2021年12月23日
【鬼滅 if 現代編】第1話「蹴り鬼」
地面に蹲って呻き声を上げていた三人のチンピラが、やっとの思いでヨロヨロと立ち上がった。何かしら捨て台詞でも吐くかと思ったが、私の方を振り返りもせずに身体を引き摺りながら去って行った。
それを見届けるようにして、事の一部始終を建物の影から覗いていた視線の主が、私の前に姿を現した。
年齢こそ六十歳を過ぎた感じではあるが、切れ長の鋭い目つきと豊かな白髪が、時代劇に登場する剣豪を連想させる。
男は作務衣の襟元を正しながら、確かな威圧感を纏ってゆっくりと私の前に進み出た。
「さすがだのう。未だ完全でないとはいえ、見事な戦いぶりだった」
「はぁ、どうも……で、オジさんは誰ですか?」
「ワシの名は可楽」
「からく?何それ、本名なの?まぁ、いいけど……ずっと私を見てたけど、何の用?」
「おまえに真実を告げ、そして『最強の座』を手に入れてもらう為に来た」
「はぁ??最強の…何ですって??全く意味が分からないんですけど」
「かつて、おまえの曾祖母である禰󠄀豆子は『蹴り鬼』と呼ばれておってな…一度、敵と認めた相手は誰であろうと容赦なく蹴って蹴って蹴り倒し、例外なく全身の骨が折れるまで攻撃し続けた、恐るべき戦闘生物だったのだ」
「えっ、禰󠄀豆子って…私の、ひいお婆ちゃんを知ってるの!?」
「あぁ、よく知っているさ。なにしろ、ワシも禰󠄀豆子に全身の骨を折られた者の一人だからな」
「さっきから物騒な事言ってるけどさぁ、全身の骨を折られたんなら、とっくに死んでるんじゃない?それに、若い頃の禰󠄀豆子お婆ちゃんに会った事があるなら、オジさんは一体、何歳なの?」
「まぁ、ワシもその時は再生が効く鬼の身体だったからな、死にはしなかったが…心に焼き付けられた恐怖は今日の今日まで、消えても癒えてもおらんよ」
また、『鬼』という言葉を聞いた。私が生まれた我妻家では、家族との会話の中で頻繁に鬼という単語が登場する。
と、言うのも、禰󠄀豆子お婆ちゃんの夫であった善逸お爺ちゃんが鬼を殺す事を目的とした戦闘集団に所属しており、多大な犠牲を払いながらも、遂には鬼のボスを討伐したという内容の伝記が残されているからだ。
幼い頃の私は、善逸お爺ちゃんは小説家であり、そういった内容の小説を出版していたのだと思っていたが…
「おまえがどこまで信じるかは分からんが…鬼の始祖がおまえの先祖達によって滅ぼされ、ワシら眷属が持っていた肉体の再生能力も無くなったのだ。しかし、鬼の因子が完全に消え去ったわけではなく、どうやら寿命だけは普通の人間よりも長く保たれているみたいだな」
「あぁ、なるほど。禰󠄀豆子お婆ちゃんに会った事があるって、そういう事なのね」
「そうだ。で、同じく鬼であった禰󠄀豆子は、ワシらとは別に薬の効力で人間に戻ったわけだが…鬼の因子と混ざり合った『戦いの意思そのもの』とでも呼ぶべき禰󠄀豆子の遺伝子は、脈々と家系に受け継がれた上で…燈子よ、おまえの代で再び花開こうとしているのだ。まぁ、これ以上の事は、お前自身の『脚』に聞いた方が早いのではないか?」
そう言われた瞬間、私の脚の付け根から爪先にかけて、まるで強い電流でも流されたかのように痙攣が走った。
そうだ、確かに私は先程のチンピラ連中を、鼻息を荒げながら喜んで蹴り回していたのだ。太腿や膝が、脛や爪先が、「もっとだ!!もっと叩き込め!!蹴り倒せ!!」と、まるで意志を持った生き物のように私を煽り立てたのだ。
自分の曾祖母が鬼であったなどという莫迦げた御伽噺を、もはや信じないわけにはいかなかった。
「燈子よ、ワシの助言の下で『最強の生物』を目指してみないか?」
「悪くないわね…了解」
こうして、私の戦いの日々の記録が始まった。
第2話「岩の柱」≫
それを見届けるようにして、事の一部始終を建物の影から覗いていた視線の主が、私の前に姿を現した。
年齢こそ六十歳を過ぎた感じではあるが、切れ長の鋭い目つきと豊かな白髪が、時代劇に登場する剣豪を連想させる。
男は作務衣の襟元を正しながら、確かな威圧感を纏ってゆっくりと私の前に進み出た。
「さすがだのう。未だ完全でないとはいえ、見事な戦いぶりだった」
「はぁ、どうも……で、オジさんは誰ですか?」
「ワシの名は可楽」
「からく?何それ、本名なの?まぁ、いいけど……ずっと私を見てたけど、何の用?」
「おまえに真実を告げ、そして『最強の座』を手に入れてもらう為に来た」
「はぁ??最強の…何ですって??全く意味が分からないんですけど」
「かつて、おまえの曾祖母である禰󠄀豆子は『蹴り鬼』と呼ばれておってな…一度、敵と認めた相手は誰であろうと容赦なく蹴って蹴って蹴り倒し、例外なく全身の骨が折れるまで攻撃し続けた、恐るべき戦闘生物だったのだ」
「えっ、禰󠄀豆子って…私の、ひいお婆ちゃんを知ってるの!?」
「あぁ、よく知っているさ。なにしろ、ワシも禰󠄀豆子に全身の骨を折られた者の一人だからな」
「さっきから物騒な事言ってるけどさぁ、全身の骨を折られたんなら、とっくに死んでるんじゃない?それに、若い頃の禰󠄀豆子お婆ちゃんに会った事があるなら、オジさんは一体、何歳なの?」
「まぁ、ワシもその時は再生が効く鬼の身体だったからな、死にはしなかったが…心に焼き付けられた恐怖は今日の今日まで、消えても癒えてもおらんよ」
また、『鬼』という言葉を聞いた。私が生まれた我妻家では、家族との会話の中で頻繁に鬼という単語が登場する。
と、言うのも、禰󠄀豆子お婆ちゃんの夫であった善逸お爺ちゃんが鬼を殺す事を目的とした戦闘集団に所属しており、多大な犠牲を払いながらも、遂には鬼のボスを討伐したという内容の伝記が残されているからだ。
幼い頃の私は、善逸お爺ちゃんは小説家であり、そういった内容の小説を出版していたのだと思っていたが…
「おまえがどこまで信じるかは分からんが…鬼の始祖がおまえの先祖達によって滅ぼされ、ワシら眷属が持っていた肉体の再生能力も無くなったのだ。しかし、鬼の因子が完全に消え去ったわけではなく、どうやら寿命だけは普通の人間よりも長く保たれているみたいだな」
「あぁ、なるほど。禰󠄀豆子お婆ちゃんに会った事があるって、そういう事なのね」
「そうだ。で、同じく鬼であった禰󠄀豆子は、ワシらとは別に薬の効力で人間に戻ったわけだが…鬼の因子と混ざり合った『戦いの意思そのもの』とでも呼ぶべき禰󠄀豆子の遺伝子は、脈々と家系に受け継がれた上で…燈子よ、おまえの代で再び花開こうとしているのだ。まぁ、これ以上の事は、お前自身の『脚』に聞いた方が早いのではないか?」
そう言われた瞬間、私の脚の付け根から爪先にかけて、まるで強い電流でも流されたかのように痙攣が走った。
そうだ、確かに私は先程のチンピラ連中を、鼻息を荒げながら喜んで蹴り回していたのだ。太腿や膝が、脛や爪先が、「もっとだ!!もっと叩き込め!!蹴り倒せ!!」と、まるで意志を持った生き物のように私を煽り立てたのだ。
自分の曾祖母が鬼であったなどという莫迦げた御伽噺を、もはや信じないわけにはいかなかった。
「燈子よ、ワシの助言の下で『最強の生物』を目指してみないか?」
「悪くないわね…了解」
こうして、私の戦いの日々の記録が始まった。
第2話「岩の柱」≫
これは、私が最も書きたかったエピソードであり、この為にブログを立ち上げたと言っても過言ではありません。
そもそも、私は鬼滅の刃の最終決戦は「無惨 vs. 禰󠄀豆子」になると、信じて疑いませんでした。何故ならば、兄の炭治郎は他の隊士同様に「家族を鬼に殺された者」であり、その点に関して実は特別性が無いからです。
ところが、禰󠄀豆子は鬼舞辻 無惨の手によって「鬼にされた者」であり、なおかつ自分自身で”呪い”を外した上に日光まで克服した、唯一の存在です。禰󠄀豆子こそ、無惨に復讐する「意志と能力」を兼ね備えた作中唯一の人物だった筈です。
にも係わらず…最終決戦の舞台となった市街地に辿り着く直前に人間に戻ってしまうとは…予想し得ませんでしたし、唯々、ショックでした。
「こうなったら…禰󠄀豆子に全身の骨を蹴り折られた経験者である可楽センセーの指導の下、子孫である燈子に『最強の座』を手に入れてもらうしかない!!」
そう結論し、本稿を書き上げた次第です。
この「燈子×可楽」のエピソードは、今後もシリーズ化して書き続ける予定ですので、是非ともお付き合いください。