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2022年05月12日

「た・お・れ・ろぉぉぉぉっ!!」
「こらっ、やめなさい!!なんなんだ、君は!?」

太腿へのミドルキック、脹脛(ふくらはぎ)へのローキック、鳩尾(みぞおち)と金的への前蹴り、爪先への踏みつけ、そして側頭部への跳び回し蹴り…その全てを防がれて、燈子の焦りは頂点に達していた。

路上格闘の王者となる為に、そのデビュー戦として彼女が選んだ対戦相手は、身長が2メートルはあろうかという巨漢だった。

(体躯の差など、特には問題にならんだろうと思っていたが…これは迂闊だったな)

我妻燈子(あがつまとうこ)

約百年前、自分を恐怖のドン底へと蹴り落とした鬼の娘、竈門 禰󠄀豆子(かまど ねずこ)。その血統を受け継いだ我妻 燈子を”現代の最強生物”へと押し上げる事で、今は亡き主君である鬼舞辻 無惨への献花に代えるつもりであった可楽は、早くも灯った黄色信号に舌打ちした。

(いや、狙っている場所は悪くないのだ。確かに、人体の痛覚が集中する場所に一寸と違わずに蹴り込んでいる…にもかかわらず、あの大男の反射神経はどうだ?まるで、燈子が次に狙ってくる場所を完全に予測しているかのようだ)

そう思った次の瞬間、燈子は軽く膝を曲げて身を沈め、反動をつけてから高らかに右足を振り上げた。そのフォームは、まさに可楽の顎を砕いたばかりか、勢い余って頸の骨までもヘシ折った禰󠄀豆子のハイキックそのものであった。

(入る!!)

凍るような恐怖と燃えるような興奮という相反する感情が、渾然一体となって可楽の背筋を一気に駆け抜ける。しかし、その攻撃さえ予測していたのか、大男は両腕を×印に交差させて受けの体勢を取り、蹴りの威力を完全に殺したかのように見えた。

「まだぁ!!」

弾き落とされた右足の爪先が着地するか否かの瞬間、燈子は少しバランスを崩しながらも、今度は左足を振り上げて同じ場所を狙った。先ほどの右足での蹴りを防いだ大男は、既に両腕の交差を緩めており、その僅かに開いた隙間に潜り込むようにして、今度こそ燈子のハイキックが男の顎を捉えた。

「ん゛んっ!!」

ゴリッという鈍い音と共に大男は呻き声を上げ、堪らず後方によろめいた。歯の噛み合わせが外れて口中を傷つけたらしく、唇の隙間からは血が漏れて滲んでいた。

「よしっ、勝ったぁっ!!」

大きく体勢を崩して上体が屈んだ男の鳩尾を狙って、燈子がトドメの前蹴りを放とうとした、その瞬間…

「キャーッ!!」
「何だ!?何してるんだ!!」

偶然にも通り掛かった中年の夫婦が『高校生女子と大柄な成人男性の格闘現場』という異様な光景を目にして、驚きのあまり声を荒げた。

「しまった!!退くぞ、禰󠄀豆子!!」
「ええっ!?」

もちろん、警察に通報される事は最も避けるべき事態であり、こうして第三者に目撃されてしまった以上は逃げるより他は無い。15分ほど走り続けた二人は、目に付いた団地の自転車置き場に身を潜めた。

「ハァッ…ハァッ…参ったなぁ、デビュー戦からいきなり他人に見られちゃうなんて…」
「あぁ、次からは戦うに適した場所を、もっとよく吟味してから挑まんとな」

既に太陽は完全に沈んでおり、燈子は少し肌寒い空気が火照った脚を冷ましていくのを感じた。

南無阿弥陀仏(なむあみだぶつ)

「何なのよ、あの大男!!蹴っても蹴っても倒れやしない…まるで、岩の柱みたいだったわ」

「岩の…柱だと!?なるほど、合点がいったわ」
「えっ、なに、どうしたの??」

「いやなに、おまえが禰󠄀豆子から『戦いの意思』を受け継いだのと同じように、時が経ても変わらぬ『想い』を抱いたまま、今の世に生を受けた者達が居るという事さ」

「出たよ、可楽の大好きな宿命論が。あっ、そうそう…さっき、逃げる時に私の事『禰󠄀豆子』って呼んだでしょ?」

「なにっ、本当か??」
「ホント、ホント、びっくりしちゃった。私って、そんなに禰󠄀豆子お婆ちゃんの若い頃に似てるの?」

そう問われた可楽は、静かに目蓋を閉じて”刀鍛冶の里”での戦いを今一度、深く思い起こした。まるで、ネコ科の動物が二本足で立っているかのような、しなやかで無駄のない筋肉。そして、その身体から槍のように鋭く繰り出される高速の蹴り技の数々…

全身の骨をバラバラに蹴り砕かれるかもしれないという恐怖と隣り合わせに、今、この瞬間を全身全霊を以って生きる事の”楽しさ”を、あの時の自分は確かに感じていた。

それは、積怒や哀絶といった他の分身体では千年経っても感じ得る事のない、自分だけの役得であったのかもしれない。

そして今、目の前に居る娘は姿形が禰󠄀豆子に瓜二つなのはもちろんの事、二本の脚が描く蹴り技の軌跡の美しさは、あの日の戦いの続きを夢で見ているのかと疑うほどに似通っていた。

「あぁ、本当にそっくりだ…」
「ふふ、そっかぁ…天国の禰󠄀豆子お婆ちゃん、今頃びっくりしてるかな??」

「さぁ、どうだろうな…おまえを戦いの道に引きずり込んだワシを恨んでいるかもな」
「確かに、曾孫が犯罪者デビューしちゃったわけだからね」

「ほぅ…どういう事だ?」

「えっ、だって、さっきの大男に一方的にケンカを売った上に、蹴りがアゴに入って口から血が出てたじゃん?立派な傷害罪でしょ?」

「あぁ、そういう事か…しかし、それを言うなら善逸が身を置いていた『鬼殺隊』も、明治の世以降は廃刀令(銃刀法)違反を犯していたわけだからな。それに比べたら素手での格闘など、可愛いものではないか?」

「あはは、言われてみればそうだよね!!…って事で、天国の禰󠄀豆子お婆ちゃんと善逸お爺ちゃん、こんな曾孫だけど許してねっ!?」

(ふふっ、百年ぶりに…楽しいのぅ…)

笑いながら天を仰いだ燈子の横顔を見ながら、可楽は心の中で、かつての敵であった禰󠄀豆子に感謝の念を抱いた。

第1話「蹴り鬼」
 第3話「疑い」

posted by at 23:50 | Comment(1) | 鬼滅の刃
この記事へのコメント
〜 あとがき 〜

連作「燈子・ザ・ストリートファイター」(?)の第二弾をお届け致しました。

これを書くにあたって注意した事は「犯罪意識」、つまり「他人に一方的に喧嘩を売って怪我をさせたら、それは傷害罪である」という事を燈子がちゃんと自覚しており、「人を喰う鬼を殲滅する」という大義名分のもとに、他の全ての社会的な不都合を有耶無耶(うやむや)にしてきた鬼殺隊とは根本的に違うという点です。

「これは、あくまでも自分個人の我儘である」という事を分かった上で、どこまで押し通せるのか…そんな燈子の挑戦を今後も見守って頂きたいと思います。
Posted by 管理人 at 2022年05月29日 23:03
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