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2023年03月25日

今、小生は珠世様の御御足(おみあし)の裏側の感触を後頭部に感じながら、額を床に付けて平伏している次第でございます。

「まったく、お前はどこまで汚らしいのかしら!?」

頭上から聞こえる、珠世様の冷たく崇高なる御声。

しかし、その冷たさが小生の背骨をゾクゾクと震わせるものですから、益々、主(あるじ)の御前で醜悪なる愚行を働いてしまうわけでございます。

ああ、珠世様、どうかこの愚かな蛆虫(うじむし)めを、もっともっと断罪して下さいませ。

「ほらっ、虫螻(むしけら)は虫螻らしく、床を這いずり回りなさいっ!!」

そう仰ると、珠世様は御御足を一旦離し、勢いをつけて小生の頭を毬の如くに蹴り飛ばされました。

もちろん、一度きりではございません。

二度、三度、四度……と蹴られる度に、頭蓋骨が割れそうなほどの衝撃を感じるのでございますが、小生のような真の気狂いともなりますと、その痛みが瞬時にして快感に変換されてしまいます。思わず「グフフウッ」という歓喜の声を発してしまいました。

「あぁ、気持ち悪い!!このっ!!このっ!!」

「ああっ!!珠世様、珠世様ぁーっ!!!」

あまりの気持ち良さに、魂が身体を抜けて昇天してしまいそうになるのですが、それをグッと堪えつつ、床の上で激しく身体を捩じらせ、ビタン、バタンと何度も床を打ち鳴らすのでございます。

さすれば当然のことながら、小生の全身には埃や塵芥が降り積もり、それこそまるでゴミ溜めの中で踊っているかの如く、身体中が汚れて参ります。

その様を御覧になった珠世様の御顔が、心からの侮蔑と憤りによって赤みを帯びてまいりますと、その美しさのあまり、小生は更なる興奮を覚えて……

おっと、失敬……興奮のあまり、些か先走り過ぎてしまいました。

ここで少しばかり時を巻き戻し、珠世様と小生が如何にして主人と奴隷の関係になったのか、その経緯について御説明申し上げます。

そもそもは、新聞の片隅に小さく載った『血液買イマス』の広告でありました。

当時の小生は就いた仕事を悉くクビになり、毎日の食事にも事欠く有様でしたので、迷う事なく広告に書かれた診療所を訪ねました。

しかし、入り口の扉には『休診中』と書かれた木札が下がっておりまして、はて、時間が遅すぎたのか、はたまた休診日だったのかは分かりませぬが、いずれにせよ無駄足には相違ありませんので、仕方なしに帰ろうと思ったわけでございます。

ところがその時、建物の中から人の悲鳴のような声が、微かではありますが聞こえてきたのです。

続いて、女性の甲高い笑い声と、それに混ざって若い男性の取り乱したような怒声までもが耳に届き、これは只事では無いぞと直感いたしました。

古民家

そこで小生は建物の裏手に周り込み、窓の一つから内部の様子を窺いましたところ、そこには何と……何と……着物姿の女性が若い男の頸筋に噛みついているという、まるで怪談噺のような光景を目の当たりにしたのでございます。

一体、何が起きているのか理解が追いつかぬまま、思わず大きく唾を飲み込んで様子を窺い続けましたところ、もう一人の若い男性が必死の形相で着物姿の女性を宥めておりました。

「珠世様!!術を張るまで少し待って下さい!!」

「フウッ、フウッ……もう駄目よ、愈󠄀史郎(ゆしろう)、我慢できないわ……お腹が空いてるの!!」

そう漏らすや否や、女性は男の頸筋の肉を勢いよく噛みちぎったのでございます。

「ギャアァァァァッ!!」

大きな悲鳴と共に、男の身体がビクンビクンと大きく痙攣いたしました。しかし、女性は全く意に介する事なく二口、三口と男の頸の肉を噛みちぎり続けたのです。

その度に噴き出す鮮血が、女性の顔と着物を赤く赤く染め抜いてゆきます。

やがて男は動かなくなりましたが、それでもなお女性の食事は続き、骨ごと噛み砕く音が小生の耳元にまで届いてくるのでございます。

それから程なくして、ようやく食事を済ませた女性が顔を上げ、こちらを振り向いた瞬間、小生は心臓が止まるのではないかと思いました。

おっと、勘違いなさらないでください。決して、恐怖ゆえに心臓が止まると思ったのではございません。

その女性の、この世の者とは思えぬ美しさゆえでございます。

猫のような縦長の瞳孔、同じく肉食動物特有の牙、そして、透き通るような白い肌を斑(まだら)に彩る赤い血の化粧……人に似て人に非ず、そして人を喰らう存在……

彼女は『人喰いの鬼』であると、小生は天啓の如くに確信したのでございます。
まさか、鬼という生き物が、かくも美しき存在であるとは夢にも思いませなんだ。

「あらまぁ……おまえ、見たのね??」

あまりの美しさに放心してしまい、眼の焦点が外れた一瞬の隙を突くようにして、小生が覗いていた窓際にまで詰め寄って来た彼女が、口の周りに付いた血を手の甲で拭いながら声を掛けてきました。

ハッと我に返ったものの、逃げ出す理由も特にございませんので、しどろもどろに立ち竦んでおりますと、素早く伸びてきた彼女の手が小生の襟首を掴んで引き戻したのです。

「まさか、生きて帰れるとは思ってないわよねぇ?」

「あっ、はい……お食事中のところを覗き見してしまい、申し訳ございませんでした」

「あら、面白いわねぇ、逃げるつもりはないって事かしら??」

「とんでもございません!!勝手に覗き見してしまった私が悪いに決まっております。それに……」

「それに……??」

「その、あのぅ……ここで逃げてしまったら、貴女様の美しい御顔をもはや拝めなくなってしまうわけでして……」

「ホホホ、呆れたものねぇ。今、私が何をしていたのか分かって……」

と、その時、女性の背後からずっとこちらを睨んでいた、もう一人の若い男性が割って入るように口を開きました。

「珠世様、術を張り終えたので、もう大丈夫です。が、その男だけは……既に見られてしまったからには殺すしかないでしょう」

「まぁ、待ちなさいよ、愈󠄀史郎(ゆしろう)。何故だか知らないけど、この男、逃げるつもりはないみたいだし……とりあえずは地下牢に放り込んどいて、またお腹が空いたときに食べればいいじゃない」

「分かりました……ですが、珠世様……最近、『食べ過ぎ』なのではありませんか?術で目隠しは出来ても、音や匂いまでは完全に隠せるわけではありません。いつ何時、露見してしまうか……」

「はいはい、以後は気を付けるわよ」

この時、小生は女性の名前が『珠世』であり、従者らしき若い男性の名前が『愈󠄀史郎』だと知った次第であります。そして、珠世様の手招きに従い、裏口から建物の中へとお邪魔したわけですが……

ここで、思いもよらぬ事態が生じました。いざ、小生が珠世様の正面、一間(約1.8m)ほどの距離まで近づきますと、途端に怪訝そうな御顔をされたのでございます。

「臭い……おまえ、何でそんなに臭いのよ!?一体、何日、身体を洗ってないの??」

「あっ、重ね重ね、申し訳ございません。かれこれ、七日ほどになりますか……親に勘当されて、橋の下を転々としておりましたもので」

「汚いわねぇ……この診療所の中に蚤(のみ)を撒き散らされたら困るわ。愈󠄀史郎、術が効いている間に、庭の井戸水で身体を洗わせてちょうだい」

「はい、承知しました。おい、お前、さっさと庭に出ろ!!」

言われるままに庭に出て待つ事数分、愈󠄀史郎と呼ばれた清潔そうな青年が嫌悪も露な表情で戻って参りました。

「とりあえず、そこの井戸水で身体を洗ったら、この服を着ていろ」

そう言って手渡されたのは、少なくとも小生が今着ているものよりは清潔な衣服でございました。

「ありがとうございます」

まだ肌寒い時期であり、その上で更に井戸水を浴びますと震えを堪える事ができませんでしたが、しかし、落ち着き先が決まった事による安堵感の方が勝っており、小生は歯をガチガチと鳴らしながらも心から珠世様に感謝の念を抱いたのであります。

さて、一通り身体を洗い終わり、渡された衣服に着替えた小生は、愈󠄀史郎殿に連れられて再び珠代様に御目通りしたわけでございますが……

流れるような曲線を描く、切れ長の御美しい目を殊更に細めながら、珠世様はまたもや訝しんだ声で仰いました。

「おまえ……まだ臭いわ。愈󠄀史郎、ちゃんと身体を洗わせたの!?」

「はい、寒さに震えてはいましたが、身体自体はちゃんと洗っておりましたが……」

「一体、どうなってるのよ!?」

そう仰ると、珠世様は小生の頭の天辺から爪先までを、まるで針で刺すかの如く入念に観察しておられましたが、やがて「あっ!」という声を上げて呆れ果てた表情をなさいました。

「血だわ……この男、血液そのものが臭いんだわ……なんて事なの、これだけ全身の毛穴から臭さが立ち昇ってたら、とてもじゃないけど食べられないわ!!」

嗚呼、なんという事でございましょう。

人の世で蔑まれ、実の親にすら愛想を尽かされて追い出された小生でございますから、むしろ、『人に似て、人ならざる貴婦人』に食料として召し上がって頂ければ、どれほど『他者の役に立てた』という達成感に満たされる事でしょう。

しかし、今まさに、人ならざる方からも無用の烙印を押されようとしているのでございます。
そして、ハッと我に返った時には……人生で何十回目になるか分からない土下座を敢行しておりました。

「珠世様、お待ち下さい!!」

「何よ、馴れ馴れしいわねぇ」

「私を食べて頂けないのであれば、せめて……せめて、奴隷として使っては頂けないでしょうか!?」

「奴隷ですって??ふぅん……まぁ、いいわ。どの道、人間を食べているところを見られたからには、生かして帰すわけにはいかないし……徹底的にイジメ抜いて、鬱憤晴らしさせてもらおうかしら」

「はいっ、誠心誠意にてお仕えいたします!!」

「うふふ……最後は挽肉にして野良犬の餌にでもしてやるから、覚悟しておきなさい」

こうして、珠世様の忠実なる奴隷としての生活が始まったのでございます。

 奴隷日記 〜珠世様にお仕えした日々〜 後編 ≫

posted by at 00:13 | Comment(0) | 鬼滅の刃
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