2020年01月13日
総理大臣と記者との会食が引き起こして居る 問題の深刻さに気付か無いメディア
総理大臣と記者との会食が引き起こして居る
問題の深刻さに気付か無いメディア
〜「インファクト」編集長 立岩陽一郎 1/13(月) 9:09 〜
年明け早々、メディアの在り方に少なからぬ人が怒りを覚えた事をメディアは知ら無い様だ。それは、首相の動静をチェックしてツイッターで発信して居る「総理!今夜もごちそう様!」に書かれた内容だ。
総理と記者の会食を伝えるツイート
「(店名)にて、何時もの腐れメンバー(朝日・曽我、毎日・山田、読売・小田、NHK・島田、日テレ・粕谷、日経・石川、田崎シャブ野郎)と総理はご会食為されました」
そのツイートを1月12日に私がリツイートした処、忽ち2000を超えるリツイートで拡散した。常日頃の私のツイートに対する反応の実に100倍だった。ココは個々の参加者と云うより、参加の形態に注目したい。何れも日本を代表するメディアから1人が参加して居る。これが会食の肝であり、同時にそれが問題点で有る事は後述したい。
この安倍総理と「腐れメンバー」との会食は度々批判されて来た。それは、森友・加計問題から桜を見る会の問題に至るまで、国民の多くが抱いて居る疑問に総理とその政権が応えて居ない中で、メディアが取り込まれて居ると云う印象が強く持たれているからだ。
特に、桜を見る会に付いては安倍総理は勿論、夫人の関与も明らかに為って居る。こうした中で「何時もの」のメンバーが総理と会食したと云う事実は、ジャーナリストの見識の無さを物語って余りある。
一つ言える事がある。これは少なくとも私が知るアメリカのジャーナリズムの世界では記者の倫理違反に為る。私はNHKに在職して居た2010年から2011年迄、アメリカのジャーナリズム・スクールに在籍した。又、NHKを退職した2017年にも再びフェローとして在籍した。
ソコで教えられる事は、コンピューターやFOIA・情報公開法を駆使した取材法等だが、実は、最も重視されて居るのが、ジャーナリストの倫理だ。これは基本中の基本として教えられるし、常に議論をして居る。担当して居たリン・ペリー教授は次の様に語った。
「例えば、取材先と食事をしたり、取材先に過度な贈り物をしたりするのは、取材者としての倫理に違反する事に為ります」
ペリー教授はアメリカの全国紙であるUSAツデーで記者・デスクを経験したベテラン・ジャーナリストだ。私は次の様に問うた。
「日本では、取材者は取材先の懐に入り込む事が重視されるが、その際に、食事をしたり酒を飲んだりと言った事が奨励されて居るが?それはアメリカでは違う?」
ペリー教授の答えは明快だった。
「私自身は、約30年近い記者生活で、取材先から食事に誘われた事は何度も有りますが、そうしたものに応じた事は有りません」
詰まりアメリカでも、取材される側がジャーナリストを食事に誘う事は有ると云う事だ。では、ペリー記者は何故断ったのか?
「それは単なる癒着だからです。例えば、取材先と親しく為って得た情報で記事を書いても、それは評価されません。それは単に、相手に利用されて居るだけと見做される危険も有ります。そう為ったらジャーナリストとしては終わりです」
その時、成程と思わされたのは、日米のジャーナリズムの質の違いだ。それを説明する前に、補足して置きたい。情報は権力を持った人間に集まる。それは日本でもアメリカでも同じだ。その情報は、アラユル人に対して甘い蜜を発する。だからアリが蜜に吸い寄せられる様に日本のジャーナリストは権力に群がろうとする。
その権力とは、総理大臣を頂点に、有力政治家、高級官僚、捜査機関のトップ、自治体の長、財界トップ、有力企業のトップ等だ。
しかし、そうして得られる情報は、権力の側に都合の良いものであるケースが殆どだ。結果、日本のメディアには、権力側の広報機関の様な報道が蔓延する事に為る。カルロス・ゴーン氏が検察、日産への批判と同時に、日本のメディアへの批判を展開したのはそれを指して居るし、これ迄もそうした批判は有った。 処が、アメリカのジャーナリストに取ってその蜜は実は余り甘く無いと云う事とだ。
元日本経済新聞編集委員でコロンビア大学ジャーナリズム・スクールを卒業して居る牧野洋氏も、その点を指摘する。
「例えば、日米でジャーナリストに与えられる賞が有ります。アメリカではピューリッツアー賞、日本は新聞協会賞。日経は大型企業の合併をスクープしたとして何度か受賞して居ます。所が、世界的な企業の合併を何度もスクープして居るウォールストリート・ジャーナルはそれらでは受賞して居ない」
ソコに日米のジャーナリズムの違いが有ると牧野氏は指摘する。
「合併の記事は何れは発表されるものです。それを先に書いただけの事で、それはアメリカでは評価され無い」
当然の話だが、企業の合併話とは、ジャーナリストが頑張って書か無くても何れ発表される内容だ。発表を待って書いた処で、社会に取って何の不都合も無い。合併記事に限らず日本の所謂「スクープ」にはそうしたものが多い。否、正直言うと、殆どがそうしたものだ。そして、それが評価される。
そう考えると、何故日本ではメディアが権力に吸い寄せられるのかが理解出来る。それが「スクープ」を生み、自身のジャーナリストとしての評価を上げる事に為るからだ。その結果が「何時もの腐れメンバー」による総理大臣との会食と為る。
例えば「日米貿易協定の締結へ」とか「安倍総理、トランプ大統領と会談へ」「ゴーン会長逮捕へ」等と云った報道は、そうした日本ジャーナリズムの産物だ。しかし考え無ければいけ無いのは、それは飽く迄「」付きのスクープでしか無いと云う点だ。
否、ここは明確に書いた方が良い。何れ発表される内容を先駆けて書くのはスクープでは無い。本来、ソコに日米の差は無い。それを殊更高く評価するのは日本のメディアの悪しき慣習でしか無い。
前出の牧野氏は、企業合併の「スクープ」には顕著な点があると指摘する。
「そうした企業合併のスクープで使われる言葉が『業界再編が加速する』です。詰まり、それは良い事、それによって社会が良く為ると云う意味付けをする。正に、リークする側は、それを求めて居る訳で、それを思った様に書いて呉れる記者にリークする訳です」
詰まり、後に発表される情報を先駆けて「スクープ」すると云う作業そのものが、ジャーナリズムが権力の僕(しもべ)に為る過程に為って居ると云う事だ。
そう為ると更に判り易いりは「〜へ」と云う記事が顕著なのはNHKの政治報道だ。それを「スクープ」と称して自画自賛して居る。勿論、アラユル報道機関に取って政治日程を事前に入手する事は意味が無い訳では無い。
事前に準備が進められると云う内向きな側面以外にも、それを多くの人に知らせる事に意味が有る事も間違い無い。しかし、それを報じる為にのみジャーナリストが権力に吸い寄せられる現状はソロソロ終わりにしないといけ無い。
此処で今回のツイートに戻りたい。安倍総理との会食に参加したのは主要メディアから各社1人だ。ココが正に、安倍総理の狙いでもある。実は、日本の記者は他社との競争以上に、自社内での競争を意識して居る。これは間違い無い。
そうした心理を上手く突いて「貴方の会社で私が信頼して居るのは貴方だけです」と言葉を投げる訳だ。この「信頼」とは、裏を返せば「貴方は私の信頼を裏切りませんね」と云う事に為る。正に、権力によるジャーナリストの懐柔以外の何物でも無い。
そう指摘すると「私の筆は会食をしても鈍る事は無い」と大見えを切る自称「大物記者」が居る。しかし、そうした記者が取材先を一刀両断にした記事を私は読んだ事が無い。
この会食に付いてメディア各社は「それは記者の個人的な取材活動だ」としてコメントを避ける。しかし、私のリツイートに書かれたコメントを読んで居ると、そういう状況では無く為って居る事が判る。例えば、コメントの中に次の様なものがあった。
「毎日(新聞)が頑張って居るので購読を始めたが、毎日(新聞)も参加して居る事を知り解約した」
容易に想像が着くのは、この書き込みをした人は意識の高い人だ。そう云う人に取って、記者が定期的に総理大臣と会食すると云う行為は、不祥事と等しく感じられる様に為って居ると云う事だ。極めて健全な反応であり、その声を重く見た方が良い。ジャーナリストとはどうあるべきか?メディアの役割とは何か?もう一度、考え直す時が来て居る。
「インファクト」編集長 立岩陽一郎
調査報道とファクトチェックを専門とする「インファクト」編集長 アメリカン大学(米ワシントンDC)フェロー 1991年一橋大学卒業 放送大学大学院修士課程修了 NHKでテヘラン特派員・社会部記者・国際放送局デスクとして主に調査報道に従事 政府が随意契約を恣意的に使って居る実態を暴き随意契約原則禁止の切っ掛けを作った他、大阪の印刷会社で化学物質を原因とした胆管癌被害が発生して居る事をスクープ 「パナマ文書」取材に中心的に関わった後にNHKを退職 単著に「トランプ報道のフェイクとファクト」「NPOメディアが切り開くジャーナリズム」「トランプ王国の素顔」共著に「ファクトチェックとは何か」など
以上
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