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2021年10月22日

何か可笑しい 岸田氏の「新しい資本主義」



 岸田首相の「新しい資本主義」

 〔キモい〕としか言え無いコレだけの理由



 10-20-5.png 10/20(水) 6:01配信 10-20-5


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  「新しい資本主義実現本部事務局」の看板を持つ岸田文雄首相(中央)Photo:JIJI 10-20-6


 岸田文雄首相が、自由民主党総裁選の選挙戦中から掲げるキャッチフレーズで在る「新しい資本主義」が、何とも「気持ち悪い」 心情としては「キモい!」と叫びたい位だ。筆者がそう感じる様々な理由をお伝えしたい。


              10-22-20.jpg            

         経済評論家・楽天証券経済研究所客員研究員 山崎 元 10-22-20


 ● 岸田首相の得体が知れ無い思い込み  日本に「新自由主義」のレッテル貼り  

 好い歳をした書き手(筆者自身の事)が、記事の文章で「キモい!」と云うカジュアルな言葉を使うのは如何なものかとも思う。で在るのだが、岸田文雄首相が掲げる「新しい資本主義」に対する気持ち悪さは「気持ちが悪く思えます」と云ったユックリしたテンポでは無く「キモい!」と、最短の秒数でコノ気味の悪さを伝えたい。  
 気持ちの悪さには複数の要因が在るのだが、一番不気味なのは「新しい資本主義」と云う言葉を唱えて居る本人が、その内容を分かって居ないのでは無いかと思われる事だ。しかも、その当の人物が、我が国の首相なのだ。国民は不安に為る。  

 岸田氏は、新しい資本主義に付いて様々に表現して来たが、先ず、言って居る事が意味不明だし、次には、言って居る内容がブレて居る。詰まりは、何をしようとして居るのかが分から無い。しかし、闇雲に何かを変えようとして居る。
 岸田氏は、例えば「新自由主義からの転換」と云う言葉を使った。しかし、日本は何時新自由主義に為ったのか。「転換」と云う言葉を使うからには、彼の認識では現状は新自由主義なのだろう。  

 しかし、多寡だか郵政民営化位のプロジェクトが中途で挫折してグズグズに為る様な、利権維持と非効率性の中で漂うこの国の一体何処が新自由主義なのか? 電波オークションも無ければ、農地の株式会社保有さえ実現しない。  
 この様な日本に「新自由主義」と云うレッテル貼りをして、意見を言った様な気分に為る事が出来る精神構造を不気味だと思わ無い事は難しい。しかも、彼は左派政党の党首では無くて自由民主党の総裁なのだ。

 ● 「新しい資本主義実現会議」は中身が無いと断言出来る根拠

 岸田氏が「新しい資本主義」に付いて確たる具体的な内容を持って居なかった事は「新しい資本主義実現会議」と云う何とも奇妙な有識者会議が、総選挙を前にした内閣府の下に設立された事に如実に表れて居る。  
 内閣府が10月15日に発表した文書を見ると、会議の開催に付いて「新しい資本主義実現本部の下『成長と分配の好循環』と『コロナ後の新しい社会の開拓』をコンセプトとした新しい資本主義を実現して行く為、それに向けたビジョンを示し、その具体化を進める為、新しい資本主義実現会議を開催する」と在る。
 中身が何も無いので「それに向けたビジョン」等と云う、この種の文章としては世にも情け無い言葉を使う以外に書き様が無かったのだろう。

 ● 成長と分配の好循環を「これから検討」 それでは絶望的に中身が無い

 ソモソモ「新しい資本主義」等と云う偉そうな言葉を使う以上、そのビジョンは言って居る本人が明確に提示して方向性を示すべきだ。「成長と分配の好循環」にも「コロナ後の新しい社会の開拓」にも、願望は在っても中身が無い。  
 「成長と分配の好循環」は与党も野党も望んで居る事で在り「如何実現しようとするのか」を論じる以外にお互いを区別するポイントは無い。それをこれから有識者会議で検討しようと云うのだから、岸田首相自身には絶望的な迄に中身が無い。

 又、今後の社会が「コロナが起こってからの社会」で在る事は間違い無いのだが「新しい社会の開拓」とだけ言われても、現状の社会を否定する意味しか無い。会議に参加する有識者さん達は推察するに「何かお役に立てたら好い」と云う位の善意から参加されるのだろうが、会議自体が時間と手間の無駄に為るだろうと予想する。
有識者さん達に取って指名を受けた事は不名誉では無いだろうから、会議自体の存在は好いとするとしよう。

 それにしても(この種の会議の出席謝礼は極めて安いので、お金はそれ程無駄に為っては居まい)サラリーマンの立場から推察して何とも気の毒で為ら無いのは、会議の事務局を務める官僚さん達だ。この様な無意味な会議の成果をどの様に着地させると好いのか、想像しただけで目が回りそうに為る。

 ● 財務次官の「バラマキ合戦」批判で 緊縮財政へ傾斜しないかが当面の心配

 岸田氏が中身を十分把握せずに、思い付きか言葉の勢いで「新しい資本主義」と云う言葉を唱えた事はマア好いとしよう、我が国の政治家には好く在る事だ。岸田氏の症状は可成り重いとは思うが「ネクタイを締めた、喋る空箱」の様な政治家は与野党を問わず少なく無い。  
 気持ちが悪いのは「新しい資本主義」を唱える岸田氏が、現状の経済政策の何を変え様として居るのかが分から無い事だ。少なくとも何かを変え無ければ「新しい」とは言え無いのだから、彼は何かをしようとして居るらしい。  

 首相就任前に強調して居た〔金融所得課税の見直し・税率引き上げ〕は一転して当面封印する様だ。封印自体は結果的に正しいのだが、コレだけ簡単に意見が変わると有権者は、衆議院選挙で岸田総裁の自民党に何を期待して投票したら好いのかが分から無く為る。  
 当面の心配は緊縮財政への傾斜だ。次の衆議院選挙を経ても恐らく岸田氏が首相だろうが、政治家が掲げる政策を「バラマキ合戦」と批判した財務官僚の様な人に感化されて、プライマリーバランス(基礎的財政収支)の目標に拘る様な愚策に陥る事が心配だ。  

 何が「新自由主義」なのかも、多分「資本主義」が何の事なのかも分かって居ない首相が、立派に聞こえる言葉の響きだけで「プライマリーバランス」や「財政再建」に共感する心配が大いに在る。しかし、これ等は、現在拘るべき概念では無い。

 ● 岸田首相への最大の不安は 金融政策 23年の日銀正副総裁の人事は心許無い  

 モッと大きな心配は、金融政策に対する影響だ。岸田首相が、これ迄の日本銀行の金融緩和政策を「古い資本主義」だと認識して変えようとする心配が在る。2023年の3月に予定されて居る日銀の正副総裁の人事を、資本主義の何たるかを分かって居ない岸田首相が「人の話を好く聞いて」詰まり周囲の誰かに影響されて決めるのだとすると何とも心許無い。  

 中身が無いのに「新しい何々」と言いたがる事の他に「人の話を聞くのが得意だ」と自称する性格的特性も国民を不安にさせる。他人に影響され易いと云う事だからだ。岸田氏は、リーダーには最も不向きなキャラクターなのでは無いだろうか。  
 但し、岸田首相に対する不安と同時に、野党に対する心配も述べて置くのがフェアだろう。例えば、岸田氏が捨てた〔金融所得課税の見直し・税率引き上げ〕を、未だに格差対策の政策として掲げる立憲民主党には、岸田氏の「新しい資本主義」の気持ち悪さとは又別の「反資本主義」の不気味さが在る。

 ● 与野党の党首討論会で考える 「バラマキ合戦」の優劣  

 衆議院選挙の日程が決まり、各党の経済政策が発表されて居る。財務次官が「バラマキ合戦」と呼ぶ部分に付いて、18日に日本記者クラブで行われた各党党首の討論会をベースに整理すると、以下の通りだ(「日本経済新聞」10月19日朝刊を参照)  

  自民党 数十兆円の対策とだけ言って居て、何に使うのかを提示し無い
  公明党 高校3年生迄の子供に10万円の給付を行うと言って居る
  立憲民主党 1000万円程度迄の所得の人への所得税免除と低所得者への12万円給付、加えて消費税率の時限的な5%への引き下げ
  共産党 減収した人に10万円の給付と、消費税率の5%への引き下げ
  日本維新の会 消費税率を2年間を目安に5%へ引き下げと、年金保険料をゼロに
  国民民主党 一律10万円の給付と低所得者には追加で10万円の現金給付。更に経済回復迄消費税率を5%に
  れいわ新選組 消費税廃止と毎月一人20万円給付
  社民党 3年間消費税ゼロと10万円の特別給付金
  NHKと裁判してる党 弁護士法72条違反で(NHK党) 10万円以上相当の期限付き電子マネーの給付


 先ず岸田氏の自民党は、政権党だけに言質を与えたく無いと云う事なのかも知れ無いが、具体案を示さ無いのは好く無い。これで首相が岸田氏では心配且つ不気味だ。野党各党が主張する現金給付に付いては、所得制限を設け様とすると手間が掛かるし、国民の経済行動が歪む(例えば一時的に所得を抑え様とする等)副作用が在る点に注意が必要だ。  
 又給付金は、生活への支援や国民の安心感の上でも、1回限りのものよりも継続的に効果の在る形のものが好い。

 ● 日本維新の会が挙げた 「年金保険料の無料化」を推す理由  

 最も筋が良いと思うのは、日本維新の会が挙げた〔年金保険料の無料化〕だ(基礎年金部分の完全税負担化と云う意味だろう)富の再分配効果と行政効率化(例えば、国民年金保険料の徴収が要ら無く為る)の効果が大きい。
 低所得者・現役世代への効果が大きく所得税率の高い人への効果が小さいし、将来はコノ財源と為る税金の負担を通じて、それ為りに大きな「再分配」の流れが出来る。  

 増税には、超富裕層に対する所得税の累進税率の引き上げと、広く薄く課税する様な資産課税の強化が好い。投資の利益への課税を狙った金融所得課税の見直しは、リスクマネー供給を阻害するので好く無い。  
 尚、国民年金保険料の様な「一律の負担」が低所得者に厳しく極めて逆進的で在る事の解決には、財源を税金にする事が優れて居る。この点では、NHK党辺りがNHK受信料の税負担化を主張しないのは少し不思議だ。  

 最も、低所得層でテレビを持た無かったり、受信料は不払いだったりする人が多ければ「再分配」の効果はそれ程大きく無いかも知れ無い。それでも、受信料徴収のコストが回避出来て、国民の費用負担がより公平に為る(税制全体が公平だとして)事の効果は小さく在るまい。  
 野党が足並みを揃えつつ在る消費税率の引き下げは、それ自体の効果として悪く無い。只、時限的なものだと税率変更を巡る買い控えや消費の集中等、税率変更の際に起こる混乱が気に為る。
 
 筆者なら、消費税率はそのママに〔基礎年金を全額国庫負担にする〕方を採りたい。再分配の効果が大きいし世の中の事務作業が増える消費税率の変更よりも、公的年金に掛ける手間が減る点で〔年金保険料ゼロ〕は好い。  
 岸田首相に「良いバラマキ」と「悪いバラマキ」を見分ける眼力が在るとは思え無いが、経済政策の中身はどの道未だ決まって居ないのだろうから〔年金保険料ゼロ〕を是非お勧めしたい。



             10-22-21.jpg
         

 山崎 元 楽天証券経済研究所  客員研究員 1958年北海道生まれ 東京大学経済学部卒業 三菱商事⇒野村投信⇒住友生命⇒同信託⇒シュローダー投信⇒バーラ⇒メリルリンチ証券⇒パリバ証券⇒山一證券⇒DKA⇒明治生命⇒UFJ総研と12回の転職を経て2005年より現職 10-22-21














 









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