2021年04月09日
中国海軍の空母が又も日本近海へ「挑発行動」我が国の防衛に「必要なもの」
中国海軍の空母が又も日本近海へ「挑発行動」 我が国の防衛に「必要なもの」
現代ビジネス 4/9(金) 7:02配信
「遼寧」が沖縄・宮古島間を通峡 4-9-4 写真 現代ビジネス
防衛省統合幕僚監部の発表によると、4月3日に中国海軍の空母「遼寧りょうねい CV-16:65,000トン」を中心とする6隻の空母艦艇群グループが東シナ海から沖縄・宮古島間を通峡(南下)して太平洋へ進出した。同グループがこの海峡を通峡するのは2020年4月(南下)以来であり、初めて通峡した2016年12月(南下)から2018年4月(北上)・2019年6月(南下)と合わせると通算で5回目と為る。
即ち「遼寧」を基幹とする空母グループは、2018年以降年1回のペースで同海峡の通峡を兼ねた太平洋への進出及び外洋での演習を恒常化させて居ると云う事だ。
これらを見ると、拙稿「中国の空母『遼寧』が日本近海通過、その事実が暗示する恐ろしい未来」で予想した通り、中国海軍は北海艦隊に於いて空母打撃群CVSG・Carrier Strike Groupを編成し、外洋に於ける運用能力を着実に向上させて来ていると見なければ為らない。
今回の空母打撃群の編成は、空母「遼寧」の他、これを護衛する戦闘艦艇としてレンハイ(ミサイル巡洋艦13,000トン級)1隻・ルーヤン3(ミサイル駆逐艦7,000トン級)2隻・ジャンカイ2(フリゲート艦4,000トン級)1隻の4隻。そして、2019年(3回目)以降新たに加わった空母用の最新型補給艦である「フユ級高速戦闘支援艦(AOE-965 48,000トン)」の計6隻であった。
過去4回と比較してその規模に変わりは無いが、今回注目し無ければ為ら無いのは、戦闘艦艇の主力に、昨(2020)年1月に就役したばかりのレンハイ級ミサイル巡洋艦「南昌なんしょう・CG-101 13,000トン」が加わって居た事である(参考)。
この「南昌」は、レンハイ級の一番艦で、中国海軍はこれを「055型駆逐艦」と呼称して居るが、満載排水量13,000トンと云う大きさとルーヤン3(大型駆逐艦)の倍近い112基もの垂直(ミサイル)発射装置(VLS)を搭載し、長射程の対地巡航ミサイル等を発射出来ること等から、米国防総省は本艦就役前の2017年5月の年次報告で、既にその艦級を中国初の「ミサイル巡洋艦(CG)」と位置付けて居るものである。
今年3月には、この「南昌」が他の戦闘艦艇(ルーヤン3及びジャンカイ2)を伴って初めて日本近海に出現し、対馬海峡を北上して日本海に入り1週間程日本海で活動して帰航した。 この時随伴していた「ルーヤン3 DDG-120」と今回の空母グループに加わって居た「ルーヤン3 DDG-120」が同一艦であることから、この日本海での活動は今回の空母打撃群による作戦行動(演習を兼ねた戦略的示威行動)の事前訓練を兼ねた、我が国への示威行動であったものと思われる。 編注「ルーヤン3」「ジャンカイ2」の数字はローマ数字
初めての台湾周辺での演習では無い
尚、統合幕僚監部は公式発表の中でこのレンハイ級を「駆逐艦」として居るが、米国防総省だけでは無く国際戦略研究所(英国)の年報「ミリタリーバランス」でもこれを「ミサイル巡洋艦」として居り、米軍を始めとするNATO諸国はこれを「ミサイル巡洋艦(CG)」と格付けしている。
恐らく、自衛隊でもインテリジェンス(情報)部門ではこれを「CG」に区分していると思われ、ここが配布する情報資料を基に活動する各自衛隊の運用部隊でもこれを「CG」として扱って居るものと推察される。では何故、公式な発表で防衛省がこれを中国の呼称通りに「駆逐艦」として居るのか筆者には分から無い。
この発表によって、日本のマスメディアもこれに倣って居る様であるが、個人的には脅威を正確に伝える為にも、公表する際の呼称を改めて見直す必要があるのではないかと思っている。
今回の空母打撃群が沖縄・宮古間を南下して太平洋へ進出した後、中国海軍の高秀成(こうしゅうせい)報道官は5日夜「空母『遼寧』の部隊が台湾の周辺海域で訓練を実施した」と発表した。この中で同報道官は「年度計画に基づく定期的な訓練で、部隊としての成果を確かめ、国の主権と安全、発展の利益を守る能力を高めるものだ。今後も常態的に同様の訓練を行う」と述べた。
実は、この様な台湾周辺における空母打撃群の演習は今回が初めてでは無い。昨年4月も同様に、これら空母打撃群が沖縄・宮古間を南下して太平洋へ進出した後、台湾の東部および南部沿岸を航行し軍事演習を行った。
この時は、中国海軍による発表は無かったが、台湾国防部がこれらの行動を逐一監視し「台湾の安全保障と平和・安定を確保する上で適切な行動を完全に遂行した」として、警戒監視活動を継続して居た事を明らかにして居た。
着実に米軍との能力差を縮めて来ている
これらの行動を見ると、ここ最近の空母グループによる示威活動の最大の目的は台湾に対する軍事的圧力に在ると考えられる。勿論、これに付随して我が国や米国に対するけん制の狙いもあることは間違いない。
特に今回は、空母「遼寧」の甲板上に少なくとも8機の戦闘機(J-15)と3機の哨戒ヘリと1機の哨戒機らしき航空機の搭載が確認され、昨年(戦闘機3機・ヘリ3機)よりも機種や機数が増加して居り、航空機の運用もそれなりに充実しつつあることを窺わせている。
もう一つ、見逃しては為らないのが今回の空母グループの沖縄・宮古間通峡に際し、中国海軍のY-9(対潜哨戒型)が空母グループの航路上をその航行に併せて哨戒飛行して居た事である。このY-9対潜哨戒機は、2019年3月に東シナ海で航空自衛隊のスクランブル機によって始めて確認された機体であり、この対潜哨戒機の運用が本格的に始まったのは比較的最近であると考えられる。
従って、中国海軍の対潜能力は左程高いレベルには無いと見られるものの、今回は中国の沿岸から600nm・1100km近く離れた太平洋海域迄単機で進出し(何らかの目標に対して)洋上を哨戒(旋回飛行)している。この様に、空母打撃群の艦艇と連携してこの様な哨戒活動を実施したことは注目に値する。
これは、各種のセンサーから得られた関連情報を上級司令部や艦艇等と機能的なネットワークで繋ぎ、これを逐次入手しながら活動して居る事を窺わせるものであり、中国海軍の運用能力の向上を感じさせる事象と言え様。居得よう
---------- 参考https://www.mod.go.jp/js/Press/press2019/press_pdf/p20190320_01.pdf https://www.mod.go.jp/js/Press/press2021/press_pdf/p20210404_03.pdf ----------
中国海軍の現在の空母打撃群の作戦能力は、米国のそれと比べると未だ遥かに低いと云うのは間違いない。しかし「着実にその能力を縮めて来ている」と云う事も又確かである。
「潜水艦の増強」が必要
2019年12月には、中国初の国産空母「山東さんとう」も就役し、2020年には北海艦隊のある旅順周辺で、空母艦載機着陸訓練(FCLP・Field Carrier Landing Practice)を実施した後、12月には台湾海峡を南下して南シナ海で訓練を実施した。
飛行甲板に電磁式カタパルトを装備して居ると見られる、3(国産では2)隻目の空母も2022年には進水する見込みである。中国は1996年の(第三次)台湾危機で、当時の米空母戦闘群(CVBG・Carrier Battle Group)2個グループによる威嚇(いかく)を受けて以来、驚異的な速度で空母や大型の戦闘艦艇を建造して来ている。
我が国が今後益々これらの脅威に対応し無ければ為ら無く為る事は必至だ。では、どの様に対応するのが最も現実的なのだろうか。先ずは、何よりも米国との共同作戦能力を深化させることであろう。この為には、陸・海・空自衛隊が足並みを揃え無ければ為らず、統合作戦能力を向上させることも重要な要素となる。
次には、NATO諸国との共同作戦能力を向上させることであろう。これは、米軍との共同作戦の延長線上にあり、米軍が実施している「航行の自由作戦」に参加している国々との間で共同訓練を充実させることが求められる。既に、この様な訓練やこれらの運用に関わる法的整備も進められて居る様であるが、台湾情勢等も考慮してこれを更に拡大して行くが必要があろう。
最後に、我が国独自の防衛力について、全体的に強化して行か無ければ為らないのは勿論であるが、今後最も力点を置くべき能力は何かと為ると、筆者は「潜水艦の増強」だと考えている。
海上自衛隊は原子力潜水艦こそ持た無いものの、その保有する通常型潜水艦の作戦能力は歴史的にも技術的にもその知識が十分に蓄積されて居る事から「極めて高い」と各国からも評価されて居る。
国防の見直しのラストチャンス
只、数が不足している。2010年に出された防衛力整備の指針「防衛計画の大綱」で掲げられた22隻態勢が、2020年10月に進水した最新鋭の「たいげい型潜水艦」の一番艦「たいげい」が2022年3月に就役すれば要約整うと云う状況だ。
空母打撃群が象徴する様に、この10年で中国海軍はどれ程進化を遂げたであろう。もう、この数ではとても十分とは言え無い。 空母が何よりも脅威とするのは潜水艦なのである。海上自衛隊潜水艦の作戦能力を考慮すると、これを増強するのが最も効果的であることは明らかだ。定期的なドック入りや平時における哨戒及び情報収集等の活動を考慮すると40隻程度は必要であろう。
現在、ミサイル防衛・BMDに関して、配備中止と為ったイージスアショアの代替としてイージス艦でこれを補う事が昨年12月に閣議決定されたが、もうBMDに関してこれ以上海上自衛隊に負担を掛けるのは辞めた方が良い。
その分のエネルギーは潜水艦へつぎ込むべきだ。そもそも、イージス艦を(定点に留まる様な)BMDのミッションに投入するのは余りにオーバースペックなのである。海上自衛隊イージス艦の真価が発揮されるのは、何よりも米空母打撃群や多国籍の海軍艦艇と共同で作戦を遂行する場面だからである。
米海軍やこの同盟国もそれを期待して居るだろう。これが、最も中国海軍が恐れる対応だからだ。BMDは陸地で対応するに限る。様々な検討を加えれば地上配備が出来無い筈は無いと思う。「イージスアショアの代替案」の様々な問題点に付いては、雑誌「軍事研究2021年4月号」で元航空自衛隊補給本部長の吉岡秀之元空将も「自民党国防部会の先生方の心配は杞憂か」と題して警鐘を鳴らして居られる。今年1年が見直しのラストチャンスである。是非、検討し直して頂きたい。
文章 鈴木 衛士 元航空自衛隊情報幹部
「日本は中国との条約を履行する義務がある」 日米首脳会談を前に反発する中国側の本音
4/8(木) 18:31配信
日米「2プラス2」で反発する中国 菅首相訪米に高い関心
「日米には同盟関係があるが、日中も平和友好条約を結んで居る。日本は条約を履行する義務がある」中国の王毅国務委員兼外相は4月5日、茂木外相との電話会談でこう発言した。電話会談は中国側の呼び掛けによるものだったと云う。
茂木外相は沖縄県尖閣諸島周辺での中国船の領海侵入、香港や新疆ウイグル自治区の人権問題等について深刻な懸念を伝え具体的な行動を求めた。 王外相は「日本側が香港や新疆ウイグル自治区等に関する中国の内政に介入する事に反対する」とし、日本の要求は内政干渉と撥ね付けた。
一方、日中関係については「要約迎えた改善と発展の大局を大切にし、維持すべきであり、所謂大国間の対抗に巻き込ま無い事を確保すべきだ」と述べ、日本が米中対立に関わら無い様求めた。又「中国に偏見を持つ国のリズムに乗せられ無い様希望する」と、暗にアメリカに同調し無い様釘を刺した。
日中の関係者からは「菅首相の訪米を前に言うべきことは言って置くと云うけん制ではないか」と云う見方が出ている。
日本政府はアメリカ・ワシントンで現地時間16日、菅首相とバイデン大統領による初の対面での首脳会談を行うと発表した。これ迄に私が取材で面会した中国当局の関係者らの多くが、菅首相の訪米について熱心に尋ねるのを見ても関心の高さが窺える。
切っ掛けと為ったとみられるのが、日米の「2プラス2」外務・防衛閣僚会議だ。発表された共同文書では名指しで中国に言及し中国の海洋進出などに懸念を表明した。これに対し、中国外務省は日米両政府に「内政干渉だ」と抗議したことを明らかにした。
更に「中国の発展を阻止したいと云うエゴを満足させる為、人の顔色を窺い、アメリカの戦略的属国に為っている」と日本を強く非難した。その後も日中の防衛会合で国防省が日本を非難する等、中国側は反発を強めている。それでは中国側は日本との関係悪化を望んでいるのか。
日本に対米警戒を呼び掛ける中国メディア
「日本は警戒を怠っては為ら無い。米国は只では守って呉れ無いだろう。その為に日本は『高額な勘定』をする事に為る」 これは中国国営メディアの1つ、中国国際放送局CRIがインターネット上に掲載した評論記事の一部だ。日米の「2プラス2」を受けて3月18日に掲載された。
中国国営メディアは中国共産党や政府の「喉と舌」とも言われ、当局の方針を宣伝したり世論を誘導する役割も担って居る。記事は日本語で書かれて居て、日本向けに中国側の立場や主張を宣伝する狙いがあるとみられる。
記事は「隣国である日本は、地域経済の一体化と中国との経済貿易協力から大きな利益を得ている。米国による中国封じ込め戦略の手先と為るなら、経済面で莫大な代償を支払う事に為るだろう」と日本に警告を発した。
その上で「米国の新政権は同盟国との『共通の価値観』等と云った決まり文句を好く使うが、最優先に確保するのは間違い無く米国ファーストの利益だ」と指摘している。同盟国として中国抑止で歩調を合わせる日米両国に、少しでも楔を打ち込みたいと云う思惑も透けて見える。
中国共産党系メディアの関係者は「習近平指導部は、対立するアメリカをけん制する意味でも日本との関係は改善して行きたいと考えている」との見方を示す。又、別の関係者は「中国側の対日関係改善と云うスタンスは当面変わら無いだろう」と指摘。その理由として或る会談に関する中国での報道振りを挙げた。
緊張も孕む日中関係 報道振りで判る? 中国側の本音
垂駐中国大使 4-9-6
関係者が指摘したのは、垂(たるみ)駐中国大使と中国共産党でトップ25に当たる政治局委員との会談だ。垂大使は3月18日から3日間の日程で、着任後初めての地方出張として天津市を訪問。周恩来元首相の母校である大学を訪れて講演し、日中関係の重要性を強調すると共に、学生に写真をプレゼントする等、現場は和気藹々のムードに包まれて居た。
しかし、その後、政治局委員であり、天津市トップの李鴻忠書記との会談では、李書記から日米の「2プラス2」を強く非難する発言が飛び出したのである。
「我々の香港・新疆・台湾の関連する事に干渉することは好い方向に向かって居る中国と日本の関係に取って深刻な破壊である」
北京に在る日本大使館関係者は「2プラス2の直後だったので話題に出るかも知れないと思っていたが、まさかカメラで撮影している会談の冒頭で出るとは思わ無かった」と話す。一方、中国側の関係者は「李書記は上層部と相談した上で発言したのだろう。これは日本への警告だ」との見方を示した。
垂大使は天津市に続き、その2日後には新型コロナウイルスの感染が最初に拡大した湖北省武漢市も訪問した。現地では応勇湖北省書記と会談し、武漢封鎖当時のチャーター便による日本人帰国に関する協力に付いて謝意などを伝えた。
湖北省の地元テレビ局はこの会談について「経済貿易の往来を強化し、多くの領域での実務的な協力を深めて行く」と好意的に報じた。
一方、書記が日本非難に言及した天津市の訪問は、地元メディアも含め一切報道が見つから無いのである。中国では国内メディアの報道は当局の方針により事実上統制されて居る。では何故、報道対応が分かれたのだろうか。
FNNの取材では垂大使の湖北省訪問について、日本側が事前に中国側に対し天津市での様な日本非難は控える様に求めたことが判明して居る。日中の関係者からは「中央から統一指令が出て居た訳では無いのではないか」と云う見方や「アメリカと歩調を合わせる日本に対して釘を刺すものの、日本との友好ムードを完全には壊したくな居と云う配慮が働いたのではないか」と見る向きもある。
中国側としては、香港や新疆ウイグル自治区での人権問題等で、アメリカやヨーロッパなどと対立が深まる中、日本を出来る限り中国に繋ぎ止めて置きたいと考えて居る様だ。
垂大使は1月、FNNのインタビューで日中関係について「極めて脆弱な関係にあり、何時でも何か物事・事件・事故が起きれば直ぐに大きな影響を及ぼしかね無い関係」と指摘。安定した関係を構築する必要性を訴えた。
米中対立の煽りで緊張も孕む日中関係、今後は米中の狭間で日本が難しい選択を迫られる可能性もある。先ずは16日の日米首脳会談が試金石と為りそうだ。
【執筆 FNN北京支局 木村大久】 木村 大久
以上
NHK NHK政治マガジン 中国が警戒する男 大使に為る
NHK NHK政治マガジン 2020年10月14日 特集記事
「中国当局が警戒する人物」と評される外交官が、新内閣の発足と時を同じくして新しい中国大使に任命された。その名は垂秀夫(たるみひでお)、巨大国家が警戒する程の能力とはどの様なものなのか。そして、課題が山積する対中外交の最前線に立つ今、何を思うのか。
北京赴任直前の垂に単独インタビューで迫った。中国大使に起用へ・・・7月15日、NHKは朝のニュースで、新しい中国大使に外務省の垂秀夫(59)が起用される方向だと報じた。偶々だったが、その日の午後、私は当時官房長だった垂に面会のアポイントを執って居た。
当局の発表前に流したニュース、把握して居るだろう、どう思って居るだろうか・・・恐る恐る部屋を訪ねると、垂はメガネを外し目を擦りながら「お陰様で寝不足だよ」と大きなアクビをした。放送を見た政治家や知り合いから、事実関係の確認やお祝いの電話が次々に掛かり、朝早くから大変な思いをしたのだと云う。
「それはご迷惑をお掛けしました」
「気にされることは無い。でも、これでもし大使に為れ無かったら、NHKさんで雇ってくださいよ」
垂はそう言って豪快に笑った。垂の人柄に私は魅力を感じた。大使就任が正式に決まった折には、インタビューを申し込んでみようと決めた。
何と無く中国
「中国関係を永く遣って来た人間として、大使に為るのは非常に光栄だ。積み重ねて来た知見・経験・人脈・・・今発揮しないと、これ迄何の為に遣って来たのかと為る。私を養って呉れたのは日本国民の税金。国民にお返しする為にも、中国との関係で確り仕事をして行く」
中国大使への就任が正式に決まった後、垂はNHKの単独インタビューに応じ、赴任への意気込みを語った。垂の経歴は異彩を放っている。大学時代ラグビーに打ち込んだ垂は、外務省入省後それ迄全く学習経験の無かった中国語を専門の語学に選んだ。以来、南京大学への留学を経て赴任地は北京・香港・台湾と云う中国語圏のみ。台湾は2回、北京での勤務は今回で実に4回目と為る。
外務省の中国語研修組、所謂「チャイナスクール」の中でも、中国語圏以外に一度も赴任し無かったのは極めて異例だと云う。何故中国語を専門としたのか。そう尋ねると拍子抜けする答えが返って来た。
「深い理由も無く、何と無くで決めた。何と無く中国って大事なのかなって。でも、偶々だけど、中国と云う国は自分の性分に合ったんだと思う」
中国を究めたい
何と無く選んだ中国語。そんなスタートだった事もあってか、チャイナスクールの中で垂は当初、必ずしも目立つ存在では無かったと云う。しかし外交官としての精力的な活動が周囲の見る目を変え、エースに駆け上がって行く。北京赴任時代を垂はこう振り返る。
「能動的に人に会った。或る1年を数えてみたら、年間で300回以上中国人と食事をして居た。昼、夜、必ず誰かと食事し、自宅で食事したのは月に1回位だった。飲みにも行ったし、中南海(=中国政府や中国共産党の中枢)の人とゴルフを一緒に遣ったりもした。兎に角色々な事を遣って来たのは事実だ。今の若い人達には勧められ無いけどね」
人脈を作って誰よりも早く情報を捕る。その為に垂は、寝る間を惜しんで中国人と付き合ったと云う。要人とカラオケに行き、飲んだ後はサウナにも一緒に入った。人間同士の付き合いをトコトン迄突き詰めた。中国勤務から離れていた期間にも、年に3回は北京や上海に飛び人脈の「メンテナンス」に努めた。
こうした人脈作りを地道に続けた結果、時として、外国人では知り得無い筈の人事や機密情報を耳にする事もあった。そんな時は、どんなに遅い時間でも大使館に戻り本省へ公電を打ったと云う。幅広い人脈を構築した垂の功績はチャイナスクールの外交官の間で語り草に為って居る。
「中国共産党の内部情報にどれだけ食い込めるかと云う事をズッと遣っていた。所謂民主活動家や、反共産党の様な人達とも『付き合わ無きゃいけ無い』と言って、幅広く接触して居た。後にも先にも、こう云う人は出ないだろう」
「インターネットもSNSも無い時代に、手紙を書いたり贈り物をしたり、そう云う事を本当にマメに遣っていた。私費も相当継ぎ込んで居た」
「ここ10年、チャイナスクールの外交官は、垂さんの築いた人脈を辿って仕事をして居る。新規開拓し無ければなら無いが、垂さんの壁はナカナカ越えられ無い」
垂のモチベーションは一体、何処から湧いて来たのだろうか。
「お国の為と云う気持ちが今ほど在ったかと云うと、30代位の時はそうでは無かった。寧ろ、中国に付いて誰よりも知りたいと云う個人的な気持ちの方が強かった。中国通に為りたい、中国を究めたいと云う気持ち。それに尽きると思う。叱られるかも知れないが、芸術家や職人がその道を究めたいと思うのと、もしかしたら同じじゃないかな」
戦略的互恵関係
誰よりも人に会い中国に精通した垂。その努力が結実した忘れられ無い瞬間があると云う。日中関係が冷え込んで居た小泉政権下の2006年夏、垂が東京で対中政策とは直接関わりの無い部署に居た時の事だ。当時の外務事務次官・谷内正太郎に呼ばれ、こう言われたと云う「もう直、安倍晋三総理が誕生する。日中間の新しいコンセプトを考えて欲しい」
垂はこう振り返る「谷内さんと云うのは面白い人で、余り肩書とか担当に関係無く、使えると思った人間を一本釣りして特命を与える処があった」10日間程懸けて垂が考え付いたのが「戦略的互恵関係」と云う言葉だった。
様々な懸案はあってもそこで対話を辞めてはいけ無い。お互いの戦略的な利益の為に意思疎通を続け、日中関係の発展を目指すべきだ・・・と云う垂なりの思いが込められて居た。当時の中国課長・秋葉剛男(現・外務事務次官)の了承を得て谷内にこの案を見せると、谷内は「これだ、これで行こう」と言い、そのママ官房長官だった安倍に会いに官邸に向かった。
官邸から戻った谷内は、一言「アレ、採用に為ったから」と言ったと云う。この年の9月に総理大臣に就任した安倍は、翌月、初めての外国訪問として中国を訪問。国家主席の胡錦涛に「戦略的互恵関係」を提起した。今でも日中関係を示す上で欠かせ無いキーワードに為っている。
「安倍総理大臣の訪中は日本で見ていて、NHKや各社の報道で『戦略的互恵関係』と云う言葉が踊った時は胸が熱く為った。外部環境に影響されずに付き合って行く事がお互いの戦略的利益だと確認し、安定的な関係を構築して行くこと。これが矢張り大事だと思う」
台湾政界の厚遇
垂のキャリアを振り返る上で外せ無いのが台湾での勤務経験だ。1972年に日本と台湾が正式な外交関係を絶って以降、外務省の所謂キャリア官僚で台湾に2度勤務したことがあるのは垂だけだ。垂の仕事の遣り方は台湾でも変わら無かった。台湾の政権幹部に緻密に人脈を張り巡らせた。そして、多くの要人から親しまれた。
これは、垂が2度目の台湾勤務を終えようとして居た2年余り前、台湾の当時の副総統・陳建仁(ちん・けんじん)が、自らのFacebookに公開した写真だ。垂が陳に対し、展示されて居る写真を説明して居る様子が映って居る。
垂は外交官人生で最も忙しかったと振り返る中国・モンゴル課長時代に趣味で写真を始めた。物事をトコトン迄突き詰める性格は趣味の世界でも反映された様だ。その腕はプロ級として知られ、受賞作品は400点以上に上る。中でも、2014年の年末に千葉県君津市の山あいで撮影したこの写真は、翌年のフォトコンテストで環境大臣賞を受賞した。
北京に赴任時代も、足繁く地方に通い大陸の優美な自然を数多く写真に収めた。台湾でもシャッターを切り続けた垂の写真家としての腕は、垂が懇意としていた台湾の要人の目に留まった。そして、垂の作品を集めた個展が、台湾側の主催で開かれる迄話は一気に進んだ。
個展は、日本の総理大臣官邸に当たる総統府で開かれ、開幕式には陳も訪れた。陳は、開幕式に訪れた人達に或る写真集を配布した。台湾そして日本で垂が撮影した作品、およそ70点をまとめた写真集で、個展の開催に併せて台湾側が費用を出して作成したものだった。
写真集の冒頭では、台湾政界の重鎮が推薦の言葉を寄せて居る。日本の官房長官に相当する総統府秘書長等を歴任し、台湾側の対日窓口機関である台湾日本関係協会の会長を務める邱義仁(きゅう・ぎじん)だ。
「垂さんは『最も幸せな瞬間、それは互いの心が通いあう時』と語って居ます。読者の皆さまが、作品を通じて垂さんと心を通わせ人生の幸せなひと時の思い出が蘇る事を願って居ます」
台湾で心を通わせて居た一人だった邱義仁を垂は「親友」と呼ぶ。垂の希望で、個展はメディアには公開されず写真集も市場に出ることは無かった。垂は台湾政界の厚意が詰まった写真集を、今も大切に保管している。
中国に睨まれる
フットワーク軽く中国共産党の中枢に飛び込み、台湾での人脈も太くした垂は、中国からすると可成り目立つ存在だったのは間違い無い。何者の仕業かは判然としないが、何度も脅しを受けた他、自宅のファックスが鳴り続け延々と白紙が排出される嫌がらせも受けたと云う。
垂は中国当局からの盗聴に備え、携帯電話を何台も所有し携帯電話に差し込む「SIMカード」と呼ばれるICカードは頻繁に使い捨てた。2013年、北京の大使館で政治担当の公使を務めて居た垂は、外務省本省からの指示で任期途中で緊急帰国した。
帰国の理由は明らかにされて居ないが、政府関係者の多くは、中国側が垂の情報収集能力を警戒し監視を強めたことが関係していたのではないかと推測する。今回の垂の大使就任に当たって、中国側が就任に同意しないのではないかと云う懸念の声が出た程だ。
垂自身は、緊急帰国の真相を公に語ったことは無い。今回のインタビューでも「答えられ無い」と事前に釘を刺された。一方で、中国側が垂を警戒して居ると云う見方については、こう答えた。
「中国はアア云う国なので、一般論としては外交官もメディアも皆警戒されて居る。一方で中国は奥深い国で、警戒して居る人からも意見を聞こうとする。台湾関係を担当した人は中国に嫌われると云う話も一般論としては在るが、台湾を好く知って居て、尚且つ日本人と云う事で『直接話が聞きたい』と言って來る中国の要人も居た。中国人に聞く耳はあるんです」
政府内には、垂がチャイナスクールの中国通で在りながら、中国に厳しい姿勢を執る数少ない対中強硬派だと観る人も居る。垂は「確かに厳しいことは好く言う」と笑った上で、こう強調した。
「中国に付いて可笑しいと思うことは皆が感じて居る事だ。その事をどう遣って中国に伝えるかと云うのが大事で、人脈を作ってチャンと伝えて挙げれば好い。お互いに国益がブツカル事もあるが、妥協の余地が在るのか無いのか。協力すべき空間が在るのか無いのか。それを探すのが外交だ」
視界不良のなかで
菅総理大臣は、日米同盟を日本外交の基軸に据える一方、中国との安定的な関係の構築も目指すとしている。しかし、その道のりは不透明に為りつつある。「正常な軌道」に戻ったとされる両国関係は、新型コロナウイルスの感染拡大を機に足踏み状態にあり、関係改善の象徴に為ると期待された習近平国家主席の日本訪問も延期されたママ、日程調整すら出来ない状況が続く。
東シナ海や南シナ海への海洋進出「新冷戦」と呼ばれる程激しく為る米中の対立・統制を強める香港情勢等、中国を巡る問題は枚挙に暇が無く、日本国内の中国に対する視線も厳しさを増している。
外務大臣の茂木敏充は、日中関係が不透明感を増す今だからこそ、中国に精通した人間が中国大使を務めるべきだと判断し垂を選んだ。しかし、垂の置かれる環境は過つて無く厳しい。対中外交で具体的な成果を上げられるのか、視界が開けて居るとは云い難い。
日中関係は「人間ドラマ」
インタビューで垂は、これ迄の日中関係を急激な改善と悪化を繰り返す「ジェットコースターの様なもの」と表現し、それ故「一喜一憂すべきでは無い」と指摘した。そして「戦略的互恵関係」に基づき外部環境に影響されず、50年100年と長期的に安定した関係が築ける様努力して行く必要性を強調した。
私には、そう力説する垂が、日中間の深い人付き合いに再び関われる喜びを隠せ無いで居る様にも見えた。インタビューの最後に聞いた大使としての抱負からもそれは滲み出ている様に思う。
「是非遣りたいのは、日本をプロモート(宣伝)する事だ。民主主義が確りと根付いて、自由が享受出来る日本の魅力を中国の1人でも多くの人にプロモートしたい。実は日中の間には、魂と魂が触れ合う様な人間ドラマが沢山ある。
その人間ドラマが織り為すのが日中関係であり、魂と魂がブツカリ合う物語は今後も続く。私も物語の参加者の1人として、中国の社会が、昨日より今日、今日より明日、良く為って行くことを強く希望している」
垂は11月に北京に赴任。習近平に面会する際には、自ら撮影した日本の美しい風景写真をお土産として持参し、早速日本をプロモートする積りだ。(文中敬称略)
4-9-7
#「中国」をNHK政治マガジン記事で深掘り 政治部記者 山本 雄太郎 2007年入局 山口局を経て政治部 現在は外務省担当 茂木大臣の“番記者”
以上
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