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2022年03月25日

双子の弟である縁壱が二十五歳を超えてもなお生存していたという事実と、ある意味で”勝ち逃げ”とでも言うべき交戦中の臨終は、黒死牟の心を酷く痛ませる事となった。

無論、その顛末を主人である鬼舞辻に報告したものの、『勝手に死んだのなら好都合ではないか』と一笑に付される始末であった。まるで、決して消化できぬ石の塊がいつまでも胃袋の中でゴロゴロと転がっているかのような、絶え間のない不快感を覚えたまま、黒死牟は”柱狩り”の任に当たっていた。

三日月が、やけに大きく近く、まるで手で掴めるかのように感じられる不思議な夜だった。歩を急いでいた黒死牟は、何やら不穏な雰囲気を感じて足を止めた。

三日月


(血肉の…臭いがする)

その臭いの出どころは、すぐに明らかとなった。腰に手を当て、今しがた自らが屠った人間の死体を暫く見下ろしていた両面宿儺は、ふーっという大きな溜め息をついて天を仰いだ。

「つまらんな…いや、此奴も決して弱くはなかったが…しかし、面白くない」

声のする方向を六つの目で凝視した黒死牟は、刀の柄に手を掛けて慎重に近づいた。月明かりに照らされた声の主は腕が四本あり、人間でない事は明らかだった。一瞬、自分と同じ鬼かとも思ったが、鬼舞辻配下の鬼が共通して持つ”波長”のようなものが感じられない。

ひょっとしたら、珠世のように鬼舞辻の『呪い』を外した逃れ者かもしれない。

「其方は…誰だ?鬼か?」
「んー?俺の名は宿儺、呪術を生業としている者だが…おまえこそ何者だ?」

「私は黒死牟…人間が呼ぶところの…鬼だ」
「鬼だと?そうか、おまえは鬼舞辻 無惨の手下だな!?」

鬼のような、少し違うような、正体の判らない相手の口から主君の名前が出た事に、黒死牟は少なからず動揺した。

「何故、あの方の御名前を知っている?いや、そもそも…その名前を口にして、何故生きていられる?」

「何故もなにも、あ奴とは旧知の仲だからな。ここ何十年かは会っていないが、昔は色々と助け合ったものよ」

「先ほど、呪術を生業としていると言っていたが…」

「なんだ、知らんのか?おまえはそれなりに強そうだが…今まで、炎を出したり式神を操ったりする人間と戦った事はないのか?」

「うむ、あるな…なるほど、ああいった類いのものを呪術と呼ぶのか…だが、少なくとも今日まで、それらの術で私を倒せた人間がいない事は確かだ」

「面白い。ならば、俺と刃を交えてみるか?」
「刃?見たところ、其方は帯刀していない様子だが…」

「ははっ!!刀だけが刃物だと思っていたら敗けるぞ!?」

そう言うと、宿儺は両手の指で何かしらの『印掌』を結んだ。

「よく見極めろ…領域展開、伏魔御廚子」

そう唱えた途端、宿儺の背後に牛や馬のような大型の動物の骨を大量に組み上げた『社』のようなものが現れ、それと同時に、周囲の空気が急速に冷えていくのを黒死牟はハッキリと感じ取った。

(これは何だ!?)

状況を理解する間もなく、その社のような物体から細長い”何か”が複数撃ち出され、かつて経験した事のない程の速度で黒死牟を襲った。

幸いにも間合いは充分に離れていたので、何かしらの投擲攻撃であるという事だけは瞬時に察した黒死牟は、刀の柄に手を掛けつつ大きく右へ飛んで避けた。しかし、完全には躱し切る事ができず、プシッという音と共に羽織の裾を”何か”が掠めて行ったのを感じた。

よく見ると、刃物で斬られたとしか思えない鋭い裂け目が布地に走っている。鉄を叩き、研ぎ上げた刃でこそないが、確かにそれと同等の強度と鋭さを備えたモノが飛んできたのだと認めざるを得なかった。

(これは、まるで…私の月の呼吸の技ではないか!?)

自分以外の、しかも、鬼ですらない者が「飛ぶ斬撃」を操る事に驚きはしたものの、しかし、黎明期の鬼殺隊で他の呼吸を使う剣士達と技を競い、高め合った経験則が黒死牟の頭脳に警鐘を鳴らした。

仮に、この宿儺と名乗る男が飛ばす斬撃の「威力」が月の呼吸の技と同等か、それ以上であるならば…
勝敗を決する要因は、必然的に「数」と「速さ」になる。

いくら鬼の身体とはいえ、再生が追いつかない程の手数で細切れにされれば身動きが取れなくなり、やがて朝を迎えてしまうかもしれない。

(ならば、此方も最大の手数と速さで捻じ伏せるのみ!)

「上手く避けたな!!だが、次が行くぞ!?」

宿儺が「飛ぶ斬撃」を操るのは自分だけだと思い込んでいる様子であり、特に防御する姿勢を見せていない事を察した黒死牟は、真上に高く跳躍しながら自らの骨肉で生成した刀『虚哭神去』(きょこくかむさり)を抜き、大きく振りかぶった。

更に、死角となる背中に隠すようにして刀身を支刀状に延ばし、”全集中”の呼吸を開始する。

「むっ!?」

間合いが離れているにも係わらず、黒死牟が抜刀して振りかぶった事を宿儺は訝しんだが、軌道修正が間に合わずに、既に発射された斬撃「捌」(はち)が、黒死牟の足の下を素通りしていった。

「遅いっ!!月の呼吸、拾陸の型、月虹・片割れ月!!」

弓のように大きく反らした背中の筋肉を解放して放った「三日月状の刃」は、大きく弧を描いて宿儺の頭上に降り注いだ。無論、宿儺とて、これまでに何百人もの術師を葬ってきた強者であり、すぐに三度目の攻撃を放ってこれを防ごうと試みた。

一、二、三、四、五…双方が放った飛ぶ斬撃が連続して激突し、その度に木材を折った時のような乾いた音を立てる。そして、遂に十撃目にて黒死牟の手数の方が勝り、宿儺の右腕を斬り落とした。

「これは…!?ふはははは、強いな、おまえ!!」

宿儺は、自分以外にも飛ぶ斬撃を操る者が存在する事に確かに驚きはしたものの、むしろ退屈が吹き飛んだとばかりに反転術式で腕を修復し、次の攻撃に移る動作を見せた。

(なにっ!?斬り落とした腕が再生するとは…本当に鬼の様相ではないか…)

黒死牟もまた、鬼ではない筈の者が欠損した肉体の部位を再生してみせた事に大きく戸惑いを覚えつつも、上体を大きく右後方に捻り、次の攻撃態勢に移る。

「開(フーガ)」
「捌ノ型…月龍輪尾」

弓矢を引き絞るような形で両手を構えていた宿儺が、右手を開いて矢を放つような動作を見せると、赤く燃え猛る”炎の矢”が一直線に黒死牟の顔を目掛けて飛んで行った。

しかし、極限まで集中力を高めて見開いた六つの目は、放たれた炎の矢の軌道と距離を正確に捉えており、大きく横一文字に振り抜いた虚哭神去の薄紅色の刃が、それを斬り裂いて地面に落とした。

「おおっ!?驚いたぞ…この術を放って生きていたのは、おまえが初めてだ!!」

術を破られてなお、称賛の声を上げる宿儺の性格を全く以て推し測る事ができずに、黒死牟は大きく困惑したが、次の攻撃で決着を図る為に右足を大きく後ろに引いて、”高波の構え”を見せた。

しかし、そんな必殺の気勢をふざけて笑い飛ばすかのように、宿儺は言葉を続ける。

「無惨も良い部下を持ったな。おそらく、おまえが一番の腹心なのだろう」
「だとしたら…どうだと言うのだ?」

「いや、今思い出したが、鬼というのは身体の再生ができるのであろう?先ほど、俺がやったのと同じように」
「一人一人、治る速さに差はあるが…概ね、そうだな」

「然らば、おまえと俺がこれ以上戦っても決着はつくまい。またいずれ、時と場所を改めて楽しもうぞ」
「楽しむ…だと??」

そこまで言われて、黒死牟はやっと宿儺の性格を理解したような気がした。自分のように武家に生まれた者にとって、勝負とはまさしく”生死そのもの”であり、勝つ事こそが生きる事に他ならない。

しかし、宿儺にとって勝負とは”遣り取りそのもの”であり、過程を楽しめる相手とならば、むしろ何度でも手合わせしたいという事なのだろう。

(縁壱ならば…あの男にさえ勝っていただろうか)

背中を見せて去っていく宿儺を見つめながら、黒死牟は心は再び”強さ”という名の回廊に迷い込んだ。

登場人物:黒死牟 両面宿儺
この記事へのコメント
〜 あとがき 〜

黒死牟と宿儺、共に「飛ぶ斬撃」を主な攻撃手段としていますので、両者が出会ったが最後、どちらかが細切れになって飛び散るまで、熾烈な戦いが続く…と、当初は思ったのですが、よくよく考えてみれば、両者の性格はまるで違うんですよね。

あくまでも、剣技の向上に比例して自尊心も高まっていく黒死牟(巌勝)に対して、呪術というギミックを使ったゲームを楽しみたい宿儺。

原作では一見、宿儺の方が残虐に見えるんですけど、むしろ本当に強い相手と出会った場合は決着を急がない場合もあるのではないか…そんな事を思いながら書きました。
Posted by 管理人 at 2022年03月27日 01:13
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