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2018年06月18日

数学: Kan 拡張のまとめ

Kan 拡張 (Kan extensions) について勉強した. 大まかにまとめておく.
定義. $\,\mathscr{A}$, $\mathscr{C}$, $\mathscr{D}$ を圏, $F : \mathscr{D} \rightarrow \mathscr{C}$ を関手とする. 関手 $T : \mathscr{D} \rightarrow \mathscr{A}$ に対して, $F$ に依存して定まる関手 $LF(T) : \mathscr{C} \rightarrow \mathscr{A}$ で, 任意の関手 $G : \mathscr{C} \rightarrow \mathscr{A}$ に関して自然な全単射
\begin{equation*}
\newcommand{\Ar}[1]{\mathrm{Ar}(#1)}
\newcommand{\ar}{\mathrm{ar}}
\newcommand{\arop}{\Opp{\mathrm{ar}}}
\newcommand{\Colim}{\mathrm{colim}}
\newcommand{\CommaCat}[2]{(#1 \downarrow #2)}
\newcommand{\Func}[2]{\mathrm{Func}(#1,#2)}
\newcommand{\Hom}{\mathrm{Hom}}
\newcommand{\Id}[1]{\mathrm{id}_{#1}}
\newcommand{\Mb}[1]{\mathbf{#1}}
\newcommand{\Mr}[1]{\mathrm{#1}}
\newcommand{\Ms}[1]{\mathscr{#1}}
\newcommand{\Nat}{\mathrm{Nat}}
\newcommand{\Ob}[1]{\mathrm{Ob}(#1)}
\newcommand{\Opp}[1]{{#1}^{\mathrm{op}}}
\newcommand{\Pos}{\mathbf{Pos}}
\newcommand{\q}{\hspace{1em}}
\newcommand{\qq}{\hspace{0.5em}}
\newcommand{Rest}[2]{{#1}|{#2}}
\newcommand{\Src}{d^{0,\mathrm{op}}}
\newcommand{\Tgt}{d^{1,\mathrm{op}}}
\Nat(LF(T), G) \stackrel{\sim}{\longrightarrow} \Nat(T, G \circ F)
\end{equation*} が存在するとき, $LF(T)$ を $T$ の $F$ に沿った左 Kan 拡張 (left Kan extension) と呼ぶ.
ここで $\Nat(LF(T), G)$ は $LF(T)$ から $G$ への自然変換の全体, $\Nat(T, G \circ F)$ は $T$ から $G \circ F$ への自然変換の全体である. すなわち,
\begin{align*}
\Nat(LF(T), G) &= \Hom_{\Func{\Ms{C}}{\Ms{A}}}(LF(T), G), \\
\Nat(T, G \circ F) &= \Hom_{\Func{\Ms{D}}{\Ms{A}}}(T, G \circ F).
\end{align*}

圏 $\Ms{D}$ が圏 $\Ms{C}$ の部分圏で $F : \Ms{D} \rightarrow \Ms{C}$ が包含関手のときには, 関手 $LF(T)$ は $\Ms{D}$ 上で関手 $T$ に等しくなる. つまり関手 $T$ の定義域を圏 $\Ms{C}$ に拡張したものになる.
\begin{align*}
\Nat(LF(T), G) & \stackrel{\sim}{\longrightarrow} \Nat(LF(T) \circ F, G \circ F) = \Nat(T, G \circ F) \\
\lambda \hspace{10mm} & \longmapsto \hspace{15mm} \lambda F
\end{align*}
左 Kan 拡張の存在に関して, 次の定理が成り立つ.

定理. $\,\Ms{A}$ を余完備 (任意の余極限が存在する) な圏, $\Ms{C}$ を任意の圏, $\Ms{D}$ を小さな圏とし, $F : \Ms{D} \rightarrow \Ms{C}$, $T : \Ms{D} \rightarrow \Ms{A}$ を関手とする. このとき, $T$ の $F$ に沿った左 Kan 拡張が存在する.

証明は $\Ms{C}$ の各対象 $C$ について $\Ms{A}$ の対象 $LF(T)(C)$ を構成することによって $T$ の $F$ に沿った左 Kan 拡張 $LF(T) : \Ms{C} \rightarrow \Ms{A}$ の存在を導く. この方法は, nLab では, 対象毎の Kan 拡張 (pointwise Kan extension) として紹介されている.

コンマ圏
証明の中でコンマ圏 (comma category) の概念を用いる. 2 つの関手 $F_1 : \Ms{C}_1 \rightarrow \Ms{A}$, $F_2 : \Ms{C}_2 \rightarrow \Ms{A}$ に対して, コンマ圏 $\CommaCat{F_1}{F_2}$ は 3 つ組
\begin{equation*}
(C_1, f, C_2) \quad (C_1 \in \Ob{\Ms{C}_1},\, C_2 \in \Ob{\Ms{C}_2},\, (f : F_1 C_1 \rightarrow F_2 C_2) \in \Hom_{\Ms{A}}(F_1 C_1, F_2 C_2))
\end{equation*} を対象として持つ.
また, $(F_1 \downarrow F_2)$ の 2 つの対象 $(C_1, f, C_2)$, $(C_1', f', C_2')$ に対して, $\Ms{C}_1$ の射 $h : C_1 \rightarrow C_1'$ と $\Ms{C}_2$ の射 $k : C_2 \rightarrow C_2'$ の組 $(h, k)$ で, 図式
\begin{equation*}
\xymatrix@=48pt {
F_1 C_1 \ar[d]_{f} \ar[r]^{F_1 h} & F_1 C_1' \ar[d]^{f'} \\
F_2 C_2 \ar[r]_{F_2 k} & F_2 C_2'
}
\end{equation*} を可換にするものを $(F_1 \downarrow F_2)$ の射 $(h, k) : (C_1, f, C_2) \rightarrow (C_1', f', C_2')$ と定義する.

特に, 対象 $C_2 \in \Ob{\Ms{C}_2}$ を固定したとき, 関手 $F_1$ と, $C_2$ を唯一の対象, $\Id{C_2} : C_2 \rightarrow C_2$ を唯一の射とする圏上の恒等関手から構成されるコンマ圏を $(F_1 \downarrow C_2)$ と表わす. 対象 $C_1 \in \Ob{\Ms{C}_1}$ と関手 $F_2$ からなるコンマ圏 $(C_1 \downarrow F_2)$ も同様に定義される.

対象毎の Kan 拡張: 証明の概要. $\,$ 圏 $\Ms{C}$ の任意の対象 $C$ と関手 $F : \Ms{D} \rightarrow \Ms{C}$ からなるコンマ圏 $(F \downarrow C)$ を考える. 各対象 $(D, g, C) \in \Ob{\CommaCat{F}{C}}$ と射 $(h, \Id{C}) : (D, g, C) \rightarrow (D', g', C)$ に対して, 射影関手 $p_C : \CommaCat{F}{C} \rightarrow \Ms{D}$ が
\begin{align*}
p_C(D, g, C) &= D, \\
p_C(h, \Id{C}) &= (h : D \rightarrow D')
\end{align*} によって定まる.

射影 $p_C : \CommaCat{F}{C} \rightarrow \Ms{D}$ と関手 $T : \Ms{D} \rightarrow \Ms{A}$ の合成関手 $T \circ p_C : \CommaCat{F}{C} \rightarrow \Ms{A}$ を考える.

$T \circ p_C$ はコンマ圏 $\CommaCat{F}{C}$ を添え字グラフとする $\Ms{A}$ 内の図式である. $\Ms{D}$ が小さい圏であることと $\Ms{A}$ が余完備であることより, $T \circ p_C$ の余極限が存在する. そこで,
\begin{equation*}
LF(T)(C) = \Colim\, (T \circ p_C)
\end{equation*} とおく. 余極限の定義より, これに関して普遍的な可換余錐 (commutative cocone)
\begin{equation*}
l_C : T \circ p_C \longrightarrow LF(T)(C)
\end{equation*} が一意的に定まる.

各対象 $C$ 毎に $LF(T)(C)$ が定義されたので, 次にこれらの間の射を定義する.
$\Ms{C}$ の任意の射 $f : C \rightarrow C'$ に対して, 写像 $\varphi(f) : \CommaCat{F}{C} \rightarrow \CommaCat{F}{C'}$ を
\begin{equation*}
\varphi(f)(D, g, C) = (D, f \circ g, C') \quad ((D, g, C) \in \Ob{\CommaCat{F}{C}})
\end{equation*} と定義する.
$\varphi(f)$ は関手となる. また, 射影 $p_C$, $p_{C'}$ との間に
\begin{equation*}
p_{C'} \circ \varphi(f) = p_C
\end{equation*} という関係が成り立つ.
このことから図式 $T \circ p_C$ に対する可換余錐 $l_{C'}(\varphi(f)(-)) : T \circ p_C \rightarrow LF(T)(C')$ が導かれるが, $LF(T)(C)$ の普遍性により $\Ms{A}$ の射 $LF(T)(f) : LF(T)(C) \rightarrow LF(T)(C')$ で図式
\begin{equation*}
\xymatrix@=48pt {
T \circ p_C(-) \ar[dr]_{l_{C'}(\varphi(f)(-))} \ar[r]^{l_C(-)} & LF(T)(C) \ar[d]^{LF(T)(f)} \\
& LF(T)(C')
}
\end{equation*} を可換にするものが一意的に存在する. これで $\Ms{C}$ の射 $f$ に対する $\Ms{A}$ の射 $LF(T)(f)$ が定義される.

次に関手間の変換 $\eta : T \rightarrow LF(T) \circ F$ を, 各 $D \in \Ob{\Ms{D}}$ に対して
\begin{equation*}
\eta D = l_{FD}(D, \Id{FD}, FD) : T \circ p_{FD}(D, \Id{FD}, FD) = TD \longrightarrow LF(T)(FD)
\end{equation*} と定義する. この $\eta$ は, 任意の射 $u : D \rightarrow D'$ に対して図式
\begin{equation*}
\xymatrix@=100pt {
T \circ p_{FD}(D, \Id{FD}, FD) = TD \ar[d]_{Tu} \ar[r]^{\eta D = l_{FD}(D, \Id{FD}, FD)} & LF(T)(FD) \ar[d]^{LF(T)(Fu)} \\
T \circ p_{FD'}(D', \Id{FD'}, FD') = TD' \ar[r]_{\eta D' = l_{FD'}(D', \Id{FD'}, FD')} & LF(T)(FD')
}
\end{equation*} を可換にする. つまり自然変換である.

このように定義された $LF(T)$ に関して, 任意の関手 $G : \Ms{C} \rightarrow \Ms{A}$ に対する
\begin{align*}
\Nat(LF(T), G) & \longrightarrow \Nat(T, G \circ F) \\
\lambda \hspace{10mm} & \longmapsto \hspace{5mm} \lambda F \circ \eta
\end{align*} という対応を考えると, これは $G$ に関して自然な全単射となることがわかる.
したがって $LF(T)$ は $T$ の $F$ に沿った左 Kan 拡張である.

$LF(T)$ については,
\begin{equation*}
LF : \Func{\Ms{D}}{\Ms{A}} \longrightarrow \Func{\Ms{C}}{\Ms{A}}
\end{equation*} が関手になることもわかる.

左 Kan 拡張が存在する場合に, 関手圏における関手に対する左随伴関手を導く次の命題が成立する.

命題. $\,\Ms{A}$, $\Ms{C}$, $\Ms{D}$ を圏, $F : \Ms{D} \rightarrow \Ms{C}$ を関手とする. 任意の関手 $T : \Ms{D} \rightarrow \Ms{A}$ に対して, $T$ の $F$ に沿った左 Kan 拡張 $LF(T) : \Ms{C} \rightarrow \Ms{A}$ が存在するならば, 関手
\begin{equation*}
\Func{F}{\Ms{A}} : \Func{\Ms{C}}{\Ms{A}} \longrightarrow \Func{\Ms{D}}{\Ms{A}}
\end{equation*} は左随伴関手を持つ.

右 Kan 拡張は次のように定義される.

定義. $\,$ 関手 $T : \Ms{D} \rightarrow \Ms{A}$ に対して $F$ に依存して定まる関手 $RT(F) : \Ms{C} \rightarrow \Ms{A}$ で, 任意の関手 $G : \Ms{C} \rightarrow \Ms{A}$ に関して自然な全単射
\begin{equation*}
\Nat(G \circ F, T) \stackrel{\sim}{\longrightarrow} \Nat(G, RF(T))
\end{equation*} が存在するとき, $RF(T)$ を $T$ の $F$ に沿った右 Kan 拡張 (right Kan extension) と呼ぶ.

右 Kan 拡張についても, 左 Kan 拡張と類似の議論によって上記と同様の結果を導くことができる.

Kan 拡張はその適用範囲が非常に広いようで, 米田の補題なども Kan 拡張を用いて説明ができるらしい.
現在の自分のテーマとして, 米田の補題の証明の見直しということを考えているが, その際に余力があれば Kan 拡張との関係も調べたい.
posted by 底彦 at 17:55 | Comment(0) | TrackBack(0) | 数学
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