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2022年09月11日

「竈門 禰󠄀豆子は完全に人間に戻ったワケではなく、『鬼の遺伝子』とでも呼ぶべきモノを体内に残していた可能性はありませんか?」

胡蝶記念病院の理事長室を訪れていた竈門 カナタは、挨拶もそこそこに、核心に迫る質問を投げかけた。理事長は敢えて即答せずに、壁に飾られた歴代の理事長の写真を一瞥しながら、慎重に言葉を選んだ上で口を開いた。

「その可能性はゼロではありません…が、それを現時点で検証するのは不可能です」


DNA

「そもそも、『鬼化』を引き起こした原因となる物質が体内に残存していたとしても、それが遺伝子なのか、それともウィルスの類いなのか、はたまた自然界には存在しない化合物だったのか…当時の血液サンプルを冷凍保存していたワケではないので、正直、今日では調べようがないのです」

「でも、禰󠄀豆子が人間に戻ってから暫くの間は、予後管理として何回かは検査したんですよね?その記録は…?」

「えぇ、もちろん、記録は残っていますが、その検査自体の精度が問題なんです。当時はMRIはもちろん、電子顕微鏡すら存在していません。遠心分離機にしたってヨーロッパで開発されてはいましたが、日本に入って来たのはずっと後の事です」

ここで、理事長はメガネを一度外し、目蓋を指で揉んでから再び掛け直した。テーブルの上に置いてあった既に冷めたコーヒーで喉を湿らせ、再び慎重に言葉を並べる。

「現在の医療用検査機器のレベルを当時と比べると、文字通りF1マシンと自転車ぐらいの違いがあります。当時の検査記録から読み取れるのは、精々、『胃腸の消化機能は正常だが、血中のコレステロールがやや多めである』といった程度の事です」

「そうなんですか…しかし、それだと『人化薬』自体、どうやって作り上げたのか…って気もしますが?」

「まさに、そこなんです。『鬼化』を促す原因物質を特定する事さえ困難だった筈なのに、ましてやそれを人間に戻す組成を探り当てるなど、奇跡、あるいは神業と呼ぶより他はありません」

「あれっ、でも…『人化薬』のレシピが残っているのであれば、それが何の物質に対する効果を狙っているのかって、ある程度は絞れるんじゃないんですか?」

そう問われた途端、理事長は拳をギュッと握り締めて肩を震わせながら、「ンンンーーーッ!!」という非常に沈痛な唸り声を上げた。

予期せぬ反応に驚いたカナタは、自分が素人丸出しの見当違いな質問をしてしまったのかと思い、大慌てで別の質問をするべく思考を巡らせた。しかし、理事長は肩を震わせたままではあったが大きく息を吸い込み、顔を上げて再び歴代の理事長の写真を見つめながら言葉を続けた。

「……たのです」
「えっ??」

「失われたのです…戦争中、あるいは戦後間もない頃に…」
「えぇ〜っ!?そ、それって、盗まれたって事ですか??」

「そうですね…少なくとも戦前、つまり二代目の理事長である『高田 なほ』の在任中は、『人化薬』の組成表が確かに存在した事が記録として残っています。しかし、日本が戦争に突入してからは、軍からの依頼で前線に送る治療薬を開発したり、負傷で帰国した兵士の治療に当たったりと、それはもう、大忙しでしたから、そういったゴタゴタの間に職員のミスで紛失してしまった可能性もゼロではありません」

いつの間にか理事長の目からは一筋の涙が流れており、カナタはこの場所に来た事自体を大きく後悔したが、自ら質問しておいて答えを最後まで聞かないのは返って無礼千万であると思い、視線は外しながらも耳だけは傾け続けた。

「まぁ、戦争中は負傷兵の治療と看護をしていた事もあって、一応は憲兵が当院の警護をしてくれてはいたのですが…なにしろ、昼夜を問わず物資や医療関係者が絶え間なく出入りしている状態でしたから、一人一人の身元を細かくチェックする事は、人員的にも時間的にも難しかったのだと思います」

「外部の者が、身元を偽って侵入する事は比較的容易であった…と?」

「はい、極端な話、白衣を着て『東京帝国大学 医学部』と書かれた名刺さえ持っていれば、誰でも中に入る事だけは可能だったと思います」

「そうですか…で、戦争が終わって落ち着いた頃に院内の書類をチェックしてみたら、『人化薬』のレシピが紛失していた…という事ですね?」

「はい、その通りです」

「分かりました。この病院にとって不利益な話を正直に打ち明けて頂いて、本当に痛み入ります」

自分で質問をしに乗り込んでおきながら、あまりにも予想外の顛末を聞く結果となり、カナタは『最後にぶつける予定であった質問』を本当に切り出してよいのか、この理事長が自分に対して抱いた心象は最悪のものとなったのではないかと、暫し逡巡した。

しかし、この日、カナタをこの病院に向かわせたのは紛れもなく『竈門の姓を名乗る者』としての責任感であり、たとえ1億分の1であれ、人を喰らう『鬼』が現代に蘇る可能性があるのであれば、行動しなかった事は全て後悔に直結する…その覚悟を肚(はら)に決めて、いよいよド真ん中の直球となる質問をぶつけた。

「仮に…現代に『鬼』が復活した場合…この病院には、それに対処する術などは存在しますか?」

それを聞いた途端、先程まで悔恨に打ち震えていた院長がピタッと動きを止めた。数秒の沈黙の後、またもやメガネを外して汗と涙をハンカチで拭い、再び掛け直してからカナタの方に向き直ると、これまた予想外の力強い球を真っ直ぐに投げ返した。

「あります!!」

あまりにも単純明快なる返答に押されるようにして、カナタは思わず後ろによろめき、尻もちをつきそうになった。

「おっと、これは失礼!!ずっと立ちっぱなしにさせてしまい、申し訳ありません。今さらですが、どうぞ、お掛けください」

そう言って、理事長はカナタに椅子を勧めると、テーブルの上に置かれたコーヒーメーカーのビーカーに残っていた最後の一杯分のコーヒーを、来客用のマグカップに注いで差し出した。

「ありがとうございます」

カナタは礼を言ってからコーヒーを二、三口すすると、理事長の返答の続きを待つべく、真摯な表情で顔を見つめた。

「現在の医科学の粋を結集すれば、『鬼』を殺し得る劇毒物を何百種類も調合した上で、例えばライフル銃の弾頭に仕込む事が可能です」

「何百種類もですか!?」

「はい、一例を挙げるなら…どんな生物であれ、それが生物に分類される以上は身体に水分を含有しています。ですから、その水分と激しく反応する粉末状の塩素を撃ち込んでやれば、それだけで化学反応による火傷を負わせることができますし、塩素と相殺しない他の劇毒物を混ぜ込めば、二重、三重もの効果を持たせる事ができます。なんでしたら、弾頭自体に毒性を持った金属を用いる事も可能です」

「なるほど…しかし、『鬼』も強力な者になればなるほど、肉体の再生能力と同じく、体内に侵入した毒物の分解能力も高くなるわけですよね?その辺り、素人目線ではイタチゴッコになりはしないかと思うんですが…」

「それは例えば、先程の一例で申し上げた『複合毒』を1グループしか用いなければ、おっしゃる通りイタチゴッコになるかと思います。しかし、それとは全く別系統の毒物を組み合わせたグループB、グループC、グループDの複合毒を同時に撃ち込めば…その時点で最低でも15〜20種類の毒物が同時に体内に侵入する事になります」

段々と活舌が滑り、語気が強まっていく理事長の言葉に、カナタは手に握ったマグカップの熱ささえ忘れて、今や引き込まれるように聴き入っていた。

「それだけの数の毒物を同時に撃ち込まれて、その全てを2〜3分の内に分解してしまうなど、到底考えられません。後は、電源の関係で場所は限定されますが…もしも、『鬼』を特定の場所に誘い出す事が可能であれば、日が昇るのを待たずとも紫外線照射装置を用いて焼き殺す事もできます」

「凄いですね…では、その気になれば、それらの複合毒を充填したライフル弾をすぐにでも実戦配備する事が可能なわけですね?」

「いえ、既に配備されています」
「はっ??」

「今、申し上げた例の通り、グループAからグループLまでの12通りの複合毒を充填したライフル弾を計120発、既に警視庁に渡してあります」

「なっ!?えっ…それって…つまり、国が公式に『鬼』の存在を認めたって事ですか!?」

「いえ、少なくとも内閣府としては認めていないですね、未だに」

「えっ、じゃあ、何で警察とは…」

「政府としては相変わらず『鬼』の存在を認めていませんが、この100年の間に現在の警察庁と厚生労働省、そして当院と産屋敷家の四者間で、定期的に協議を続けていたという事です。確かに、『鬼を人に戻す薬』は失われましたが…『鬼を確実に殺す毒』は水面下で、しかし、休む事なく開発され続けていたんです!」

いつの間にか顔が紅潮する程にまで熱弁を続けた理事長は、ここで一旦、鼻から大きく息を吸い、声のトーンを少し下げつつカナタに訊ね返した。

「さて、竈門 カナタさん…私は、あなたが今日、特に意味もなくフラッと遊びに訪れて、ちょっと気になっていた事を私に聞いてみた…とは思っていません。なにしろ、『竈門家の長男』が玄関から真っ直ぐに、この部屋を訪れたのですから……心当たりがあるのでしょう?『現代に復活した鬼』に…」

次の瞬間、理事長の双眸から放たれた「研究者の確信」が、カナタの身体を掴んでその場に押さえつけた。

第6話「更なる疑い」
 第8話「噺」(はなし)

posted by at 22:35 | Comment(0) | 鬼滅の刃
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