タイトルに惹かれて図書館で借りてきました。
| 『静寂の技法』 最良の人生を導く「静けさ」の力 著者:ジャスティン・ゾルン / リー・マルツ 訳:柴田裕之 発行:2023.9.19 出版社:東洋経済新報社 |
タイトルによって本が売れたり売れなかったりするといいます。
この本の原題は
「GOLDEN」
雄弁は銀、沈黙は金という格言からきているそうですが、
そのまま「ゴールデン」というタイトルでは目に留まらなかったろうな、と思います。
「静寂」静かに過ごすことは「退屈」、
と同義だと思っている人も多いと思います。
私は、一人で過ごすのが好きだし、人混みは嫌い。
コーヒーを飲みながら、ぼうっと過ごすのが好きです。
鳥の声や雨音は、
静かでないと聞こえてきません。
その「静か」とは
耳に聞こえてくる物理的な空気の振動としての音がない、
ということだけでなく、
自分の心や頭の中で繰り返し思考されている
自分自身の声も、小さく、また、
究極的には「ない」状態も「静か」な状態です。
そうでないときには、
周囲の音は耳に入っていても認識できません。
私たちの周りには騒音があふれています。
物理的な音だけでなく、
多すぎる情報、
社会ではこうあるべきという他者の考え、
そして自らの内なる声。
「静寂」を手に入れるにはどうしたらいいのか、
そして「静寂」は社会や世界に有益たりうるのかを考証した内容の本です。
前へ進むための道すじを模索する
いま、世界や社会は何かに駆り立てられるように考え、動き続けるのが良しとされているような雰囲気です。
しかし何か大きな深い問題を解決するには、
何かが足りない。
大声で主張し、行動し続けるだけでは行き詰まりを感じる。
もっと
創造的な解決法はないか。
静寂の中にその答えがあるのではないかと著者は言います。
社会や自然の危機を解決するために、声高に主張することも必要ですが、
根本的に、人間の意識の中にある切迫感や、動揺に対処する必要がある。
自分の内部の騒音として良く表現されるのは「不安」
そこからくるネガティブな独り言。
それが頭の中をぐるぐる回って注意がそらされ、
目的を妨害してくるのです。
騒音の中でも静寂
著者は「静寂」に似た表現として「フロー状態」があるといいます。
何かに時間を忘れるほど没頭している状態のことですが、
本の中で実例として
チェーンソーで彫刻する人のことをあげています。
チェーンソーのけたたましいエンジン音の中でも、その人の心は静かなはずだと。
テクノロジーが進歩して、
便利になった一方、
情報があふれ、私たちに押し寄せます。
それは注意をそらし、私たちを静寂から引き出してしまいます。
著書では、
宗教、心理学、精神科学、ヨガ、神秘体験に共通する
心穏やかに沈黙する方法と、その効果を検証しています。
日本独特の「間(ま)」を取り上げて説明したりもしています。
静寂を好む人たちはひょっとしたら
本に書かれていることを自然に行っているのかもしれません。
静寂を取り戻す具体的な方法がいくつか紹介されていますが、
私が気に入っているのは、
「
1つのことを儀式のように丁寧に行う」
というものです。
例えばコーヒーを入れる一連の動作の一つ一つに気を配り、
瞬間の香りを満喫し、
感覚の明確さを育むのです。
「
一瞬の満足の入り口」
と表現されています。
他に静寂を求める前に、自らが他の騒音になっていないか
自分は「静か」なのが好き、
世の中はなんて騒音だらけなんだ、
職場のあの人も、もっと「静寂」を尊重してくれたらいいのに。
と考えますが、
しかし人間は自分中心の生き物。
自分は他者の「騒音」の原因になっていないかと、
顧みることが、
周りに「静寂」を要求するときの第一歩だといいます。
そうですよね。
家庭や職場で人とかかわっていたら、
自分の存在がほかの人にとって負担になっていることもあるのかもしれない。
自律性、そして良き人生の静寂を取り戻すためには
何が「制御できる範囲」か
何が「影響を与えられる範囲」か
を見極めること。
良く、他者の意思はコントロールできないといいますが、
まさにそのことでしょうか。
そして他者に気を配り、
自分が制御できる範囲で、静寂を擁護することを考えることが、
やがて周りにも影響を及ぼしていくことになる。
「静寂」を重んじる職場
そんな会社があったら働きたい!
そう思うのはきっと私だけではないはず。
この本が、
組織や職場で発言力、影響力のある人の目に留まりますように。
と、願ってしまいます。
読み終えて
働いたり、子育てしたり、いろいろ考えるべきことが多すぎて
いっぱいいっぱい
という人たちに
心の処し方を教えてくれる本です。
そしてこの本は
静寂を尊重する社会が、いまの行き詰った世界を打開する一つの方法になるのではないかと提案するものです。
情報社会、消費経済の真逆のような「静寂」が、もしかしたらそれらの価値観を超越し、あらゆる問題を解決する手段になるのかもしれない。
そんな日が来ますように。
私の地域の図書館では
159
哲学や心理学の棚、人生訓・教訓として分類されていました。
お読みになりたい方は、
まずご近所の図書館にないか調べてみることをおすすめします。
2600円+税
ですので(^^)