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2023年01月01日

鬼の始祖である鬼舞辻 無惨の討伐を果たし、実に千年越しの悲願であった”人を喰らう鬼が居なくなった世界”を実現させてから、早や一年が過ぎようとしていた。

元”風柱”であった不死川 実弥は、時折、他の元隊士たちとの交流を持ちながらも、そう遠くない未来に訪れるであろう自らの終わりの日に向けて、いわゆる”終活”を進めていた。

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そんな折、玄関から誰かの声が聞こえて、実弥は少し訝しく思いながらも対応に向かった。

「ごめんくださーい!」
「あいよぉー、どちらさん?」

他の元隊士とは”鴉”を用いて事前に連絡してから会うのが暗黙の前提となっており、直に訪ねて来るのは精々が近所の住民ぐらいであったが、それにしても聞いた覚えの無い声だった。

「不死川様、お久しぶりです!!」

玄関に立っていたのは細面で色の白い、身なりの整った美女であった。

「お久しぶりって…悪ぃけど、アンタの顔に見覚えは無ぇんだが…??」

「あっ、そうですよね!?下手をすると寝る時まで頭巾を被っていましたから。私、”隠”(かくし)を務めておりました持田 のぶ子と申します」

「あぁ、”隠”の…」

持田と名乗ったその女性は、両手に大きな鞄を下げていた。

それを見た実弥は、この女性は鬼との戦いで亡くなった身寄りのない隊士達の遺品を、親兄弟に代わって”形見の品”として終生大事に保存してくれる者を探しているのだろう…と推理した。

事実、実弥自身も、一番の盟友であった粂野 匡近(くめの まさちか)の遺品を今でも手入れを欠かさずに所持しており、結果的には大外れであったこの推理も、そう思う事自体は無理からぬ事であった。

「まぁ、上がりなよ」
「はいっ、お邪魔致します」

居間に案内されて卓に着くと、女性は不自然な程の笑顔を浮かべながら実弥が勧めた茶を啜った。

「で、お館様に頼まれたのかぃ?」
「えっ??」

「その鞄の中身だよぉ。死んだ隊士達の遺品だろ?」

「あぁ、なるほど…確かに、鬼舞辻 無惨の討伐を果たしてから暫くは、亡くなった隊士の皆さんの遺品を縁ある方々へ届ける事も致しておりましたが、それも殆ど終わっております」

「じゃあ、その大荷物は一体…??」
「これは、私の当座の着替えと化粧道具です」

「あ?着替えだぁ!?」

「はい、突然の話で恐縮ですが、私を妻として迎えて頂きたく、押しかけ女房しに参った次第です」

まるで新興宗教の勧誘のように不自然な笑顔を浮かべる美女の口から、これまた予想だにしない用件が飛び出した事で、実弥は頭の中が真っ白になってしまい、口をポカンと開けたまま瞬きだけする羽目になった。

「うふふ、驚かれるのも当然ですよねぇ?私自身、隊士の皆さんから『鬼より怖い』と恐れられた実弥様に、とんでもない御願いをしているなぁ…と、心臓が破裂しそうなほどに緊張しています」

「いや、まぁ…以前から俺の事を慕ってて嫁になりたいと思ってたってんなら、話は分かるけどよぉ…アンタ、聞いてなかったのかぃ?俺ぁ、あの戦いに生き残りこそしたけれど、”痣”の影響で二十五歳になるまでには死んじまうんだぜぇ??」

「もちろん、その件は存じ上げております。知った上で、こうして押しかけに参っているのです。それに…」

「あん?」

「実弥様だけではありません。今頃、冨岡 義勇様の元にも、他の元”隠”の女が行っている筈です」

「冨岡んトコにも行ってるってぇ!?一体、それに何の意味があるんでぃ??」

「実弥様や冨岡様が、このまま消えるように、静かに生涯を終えようとなさっている事は、私達も感じ取っております。ですが…それはあまりにも寂しくないでしょうか?もちろん、一千年もの昔から、数えきれないほどの多くの隊士が戦いの中で命を落としている訳ですから、殉じる意思をお持ちなのは理解できます。『自分だけが幸せな余生を過ごすのは申し訳ない』と…」

「なんだ、分かってるじゃねぇか…」

「ですが、私…悲鳴嶼 行冥様の最期を看取らせて頂いた際に強く想い、誓ったのです。あの戦いで生き残った隊士の皆様全員に、笑顔で満ちた日々を送って頂きたいと…戦いに血塗られた道を歩いた鬼殺隊士だからこそ、その子孫たちには幸福な繁栄を享受して欲しいと…そこで、”隠”であった女たちで相談した結果、私が実弥様の子種を授かり、血を繋いでいく事にしたのです」

「そっか、アンタが悲鳴嶼の旦那の最期を…だが、申し訳無ぇが、こればっかりは気持ちの問題でなぁ…特に、俺の場合は実の弟を”上弦の壱”との戦いで亡くしてるからな。本来であれば玄弥こそ、子供をたくさん作って幸せな爺ぃになって、天寿を全うするべきだった…だから、なおさら俺だけがお気楽な余生を過ごしたりは出来ねぇよ」

そこまで聞くと、持田と名乗った女性は小さな溜息をつき、おもむろに着物の帯の隙間に手を入れて何やら弄り始めた。

「まぁ、そう仰るとは思っておりました」

女性が帯から取り出したのは小さな短刀であり、涼し気な微笑みを浮かべたまま鞘を取り払うと、白銀色の刃を自らの頸に押し当てた。

「私を妻として娶って頂けないのであれば、貴方の目の前で自害致します」

「はぁっ!?何だそりゃ、何考えてやがる!?」

「弟の玄弥様を始め、同じく地下での戦いで命を落とされた時透 無一郎様、私が最期を看取った悲鳴嶼様、互いに想い合いながらも結ばれる事無く終わった伊黒様と甘露寺様、そして、”肉の壁”となって鬼舞辻 無惨の攻撃を甘んじて受けた、数えきれぬほど多くの隊士達…その尊い犠牲の上に救われて生き延びた私の命を……今、貴方の目の前で無駄に散らすと申し上げたのです」

「んだとぉっ!?ふざけんじゃねぇぞ、この糞女ぁ!!黙って聞いてりゃあ、辛ぇ事ばっか思い出させやがって…挙句の果てには『嫁にしてくれなきゃ死ぬ』だとぉ??いっぺん、ぶん殴ってやろうかぁ!?」

しかし、女性は怒声にも全く怯むこと無く、頸に刃を押し当てたままで実弥の両眼を…否、その奥の「脳そのもの」までも見透かすように、ジッと見つめ続けた。

「もちろん、私は鬼殺隊士ではなかったので、戦いの中で直接、命を落とす事はありませんでしたが…それでも、”隠”として凄惨な現場の事後処理に当たっておりましたので、ある意味では既に正気を失っております。然らば、どうかこの哀れな糞女の頬を叩いて、目を覚まさせて下さいませ」

粛々と語った上で、なおも涼し気な微笑みを崩さずに見つめ続ける女性に『本気の覚悟』を感じた実弥は、遂には目を逸らして深い溜息をついた。

「分かったよぉ……人が血を流して死ぬのを見届けんのは、二度と御免被るわ…分かったから、刃を収めてくれや」

それを聞き届けると、女性は刃をそっと放し、再び鞘に納めて丁寧に膝の上に置いた。その白い頸筋にはうっすらと血が滲んでおり、あと数ミリ前後に動かしていれば、盛大な血飛沫を上げていたであろう事は間違いない。

「あんまりにも腹が立ち過ぎて、空っぽになっちまったぜ…嫁に来たってんなら、とりあえず昼飯でも作ってくれるか」

「はい、喜んで!!」

女性は待ってましたとばかりに立ち上がると、台所へと駆けて行った。

(まったく、俺とした事が、この期に及んで人間の女に脅されるとはなぁ…今頃、冨岡の野郎も目を白黒させて驚いてるに違ぇねぇ…)

程なくして台所から『美味しそうな匂い』が漂ってくるのを感じた実弥は、最後に家族と食卓を囲んだのは何年前の事であろうかと、宙を見つめながら思い返した。

「お待たせ致しました!!」

卓の上に並べられた質素な料理に箸を付けようとした実弥は、ピタッと動きを止めて思い直すと、丁寧に合掌してから味噌汁の盛られた椀を手に取った。

その匂いが、味が、否応なく生前の家族の姿を思い出させる。

「おふくろ…」

思わずポロッと漏れた言葉と共に、両目から『恥ずかしい水』が溢れるのを感じた実弥は、顔を背けるようにして袖で拭った。

その様子を微笑ましく見届けた女性は、自らも箸を取って昼食を共にした。

「ありがとう、美味かった」

逆に、予想だにしなかった素直な感謝の言葉に驚いた女性は、ここでやっと気持ちを緩めて泣きそうなほどの笑顔を浮かべた。

「喜んで頂けて嬉しいですぅ…どうか、これからも宜しくお願い致します」

「あー、おめぇみてぇなイカレた女は、他に貰い手も居ねぇだろうからよ。仕方なく、俺が貰ってやらぁ」

「ふふっ、ありがとうございます」

その半年後、持田 のぶ子の”おめでた”を医師が確認した。


遺せるモノ


きっと、互いに顔を合わせても「どちらが先に逝くか?」という湿った話にしかならない思い、敢えて会わないようにしてきたが、その日、実弥は意を決して、酒の入った瓶を片手に冨岡 義勇の家を訪れた。

同じく懐妊した妻の隣りでバツが悪そうに目線を伏せていた義勇は、大きく咳ばらいをしてから「縁側へ行こう」と実弥に促した。

「どうだぁ?カミさんとは上手くやってるか?」

「その『上手く』という言葉が『当たり障りなく』という意味ならば、まぁ、概ね上手くやれているな」

「おーおー、相変わらずヘソが曲がってやがらぁ。でもまぁ、お互いに立場が立場だからな…素直に『幸せだ』なんて口にするのは、罪深くて気が引けるってモンか」

「分かってるじゃないか」

「あぁ、どうせおまえも、亡くなった姉貴に何度も謝ったんだろ?」

「俺の場合は謝りに行く墓があるだけ、幾分マシかもしれんな」

「ははっ、痛いトコ突くじゃねぇか」

盃を舐めるようにして酒を飲み干しながら、二人は庭に生えたススキが風に揺られるのを眺めた。

「それはそうと…炭治郎が連日のように”鴉”を寄越しては『おめでとうございます』だの、『赤ちゃんの名前は決まってるんですか?』だのと聞いてくるもんでな。悪気が無い事は分かっているんだが、どうにも返答に困っているところだ」

「へ〜ぇ、アイツらしいな。でも、炭治郎だって胡蝶の”継子”の…カナヲだっけ?結婚が決まってるんだろ?」

「あぁ」

「なら、同じ事をやり返してやればいいんじゃねぇか?」

「ほぅ、そいつは名案だな。よし、そうしよう」

「ただし、アイツに子供が出来るまで、おまえが生きてりゃあの話だけどよ」

「ふっ、突き返してくれたな…」

そんな二人の会話を、微笑みながらも厳粛な気持ちで見守っていた義勇の妻が、少しばかりの肴を皿に盛って実弥に勧めた。

「おっ、これはこれは…お気遣い、ありがとうございます」

「相変わらず、似合わん敬語を使うものだな」

「仕方ねぇだろ。これも今となっちゃあ、悲鳴嶼の旦那が遺してくれた形見みてぇなモンだ」

「形見か……なぁ、不死川よ…あと数年という時間の中で、俺達は自分の子供に何を遺してやれるんだろうか…」

「それは、俺も散々考えたけどよぉ…何かが残っても、残らなくても、どっちでもいいんじゃねぇかなぁ…」

「ほぅ、意外な答えだな」

「つーのはよぉ、何かを遺してやりたいと思うのは、俺達が”柱”を務めたが故の傲りみてぇなモンでなぁ…実際、学校に行って教養を修めたワケでも無ぇ、大工や板前に習って職人の技を身に付けたワケでも無ぇ俺達が、後の世代に遺せるモノなんて、たかが知れてんだろ」

「あぁ、確かにな」

「なら、まずはカミさんに優しい言葉でもかけてやって、丈夫な子供が生まれてくるように気遣ってやるのが、俺達の最後の仕事なんじゃねぇか?」

「そうだな…その通りだ」

やがて、瓶の中の酒を全て飲み干すと、実弥は義勇の妻に深く頭を下げてから別れを告げた。

それから約二年後、実弥は妻と幼い子供に見守られながら、静かに息を引き取った。

子供の手には、実弥が自ら作った風車が握られていた。

posted by at 07:48 | Comment(1) | 鬼滅の刃
この記事へのコメント
〜 あとがき 〜

さて、今回は、ワタクシ自身が以前から書きたかった実弥の晩年について、断片的に浮かんだ妄想をまとめて、やっと文章にする事ができた次第です。

皆さん自身、鬼滅の完結後、実弥と義勇の晩年をアレコレと想像しませんでしたか?

なにしろ、最終回に実弥と義勇の子孫が登場しているワケですから、「最大で四年間」という余生の間に、子作りが行われた事は確実なワケでしてww

「どんな女性と結婚したんだろう?」
「最後に何を遺したんだろう?」

という二つの点について、皆さんもグルグルと妄想を巡らせたと思いますが…

ワタクシの結論といたしましては、

「二人共、一般女性との結婚は無理じゃね?」

というものです。

そもそも、二人共、元来の性格に加えて鬼殺隊士としての経験上、「地雷」が多過ぎますよね。

自らのトラウマや苦手について奥さんに説明する時に、「人を喰う鬼」の存在を明らかにするのは、当然、避けては通れない道です。

でも、それを信じた上で慮ってくれる女性が、一般人の中に居るでしょうか??

そう考えると、二人の性格や事情を熟知している同じ鬼殺隊士か、もしくは「隠」の女性と結婚するのが最も自然な落とし所ではないでしょうか。

で、今回、実弥に最も言わせてやりたかった台詞が、

「おふくろ…」ですww

その場面を想像してニヤニヤして頂ければ、書き手として、この上ない幸いです!!
Posted by 管理人 at 2023年01月04日 20:26
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