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2020年04月02日

サイゼリヤでコロナ助成金の「不使用」が問題に 独自の特別休暇に不満や疑問の声





 サイゼリヤでコロナ助成金の「不使用」が問題に 

 独自の特別休暇に不満や疑問の声


     〜今野晴貴 NPO法人POSSE代表 雇用・労働政策研究者 4/2(木) 18:00〜


               42211.jpg

              NPO法人POSSE代表 今野晴貴氏

 「コロナ休業補償」の助成金不使用 サイゼリヤへ申し入れ

 人々の暮らしに新型コロナの影響が広がる中、今日のNHKのニュースで注目すべき出来事が報じられた。国が整備した保護者支援の助成金制度が企業に適切に活用されて居ないケースが観られると云うのだ。

 臨時休校に伴う助成活用されず 厚労省 企業に利用促す様指示(NHK NEWS WEB)

 NHKの取材に対し「会社が国の助成金を利用して呉れ無い」と語ったのは、大手飲食チェーンの株式会社サイゼリヤの店舗で働くパート従業員のAさん(30代女性)だ。 実は、この事件は筆者が代表を務めるNPO法人POSSEにAさんが相談を寄せた処から発覚した。
 Aさんはその後個人加盟の労働組合・総合サポートユニオンに加入し、会社に対して〔新型コロナウイルス感染症に依る小学校休業等対応助成金〕を利用する事、そして、コノ制度の対象に為る従業員の休業に際して賃金を全額支払う事を求めて居る。

 国は、助成金制度を整備し、労働者が子供の世話をする為に仕事を休まざるを得無かった場合でも賃金が保障される仕組みを整えた筈だ。何故、Aさんはこの様な行動を起こしたのだろう。
 この助成金は、小学校・保育園等の臨時休業を受けて、労働者が子供の世話をする為に休暇を取得した場合に支給の対象と為る。助成金は労働者に対して支給される訳では無く、労働者に有給の特別休暇を与えた企業に支給される。
 労基法上の年次有給休暇とは別の〔有給休暇・賃金全額支給〕を労働者に取得させる事が条件と為って居り、労働者に支払った賃金に相当する額が企業に助成される。(1日当たりの上限は8,330円)

 しかし、会社が制度を利用する事に法的な義務は無い。Aさんは、この助成金を利用して賃金相当額を保障して欲しいとこれ迄何度も会社に訴えた。しかし、聞き入れられる事は無く、今回の申し入れに至ったと云う。
 Aさんの他にも、NPO法人POSSEには、同様の相談が多数寄せられて居る。今回のサイゼリヤの申し入れは、この問題の氷山の一角に過ぎ無いと思われる。 ソコで、コノ記事では、サイゼリヤでの助成金不使用の問題を紹介した上で、勤務先の企業が助成金を使用する事に消極的な場合にどうすれば好いのかを解説したい。

 独自の特別休暇の支給額は一律2千円/日

 サイゼリヤでは、従業員の子供の通う小学校等がコロナに依り臨時休業した際の〔休暇取得支援〕に当たって、国の助成金を使用し無い代わりに、会社独自の特別休暇制度を運用して居ると云う。
 だが、Aさんを初めサイゼリヤの従業員の一部は、疑問や不満の声を上げて居る。その理由は、国の助成金を使用した場合の〔有給休暇〕とサイゼリヤ独自の〔特別休暇〕を比較すると、サイゼリヤの制度の方が労働者に不利だからだ。下記の表を見て欲しい。

     42210.jpg

 この表の通り、サイゼリヤ独自の特別休暇は、国の助成金制度の〔有給休暇〕に対して、対象期間で3分の2以下・支給金額で半分以下の条件である。これでは、国の助成金制度を利用して欲しいと云う声が上がるのは当然だろう。
 しかも、国の助成金制度に付いては、対象と為る休暇取得の期限が6月30日迄延長される予定だ。(厚労省プレスリリース参照)Aさんの団体交渉申し入れの様子はYouTubeでも配信されて居る。

 助成金を使って欲しいと云う切実な声

 こうした問題はサイゼリヤに限ら無い。先程も述べた様に、NPO法人POSSEには、勤務先の企業が国の助成金を申請せず、適切な休業補償を得られずに困って居ると云う相談が多数寄せられて居る。その一部を紹介しよう。

 ⊡ 40代・女性 パート Web制作 子供が通う小学校が休校と為り、在宅勤務を希望したが拒否された。仕事を休んで居るが、会社から「特別休暇は出さ無い、厚労省の休業補償は導入し無い」と伝えられた。その上で「先ずは有給休暇で対応し、有給休暇が無く為れば欠勤扱いにする」と言われた。貴重な有給休暇が無く為り収入も減ってしまうので困って居る。

 ⊡ 30代・女性 正社員 事務 シングルマザーで普段は子供を保育園に預けて居るが、コロナ対策で休園と為ったので子供の面倒を見ないといけ無い。その為、会社に助成金を申請して欲しいとお願いしたが「面倒なので遣りたく無い」と言われてしまった。厚生労働省が委託して居る助成金相談窓口に相談したが、会社の担当者から連絡する様にと言われるだけだった。休業補償が貰え無いと生活が苦しく会社を休む事も難しい。


 ・・・こうした相談からは、何等かの理由で、会社が助成金を申請して呉れず、ソコで働く労働者が追い詰められて居る実態が見えて来て居る。

 どうして助成金を利用し無いのか

 では、何故国の助成金を利用しようとし無い企業が後を絶た無いのだろうか。この助成金制度は手続きの煩雑さや支給要件は通常の助成金よりも相当緩和されて居り、そのハードルはそれ程高く無い。こうした制度上の配慮が有っても尚、必要な人に助成金が届か無いのはどうしてだろうか。

 先ず、一部のケースでは、会社に財政的な負担が生じる事が原因と為って居る様だ。この助成金の支給要件として通常の賃金を日額換算した金額が支払うべき事定められて居る一方で、支給額には上限額(8,330円/日)が有る為、日額換算した賃金額が8,330円を上回る場合、会社にも財政的負担が生じるのだ。
 その負担を忌避して助成金を申請し無い会社が在る。こうした対応を防ぐ為には、上限額の引き上げや撤廃を検討する必要があるだろう。 又、会社が対象労働者を休ませたく無い為に、助成金の申請をしないケースもある。例えば、前出のサイゼリヤのケースでは、従業員のAさんが店長にどうして助成金を申請して呉れないのかと問うた処「休む人が多く為るとお店が回ら無い」と答えたと云う。

 サービス業では常に人手不足の状態に在り、休まれると業務運営に支障が出兼ね無いと云う理由から、折角助成金が在るにも関わらず、休暇を取得させ無いと云う対応が起きて居るのだ。更に、会社が、単に助成金申請の為の手続きを面倒臭がって居ると云うケースも見られる。先に紹介した30代女性の例では「面倒なので遣りたく無い」とハッキリ言われてしまって居る。
 現行の制度では、助成金の利用を申請出来る主体が、会社側に限られて居る為、会社が「休ませたく無い」「面倒なので遣りたく無い」と考えて申請しない場合には、労働者が助成金の恩恵を受ける事が困難に為って居る。

 こうした事を防ぐ為には、労働者側も利用の申請を出来る様にし、直接労働者に給付する仕組みを作る必要が有るだろう。

 会社が助成金を申請して呉れない場合にどうすれば好いか

 実は、未だ余り知られて居ないが、3月25日に厚生労働省が各都道府県労働局へ〔労働者からの相談等を端緒とした企業への特別休暇制度導入の働き賭けに付いて〕と云う表題の通達を出して居る。この通達は、この助成金を申請して呉れ無いと云う相談が在った場合に、労働局はその状況を把握し会社の名称・所在地等基本情報を確認し、相談者に当該企業への接触に付いて了解を得た上、記録を取って当該会社に助成金を利用する様促す対応を求めるものだと云う。

 詰り、勤務先の企業が助成金を申請して呉れない場合に、労働局に申告すれば労働局から会社に対し助成金の利用を促して呉れる様に為ったのだ。 個人で会社と話して居ても埒が明か無いと云う場合には、労働局に相談すれば、話し合いに進展があるかも知れない。
 しかし、法律上、会社に助成金制度を利用する義務が有る訳では無い。労働局が促して呉れたとしても、飽く迄それは〔働き掛け〕であり、強制力が有る訳では無い。

 この点で、今回Aさんが採った労働組合による団体交渉と云う方法は、より有効なものだと云える。何故なら、労働組合で在れば、会社に対して直接要望を伝え、説明を求める場をセッティングする事が出来るからだ。
 労働組合が団体交渉を申し込んだ場合、会社は、正当な理由無く交渉を拒否する事が出来ず、拒否した場合には違法行為に為る。労働者個人が会社に話し合いを求めても、真面に応じて貰えず、適当にあしらわれて仕舞う事が多いが、労働組合で在れば、その様な事は無い。その上、会社は、団体交渉に於いて誠実に交渉する義務を負って居る。

 勿論労働組合も、会社に助成金制度を利用する様強制する事は出来無い。労働者が出来るのは、制度を利用する様に交渉する事だけだ。しかし、交渉の場を持てると云う事の意味は非常に大きい。
 労働組合で在れば〔社会的発信〕も可能だ。会社の内部で覆い隠されて居る不当な出来事を社会的なイシューとして問題化する事が出来る。Aさんのケースで云えば、サイゼリヤの様な有名企業が助成金制度を利用し無い為に困って居ると云う事を社会や政策の問題として提起する事が出来ると云う事だ。

 感染拡大の防止に協力する事が社会全体に求められ、国が、休暇を取り易い環境を整備する様企業に呼び掛け、助成金制度迄作って居るのに、会社がそうした制度を利用せずに労働者に負担を負わせて居ると云う事は、例え〔違法〕で無くても〔不当〕な事だと云える。
 こうした不当な扱いに対する異議申し立ては社会の人々の共感を集めるだろう。〔社会的発信〕に依って世論の共感や支持が集まれば、ソレを武器にして、会社と交渉する事が出来る。

 労働組合はこの様な助成金の問題だけでは無く〔コロナ対策を確りして居ない職場〕に対して対策を求める事や〔急を要さない仕事〕に無理に従事させられて感染が怖いと云った問題、或いは時差出勤で満員電車を避けたいのに導入して呉れ無いと云った問題も交渉出来る。
 上に見た様な相談は、実際にPOSSEに多数寄せられて居り、これから順次労働組合に紹介し、会社との話し合いの場をセッティングして行く予定だ。
 コロナ危機によって労働者の権利や生活は脅かされつつ在る。法律で認められた労働組合の権利や交渉力をフルに活用し、会社と交渉して行かなければ自分達を守る事が出来無い。そんな場面も生じて来るだろう。黙って居ても誰かが助けて呉れると云う訳では無いのだ。 

 尚、会社に労働組合が無い場合でも、Aさんの様に、個人で入れる労働組合・ユニオンに加入して会社と交渉する事が出来る。職場で不当な出来事が在り、改善する為に会社と交渉したいと云う方は是非以下の記事もご覧頂きたい。


〔関連記事〕労働組合はどうやって問題を解決しているのか?
〔関連記事〕「不要不急の労働」を拒否する人々 新型コロナで世界に広がる「ストライキ」の波


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 今野晴貴 NPO法人POSSE代表 雇用・労働政策研究者 NPO法人POSSE代表 ブラック企業対策プロジェクト共同代表 年間2500件以上の若年労働相談に関わる 著書に『ブラック企業』(文春新書)『ブラックバイト』(岩波新書)『生活保護』(ちくま新書)『日本の「労働」はなぜ違法がまかり通るのか?』(星海社新書)など多数 2013年に「ブラック企業」で流行語大賞トップ10 大佛次郎論壇賞などを受賞 共同通信社・「現論」連載中 一橋大学大学院社会学研究科博士後期課程修了 博士(社会学)大学講師 無料労働相談受付:soudan@npoposse.jp、03−6699−9359 konno_haruki haruki.konno.9  official siteNPO法人POSSE




















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