2020年01月11日
大統領選前に知って置きたい 「アメリカの田舎」にまつわる5つの誤解
大統領選前に知って置きたい 「アメリカの田舎」に纏(まつ)わる5つの誤解
〜クーリエ・ジャポン 1/11(土) 6:30配信〜
トランプ時代は、アメリカの田舎に対する新たな興味を引き起こした。2016年の選挙戦で、トランプ氏が必要として居た競争力を彼に授けたのは、アメリカの田舎・・・所謂「忘れられた」地域に住む、白人の、大学を出て居ない有権者達だった。
世間の関心がドナルド・トランプに集中した事で、アメリカの田舎に住む人々と云えば、主にホボ白人で、保守的な共和党支持者達であると見做す言説が生まれた。田舎に住む人々が、人口密度の高い地域の人々よりもそうした傾向が強いと云う事は、生の数値データから或る程度は理解出来る。
一方で、2016年からミネソタ北西部の農村に住むワシントン・ポスト紙のレポーターである私は、田舎に対するこうした見方が強く為るのをリアルタイムで目撃し、それ等を実情と比べる機会に恵まれた。2020年の選挙シーズンが本格的に始まるに当たって、アメリカの田舎に付いての一般化された話を聞く際に、気に留めて起きたい5つの誤解を紹介する。
誤解@ 「田舎と云えば中西部のこと」
中西部は人口が密集して居ない一地域に過ぎない。国勢調査局の定義によると、都市部や人口が集中して居る場所以外の全ての場所が「田舎」に該当し、その様な地域がアメリカ国土の90%以上を占めて居る。「田舎」は何処にでも在るのだ。
アメリカの田舎は、ラストベルト(東部から中西部に広がる、脱工業化が進んで居る地帯の事)よりも遥かに広い範囲を指す。実際、ニューヨークやカリフォルニア、マサチューセッツ等、田舎とは真逆に位置付けられる様な大都市の傍に田舎が存在するのだ。
誤解A 「田舎の住人は白人」
2018年時点で、田舎とされる地域に住む約22%・延べ1000万人以上が白人では無い。そうした人々は、近所に住む白人達とは大きく異なる政治的考えを持って居る事が多い。選挙戦が非常に僅差で争われる場合、ペンシルヴァニアやウィスコンシンの様な激戦州において、田舎に住むマイノリティからの支持が状況を一変させる事も有り得る。
こうした数字を見ると、次の様な疑問が湧いて来る。南東部の田舎に住む黒人の有権者達は、2020年の選挙戦で何を求めるのか? 中西部の激戦区に住むネイティブアメリカン達は、大統領への弾劾手続きをどう考えて居るのか? 西部の田舎に住むヒスパニック達は、民主党候補に何を求めるのか?
しかし私達は、これ等の問いに対する的を得た答えを持って居ない。何故なら、私達は田舎の白人に付いて語る事にばかり多くの時間を割いて来たから、と云うのが理由のひとつだ。
誤解B 「田舎の人々は保守派である」
2016年、非都市部の有権者の内、およそ3人に1人の有権者がヒラリー・クリントンに投票して居る。「非都市部」と云う表現は、正確には「田舎」と同義では無いが、人口統計の専門家等がこの2つの単語を殆ど同じ意味で使用して居る程に、これ等は重複して居る。全体では、アメリカの主要な都市部以外の地域に住む人々の内、600万以上がクリントン側に投票した。
過つて地元のガソリンスタンドで、退役軍人と元農家達と話した際、驚いた事に彼等全員がクリントンを支持して居た。「田舎に住む民主党支持者」と「田舎に住む進歩主義者」と云うカテゴリーは、今日の政治議論から大きく抜け落ちた存在だ。
誤解C 「田舎の人々はニュースを気にしない」
レポーターや政治家達は、田舎のアメリカ人を政治ニュースには無関心な人々である様に見做し勝ちだ。彼等の心配事と云えば、穀物価格や地元の税負担、小さな町の政治だと考えて居る。これは「小さな町の人々は、大都市の動きとは離れた簡素な生活を送る簡素な人々である」と云う有害なステレオタイプを強化して居る。
しかし、田舎におけるニュースの視聴・閲覧に付いて、現実は大きく異なる。例えば、2012年にピュー研究所が調査した処とによると、田舎の地域に住む人々とそうで無い地域に住む人々がニュース視聴・閲覧する時間には殆ど差が無かった。 政治や犯罪、速報等の重要なトピックに対する関心度は、田舎とそうで無いコミュニティに住む人々の間で差が無いと云う事がこの調査から明らかに為って居る。
誤解D 「田舎こそが本当のアメリカだ」
これまで紹介した@〜Cの誤解によって作られた「アメリカの田舎暮らしは他の地域の暮らしより本物で、よりアメリカ的である」と云う物語が、最も有害な誤解かも知れない。
この話の意図は、田舎の人々をアメリカの生活の模範例であり、理想であるかの様にする事だ。しかし、この様に単純化したイメージに固執する事は、実際には複雑で混沌とした彼等の人間性を否定する事に繋がる。その結果「白人保守層の利益ばかり推進する田舎」と云う大雑把な図を描き出してしまうのだ。
Christopher Ingraham 以上
【関連報道】トランプ劇場に慣れた国民は 真面な大統領に満足し無い
〜POLITICS 8min2020.1.2 クーリエ・ジャポン Text by Kenichi Ohmae〜
大前研一氏
大統領選の結果がどう為ろうとも、アメリカは最早元の姿には戻れ無い
2020年はアメリカ大統領選の年だ。ドナルド・トランプが大統領に就任して、国際社会の政治、経済に多大な影響を与えた様に、選挙の結果がこれからの世界の行方を大きく決定付ける事は間違い無い。しかし『日本の論点2020〜21』の著者である大前研一氏によれば、この3年間でアメリカの民主主義は完全に破壊されてしまった為、もしトランプが再選され無かったとしても、その代償は非常に大きい様だ。
異形の大統領に破壊されたアメリカの政治システム
ヨーロッパの安定を支えて来たドイツやフランスの政治状況も真面とは言え無いが、今や世界で一番真面では無い国はアメリカだろう。考えてみれば、西部開拓の英雄デイビー・クロケットの時代からアメリカは真面な国では無かった訳で、民主主義や人権・自由や平等を旗印に掲げて居る内に、何時の間にやら世界のリーダーと為って、アメリカンデモクラシーを範とする価値観を世界に輸出して来た。
処がドナルド・トランプと云う異形の大統領の出現によって、アメリカの伝統的な民主主義は音を立てて崩れた。最たるものが連邦議会である。アメリカの議会はトランプ大統領のツイッターで完全に形骸化してしまった。
イギリスや日本の様な議院内閣制の国では、立法府である議会と行政府である政府の結び着きが強いが、アメリカでは大統領制の下、厳格な三権分立制度が採られて居る。立法、行政、司法が完全に分離して居て、互いに牽制したり抑制し合う事で、夫々の暴走を防いでいるのだ。
行政府の長である大統領は、選挙で国民から直接選ばれるから、議会に対して責任を負う事無く職務を遂行出来る。議会の承認を得る事無く、行政機関に命令する「大統領令」が出せるのだ。但し、立法に関する権限は一切持って居ないので、立法府である議会が作った法律に従って行政権を行使するしか無い。但し、議会の法案に対しては拒否権を持って居る。
この様にアメリカの大統領は強大な権限を持って居るが、議会との力関係によってはリーダーシップを存分に発揮出来無い事がある。そんな時には、記者会見やテレビ演説を利用して自らの政策を国民に語り掛け、世論の支持を得る事で議会を動かして行く、と云うのが歴代大統領のスタンダードな政治手法だった。
しかし、トランプ大統領の遣り方は全く違う。自分が考えて居る事を、人事の発令や政策迄含めて全て、先ずツイッターで発信するのだ。
メキシコ国境の壁の建設、TPP(環太平洋パートナーシップ協定)や気候変動に関する国際的な枠組みである「パリ協定」からの離脱、電撃的な米朝首脳会談、中国に対する制裁関税等、ドレもコレも重要な政策に関わらず、トランプ大統領はツイッターで発表した。
そうした政策決定のプロセスに議会は殆どノータッチ。議会工作も何も無い。議会は蚊帳の外に置かれて来たのだ。
議会を無視して「国家非常事態」を宣言
例えば、メキシコ国境の壁を建設する為には予算が必要だ。予算を得るには議会の承認が必要に為る。しかし、予算の先議権を持つ下院は野党民主党が多数派を占めて居て、国境の壁の予算は下院で拒否された。そこでトランプ大統領は、民主党の反対で予算が十分に確保出来ないとして、2019年2月に「国家非常事態宣言」を発令。これによって国防費等を転用して計80億ドルの建設予算を捻出しようとしたのだ。
行政府のトップが議会にも諮らずにツイッターだけで政策を発信し、政策実現の為に議会の立法機能を無視して「国家非常事態」迄宣言してしまう。議会は指を咥えて見て居るだけ・・・これが大統領制民主主義を200年以上も続けて来たアメリカの現実なのである。
アメリカの民主主義の基盤である「厳格な三権分立」の危機的状況は、大統領と最高裁判所の関係性からも見て取れる。前述の国家非常事態宣言に基づいて国防費からメキシコ国境の壁の建設費を転用しようとした問題で、市民団体等が「議会の予算編成権を定めた憲法に違反する」として各地で壁の建設計画の差し止め訴訟を起こした。地裁、連邦高裁共に差し止め判決を下したが、政権側はこれを不服として上訴。
連邦最高裁は一転、トランプ政権が議会の承認を得ずに国防総省の予算25億ドルを壁建設に転用する事を認める判決を下した。「市民団体に訴える法的権利が無い」とする政権側の主張が認められたのだが、9人の最高裁判事の内、保守派の判事5人全員が賛成に回ったと云う。5人の内2人はトランプ大統領が指名した判事だ。
トランプ大統領が就任した当時の最高裁は保守派4人、リベラル派4人、中道派1人と云うバランスだった。しかし、判事の死去や引退に伴ってトランプ大統領は保守派の判事を指名して来た。それと共にトランプ大統領が勝訴するケースが増えて居るのだ。
立法府の議会ばかりで無く、司法においても最高裁が保守化して、トランプ政権の暴走に歯止めを掛ける機能を失いつつある。
メディアを無力化したツイッター民主主義
「マスコミが本当の事を報じて呉れず、嘘を着くから仕方無くツイッターを利用して居る。本当はツイッターなんて使いたく無いんだ」
トランプ大統領はこう語って居るが、マスコミを一切介さず、自分の言葉で直接、国民や世界の人々に向けて発信する効果・威力と云うのは凄まじいものがある。フォロワー数は5000万人を超えて居て、トランプ大統領の言葉は翻訳ツイッターによって各国の言葉でシェアされ世界中に拡散して行く。その浸透力・波及力は従来メディアの比では無い。
マスコミ嫌いのトランプ大統領は記者会見を遣りたがら無いから、新聞も大統領のツイッターに基づいて記事を書くしか無い。新聞記者の仕事等全く役に立た無く為ってしまった。
投資家からして見れば、そんな新聞に目を通すよりも、中国への制裁関税がどう為るのか、FRB(連邦準備制度)にどんな利下げ圧力を掛けるのか等々、トランプ大統領のツイッターやインスタグラムをチェックした方が余程価値ある「一次情報」を得られる。
そう云う意味ではトランプ大統領のツイッター民主主義は三権分立のみ為らず、第4の権力であるジャーナリズム・マスコミにも破壊的なダメージを与えたと言えるだろう。
マスコミに都合の悪い事を書かれても、ツイッターで「フェイクだ!」と即座に反論して、自分の主張を展開すれば、世界中の人々に届く。例えそれが嘘で塗り固められて居てもである。
2016年の大統領選挙に干渉したロシアとトランプ陣営が共謀して居たのではないか、そして疑惑解明をトランプ大統領が邪魔した・・・詰まり司法妨害があったのではないかと云うロシア疑惑は、トランプ政権の致命傷に綯っても可笑しく無かった。疑惑の内容自体はニクソン大統領を辞任に追い込んだウォーターゲート事件を凌駕するインパクトがあったからだ。
しかし、ロバート・モラー特別検察官が提出したロシア疑惑の捜査報告書「モラーレポート」は、政権のカスリ傷にも為ら無かった。
400ページ以上に及ぶ同レポートは「この報告書は大統領が罪を犯した事を結論付け無いが、容疑を晴らすものでは無い」と云う灰色の結論で結んでいる。それでも司法長官からレポートの概要が発表されるや、トランプ大統領は「共謀は無く、司法妨害も無かった。ゲームオーバー。素晴らしい報告書だ」とツイートで勝利宣言。
その後、レポートが全面開示されて疑惑に関する大統領の言動の詳細が明かされると、一転して「いかれた報告書だ」「デッチアゲで完全な誤りだ」と何時もの様に非難のツイートを連発した。そう遣って大統領が上げたり下げたりして居る間に、モラーレポートはスッカリ賞味期限切れに為ってしまった。その後のモラー特別検察官の議会証言も1日限りのニュースに終わった。
ロシア疑惑程のスキャンダルと為れば、モラーレポートを詳細に分析したり、検証して問題点を探り当て、批判的な論陣を張るジャーナリストやオピニオンリーダーが出て来るものだが、骨っポイ言論は最早聞こえて来ない。
トランプ政権の3年間は、「オピニオンリーダー」とか「識者」と呼ばれる様なインテリ層も破壊した。トランプ批判をしようものならツイッターで速射砲の様な反撃が来る。ケチョンケチョンに叩かれ、貶されるものだから、スッカリ腰砕けに為って、皆、口を閉ざしてしまった。誰も反論し無く為ったのである。
「トランプ・ベノム」に侵されてしまった米国民
毒蛇など生物の毒腺で作られる毒液を英語で「ベノム・Venom」と云う。ㇳランプ大統領がツイッターで繰り出すのは正に「トランプ・ベノム」で、咬み着いた相手を痺れさせて動け無くする。そしてトランプ批判と云う自分に向けられた「毒」を忽ち無毒化する解毒作用まである。
「毒をもって毒を制す」で、北朝鮮との関係はステージアップしたかも知れない。しかし、TPP、パリ協定、イラン核合意、NAFTA(北米自由貿易協定)、NATO(北大西洋条約機構)、中東和平と云った国際協調・世界秩序の枠組みをトランプ・ベノムは破壊、或いは壊し掛け、米中の緊張関係をエスカレートさせて来た。
トランプ大統領は日米安全保障条約の見直しも再三、言及して居て、今後、日米関係は未知の領域に踏み込んで行くかも知れない。
国内においては、トランプ・ベノムによってアメリカの議会制民主主義が根底から破壊された。投票によって代表を決め、マジョリティによって政治を進めて行くと云う参加型の意思決定システムと云うものが、僅か一代のトランプ政権によって済崩(なしくず)しにされてしまったのだ。
二大政党制も大きく揺らいだ。共和党は、トランプ批判をして来た主流派の議員迄大統領の選挙応援を仰ぐ様に為り、完全にトランプ党に成り下がった。2020年の大統領選挙に現職大統領の対抗馬に為り得る候補が出て来るかは疑問で、出て来てもトランプ大統領のツイッター攻撃で撃沈され兼ねない。
一方、トランプ大統領の再選を食い止める立場の民主党は、候補の乱立が予想されて居るが、現状はリベラルに寄り過ぎて居て、財源の見通しも立た無いのにバラマキ公約をブチ上げる候補者が非常に目立つ。
その中で比較的中道と見做されてトップを走って来たジョー・バイデン氏を、息子ハンターのウクライナ疑惑で撃ち落としてしまった返り血を浴びて居る、トランプ氏の弾劾裁判の調査が始まって居るので予断は許され無いが、トランプ氏は次々に目先の攻撃対象を変えて状況を変化させて行く事だろう。
しかも、自分が共和党の候補に為るのは判り切って居るので、予備選を辞めて、行き成り2020年7月の党大会まで持って行こう、と云う検討を始めて居ると云うから半端じゃ無い。2020年の大統領選挙でトランプ大統領が再選され様とされまいと、アメリカはもう元に戻ら無いと私は思って居る。何故ならトランプ・ベノムに遣られて一番痺れてしまったのはアメリカ国民だからだ。
例えオバマ前大統領の様な理性的なリーダーが出て来て議会と上手く遣ったとしても、トランプ劇場を見慣れた観客達には面白く無い。「自分の考えを説明せよ」「自分の言葉で発信せよ」とブーイングを浴びせる事に為るだろう。ドナルド・トランプと云う破壊者が残した爪痕は余りに深い。
※ この記事は『大前研一 日本の論点2020~21』からの抜粋です 以上
三井住友VISAカード キャッシュバックキャンペーン
この記事へのコメント
コメントを書く
この記事へのトラックバックURL
https://fanblogs.jp/tb/9551301
※ブログオーナーが承認したトラックバックのみ表示されます。
この記事へのトラックバック