2021年10月22日
矢野財務次官に依る〔異例の寄稿〕本当の狙い
「このママでは国家財政は破綻する!」
矢野財務次官に依る〔異例の寄稿〕本当の狙い
10/20(水) 9:16配信 10-20-10
衆院予算委員会で答弁する財務省の矢野康治主税局長(左手前)(※肩書は当時のもの)2020年2月10日 国会内 写真 時事通信フォト 10-20-11
■現職次官が『文藝春秋』に異例の寄稿
「矢野さんが辞表提出を求められて居る」
永田町や霞が関は、ソンな話で持ち限(きり)に為った。10月8日 その日発売の月刊『文藝春秋』に財務次官の矢野康治氏が「このママでは国家財政は破綻する」と題する寄稿をして居た問題に付いてだ。
現職次官が実名で自らの意見を寄稿するのは異例。しかも、選挙戦を睨んで与野党が打ち出す政策を「バラマキ合戦」だと断じて居た。丁度岸田文雄氏が「分配重視」を掲げて総裁選を勝ち抜き、首相に指名された直後だったから、読み方に依っては「新政権批判」と受け取る事も出来た。永田町には
「嶋田隆・首相秘書官と栗生俊一・内閣官房副長官(事務方トップ)が辞表を出せと言って居る」
「首相と官房長官は沈黙して居るらしい」
「如何も甘利明・自民党幹事長が怒って、裏で指示を出して居る様だ」
と云った情報が乱れ飛んだ。その一方で「麻生太郎前財務相の許可を得て寄稿したものだ」と云った報道も早い段階から流れて居た。
■本当に矢野氏個人の「大和魂」から出た言葉か?
寄稿は永田町ウォッチャーだけで無く、SNSを通じて多くの国民の間で話題に為った。結局、10月10日にフジテレビの番組に出演した岸田首相が「色んな議論は在って好いが、一旦方向が決まったら関係者は確りと協力して貰わ無ければ為ら無い」と述べる事で収束を図った。
元々矢野氏の寄稿文にも、往年の名官房長官と言われた後藤田正晴氏の『後藤田五訓』を引いて「勇気を以て意見具申せよ」と共に「決定が下ったら従い、命令は実行せよ」と云う訓戒を紹介「役人として当然の事です」として居た。
同じ日のNHK日曜討論に出演した自民党の高市早苗政調会長は「大変失礼な言い方だ」と不快感を露にしたものの、翌日の記者会見で松野博一官房長官が「私的な意見として述べたものだ」との見解を示した事で、矢野次官はお咎め無しと云う事で落着した。
「最近のバラマキ合戦の様な政策論を聞いて居て、止むに止まれぬ大和魂か、もうジッと黙って居る訳には行か無い、此処で言うべき事を言わねば卑怯でさえ在る」
と矢野次官は寄稿文の冒頭で書いて居る。だが、この一文は本当に矢野氏個人の「大和魂」から出たものなのか?
■「経産省主導内閣」と言われた安倍内閣
勿論、矢野氏個人の思いが込められて居る事は間違い無い。矢野氏と付き合いの長いジャーナリストに依ると、酔えば必ず〔後藤田五訓〕の話に為り、寄稿文にも在る様な「国家公務員は『心在るモノ言う犬』で在らねば」と云うのは口癖だと云う。だが、矢野氏個人の私的な意見を私憤から寄稿したのか、と云うと如何もそうでは無さそうなのだ。
第2次以降の安倍晋三内閣が〔経産省主導内閣〕と言われて来たのは周知の通りだ。安倍元首相の政治主導の裏では、秘書官で首相補佐官でも在った元経産官僚の今井尚哉氏が絶大な力を握って居た。
今井氏が経産省の課長に直接電話して怒鳴り着けたり指示したりする姿は日常茶飯事だった。一方で、安倍内閣は2014年4月「消費への影響は軽微で早期に復活する」として居た財務省の説明を聞き入れて消費税率を5%から8%に引き上げたが、結果はアベノミクスで急回復して居た景気を冷やす結果と為り、安倍首相に依る財務省排除が鮮明に為ったとされる。
■「財務省主導内閣が出来るのではないか」官僚達の期待
自民党の歴代内閣は、財布の紐を握る財務省の影響下・支配下に在ったとさえ言われたが、安倍内閣は財務省がコントロール出来無い内閣に為って行った。財務省はその地位を取り戻す事、正に復権が最優先課題に為って来たのだ。
それが成功するかに見えたのが菅義偉内閣だった。首相補佐官だった今井氏が退任、国土交通省出身の和泉洋人氏が首相補佐官と為り実権を握った。明らかに経産省色が薄れて行く傾向に在った訳だ。
矢野財務次官 10-22-2
ソンな中、2021年6月に矢野氏が財務次官に為る。実は、矢野氏は菅前首相が官房長官だった2012年から2015年の間、官房長官秘書官として菅氏に仕えて居た菅氏の懐刀だった。菅内閣は財務省の悲願で在る財務省が主導する内閣に戻って行く筈だったのだ。
しかし、菅内閣は短命で終わる。問題は後継に為った岸田内閣が如何為るか。岸田氏が会長を務める「宏池会」は、大蔵官僚から政治家と為り首相に昇り詰めた池田勇人が創設した派閥で、矢張り大蔵官僚出身の宮澤喜一元首相等を輩出した〔親・財務省〕と観られる派閥だ。
岸田氏が総裁選でブチ上げた〔令和の所得倍増〕も、多分に池田勇人の「所得倍増計画」を意識して居ると見られて居た。財務省主導内閣が出来るのではないか、と財務官僚達は期待しただろう。
■状況は一変、経産省寄りのムードに
だが、幹事長に就任した甘利氏が岸田内閣の人事に大きな影響力を持ったとされムードが一変する。甘利氏は経産大臣の他、経済財政政策担当相等を務め、経産省と非常に近い関係に在ると観られて来た。案の定、筆頭首相秘書官には経産省次官を務めた嶋田氏が就任。今井氏も内閣官房参与に復活した。
しかも、総裁選で「(単年度の歳出を歳入範囲に抑える)プライマリー・バランスの棚上げ」等を掲げ、財政再建よりも積極財政を重視する姿勢を明確にして居た高市氏が党の政調会長に就任。経産省の政策に通じる未来投資等に積極的に財政支出して行く方向に舵が切られつつ在った。ソンなタイミングで矢野氏の寄稿が出て来た訳だ。
■「分配」から「分配も成長も」「先ずは成長」へ
矢野氏の「バラマキ批判」は一定の成果を挙げて居る。「積極財政で、本当に国家財政は破綻するのか?」と行った議論が喧(やかま)しい程に行われる様に為ったのが一点。そして、もう一つが、岸田氏が総裁選の際に掲げて居た〔政策の微妙な修正〕を行う切っ掛けに為った事だ。
総裁選では「アベノミクスの成長の成果が十分に分配されて来無かった」として「分配」政策を前に出した。「選挙で勝てる顔」を求めて居た自民党党員に取って、野党の主張の柱で在る分配重視を訴える総裁為らば選挙に勝てると観られた。
処が、実際に総選挙と為れば、都市部の無党派層等を取り込まねば為ら無い。現役世代は成長への期待度が高いから分配優先では票に為ら無い。選挙が近付くに連れ「分配も成長も」「先ずは成長」と発言トーンが変わって来た。
財務省からすれば、バラマキ一辺倒の政策を修正させるだけでも成果だっただろう。勿論、その辺りの政策が本格的に具体化して来るのは総選挙後。自民党の議席獲得数等に依っても政策は大きく変わって来るだろう。
■消費増税しても財政再建は為され無かった
と云う訳で、矢野氏が此処で財政再建の重要性を指摘したのは、何も、個人的な大和魂の帰結と云う訳では無さそうだ。実際、寄稿文の内容も、財務省の従来の主張と変わら無い。
「財務省はこれ迄声を張り上げて理解を得る努力を十分にして来たとは言えません」と書いて居るが、財務省は従来「このママでは国家財政は破綻する」と危機感を煽って消費税率の引き上げ等増税路線を突き進むと云う遣り方を執って来た。
消費増税して何が起きたか・・・財政再建等されずに歳出規模を膨らませただけでは無かったか。無駄に予算が使われて居る事業や、経済効果が乏しい助成金等幾らでも景気に影響を与えず歳出を減らす術は在る。その役割は本来、財務省が担って居るのだが、予算を柔軟且つ大胆に見直して行く仕組みすら殆ど機能して居ない。
消費税率を上げれば財政再建出来ると言うが、ドンドン貧しく為って居る日本国民からどれだけ税金を取れると考えて居るのか。
財務省自身が発表して居る「国民負担率」国民所得に占める租税負担と社会保障負担の合計の割合は2020年度で46.1%に達して居る。国民の「担税力」も無限大では無い。過つて、土光敏夫氏が「第二次臨時行政調査会」で行政改革に大鉈を振るった際、合言葉は「増税無き財政再建」だった。矢野氏には、是非、令和の「増税無き財政再建」に付いて寄稿発表して頂きたい。
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磯山 友幸(いそやま・ともゆき) 経済ジャーナリスト 千葉商科大学教授 1962年生まれ 早稲田大学政治経済学部卒業 日本経済新聞で証券部記者 同部次長 チューリヒ支局長 フランクフルト支局長 「日経ビジネス」副編集長・編集委員等を務め 2011年に退社 独立 著書に『国際会計基準戦争 完結編』(日経BP社)、共著に『株主の反乱』(日本経済新聞社)等が在る
〜管理人のひとこと〜
安倍晋三内閣での、安倍晋三個人に依るあらゆる不法・不正事件の一部を国会で取り上げ、委員会での審議の際に出て来る官庁の、責任官僚達の言葉の一つにでも「血の通った人間らしい言葉」が感じられただろうか? NHKの放送を観ていた多くの国民は「高級官僚とは、目的の為には平気で嘘を言う信頼出来無い人間だ」と刷り込まられた事だった。
中には、公文書の改ざんを部下に命じ、命じられた役人は国民への不正に悩み、自殺者迄出した官僚が「全く知ら無い」と忖度に励み出世した事実迄存在する。部下の命を差し出して出世する・・・官僚とは何とも悲しい種族だ・・・
一つの悪しき内閣が、我が国をコンな国へと堕落させ国家の品位を瓦解させてしまった。最早、コレを取り戻すには50年100年の努力を必要とするだろう。元と云えば国民が彼を選択した筈だ・・・全ての責任は国民が被らねば為ら無い。一つ一つの真実を極め正直に生きて行きたいものだ。
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