2020年01月13日
中国は本当に特殊なのか? 揺らぐ「民主主義と市場経済」の優位性
中国は本当に特殊なのか?
揺らぐ「民主主義と市場経済」の優位性
〜現代ビジネス 野口 悠紀雄 1/12(日) 7:01配信〜
如何為(いかな)る技術も、プラスとマイナスの側面を持って居る。中国との関係で特に問題と為るのは「AIやビックデータと云う情報関連の新しい技術に関して、中国の社会構造が有利に働くのではないか」と云う事だ。これは、未来世界の基本原理に関わる根源的な問題を提起する。
中国では、市場経済のインフラが未発達だった
伝統的な地域社会に於いては、その構成員は、お互いの事を好く知って居た。しかし、それは自由が束縛される社会でもあった。人々が都市に住む様に為って、自由な社会が作られた。それは、半面に置いて匿名社会でもある。そこでは、取引相手に着いての情報を十分には得られ無いと云う問題が生じた。これは、経済学で「情報の不完全性」とか「情報の非対称性」として問題にされて来た事だ。
市場取引を行う為には、相手の事を知り、信頼出来るかどうかを評価する事が必要だ。情報が不完全な社会で、これをどの様にして行なうかが近代社会の大きな問題だった。
中国では、取り分けコレが大きな問題であった。社会主義経済が長く続いた事から、市場経済のインフラストラクチャーが未発達だったからだ。
アリババが作ったEコマースのサイトタオバオで、最初はオンラインだけでは取引が完結し無かったと云うエピソード(11月10日公開「アリババの強さの秘密、その独自のビジネスモデルを分析する」参照)が示す様に、信頼に基づく取引が出来無い様な社会だったのだ。又、多くの人が金融サービスにアクセス出来無かった。
ITによる市場の透明化が持つ重要な意味
ソコにインターネットが登場した。勿論、インターネットの世界に於いては、対面取引の場合よりも、取引相手の信用が難しい。為り済まし等が簡単に出来るからだ。これは、2つ方法で解決された。
1つは、アマゾンやアリババの様に巨大化した主体で有れば、信頼を獲得出来る事だ。中国でこれ迄Eコマースが発展したのは、アリババが巨大化したからだと考えられる。
今1つは、AIによるプロファイリングだ。これに依って取引相手がドンな人かが分かるので、安心して取引出来る様に為った。
信用スコアに依って、個人や零細企業に融資が出来る様に為ったのはその一例だ。又、テレマティックス保険で保険料を細かく設定出来る様に為ったのもその例である。これ等は、情報の不完全性の問題を克服し、市場を透明にする機能を果たして居る。
これは、明らかに望ましい変化であった。ITのプラスの側面は、中国に於いて重要な意味を持った。中国は、それに依って成長を加速したのである。
しかし管理社会の危険も
しかし半面で、これはプライバシーの侵害と云う問題を引き起こした。これが、信用スコアリングや顔認証に着いて、現実の問題と為りつつある事だ。それは、管理社会や独裁政治を可能とするものだ。特に中国の場合には、少数民族対策や反政府的な考えの人々を取り締まる為に使われる危険が大きい。
これは、中国がこれから直面して行く問題である。或いは、既に直面して居る問題である。但し、ITやAIがもたらす問題は、中国だけが抱えて居るものでは無い。自由主義経済と民主主義政治を基本にする国家に於いても、問題が生じつつある。
ビッグデータを用いたプロファイリングが行われ、これ迄はターゲティング広告に使われて来た。その利益は、GAFAを代表とする一部の巨大プラットフォーム企業に集中した。これが今問題とされ、ビッグデータ利用の規制やデジタル課税の論議を引き起こして居る。更に、より明確なマイナス面も顕在化して居る。
それは、スコアリングやプロファイリングが悪用され始めて居るからだ。ケンブリッジアナリティカと云う調査機関に依って、フェイスブックの情報が悪用され、アメリカ大統領選に於いて利用されたと云う問題が生じた。日本でも、就職情報サイト「リクナビ」を運営するリクルートキャリアが、学生の内定辞退率を予測したデータを企業に提供して居たと云う問題が起きた。
ビッグデータと云う新しい問題
何故この様な事に為ったのだろうか? それは、ビックデータの性質に起因する面が強い。IT革命が始まった頃、これに依って社会がフラット化すると考えられた。それ迄の大型コンピューターからPCに為ったので、個人でもコンピュータを使える様に為った。
又、インターネットは、世界規模での通信を殆どゼロのコストで可能にするものであった。この為、大企業の相対的な地位が低下し、個人や小企業の地位が向上すると考えられたのだ。しかし、実際には、利益がGAFA等の一部の企業に集中して居る。これは、ビックデータを扱えるのが大企業だけだからだ。
ビックデータとは、SNSの利用経歴等を蓄積して、そこからAI(人工知能)の機械学習の為に蓄積された膨大なデータだ。これに依って、プロファイリング等を行なう。個々のデータを取って見れば殆ど価値が無いが、それが膨大な量集まれば、そこから経済的な価値を引出す事が出来る。
この様な事は、個人では出来ない。GAFAの様な巨大なプラットフォーム企業に於いて初めて可能な事である。この為に、GAFAが利益を独占したのだ。
ビッグデータをどう扱ったら好いのか?
ビッグデータは、比較的最近登場したものなので、その取り扱いに着いての社会的なルールが確立されて居ない。それをプラットフォーム企業が勝手に使って良いのか? 或いは、個人データの所有権は個人に有るのか? こうした問題を巡って様々な議論が為されて居る。
GAFAの規制や、プロファイリング禁止等の考えが出されて居る。しかし、何れも実効性の有るものに為るとは考えられ無い。新しい情報技術の望ましい面や経済活動を効率化する面を利用しつつ、しかもそれによる弊害をどの様にしてコントロール出来るか。これは簡単な問題では無い。これ迄とは違うルールが必要に為る。それは社会の基本的な仕組みの変更を要求する問題なのかも知れない。
中国はAIに適している社会なのか?
自由主義諸国に住む多くの人々は、次の2つが望ましいと考えて居る。即ち、政治的には投票と多数政党による民主主義。そして、経済的には自由な取引が行える市場経済である。
先に見た様に、改革開放以降の中国の経済成長は、政府が主導したと云うよりは、新しく誕生した企業によって実現された。特に、最近では、IT関係のユニコーン企業の躍進が目覚ましい。それは、市場経済の優位性を証明する様も思える。
しかし、ビッグデータは、大企業や政府で無いと収集・活用出来ないと為れば、従来の自由主義経済の基本概念である分権的な決定メカニズムに対して、基本的な疑問が生じる。
ビックデータについては、中国が他の社会より集め易いのだ。それは、先ず、市場経済の基本的インフラが整備されていなかったために、メリットが大きいことから、人々が受け入れているということによる。自由主義諸国ではプライバシー侵害の弊害が強く意識されるが、中国ではプロファイリングのプラス側面が強く意識されるのだ。
それだけでは無く、政府の力が強いこと、人々がプライバシーの保護を余り重要と考えて居ない等の理由にもよるのかも知れない。もしそうだとすると、AIの進歩の為に有利なのは、自由主義的な経済では無く、中国の様な社会なのかも知れ無い。
少なくともこれ迄の経緯を見る限り、ビックデータに関する中国とその他の国の違いは明白だ。アメリカが中国に対して大きな懸念を持つ理由は、この点にある。AIは軍事技術にも直結するので、アメリカは強い危機感を抱いて居る。
民主主義と市場経済の優位性は揺らぐのか?
これ迄多くの人は、中国も豊かに為れば政治的にも自由化するだろうと考えて居た。独裁政治と市場経済が結び付けば腐敗が生じる。そして経済が停滞する。だから、自由化は不可避だと考えて居たのだ。しかし、中国においては一向に自由化の動きが生じ無い。天安門事件以来、自由化は封鎖された様に見える。
SNSが普及すれば、政府への批判も出来る様に為るから、民主化が出来ると期待して居たが、そうにも為って居ない。
これ迄の中国国民がプライバシーに関心を持た無かったとしても、それは中国の特殊性なのでは無く、豊かに為って来れば自由主義諸国と同じ様に為って行くと云う考えもある。しかし、そうした動きが生じて居る様にも見えない。
民主主義社会、市場経済の方が望ましいと云う基本信念が、今揺らいで居るのかも知れない。これは、未来社会の基本的な姿を決める極めて重要な問題だ。
野口 悠紀雄 以上
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