その為、何かを盗もうとすれば容易に忍び込んで盗む事ができる。
然し、その様な事をしたならば泥棒となってしまう事から、自らを強い精神力によって律する事が求められた。
その精神は「忍」と言う漢字に凝縮されている。
刃の下に心を置くこの字義は、常に必死の心構えで、如何なる状況下でも動じずにじっと耐える不動心を表し、怒りや邪欲などの念が巻き起こった時、刃によって切断して元の心に戻す事を意味しているとされる。
「万川集海」の「正心条目」では、忍者が守るべき事を提示しているが、最初に、最大限表情を優しく柔和にして、心底義理の心情を持っていなければならないと記す。
忍者には孤独で冷酷な印象があるかも知れないが、温厚で優しく、そして心持ちも正しい必要があった。
又、常に酒、色、欲の三つを堅く禁制し、葺けり楽しんではいけないとしている。
これらは自分の本心を奪ってしまう敵であり、古くからこれによって陰謀を齎したり、害を被ったりした先例は数え切れないと注意を促している。
伊賀流忍者博物館所蔵「当流奪口忍之巻註」でも、五欲(食欲、財欲、色欲、名誉欲、睡眠欲)は自分自身を失わせてしまう存在である事から、上に立つ人間はとりわけ慎まなければならないと、釘を刺している。
更には、忍者にとって「五忍」即ち、忍生、忍死、忍欲、忍我、忍人が大切だと記している。
その最初に記す「忍生」では、敵方へ忍び入り、若し捕らわれて拷問に合ったとしても、少しも話したりする様な事はなく、水火の責めを受け、骨を折られたとしても白状せずに生き抜く事が大切だとしている。
芥川家文書「甲賀隠術極秘」でも、敵国で万一発見されて、手枷足枷をされたり、逆さ吊りにされたりしたとしても、聊かも志を変えてはならない旨記されている。
その為には日頃からの厳しい鍛錬が必要なのは言うまでもない。
危険と隣り合わせの忍者には、強い精神力が求められた。
どの様な状況下に置かれてもそれに耐え、生き抜く事が忍者にとって最も大切であり、現代人も多いに学ぶべき点だと思う。
山田 雄司 三重大教授
愛媛新聞 忍者のホントから
忍者も人もどの様な状況下に置かれても、生き抜く事が大切らしい。
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