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2022年06月06日

「…で、可楽の事は『護身術の先生だ』って言っといたわ」
「そうか、弟に足取りを追われていたか…」

「もちろん、親には絶対に言わないように、キツく念押ししといたけど…」
「まぁ、家族と同居している時点で、露見するのは時間の問題であったからな」

昨日、弟の善照に放課後の行動を追跡されていた次第を、燈子は焦り半分、怒り半分の面持ちで可楽に報告した。脅しが効いたのか、一夜明けてから下校の時刻に至るまで、善照は特に何も言ってはこなかった。

「今後は家での振舞いに細かく注意を払い、詮索されぬようにするしかなかろう。だが、そればかり気にしていては前に進めんからな、今日からは新しい技を教えるぞ」

「えっ、新しい技??」
「とは言っても、蹴り技ではないがな。今日、おまえに教えるのは最低限の防御技だ」

そう言うと、可楽は道場の隅に置かれていた、テニスボールらしきものが沢山入った籠(かご)を運んできた。

「燈子よ、今のおまえの弱点は何だと思う?」
「うっ…防御ですね、確かに…」

「さよう、いくらおまえが禰󠄀豆子の遺伝子を受け継いでいるとはいえ、それが顕著に現れているのは足腰のバネのみ。対して、上半身は今時のオナゴらしく華奢なままだ」

「うー、上半身も筋トレしてはいるんですけど…」

「まぁ、今までは敵の攻撃を全て跳んで避ける事で、なんとか凌いできたが…これから戦いを重ねていくうちに、いつかはおまえと同等か、それ以上の速さとバネを持った相手と出会う事になるだろう。決して、いつまでも避け切れるとは思うなよ?」

「はい……事前にできる鍛錬は全てやります」

「よしっ、ではこれから、敵の突きや蹴りを腕で防ぐ型をいくつか覚えてもらう。まずは、ワシの顔を狙って拳で軽く突いてみろ」

そう言うと、可楽は両方の手の平を正面に向けて立ち、空手の「前羽の構え」を取った。

「えっと…打っていいのね??」
「あぁ、来い」

促されるままに、燈子は可楽の顎を目掛けて軽い右ストレートを打った。すると、可楽は構えた左手を外側へ軽く振り、燈子の拳をパシッと弾いてみせた。

「おっ!!」
「今度はワシが突くから、同じように防いでみろ」

緊張しながら構えを真似た燈子に対して、可楽が同じく軽い右ストレートを打つと、肩に力の入った大袈裟な動作ながらも、拳を弾いて外側に逸らす事に成功した。

「うんっ、いけそうだね!!」
「まぁ、待て、これで終わりではないのだ」

「えっ…」
「今度は連撃だ。右、左の順に突いてみるから、続けて受けてみろ」

構えを取り直した燈子に対して、可楽は言葉通りに右、左の順にストレートを打った。
すると、一撃目は先程と同様に受け流せたものの、二撃目は目で追うのが精一杯で動作が遅れ、拳が頬を掠める結果となった。

焦りの顔色を浮かべた燈子に対して、可楽は当然の結果だと言わんばかりに粛々と説明を始める。

「今のように、連撃を目で追ってから手で捌こうとしても、間に合わない場合が殆どだ。防御というものを決して『後手の動作』だと思わない事だな。無論、体格や筋肉の量に自信があって、後追いでも充分に防ぎ切れるならよいが…おまえの場合はそうもいかん」

燈子は、かつてない程の真剣な表情で可楽の口から出る一言一句に頷いた。

「まぁ、格闘技だけでなく、球技の類いも同様だと思うが…予め対戦相手が判っている場合、好みの戦法や弱点などを下調べしておけば、攻撃と防御、双方に於いて筋道が立てられる。つまり、相手が狙ってくるであろう箇所に意識を向けておけばよい」

「はい」

「で、今のはちょうど腕一本分の、ごく至近距離での手捌きだな。次は足一本分か、それ以上の中長距離の場合だが…」

そう言うと、可楽は両方の手の平を今度は床に向け、右手を顎の高さに、左手を臍(へそ)の高さに構え、腰を少し落とした。

「さぁ、今度は好きなように蹴ってみろ」

そう言われたものの、低く構えた左手は鳩尾(みぞおち)や金的を、高く構えた右手は頭部を既に守っており、本気の強さで蹴り込まなければ崩せそうもない。

迷った燈子は、とりあえず足を崩してみようと、脛を狙ってローキックを放った。
しかし、可楽は軽く後ろに跳び退り、いとも簡単にそれを避けてしまう。

まるで、脛を狙ってくる事が予め分かっていたかのような動きに、燈子は思わず口を開けて放心するが、可楽は淡々と説明を続けた。

「下段への蹴りを『打たされた』のが分かったか?」
「あっ!!確かに、そこしかないと思った…」

「今のが、相手が狙ってくるであろう箇所に意識を向ける、もう一つの方法だ。先日の大男との対戦……どうやら、あ奴はそれを『至高の領域』に近い精度でやってのけたみたいだな」

「至高の領域??」

「そう、あ奴はおまえの姿勢や目を向けている方向、そして呼吸の拍子などを全て読み切り、次に狙ってくるであろう箇所を完全に特定していた。あれは鬼殺隊の中でも、ごく一握りの剣士だけが達したとされる、いわば『生物の限界』に近い性能だ」

「ほぇぇ…」

「まぁ、ワシも迂闊じゃったが…もしも、あの大男と再戦する機会があるならば、おまえ自身も同じく『生物の限界』に近づいた状態でなければ、完全に決着する事は難しかろう。まだまだ、山頂は遠いぞ?」

「はい、傲らずに精進します!!」

「で、最初にやってみせた、拳での突きを捌く事を主な目的としているのが『前羽の構え』。次にやってみせた、ある程度の間合いがある状態での蹴り技を警戒する構えを『天地の構え』と呼ぶ。相手や状況に応じて、この二つを使い分けろ」

「まえばね…と、てんち…分かりました!!」

「さて、言葉での説明はここまでだ。後は、『手捌き』とはどういう事かを実際に身体で覚えてもらう」

そう言うと、可楽は床に置いてあった籠を持ち上げて脇に抱え、そこに詰め込まれていたテニスボールを一つ、手に取った。

「今から、この玉っコロを強弱や緩急をつけて投げていくから、全て防いでみろ」
「はいっ!!」

先程の拳での遣り取りの際に、肩の力が入り過ぎていた事を覚えていた燈子は、今度は大きく深呼吸をしてから、やや小さめに『前羽の構え』を取った。

最初に投げられたボールが一直線に顔面に向けて飛んで来る。燈子はそれをなるべく最小限の動作になるように意識して弾き落とした。

以降、顔だけでなく胸板、腹、そして完全に的を外した”フェイク”も含めて、ボールは様々な場所に向けて強弱を織り交ぜながら次々に飛んできた。

それらを防ぎながら、指を大きく広げた状態では手の重心が定まらずに動きが遅れる事を自然に感じ取った燈子は、徐々に指を閉じ、軽く握り込むような形に変化させていった。

そして、再び顔を目掛けて強めに投げられたボールが飛んできた際…

燈子はそれを手の”甲”の部分、いわゆる裏拳で90°の真横に打ち払った。

『ボッ!!』という強い音圧と共に弾かれたボールが、部屋の壁に向けて勢いよく飛んで当たり、床に落ちて転がる。

その様子に驚いた可楽が思わず投げる手を止めると、燈子の背後に何者かが立っているのが視えた。

猗窩座 狛治

鋭い眼光、キツく結んだ口、引き締まった筋肉を彩る藍色の縦縞模様…それは鬼に為ってからも貪欲に『強さ』を求道し続けた、かつての『上弦の参』の姿に他ならなかった。

「猗窩座っ!?」
「えっ、なに??」

燈子の声にハッと我に返った可楽が強く目瞬きすると、猗窩座の幻影は何事も無かったかのように消えていた。

(そうか……おまえも見届けたいのだな?純粋に強さを求め続ける魂と、その行く末を)

「ねぇ、どうしたの?大丈夫?」

神妙な面持ちで立ち尽す様子に異変を感じた燈子が駆け寄ると、可楽は微笑みながら、脇に抱えた籠を床に置いた。

「いや、大丈夫だ、なんでもない」
「本当に??」

「燈子よ、今の形を忘れずに、何度でも繰り返して完璧に身に付けろ」
「あっ、はい、分かりました…」

「確かに山頂はまだまだ遠いが…お前は今日、近道を見つけたのかもしれん」

そう言うと、可楽は微笑みを浮かべたまま、燈子の頭を優しく撫でた。

第3話「疑い」
 第5話「今時のJK」

登場人物:猗窩座 我妻燈子 可楽
posted by at 19:20 | Comment(1) | 鬼滅の刃
この記事へのコメント
〜 あとがき 〜

今回は不思議な現象が起きましたね。当初は猗窩座の幻影を登場させる予定は全く無く、タイトルも違ったのですが…

YouTubeで空手の構えを調べている最中に、ふと、猗窩座が冨岡義勇の刀を叩き折った妙技「鈴割り」が突然に脳裏をよぎりましてね。

まるで、「おいおい、格闘の話を書くのなら俺の事も言及してくれよ」と言われたような気がして、急遽、組み込みました。

実際、刀鍛冶の里で禰豆子が日光を克服し、無惨がそれを把握した以上は、全ての鬼に指名手配している筈です。

当然ながら、猗窩座の性格であれば、

「日光を克服し、上弦に匹敵する再生速度を誇る蹴り鬼」

に興味を抱かない筈がありません。

なので、実は猗窩座も禰豆子と(捕獲するという建前であれ)一戦交えたかったであろうなぁ…と、しみじみ思った次第です。
Posted by 管理人 at 2022年06月21日 22:17
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