2020年04月09日
新型コロナ危機 何故フィンランドでは感染者が少ないのか?
新型コロナ危機 何故 フィンランドでは感染者が少ないのか?
〜現代ビジネス 岩竹 美加子 4/8(水) 6:31配信〜
岩竹 美加子 ヘルシンキ大学非常勤教授
フィンランドの感染者が少ない理由
フィンランドの「国立保健福祉研究所」は 、予想されて居た指数関数的な新型コロナ感染の急増は抑えられて居ると云う見解を4月1日に示した。その週は、感染者数が急カーブで増えて行くと予想されて居り、応急処置等の為に病院前のテント設置・集中治療の設備と医療スタッフ増強・死体保管の為のコンテナ設置等様々な医療体制が急ピッチで準備されて居た。感染者の急増が抑えられて居る理由として、これ迄の諸対策の効果が出て居る可能性が在ると云う。
10人以上集まら無い・人とは最低1メートルの距離を捕る・祖父母等高齢者に会いに行か無い・家でテレワークをする・不要不急の外出をし無い他、小中高校と大学・図書館・映画館・美術館・レストランやカフェ等の閉鎖、更に国境とウーシマー県(首都ヘルシンキを含む南フィンランド)閉鎖等の対策で有る。
人の接触と移動を減らす事で感染の広がりを抑え、スピードを遅らせる為の対策だが、これ等の多くは、緊急事態法の部分的な発令を要した。
フィンランドでの感染は未だ初期段階であり、増大を前提にした対策は続けて行くが、政府は4週間に及ぶ懸命の対応を経て、ホッと一息ついた形に為った。
政府の具体的な対応
フィンランドでは1月末、ラップランドを旅行中の外国人が新型コロナに感染して居る事が報じられたが、当初政府は様子見をして居た。しかし、中国と韓国で感染の急増が有り、フィンランドでの拡大にも準備はして居た。
2月26日、イタリアからの帰国者1人が感染して居た事が報じられると、翌27日、マリン首相は国会で、次の様なスピーチを行った。
フィンランドのマリン首相
「政府は、社会保険省と国立保健福祉研究所を中心に各省庁が協力する体制を作り、今後の様々な状況に備えて周到で計画的な準備をして居る。最もシンプルな予防は手を好く洗う事。フィンランドの医療の質とスキルは高い。WHO・世界保健機関等国際的な機関とも連携し、以前の感染症から得た知識と経験も有る。過剰な反応や行動は避ける事が重要・・・」
・・・と云った内容だった。このスピーチの時点では未だ余裕を持って居たのだが、その直後からイタリアで感染の急増が始まると対応が激変した。3月中旬以降、平日はホボ毎日、首相や大臣・医療関係者等の会見が続けられて居て、テレビやパソコンで中継を見る事が出来る。会見は、1日に2度行われる事もある。
この一連の会見に至る間、又その後も、首相や大臣・その他関係者の多くは、土日も返上し1日16時間労働も在ったと云う・・・フィンランドでは通常在り得無い様な働き方だった。
会見は経済・医療・教育・社会等領域毎に行われ、夫々の現状・見通し・対策等が発表される。社会的距離を置く為記者は同席せず質問は遠隔で行う。質問内容は前以て通知されて居ないが、的確に即答するのは当然の事だ。又、視聴者がチャットの機能を使って質問出来る会見もある。
会見の内容は、その時々の状況に即して具体的だ。子供や学生・支援を必要とする人・貧しい人・小規模事業者等様々な人達の生活に着いても配慮して居る事が分かる。これ等の会見では、現在、生活に制約が増えて居るが、それは極めて例外的な状況で有る事が強調される。又、不自由に為って行く現状を理解し、協力する市民に対する感謝の意が示される。
フィンランド国営放送は在住外国人の為にアラビア語・ソマリ語・クルド語・ペルシャ語で新型コロナに関するニュースを放映して居る。2018年の統計で、外国語を母語とする人口は約39万人。その内アラビア語3万人・ソマリ語2.1万人・クルド語 1.4万人・ペルシャ語1.3万人である。
経済的打撃をどう支援するか
新型コロナが及ぼす経済的な打撃は計り切れ無い。既に航空業・旅行業・飲食業・農業を初め各業種業界に大きな影響が出て居る。倒産や休業・解雇・失業等に依って、経済は5〜6%縮小すると云う予想もある。
政府が出した経済対策の一つは、50億ユーロ・約5880億円の「支援パッケージ」だ。企業の倒産防止・個人事業者への支援等を目的としたもので、その後、500万ユーロ・約5億8800円が追加された。現在は、社会保険庁への失業手当・住宅手当・収入補填手当等への申請が倍増して居る。その為、多少の遅れは有るが支払われるので心配し無い様にと報道されて居る。
フィンランドの社会保障は、選別主義では無く普遍主義だ。職種に関わらず、又永住権を持つ外国人にも同じ保障を受ける権利がある。
戦後初めて備蓄庫が使われた
確認感染者数と集中治療を受けて居る人の数・死亡者数は毎日報じられて居る。但し、全ての人の検査は出来無いので、実際の感染者数はその20〜30倍と言われて居る。フィンランドでは、3月下旬迄1日の検査数は500〜1,000件程度に抑えられて居た。リソースが限られて居る事、感染者の80%は症状が軽く自宅療養に為る事等が理由である。
しかし、検査数が少ない事に批判が有る事・検査を徹底した韓国で感染拡大を抑えられた事等から、最近は検査を増やして居り、1日最大2,500件の検査がされて居る。症状が軽い人は検査しない・医療関係者を優先的に検査する等の基準は変わら無いが、今後はモッと増やして行く方向に有る様だ。
感染に関しては、様々なシミュレーションがされて居る。例えば人口の20%・40%・60%が感染した場合の入院患者・集中治療を要する患者・必要な医療物資や医療従業者の数等である。3月下旬には、非常事態の為の備蓄庫から医療物資が病院に運ばれた。
戦後初めての歴史的な出来事で有る。何百万と云う医療用マスクや防衛服・人口呼吸器等の備蓄が有ると云う。場所と数は秘密だが、こうした備蓄庫はフィンランド全土に複数有るそうだ。
現在は、感染のパターンが予想とは異なって来た為、感染のピークが何時頃に為るかが明言し難い状況にある。しかし今後、感染者数が医療キャパシティを超えた場合、誰を優先的に集中治療するのか選ば無ければ為ら無く為る可能性がある。
当初は、70歳以上の高齢者と基礎疾患の有る人を優先すると言われて居たが、最近は回復の見込みの有る人を優先すると云う考え方が出て来て居る。
緊急事態法発令
フィンランドで、非常事態宣言が出されたのは3月16日。続いて18日から30日迄3回に分けて、期限着きで緊急事態法が部分的に発令された。緊急事態法発令の目的は、感染者が爆発的に増えて医療崩壊が起きる事を防ぐ為に、増加のスピードを遅らせる事。
最初は小中高校・大学・図書館・美術館等の公共機関と国境が・2度目はウーシマー県が・3度目はレストランやカフェ・バー等が閉鎖された。国境封鎖に着いては、野党の右翼政党「基本フィンランド人」は乗り気だが、政府与党内で慎重意見が出て居た。又当初は市民の反対が強かった。
首都ヘルシンキが在るウーシマー県が封鎖されたのは、ソコで感染が最も多くソコからの人の移動に依って感染が無かった地方に感染が広がって居る為。仕事や避けられ無い理由が有る場合以外、ウーシマー県からの出入りが禁止に為り、警察が道路で監視する様に為った。
これ等の措置は、市民の行動を大きく制限するもので民主主義の原則に反する。又、疫病に対する不安を利用して、政治的な原則が変えられて行く危険性は有り得る。この危機に乗じて、3月末に首相の権限を限り無く拡大したハンガリーの例が示すように。
フィンランド政府は、緊急事態法の発令は防疫を目的とし、飽く迄も危機的状況への例外的な対処で有る事・法治国家の原則を変えるものでは無い事を強調して市民の同意を得る事が出来た。
スウェーデンの状況
フィンランドでの新型コロナ感染のスピードは、3月半ば迄は隣国スウェーデンとノルウェーより早かった。しかし、 3月下旬には状況は逆転、集中治療の数と死者数でフィンランドは2つの隣国に7日〜10日遅れが出て居る事が報じられた。
4月1日現在、フィンランド・人口約550万人の感染者は約1500人・死者17人。スウェーデン・人口約1,020万人では感染者約4900人・死者239人。ノルウェー・人口約530万人では、感染者約4600人・死者43人。デンマーク・人口約560万人では感染者約3,000人・死者90人である。
フィンランドが緊張感を持って対処して居るのに、隣のスウェーデンの対応が緩やかな事・死者が大きく増加して居るのにレストランやカフェ・街が普通に賑わって居る事は、驚きや当惑を持って屡々報じられた。スウェーデンの緩やかな対応には、次のような理由がある。
1 スウェーデンには、政治家が市民の行動を制限する権利が無い。政府では無く役所が指示では無く奨励を出す。
2 規制の無い日常生活を保つ。危険性に着いて充分な情報を出し、市民の良識有る任意行動を信頼する。
3 感染の全てを把握する事・拡大を止める事は出来無い。感染のスピードを遅らせる努力をし、確実に感染を減らせる対策は執る。国境閉鎖より協力が必要と考える。
4 経済への大きな打撃を避ける。経済的・社会的活動を止めず、倒産や失業を減らす。
緊急事態に際しても、市民の自由を制限し無いと云う原則を重んじるスウェーデン。ドチラが「良い」とは言い難い。しかし、フィンランドでは市民の自由は制限されて居るが、真剣に市民を守ろうとして居るのはフィンランドだと云う感じ方が強い様だ。
信頼出来る政治と社会のシステム
日本の首相は、新型コロナに関する信頼出来る統計や現在の立ち位置・今後の予測・対策等は示す事無く「ギリギリで持ち応えて居る」「思い切った手を打つ」等と発言するに留まって居る。「お肉券」「お魚券」「一世帯に布マスク2枚」等の案が出されたが、新型コロナに依って生活が困窮して行く国民を分け隔て無く守る積りは無い様だ。
フィンランドの首相は、常に明確に現状と対策を語りブレ無い。その対策は幅広い支持を得て居る。防疫と自由の関係に着いての問い・又感染者数が医療キャパシティを超えた場合・誰に集中治療を受ける権利が有るのかと云う難しい問いは残る。
しかし、フィンランドで政府は市民と共に在る。この危機の時代、信頼出来る政治と社会のシステムが在るのは幸いな事だと実感して居る。
岩竹 美加子 ヘルシンキ大学非常勤教授 1955年 東京都生まれ 明治大学文学部卒業 ペンシルベニア大学大学院 民俗学部博士課程修了 早稲田大学客員准教授 ヘルシンキ大学レンヴァル・インスティチュート研究員 ヘルシンキ大学教授等を経て 現在ヘルシンキ大学非常勤教授・Dosentti (青弓社HPより)
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