逃げて、駅前のマクドナルドに入った。
店内は学生みたいな若い連中で賑やかだ。
「とりあえず、ホッとするよ」
「ビデオ見てみようぜ」
見るのは恐かったが、もしかしたら決定的な映像が撮れているかもしれないと、期待しながら再生にする。
「よし」
Kは、ビデオを縁側に置いたあたりから再生した。
「あっ、ネコだ」
なんだ、と私はがっかりした。
私たちがいなくなった途端、縁側にネコが飛び乗ってきて、弁当を漁り始めたのだ。
「ちくしょー、そういうことか」
Kも悔しそうだ。
ネコはしばらく弁当を食べている様子だったが、何に驚いたのか、跳ねるようにして弁当から飛び退き、そのままカメラに向かってきた。
「うわっ」
Kがとっさに体をのけ反らせて声を出した。
ネコがレンズに迫ってきてぶつかったのだ。
カメラは地面に落ちたようで、映像はそこで止まった。
「ネコだったかー」
Kはがっかりした調子で言ったが、一安心した感じだ。
「まあ、こんなオチだろうと思ってたけどな」
私も胸をなで下ろした。
「でもネコのヤツ、何に驚いたんだろうな。誰か来たわけじゃないだろ」
Kが言った。
「ちょっと待てよ」
何かがおかしい。
「俺たちが本堂に戻った時、カメラは地面に落ちていた。それはネコがやったわけだからいいとして、確か、弁当のふたは閉めてあったぞ。ネコがふたを閉めるわけないし、それにもちろんそんな映像はなかったしな」
私はそう言うと、背筋がゾッと鳥肌立った。
私は弁当にプラスチックのふたを乗せただけでトイレに行った。
Kはふたをしっかりと閉めていったのかどうかはわからないが、ネコは私の弁当のふたをどけて食べていた。
映像の中で、何かに驚いたネコは弁当を食べかけたままその場を去っている。
しかし、本堂に戻った私たちの弁当の中身はどちらもなくなっていたのだ。
しかも、両方ともしっかりとふたがされている状態だった。
「誰がふたを閉めたんだよ」
私はそう言って、Kの顔を見た。
ちゃんとふたを閉めておくなんて、まるで、
「ごちそうさまでした」
そう言っているようではないか。
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posted by 暇つぶしに読める話のまとめ at 07:00
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