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2020年01月20日

危機的な少子化問題 新しい発想で対策を考える




 危機的な少子化問題 新しい発想で対策を考える

              〜現代ビジネス 1/19(日) 11:01配信〜


 〜少子化が急速に進んで居る。急激な少子化が数々の深刻な社会問題を引き起こす事は、徐々に常識に為りつつある。少子化を何とか押し留め様と、政府は様々な手を打って来た。にも関わらず、少子化の勢いは鈍って居ない。少子化のスピードを遅らせる為には「何故人は子を持つのか?」と云う根本的な問題を考えてみる必要がある。動機付けの問題である。そこからは、これ迄とは全く違った少子化対策が浮かび上がって来る〜

 少子化対策の限界

 これ迄、様々な少子化対策が実施されて来た。が、その最大の問題は、どの対策も充分な効果を上げて居ないことである。児童手当の支給・保育園への助成等、施策は多岐に渡るが何れも少子化にブレーキを掛けるには至って居ない。
 もうひとつの大きな問題は、対策の多くが予算措置を必要とする事である。少子化対策に「成功」した例として、好くフランスが挙げられるが、そのフランス並みの対策を講じ様とすると、7兆円近い追加予算が必要に為ると試算されて居る。(1)

 一方、国の財政にはユトリが無い。「赤字国債」の残高は883兆円に上り、国民1人当たり700万円もの借金をして居ることに為る。(2)「先進工業国」の中では、突出した額の借金である。GDP(国内総生産)に対する比率でみると、フランスの場合、国債の残高はGDPとホボ同程度(96.3%)だが、日本の場合は、2倍半近く(236%)にも為る。(3)フランス並みの対策を講じる事は、極めて困難なのである。

 生物学的な動機付け

 これ迄の少子化対策は、何れも「誰もが『子を持ちたい』と望んで居る」と云うことを前提にして居る。子を持ちたくても、シバシバ「経済的に余裕が無い」「仕事と子育ての両立が難しい」と云った障害があり、その障害を取り除く事が、少子化対策の主眼に為って来たのである。
 確かに、多くの人は「子を持ちたい」と望んで居る。この望みは、自分の遺伝子を残そうとする生物の基本的な欲求に根ざして居る。しかし、こうした生物学的な動機付けだけで充分なのであれば、ソモソモ少子化問題が生じる筈は無い。

 遺伝子を残す為の生物学的な仕組みは、身体的には受精に繋がる行為が脳内の快中枢を刺戟する事であり、心理的には恋愛感情が生じる事である。処が、避妊や中絶の技術が発達した結果、こうした生物学的な仕組みは、出産には繋がら無く為って来た。生物学的な動機付けは、少子化対策の基盤としては、効力が弱まって来て居るのである。

 子育てのコスト

 一方、子育てには大きなコストが伴う。子を1人育てる為には、1千万円掛かるとも、2千万円掛かるとも言われる。夫婦と子供2人の世帯では、第2子が大学に進学すると子育てのコストは可処分所得の70%にも達すると云う。(4)
 更に、子育ては多大の時間と労力を要する。子育てと並行して仕事を続け様とすると、重い負担に喘が無ければ為ら無い。かと云って、子育てに専心すると、キャリアが中断して出世や昇給の上で不利に為ることが多い。一人親家庭の場合は、ソモソモ「子育てに専心する」と云う選択肢は無い。子が非行等の問題を起こす危険もあり、自分が子を虐待してしまう危険もある。

 子を持つ事を促す生物学的な動機付けの効力が弱まる一方で、子を持た無いことを促す社会的な動機付けは強まって来て居るのである。生物学的な動機付けの中には「子を持ちたい」と望む心理的な欲求も含まれているが、これには個人差があり、子供を「うるさい」とは感じても、特に「可愛い」とは感じ無い人も居る。
 価値観にも個人差があり、子を持つ事よりもキャリアを重視する人も少無く無い。子育てに何千万円もの金額を費やすより、その金額を自分の為に使いたいと考える人も居る。そうした人々は「子を持た無い」と云う選択肢を選び、少子化が進行する事に為る。
 
 経済的な動機付け

 しかし、過去を振り返ってみると、子を持つ事には、生物学的な動機付けの他に、経済的な動機付けも働いて居たことが分かる。年金制度が整備される前は、年老いて働け無く為った時、充分な資産が無い限り、老後の生活は自分の子に支えて貰う必要があった。
 年少児の死亡率が高かった時代には、子が居なく為ってしまうと云う危険を避ける為に、多くの子を設けて居た。子に恵まれ無ければ養子を取ることもあった。しかし、年金制度が整備された現在、老後の生活を支える為には、子を持つ必要は無い。年金が支えて呉れる。詰まり、現在は経済的な動機付けも働か無く為っているのである。

 年金制度の落とし穴

 その年金の仕組みを見ると「現役世代が支払って居る保険料を原資にして、高齢者に年金を支給する」と云う形に為っている。その「現役世代」は、子を持た無い人に取っては他人の子である。即ち、子を持たずに年金を受給して居る人は、他人が育てた子供達に老後を養って貰って居ることに為る。
 子を育てる為には何千万円かの費用が掛かるが、子を持た無い人はそれを自分の為だけに使う事が出来る。老後は、他人が何千万円かの費用を賭けて育てた子供達に生活を支えて貰う事が出来る。言い換えると、子を持つ人から子を持た無い人への所得移転が生じて居る事に為る。

 子を持た無い人は子を持つ人に「只乗り」して居る訳で、経済学で言う「フリーライダー問題」が生じて居ることに為る。これは道義的な問題として捉える事も出来る。何れにしても、経済的な動機付けは、現在では、子を持つ事を妨げる方向に作用して居るのである。

 ストレートな対策

 少子化のスピードを緩める為には、子を持つ事への動機付けを高める必要がある。生物学的な動機付けの効力が低下して来て居る現在、経済的な動機付け迄が子を持た無いことを促進して居る様では、少子化は進むばかりである。経済的な動機付けが子を持つ事を促進する様に、社会制度を設計し直す必要がある。
 ここ迄の考察から自然に出て来る少子化対策は「子を持た無い人には年金を支給し無い」と云う年金制度の改革であろう。この改革が実施されれば、経済的には、子を持た無いことは有利では無く為る。子を持つ人から子を持た無い人への所得移転も無く為る。

 キリギリス問題

 しかし、このストレートな対策には問題もある。「キリギリス問題」である。イソップの寓話「アリとキリギリス」を想起しよう。現役の時には退職後のこと等考えずに、貯蓄もせず子も持たずに裕福な暮らしをしてしまう「キリギリス」が出て来る可能性がある。こうした「キリギリス」は、退職後、年金が支給され無ければ忽ち困窮することに為る。
 「キリギリス」の数が少なければ「自業自得」と突き放すことも出来るだろう。しかし、数が多く為れば、社会不安の源に為りかねないので、放置する事は出来ない。

 また、将来、自分が年金を受給出来ないと云うことに為れば、保険料を支払おうと云う動機付けは消える。その結果、子を持た無い人が保険料を支払わ無く為れば、年金制度を維持する事は困難に為る。従って「年金を減額する」事位は可能かも知れないが「年金を支給しない」と云う対策は現実的では無い。

 現実的な対策

 それより現実的で、しかも効果が期待出来る対策は「子を持た無い人には、社会保障(年金と健康保険)の保険料を増額する」と云う措置である。どれだけ増額するかは、子育ての費用を基準にして考えることになる。
 現在は、子を持た無いことが経済的に有利に為っている。しかし、子を持た無い人の保険料が高く為り、子育ての費用と変わら無くなれば、子を持た無いことの経済的な利点は消える。経済的な動機付けが子を持た無いことを促進する事は無くなる。一歩進んで、子を持た無いことが経済的に不利に為る様に増額幅を設定することもできる。

 「子を持た無い人には年金を支給しない」と云うストレートな対策の場合は、現役世代には年金の受給が遠い将来の事に感じられて「キリギリス問題」が生じる恐れがある。しかし「子を持た無い人の保険料を高くする」と云う対策の場合は、毎月、高い保険料を実感する事に為るので、経済的な動機付けが働き易くなる。子を持つ事が経済的に不利で無くなれば、或は有利に為れば、子を持つ人が増えると期待する事ができる。

 年金改革の利点

 この対策の最大の利点は、予算措置を必要とし無いことである。国が膨大な借金を背負って居る現在の財政事情の下でも実施が可能である。
 仮に「出生数を増やす」と云う効果が充分に大きく為らなかったとしても、保険料の増額によって生じた財源は、子育て支援など他の少子化対策に振り向ける事ができる。フランスで効果を上げた少子化対策が実施できるかも知れない。

 近年は、非正規雇用の増加などに伴って、低所得層の割合が拡大して来ており、特に年収が300万円に満たない層では「そもそも結婚すること自体が難しい」と云う問題も出て来た。財源が増えれば、こうした層の税額控除を拡充する等、結婚を支援する対策も実施出来る。又、保険料の増額に、所得に応じた累進制を導入すると云う措置も考えられる。

 出生率が低下する原因の一つは、晩婚化だと言われている。また、結婚はしても、出産を遅らせる結果、子を持とうとした時には高齢になっていて、出産が出来なくなっている、或は出産が1回しかできなくなっている、という問題も指摘されている。
 子を持たない人の保険料が高くなれば、高い保険料を支払い続ける事を避け様する心理が働いて、こうした晩婚化や出産年齢の高齢化に歯止めが掛かる可能性もある。

 大義名分

 この対策には道義的な大義名分がある。現在は、子を持たない人は、他人が育てた子どもたちに老後を支えて貰っている。しかし、子を持たない人の保険料を増額すれば「国の将来を担う新しい世代を育てる為に、国民全員が公平な経済的負担をする」と云うことに為る。子を持つ人から子を持た無い人への所得移転は無くなり、先の「フリーライダー問題」も解消する。

 少子化対策の財源を増やす為には「西欧諸国並みに税金を引き上げる」と云う方策が提唱されて居り、何れ、れが必要に為るかも知れない。しかし、この方策を取った場合は、子を持た無いことが経済的に有利になると云う現状は変わら無いことに為る。
 従って、この方策には経済的な動機付けの効果を期待する事が出来ない上に、年金制度の公平性と云う点に限っては大義名分も無い。

 目前の危機

 日本の人口は10年程前から減少に転じた。この先、人口は、崖から突き落とされる様な勢いで減って行くと予想されている。50年後には8千万人近くに迄落ち込むと云う予測もある。(5)人口がピークだった2008年頃と比べると、4千万人以上減る事に為る。これは、東京を中心とする首都圏(1都7県)の現在の人口がソックリ消えてしまうことに相当する。

 今後50年の間、少子化は人口の高齢化と同時進行することに為る。生産年齢人口が減り続ける一方で、年金を受給する高齢者の人口は増え続けて行くのである。何れ、現役世代は高齢者を支え切れなくなり、年金制度は崩壊する恐れがある。

 年金改革は不利益か?
 
 これまでの少子化対策は、助成金、無料化など、何れも経済的な利益を供与する形を取っていた。一方、「子を持た無い人の保険料を増額する」と云う措置は、子を持た無い人に経済的な負担を課す事に為る。その為この対策の実施には大きな困難が予想される。子を持た無い人は、保険料の増額と云う政策には好意的に為れないに違い無い。
 しかし、保険料の増額に反対して居ると、自分が高齢者に為った時には、年金制度が崩壊して居て、年金が受け取れ無く為っているかも知れない。人口の急減に伴って国内需要も急減し、自分の仕事が無くなってしまうかも知れない。

 今後、現役世代の割合は減少して行くが、保険料の増額と云う対策は、現役世代が減り過ぎると現実的では無く為る。現役世代の人口が未だ60%近い割合を占めて居る今が、最後のチャンスかも知れないのである。


 【出典】

 1. 「子どもと家族を応援する日本」重点戦略検討会議 2007年4月 (金子隆一 (2019) 「人口減少社会の歴史的位置づけ ― 2つの人口転換」)。
 2. 平成30年度現在。財務省「財政に関する資料」2019年5月30日
 3. 平成30年4月現在。財務省「財政に関する資料」2019年5月30日
 4. 厚生労働省「今後の子育て支援のための施策の基本的方向について」 1994年12月16日
 5. 国立社会保障・人口問題研究所 「日本の将来推計人口(平成29年推計)」


           近未来ビジョン  以上








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