2020年04月06日
遅過ぎる〔緊急事態宣言〕コロナより、安倍政権の鈍さの方が恐ろしい
遅過ぎる 〔緊急事態宣言〕コロナより安倍政権の鈍さの方が恐ろしい
〜現代ビジネス 橋 洋一 経済学者 4/6(月) 6:31配信〜
写真 現代ビジネス
余りに酷過ぎる
コロナショックは、最早そう簡単に収まりそうに無い。経済に於いて、最も守るべきは雇用だ。しかし、既に雇用が大変な事に為って居る。厚生労働省が3月31日に発表した2月の有効求人倍率は1.45倍(季節調整値)と、2年11ヵ月振りの低い水準に為った。
今年1月には1.49(前月比▲0.08)・2月は1.45(前月比▲0.04)だった。2ヵ月間の低下幅▲0.12は、此処30年間では、リーマンショック後の2008年12月-2009年2月の▲0.14に次ぐ低下幅だ。
厚労省は「この1月から、企業の出す求人票の記載項目を増やした影響」と云う。それも有るだろうが、今年1月と2月の低下は、昨年10月の消費増税に依り景気の先行きが危うく為ったからだろう。コロナショックは基本的には含まれて居ないのにこの有様だ。
と云う訳で、2月の統計数字は未だ〔序の口〕だ。コロナショックの悪影響が出て来る3月・4月の統計では、ドエライ数字に為る予感がする。リーマンショックを超える悪影響が有るのは確実だ。
こうした雇用の悪化は、勿論GDPの下落と大いに関係がある(オークンの法則)。雇用の悪化を防ぐ意味でも、減少するGDPを補う程の有効需要を経済対策で作ら無ければ行けない。そうした中、コロナショックの経済対策の骨格が要約出て来たが、その内容が余りに酷過ぎる。
経済学者 橋 洋一氏
話に為ら無い
事業費60兆円と云うが、GDPに影響を与える〔真水〕ベースでは20兆円程度以下に為って仕舞う事は、先週の本コラムで書いた。しかし、対策の内容が明らかに為るに連れて、波多して〔真水20兆円〕すら確保出来るかどうか心配に為って来た。
例えば〔現金給付を1世帯当たり30万円〕と報道されて居るが、その中身は〔所得が減少して居る〕と云う条件が付されて居る。その結果、給付金総額は3兆円程度に抑えられると云う。
もしそうなら、コレはGDPの僅か0.6%程度であり、GDP低下分を埋める有効需要を作ると云う政府の責務とは掛け離れたものと為り話に為ら無い。消費減税も無しで、直接家計消費に働き掛ける政策には為って居らず、GDPへの影響でも一桁小さい。論外の政策だ。
例えば、米国のセントルイス地区連邦準備銀行のブラード総裁は、米国の失業率が今後30%と大恐慌時を上回ると共に、第2四半期の国内総生産・GDPが半減しても可笑しく無いと危機感を表して居る。日本でも雇用やGDPの急落が有り得るので、万全の経済対策を執るべきなのに、政府は一体どうしたのだろうか。
しかも〔1世帯当たり30万円の現金給付〕の遣り方が、元官僚の筆者から見ると、恐ろしく稚拙で驚いてしまう。
稚拙な制度設計
現金給付の前例は、麻生政権時、2009年の定額給付金だ。コレを麻生財務相は〔失敗例〕として居るが、効果が無かったのは給付金額が少な過ぎたからだ。国民一人当たり1万2000円・総額2兆円弱なら、0.2%程度のGDP押し上げ効果しか無いのは当然だ。当時は世界でも日本だけが金融緩和せず、円高に為って外需が失われた事も大きい。
更に当時のマスコミは〔バラマキ〕との批判を展開して居た、国民への直接交付を毛嫌いする財務省のシナリオ通りに動いていたフシもある。
その反省を生かすなら、給付額を上げると同時に金融緩和をセットする事だが、今回は事前の所得制限に走ってしまった。今年(2020年)の所得に基づいて〔困って居るかどうか〕を判断し無いといけ無いので、自己申告にしたと云うが、この制度設計をした者は、当局が何時今年の所得を把握出来るのか判って居るのだろうか。
現時点で、昨年(2019年)の所得を当局は把握出来て居ない。要するに、今年の所得が把握出来るのは、少なくとも1年以上先だ。自己申告制には〔虚偽申告が相次ぐのではないか〕(与党幹部)との懸念が有るので、政府は、証明書類の添付や不正申請に罰則を設ける案も含めて検討する方針だと云う。
何時の段階で、当局が所得を把握出来るかも判って居ないから、罰則を設けると云う筋違いの対応が出て来る。しかも、給付金は非課税措置にすると云う。こう云う危機の時には思い付きの案ばかりが出て来る。原則は、既存の制度や海外の事例を参照する事だ。原則を知ら無いと今回の様な稚拙な制度に為る。
「マスク2枚」との関連性
ソモソモ、今年の所得を当局が把握するのは1年以上先なので、事前の所得制限は出来無い。もし所得制限したければ、事後的に為らざるを得ない。既存の制度で利用出来るのは税制だ。詰まり、給付金を非課税措置にし無ければ、一時所得に為って事後的な所得制限が可能に為る。後は、給付を最速で行う方法さえ考えれば好い。
麻生政権時の定額給付金は地方事務で在った為に、給付に時間が罹った事は先週の本コラムで書いた。その時も書いた様に、最速の処理方法は〔政府小切手〕である。補正予算が通れば2週間程で可能だ。
これに付いて、安倍首相が「国民にマスクを2枚配布する」と発表した事との関連を考えてみよう。
米ブルームバーグは2日「アベノミクスからアベノマスクへ マスク配布策が冷笑を買う」とし「アベノマスク」が日本のツイッターでトレンド1位に為った事を紹介した。米FOXニュースも「エイプリルフールの冗談では無いかと受け止められて居る」と報道した。
何れもマスク配布に付いて冷ややかに報じて居る。筆者も3日「マスクと一緒に、10万円政府小切手を送れば好いのに」とツイート(https://twitter.com/YoichiTakahashi/status/1245858252400644096)し、4日の朝日放送〔正義のミカタ〕でも「2枚のマスクの間に、政府小切手が有れば好かったのに」と発言した処、大いに受けた。
「財務省緊縮病」が蔓延して居る
過つて危機の対策として、筆者は〔政府小切手の政策提言〕を出した事がある。実際に米国等で実施されて居たからだ。処が、或る政府関係者は「全国民に配布するのが実務上困難」と言って居た。
そこで筆者は、第一次安倍政権の時に全国民へ送付する〔ねんきん定期便〕を企画して実施した。コレは国民の住所確認の役割も有る。既に実施されてから10年も経つので、今なら国民の住所管理も十分に出来て居り、政府小切手を配布出来る筈と思って居たが、しかし今回も矢張り政府は「全国民には無理」と言って居た。
そうこうして居る内に、冒頭の様に、突然安倍首相が「マスクを全国民に配布する」と言い出した。矢張り全国民へ配布出来るのだ。であれば、補正予算が成立した後に〔政府小切手〕正確に言えば〔記名式政府振出小切手〕を送付すれば好い。
〔記名式政府振出小切手〕には受取人の名前があるので、誤配達や盗難に在っても記名人以外は銀行で換金出来無い。と云う訳で、郵送では危無いと云う人も心配無用だ。
何れにしても、今回の経済対策のシャビーさは、政府与党が財務省の〔緊縮病〕に罹ったみたいだ。この〔財務省緊縮病〕には強力な感染力があり、財務官僚と話しただけで感染してしまう。政府与党・マスコミ・学者・財界人皆が感染してしまった様だ。
筆者は幸いにも抗体が在ったが、この病は政策を決める主要な人々の間に蔓延して居るので、困ったものだ。コロナウイルスよりも財務省緊縮病の方が怖いかも知れない。
100兆円基金を
此処で、改めて筆者の経済対策案を述べて置こう。何れも既存の制度を利用したり、海外事例の有るものばかりだ。
〔〇〇兆円規模〕等と数字の大きさを競うのは芸が無い。数字は、コロナショックで予想されるGDP減少分を補う有効需要に合わせるので、現段階で正確に予測するのは困難だ。ソコで、ドンな数字にも対応出来る仕組みを考えて置くのが好い。
元々、筆者の経済対策には基本フレームがあり、ソコから導出される具体的な対策を本コラム等でも述べて来た。この基本フレームは、昨年9月9日の本コラム(https://gendai.ismedia.jp/articles/-/67075)で披露したものの応用問題だ。
筆者の提言は〔100兆円基金〕である。100兆円有れば、可成りの経済ショックに対応出来る有効需要を作れる。コレには予算総則の改正が必要であるが、その時同時に日銀引受も可能にして置けば財政問題は無く為る。一方、100兆円程度で有れば、酷いインフレを心配する事も無い。その中で、時限的な消費減税・現金給付・納税・社会保険料の減免を行えば好い。
⊡ 5%への消費減税なら、全品目軽減税率採用で有効需要15兆円
⊡ 全国民へ20万円現金給付を政府小切手で行えば、有効需要20兆円
⊡ 社会保険料の半年免除で、有効需要20兆円
こうした即効性の有る対策を打ち出せば好い。
休業補償をケチって居るのか?
筆者には、経済対策のモタモタ感が、政府が〔緊急事態宣言〕をナカナカ打ち出せ無い事とパラレルに為って居る様に感じる。〔緊急事態宣言〕を出すと、法的根拠が伴うので〔休業補償〕と云う話に為る筈だ。それをケチってナカナカ〔緊急事態宣言〕が出され無い様に思えるのだ。各都道府県知事や医師会は緊急事態宣言を求めている。3月13日に改正された新型インフルエンザ等対策特別措置法の内容を整理して置こう。
首相が行う〔緊急事態宣言〕の要件は
「新型コロナウイルスの全国的かつ急速なまん延により国民生活及び国民経済に甚大な影響を及ぼし、又はそのおそれがあるものとして政令で定める要件に該当する事態が発生したと認めるとき」特措法第32条
その場合、検疫の為の停留施設の使用・医療関係者への医療等の実施の要請等・不要不急の外出の自粛要請、学校・興行場等の使用等制限等の要請等、臨時の医療施設の開設の為の土地等の使用・緊急物資の運送等・特定物資の売渡しの要請等の強力な措置が出来る。
首相は〔緊急事態宣言〕を行い総合調整を担うが、実際の要請又は指示を発出する権限は〔緊急事態宣言が出された区域の都道府県知事に有る〕但し、その結果に対するコストは〔一定程度国が負担〕するだろう。
政府行動計画に依ると、緊急事態とは〔緊急事態措置を講じ無ければ、医療提供の限界を超えてしまい、国民の生命・健康を保護出来ず、社会混乱を招く恐れが生じる事態〕を示すとされて居る。
実は、特措法が改正される直前に、筆者は或るネット番組で〔ヒゲの隊長〕殊・佐藤正久参院議員と対談したが、一刻も早く緊急事態宣言をすべきとの意見で一致した。筆者は特措法が施行された3月14日か、厚労省情報が大阪等に伝えられた16日か、コロナ専門家会合が在った19日の何処かで〔緊急事態宣言〕を出すべきだったと考えて居る。
感染爆発してからでは遅い
政府では、感染症予測モデルの予測結果は何処迄共有されて居るのだろうか。政府高官は現状を〔ギリギリ〕と表現するが、そうで有れば予測が上振れしたらオーバーシュートすると考えられるので〔緊急事態宣言〕を出して置か無いといけ無い。法律では〔おそれ〕と書いて居るが、現実にそう為ってからでは遅い。
筆者が本コラムで毎週出して居る上の図の様なデータは、トランプ大統領の会見の時にも出されて居た。これを虚心坦懐に読めば、上振れしたらもうオーバーシュートに為る。今でサエ緊急事態宣言は遅過ぎると云う状況だ。
橋 洋一 経済学者 以上
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