2020年01月11日
ゴーン国外逃亡は我々に何を問うて居るのか 郷原信郎氏(弁護士)
ゴーン国外逃亡は我々に何を問うて居るのか 郷原信郎氏(弁護士)
〜ビデオニュース・ドットコム 1/11(土) 20:05配信〜
暮れも押し迫った2019年12月31日の早朝、日本の刑事司法史上前代未聞のショッキングなニュースが日本を駆け巡った。「ゴーン被告国外逃亡!」金融商品取引法違反や特別背任等の容疑に問われ保釈中だった元日産のカルロス・ゴーン会長が、何らかの方法で日本を密出国しレバノンのベイルートに到着したと云うニュースだった。世界中が注目する経済事件で保釈中だった刑事裁判の被告が、国外逃亡を図り見事に成功した瞬間だった。
年明け早々からゴーン氏の逃亡のルートや方法等がメディアを賑わせ「プライベードジェット」や「元特殊部隊」「音響設備ボックス」等の見出しが躍った。そして1月8日、ゴーン氏が初めてメディアの前に姿を見せ、日本の刑事司法制度批判やメディア批判、日産、警察、政府による自身追い落としの為の陰謀論、自らの身の潔白等を2時間近くに及ぶ記者会見で一気に捲くし立てた。
その間政府は、官房長官から法務大臣、延いては東京地検迄が総出で、ゴーン氏の逃亡が決して看過されるものでは無い事や、ゴーン氏が逃亡の理由として居る日本の刑事司法の問題点は逃亡を正当化する為の一方的な言い分であり、日本の刑事司法は正当かつ合法な制度が正常に機能して居る事等を繰り返し主張した。
先ずは日本の出入国管理の態勢の見直し
主権国家としては保釈中だった刑事被告人が裁判を逃れる為に国外逃亡する事が容認され無いのは当然だが、日本の出入国管理の態勢に欠陥がある事が明らかに為った以上、先ずはその点が問題にされ無ければ為ら無い事は言う迄も無い。
ゴーン氏が何をしようが、そこサエ確りして居れば、今回の問題は起きて無いのだ。本当に元特殊部隊員だったのかどうかは定かでは無いが、海外の民間の業者が10日程の下見で、密出国の為の出国管理の穴が簡単に見付かってしまう程、日本の出入国管理が杜撰だった事は重大問題だ。
密出国が出来ると云う事は密入国も可能だと云う事に為る。特に今回は空港から航空機による出国だった様だが、海岸線に囲まれて居る日本としては、他にも密かに出入国する方法が幾らでも考えられる。麻薬等違法物資の持ち込みの可能性等も含め、何を置いても先ず出入国管理の有り方を今一度検証する必要があるだろう。
サテ、問題は日本の刑事司法制度だ。今回、ゴーン氏が脱走に成功した事で、政府は保釈基準の厳格化を再検討すると言ってみたり、密出国と云う違法行為を犯したゴーン氏が主張する日本の刑事司法制度の問題点は「一方的で根拠に乏しい」もので「日本の刑事司法制度は正当かつ正常に運営されて居る」等と必死で現在の刑事司法制度を擁護して居る。
保釈基準に付いては、日本の保釈基準が国際標準と比べて緩いと云う事は決して無い。寧ろこれ迄の「否認をする限り保釈しない」方針が異常だった。
問題はこれ迄人質司法が余りにも長く当たり前の様に続けられて来た為に、司法行政が保釈された刑事被告人を如何に適正に管理するかと云うマインドがマルで欠落して居た事だ。その為今回の様に国際世論に押される様な形で裁判所が保釈を認めてしまうと、抜け穴だらけの管理体勢の下に刑事被告人を置く事に為る。
元より弁護人に、保釈された被告人の管理責任を全て負わせる事等不可能だ。保釈後の管理体勢の欠如は、刑事被告人を精神的に追い込み、自白を取る事によってノミ成り立って来た高い有罪率を誇る日本の「人質司法」の弱点がモロに露呈したと言えるだろう。
何度もの国連の人権委員会や拷問禁止委員会等から改善勧告を受ける日本の司法制度
又、日本の刑事司法がどれだけ問題を孕んで居様が、ゴーン氏の国外脱出が正当化され無い事は言う迄も無いが、同時に彼の言い分が国際社会では一定の支持を得て居る事を重く受け止める必要がある。
詰まり、国際的に見ても有り得無い程の長期の起訴前勾留や、弁護士の立ち会いが認められ無い密室の中で行われる高圧的な取り調べと自白の強要、証拠開示を義務付けられて居ない検察とメディアのリーク報道による被告人に対する社会的な制裁等々、先進国では到底有り得無い様な、明らかに正当性を欠いた刑事プロセスが今も当たり前の様に行われて居ると云う厳然たる事実は、ゴーン氏の脱走が有ろうが無かろうが、何れは日本が直視し無ければ為ら無い問題なのだ。
更に問題なのは、それが「真実を明らかにする為の遣り過ぎ」と云うよりも、被疑者や被告人を精神的に追い込んで「落とす」詰まり抵抗力を奪った上で本人の自由意思によら無い自白を強要する事を目的とした、明らかに非人道的な制度と為って居る事だ。
これは国際的には拷問と見做され、人権上も、制度の正当性と云う意味からも、とても言い訳が出来無いものに為って居る事は、既に日本の刑事司法制度が6度に渉り国連の人権委員会や拷問禁止委員会等から改善勧告を受けて居る事を見ても明らかだ。
これを機会に、日本の刑事司法制度を真に世界に誇れるものに変えて行く努力
しかも、この事は多少でも司法に通じた人間であれば誰でも知って居る事なのに、それが一向に改善され無い。刑事司法の問題は誰も手出しが出来ない「アンタッチャブル」に為って居る事だ。
国を思う気持ちから、逃亡したゴーン氏が許せ無いと云う思いを持つ事は尊い事だが、日本政府も我々も、その思いをゴーン氏を攻撃する事ばかりに消費せずに、この際、日本の刑事司法制度を真に世界に誇れるものに変えて行く事に向けるべきではないだろうか。そうする事で、次に万が一、今回の様な脱走があった時に、「許せ無い」と云う我々の思いを世界中の人々に共有して貰える様な制度を作って行けば好いではないか。
ゴーン氏に逃げられた事よりも、その主張に世界が耳を傾けて居る事を、我々はもっと悔しがる必要がある。当面心配なのは、今回ゴーン氏のカネに物を言わせた逃亡がマンマと成功し、それに対する政治の危機感や国民の怒りが盛り上がって居る現在の状態を、司法官僚達が自分達の権益強化の好機と捉え、その様な方向に世論を誘導しようとして居る事だ。報道する為に捜査機関から情報を頂か無ければ為ら無いマスメディアも、司法官僚にはカラッキシ弱い。
先ずは出入国管理を再点検し、穴があれば確りと埋める事。そして、保釈に付いては今回の件で、殊更に保釈基準を厳格化する等して国際標準から更に遠ざかるのでは無く、より近代的な保釈管理の仕組みを構築する事で、国際標準に則った基準で被告人を保釈しても、簡単に逃げられる事が無い様にする事。
そして最後に、違法に国外脱出した刑事被告人が脱出を正当化する為に展開して居る主張に、海外でも国内でも理解を示す人が一定数出てしまう様な事が無い様に、日本の刑事司法をより人道的でフェアな、少なくとも国連の人権委員会や拷問禁止委員会から勧告される事の無い様なレベルのものに変えて行く事が必要なのでは無いだろうか。
今週のマル激はゴーン逃亡事件の背景とその教訓、そしてその事が我々に突き付けている問いは何なのかなどに付いて、自身が検察出身者で弁護士に転向してからは検察や日本の司法制度の問題を厳しく批判すると共に、ゴーン氏の事件にも独自の情報源を通じて様々な発信を行って居る郷原信郎氏と、ジャーナリストの神保哲生と社会学者の宮台真司が議論した。
郷原 信郎(ごうはら のぶお)弁護士 1955年島根県生まれ 1977年東京大学理学部卒 三井鉱山勤務を経て1980年司法試験合格 1983年検事任官 東京地検検事 広島地検特別刑事部長 長崎地検次席検事 東京高検検事などを経て2006年退官 2008年郷原総合法律事務所(現郷原総合コンプライアンス法律事務所)を設立 2010年法務省「検察の在り方検討会議」委員 著書に『青年市長は司法の闇と闘った 美濃加茂市長事件における驚愕の展開』『告発の正義』『検察崩壊 失われた正義』など
本記事はインターネット放送局『ビデオニュース・ドットコム』の番組紹介です 詳しくは当該番組をご覧ください
ビデオニュース・ドットコム 最終更新 1/11(土) 20:29 以上
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