2021年12月31日
【鬼滅×るろ剣】単話「龍を狩る虎」
炎柱・煉獄 杏寿郎を目の前で失った事は、炭治郎だけでなく伊之助の心にも暗い影を落とした。無論、生まれた時から学問とは縁が無かった彼にしてみれば、鬼と鬼殺隊の千年に渡る戦いの歴史の重さを頭で理解する事は難しかった。
しかし、その中でも歴代の柱と十二鬼月が占めてきた「戦いの比重」に関しては、否が応でも肌で感じ取る結果となった。
下手をすれば炭治郎と共に自分までもが殺されていたかもしれない状況に於いて、他人に『身代わり』になってもらったという事実は、伊之助の闘争心を容赦なく地べたに叩きつけたのだ。
「くそっ、俺は何をやってたんだ…散々いきがって、強くなったつもりだったのかよ!!」
以来、任務の合間を縫っては山に入り、独自に修行を続けてはいたものの、常に「あと少し、あと一つ、何かが足りない」という焦りに苛まれていた。
そんな折、木材を組んで鬼に見立てた打ち込み台を相手に一心不乱に打ち込み稽古を続ける伊之助を、陰から見守る一人の老人の姿が認められた。
「あぁーん!?なんだ、おめぇ、何か用か!?」
「ふふっ、これはすまない、気を散らせてしまったか」
「何か用かって聞いてんだ!」
「いやなに、おまえさん…今のままでは、これ以上に強くなるのは難しいと思ってな。助言すべきか否か、迷っていたところさ」
「なんだとぉ!?随分と高い所からモノを言うじゃねぇか…こちとら、『鬼』を相手に毎日戦ってんだ、おめぇがナンボのモンだってんだ!?」
「ふむ、鬼か…何十年も前の明治初頭の話になるが、ワシは『龍』に戦いを挑んだよ」
「なん…だって??り、龍と戦ったって??」
「ああ、そうさ。ちょうどいい、ワシと手合わせしてみるか?」
『龍』という言葉に反応した事ももちろんだが、先程からの老人の所作には全くと言っていいほど悪ふざけの意図が感じられず、それどころか間合いや目付け、姿勢といったものに、確かに『剣を嗜んだ者』の気勢が感じられた。
「面白れぇ…ほれ、使いな」
伊之助が手にしていた二本の木刀の片方を投げ渡すと、老人は少しも躊躇せずにそれを受け取った。
「ふふっ、懐かしいな」
老人は木刀の柄を手に馴染ませるように、三度、四度と揉むようにして握り締めた。
「では、参るぞ」
老人がそう言った次の瞬間、伊之助は、その構えの余りの異様な様子に驚きを禁じ得なかった。左手で逆手に握った木刀を背後に回し、前足を前方に大きく開いて上半身を低く沈めた姿勢は、他のどんな剣術流派のものとも違っていた。
無論、伊之助自身が『我流』で剣を修めてきたとはいえ、それにしても次の動作が予測できない『未知の形』であった。
(なんっ…だ、そりゃ…)
単に未知の形であるだけでなく、伊之助を更に驚かせたのは老人の眼光であった。地面を這うような低い姿勢から、こちらの両眼の間を貫き通すような鋭い視線は、まさに伊之助の株を奪うが如き、野生の獣のそれであった。
(やべぇ、殺られる!!)
次の瞬間、襲い掛かってきた虎が頸に鋭い牙を突き立てるかのような幻影が脳裏をよぎり、伊之助の心臓は爆発せんまでに強く鼓動を打った。
「うぉぉぉ、やってやらぁ!!獣の呼吸、弐ノ牙、切り裂き!!」
「虎伏絶刀勢っ!」
先手を取らねば敗けると判断した伊之助は相手よりも一瞬早く踏み込んだつもりでいたが、実際には老人の方が一瞬早く前足を滑り出して、上体を更に低く沈ませていた。
首元に向けて袈裟に振り下ろされた攻撃の下を潜るようにして、老人が逆手のまま振り上げた木刀は伊之助の右手首に喰い込んで勢いよく跳ね上げた。
「ぐっ、はあっ!!」
技の勢いに負けた伊之助が手放してしまった木刀は、回転しながら宙を舞った後、カランという乾いた音をたてて地面に落ちた。
「大丈夫か?」
「なんだ、ジジィ、その技はぁ…?」
「この技はな…かつて、ワシが天翔ける龍を地面に引き摺り落とした技さ」
「龍を落とした技か…なるほどな、悔しいけど納得したぜ」
「まぁ、この技をそのまま真似しろとは言わんが…これで、今の自分に足りないものが何なのかは分かったな?」
「あぁ、よく分かった、礼を言うぜ。ところで、爺さん、名前は何ていうんだ?」
「ワシの名は縁(えにし)、雪代 縁だ。おまえさんのこれからの人生の中で、今日の出来事が記憶に残り続けてくれれば幸いだ」
そう言うと、縁と名乗った老人は踵を反して去って行った。
(分かったぞ、速いだけじゃダメなんだ。虎が獲物に襲い掛かる時のように、あと一息の『身体の伸び』が必要だったんだ)
こうして、伊之助は新しい技への活路を見出す事となった。
しかし、その中でも歴代の柱と十二鬼月が占めてきた「戦いの比重」に関しては、否が応でも肌で感じ取る結果となった。
下手をすれば炭治郎と共に自分までもが殺されていたかもしれない状況に於いて、他人に『身代わり』になってもらったという事実は、伊之助の闘争心を容赦なく地べたに叩きつけたのだ。
「くそっ、俺は何をやってたんだ…散々いきがって、強くなったつもりだったのかよ!!」
以来、任務の合間を縫っては山に入り、独自に修行を続けてはいたものの、常に「あと少し、あと一つ、何かが足りない」という焦りに苛まれていた。
そんな折、木材を組んで鬼に見立てた打ち込み台を相手に一心不乱に打ち込み稽古を続ける伊之助を、陰から見守る一人の老人の姿が認められた。
「あぁーん!?なんだ、おめぇ、何か用か!?」
「ふふっ、これはすまない、気を散らせてしまったか」
「何か用かって聞いてんだ!」
「いやなに、おまえさん…今のままでは、これ以上に強くなるのは難しいと思ってな。助言すべきか否か、迷っていたところさ」
「なんだとぉ!?随分と高い所からモノを言うじゃねぇか…こちとら、『鬼』を相手に毎日戦ってんだ、おめぇがナンボのモンだってんだ!?」
「ふむ、鬼か…何十年も前の明治初頭の話になるが、ワシは『龍』に戦いを挑んだよ」
「なん…だって??り、龍と戦ったって??」
「ああ、そうさ。ちょうどいい、ワシと手合わせしてみるか?」
『龍』という言葉に反応した事ももちろんだが、先程からの老人の所作には全くと言っていいほど悪ふざけの意図が感じられず、それどころか間合いや目付け、姿勢といったものに、確かに『剣を嗜んだ者』の気勢が感じられた。
「面白れぇ…ほれ、使いな」
伊之助が手にしていた二本の木刀の片方を投げ渡すと、老人は少しも躊躇せずにそれを受け取った。
「ふふっ、懐かしいな」
老人は木刀の柄を手に馴染ませるように、三度、四度と揉むようにして握り締めた。
「では、参るぞ」
老人がそう言った次の瞬間、伊之助は、その構えの余りの異様な様子に驚きを禁じ得なかった。左手で逆手に握った木刀を背後に回し、前足を前方に大きく開いて上半身を低く沈めた姿勢は、他のどんな剣術流派のものとも違っていた。
無論、伊之助自身が『我流』で剣を修めてきたとはいえ、それにしても次の動作が予測できない『未知の形』であった。
(なんっ…だ、そりゃ…)
単に未知の形であるだけでなく、伊之助を更に驚かせたのは老人の眼光であった。地面を這うような低い姿勢から、こちらの両眼の間を貫き通すような鋭い視線は、まさに伊之助の株を奪うが如き、野生の獣のそれであった。
(やべぇ、殺られる!!)
次の瞬間、襲い掛かってきた虎が頸に鋭い牙を突き立てるかのような幻影が脳裏をよぎり、伊之助の心臓は爆発せんまでに強く鼓動を打った。
「うぉぉぉ、やってやらぁ!!獣の呼吸、弐ノ牙、切り裂き!!」
「虎伏絶刀勢っ!」
先手を取らねば敗けると判断した伊之助は相手よりも一瞬早く踏み込んだつもりでいたが、実際には老人の方が一瞬早く前足を滑り出して、上体を更に低く沈ませていた。
首元に向けて袈裟に振り下ろされた攻撃の下を潜るようにして、老人が逆手のまま振り上げた木刀は伊之助の右手首に喰い込んで勢いよく跳ね上げた。
「ぐっ、はあっ!!」
技の勢いに負けた伊之助が手放してしまった木刀は、回転しながら宙を舞った後、カランという乾いた音をたてて地面に落ちた。
「大丈夫か?」
「なんだ、ジジィ、その技はぁ…?」
「この技はな…かつて、ワシが天翔ける龍を地面に引き摺り落とした技さ」
「龍を落とした技か…なるほどな、悔しいけど納得したぜ」
「まぁ、この技をそのまま真似しろとは言わんが…これで、今の自分に足りないものが何なのかは分かったな?」
「あぁ、よく分かった、礼を言うぜ。ところで、爺さん、名前は何ていうんだ?」
「ワシの名は縁(えにし)、雪代 縁だ。おまえさんのこれからの人生の中で、今日の出来事が記憶に残り続けてくれれば幸いだ」
そう言うと、縁と名乗った老人は踵を反して去って行った。
(分かったぞ、速いだけじゃダメなんだ。虎が獲物に襲い掛かる時のように、あと一息の『身体の伸び』が必要だったんだ)
こうして、伊之助は新しい技への活路を見出す事となった。
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