2020年01月09日
何故スレイマニ氏は殺されたのか 歴史の簡単な解説と共に アメリカによる殺害の意味を考える
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何故スレイマニ氏は殺されたのか 歴史の簡単な解説と共に
アメリカによる殺害の意味を考える
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〜今井佐緒里 欧州研究者・物書き・編集者 1/9(木) 13:11〜
先ず筆者は、アメリカの暴挙も非民主的な宗教的独裁国家も、両方反対である事は最初にハッキリ書いて置きたい。その上で、スレイマニ司令官殺害の騒ぎを見て居て、ズッと思って居たことを書きたいと思う。
「スレイマニ氏殺害は、ソンなに変わった事件だろうか?」 筆者には、歴史上、実に好くある事に見える。この問いを考える事は、何故スレイマニ司令官は殺されたのかの答えと同じに為る。
一言で言うのなら、アメリカとイランの共通の敵・・・アルカーイダやイスラム国の脅威が薄れて来た今、こう為ったのは当然ではないのかと思うのだ。先ずは、大変大雑把にこの地域の最近の歴史を見ながら説明して行きたい。
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伝統的な関係とは
アメリカは、サウジアラビア等と仲が良い友好国である。理由は主に石油である。そして、サウジアラビア等は、イランと大変仲が悪い。理由はイスラム教の宗派である。サウジアラビア等はスンニ派、イランはシーア派だからだ。過つて欧州で、カトリックとプロテスタントが血で血を洗う程イガミ合ったのと似ている。
それなら、アメリカはイランと仲が良いのか・・・昔は仲が良かった。過つてイランのパフラビー(パーレビ)国王は、米英の強い支援を受けて統治出来て居たからだ。 しかし1979年「イラン・イスラム革命」が起きた。これは、イスラム教で国をマトめ、アメリカの支配を排除する事が目的の革命である。この革命を機にガラっと変わった。この時から、アメリカとイランは「犬猿の仲の敵同士」と為って居た。
詰まり単純化した公式で言うと、「アメリカ+サウジアラビア等・スンニ派」VS 「イラン・シーア派」と為って居た。これを変えたのが、イスラム過激派の台頭である。
過激派と親米国が繋がっていると云う疑惑
重要なのは、過激派の人達は殆どがスンニ派であると云う事だ。元々スンニ派とは多数派と云う意味だと説明される事がある。過激派は多数派の中から生まれたと云う、単純な事実を見た方が好いだろう。
最初は、アルカーイダだ。ウサマ・ビンラディンに率いられたアルカーイダが、2001年9月11日にニューヨークで同時多発テロを起こした時から世界の事情は一変した。あのニューヨークで、大衝撃のテロが起きてしまった。真珠湾攻撃以来と言われたが、或る意味では遠いハワイの軍艦攻撃よりもニューヨークのど真ん中のビルに飛行機が突っ込んで、ビルが崩れて行ったのを目の当たりに見た方が衝撃的だったかも知れない。筆者も、アノ日のテレビの生中継は覚えて居る。本当の事とはとても思え無かった。
ウサマ・ビンラディンと云うのは、サウジアラビアで生まれ王室御用達の財閥の家の出身である。ズ〜ッとサウジアラビアからアルカーイダに資金が流れて居るとの疑惑があった。この資金は、王族・・・詰まり国の中枢からも出て居ると云う、デッチ上げとは言い切れ無い疑惑もあった。親米の国だからコソ、反米のテロリストは生まれたのだった。
オバマ大統領の時代、ウサマ・ビンラディンは殺害された。この為にアルカーイダは以前程の勢いは失われた。しかし今度は、イスラム国・ダーイッシュが勃興してしまった。テロ行動が主体のアルカーイダと異なり、彼等の目的は国を作る事だった。
イスラム国も未だ「国」では無い黎明期の時代、テロ行動しか行って居なかった時代には、サウジアラビアの資金援助を受けて居ると云う疑惑があった。但し、サウジアラビア国家は、これ等の資金援助疑惑を否定して居る(当たり前か・・・)ウサマ・ビンラディンは、同国国籍を剥奪されて居る。 この様に、アメリカに取っては「誰も信用出来ない」状態と為って居た。
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敵の敵は味方
アメリカに取っては、頼りの筈の中東の親米国家が信用出来なく為って来た。公式には相変わらず「友好国」なのであるが。此処でアメリカが頼りにしたのがシーア派のイランだった。頼りと云うよりは利用したと云う方が正確だろう。スンニ派仲間でグルに為って居ると云う印象を与える人達よりも、彼等の敵、シーア派の方が頼りに為ると思えたのだろうか。
一方でイランに取っては、スンニ派の過激派もサウジアラビア等もドチラも敵の様なものだ。イランに取っても、アメリカは接近する価値がある国と為って居た。イランに取ってアメリカは「敵の敵=味方」と為った。これはアメリカに取っても同様だろう。
但し・・・ここが大変ヤヤコシイのだが・・・アメリカは親イラン国に為った訳では無いし親サウジアラビア等の公式ポジションを止めた訳では無い。イランも、反米国家の看板はそのママである。公式(?)には、相変わらず敵同士と云う事に為って居る。それでもお互いの利益に為るし共通の敵を持って居るのだから、共に協力出来る処はしよう。但し間接的な形で・・・と云う事である。ここで活躍したのが、スレイマニ司令官である。
民兵である事 実態は代理軍事力
処で、何故スレイマニ氏は「司令官」なのだろう、将軍ではないのか・・・彼が率いて活躍して居たのは「シーア派の民兵」で有る事が重要である。詰まりイラン国軍では無い。だから、イランの国の人達にアレ程英雄として尊敬されて居たのに「将軍」では無くて「司令官」なのだ。正式な軍隊を率いて居れば将軍だっただろう。
民兵と云う言葉から、お金で雇われる小さい精鋭グループみたいのを想像したら全く異なる。イランの民兵は「政府の管理外に有る強力な代理軍事力」である。この司令官がスレイマニ氏だったと云う事だ。
だから、民兵ではあるが、意味合いとしては国の兵士と変わりは無い。スレイマニ氏が行って居た事は、民兵と云う名の代理軍事力を率いてイランの国益の為に働く事。イランに忠誠を誓う中東のシーア派組織を支援すること。
民兵であるから機動性に優れ自由裁量の幅が大きい。中東を自由に動き回って、自分達の利益の為に行動出来る。国軍であればイラン政府や法律を無視出来ず、更には国際法の管理下に無くては為ら無い。でも民兵だから自由である。イランの最高指導者アリ・ハメネイ師の全面支持を受けて居た。
闘う相手がテロリストだから、民兵の方が良かったと云うのもある。でも、この代理軍事力はテロの時代の前から、20世紀から存在して居るのだ。
1979年のイラン・イスラム革命の後、1980年代にレバノンで「レバノン・ヒズボラ」を建設した。ヒズボラとは、シーア派イスラム主義の政治組織・武装組織の事である。イエメンのフシスでも行い、同じ事をイラクでも取り組んで居たのだ。支援処か自分達で作って居た。
そしてイランは、イランに有る程度の忠誠心を示すシーア派だけに利益をもたらす・・・この様なグループには年間数億ドルを提供して居る。アメリカが目を着けたのは此処であった。
アフガニスタンで、アルカーイダを支持したタリバン政権・強硬スンニ派の打倒で、米軍占領後のイラクで・イスラム国第2の都市モスルにおける掃討作戦で・・・アメリカとイランの代理軍事力の協力が間接的に或いは陰で行われて居たと云う。
これは、イランの最高指導者アリ・ハメネイ師の協力を間接的に受けて居た事にも為る。アメリカに取っては、彼等は民兵であって国軍では無い。だから直接イラン国家と協力して居る事には為ら無いし、親米国家のサウジアラビア等にも表の顔では言い訳が立つ・・・イラン側も同じで、アメリカと協力して居るのは国軍では無くて民兵だから、イラン国家がイラン・イスラム革命の根幹である反米を辞めた訳では無い・・・この様に、双方に取って都合が好かったのである。それなら何故今、スレイマニ氏は殺害されたのか。
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イスラム国の衰退
2019年10月、アメリカが、イスラム国の指導者・アブバクル・バグダディの殺害に成功したからだろう。イスラム教の預言者・ムハンマドの後継者「カリフ」を自称する迄に為ったものの、近年は逃亡生活を送って居たと云う・・・ウサマビンラディン殺害後、アルカーイダの力が衰えて行った様に、今後はこの様な勢力は衰えて行くと見込んだのではないか。勿論予断は許さ無いが。
と為ると、アメリカに取って、イランの代理軍事力等は最早邪魔なのだ。これ以上大きく為って貰っては困るのだ。中東のアチコチのシーア派に数億ドルも資金援助して、政治組織・武装組織を作って中東を不安定化させて貰っては迷惑なのだ。
それに、アメリカはこの様な、恰も国の軍隊の様なのに民間軍事組織であると云う存在が、極めて危険なものである事を十分判って居たのではないか。それでもテロリストの排除や、陰のテロリスト支援者の牽制の為には、毒をもって毒を制す事が必要だったのだろう。
「敵の敵は味方」と云う論理でクッ付いた二者が、共通の敵が無く為ったら今度は相手を倒そうと試みるのは歴史の必然である。
トランプ大統領は、第一声の発言として「我々は昨夜、戦争を止める為に行動を起こした。戦争を始める為に行動を起こしたのでは無い」「私はイランの人々を深く尊敬して居る。イランの体制転換を求めて居るのでは無い。しかしながらイランの現体制による中東での攻撃は今直ぐ止め無ければ為ら無い」と言った。
散々利用して来たクセに・・・とは思うが、共通の敵の脅威が薄れた今と為っては、こう云う発言が出て来るのは自然だろう。最も今回の決断には、可成り唐突感は否め無い。特にマティス国防長官が辞めた後は、可成り政権内部でゴタゴタがある様だ。
オバマ前大統領もトランプ大統領も人間は全く違うが、アメリカの軍事覇権に興味が無いと云う点では似て居ると思う。トランプ大統領を見て居ると、年取ってから知識も関心も無い事に大権を持つと悲惨だと思う。
どう云う経緯でこう為ったのかは未だ謎だが、こう云う戦略を描いた人が政権中枢に居ても何の不思議もない。それは判っては居るのだが、オバマ前大統領の融和路線の方が良かったのに。
筆者は、今後本当にテロの脅威が薄れて行くのなら、アメリカは「親米国家」と言われて居た中東の国々にどう云う対処や対応をするのか、寧ろそちらの方に関心がある。
内ゲバの末路は
又別の見方も出来る。元々アルカーイダは、全世界のイスラム教徒に「アメリカと同盟者を攻撃しろ」と聖戦・ジハードを呼び掛けて居た。イランは反米国家にも関わらず、この訴えには耳を貸さず、アメリカに間接的に協力する道を選んだ訳である。中東の国々では、イスラム教徒内の「スンニ派 VS シーア派」と云う内ゲバの方が重要だったのだ。歴史において、内ゲバを利用される方が弱く、利用する方が強いと相場が決まって居る。
欧州の植民地支配は、先ず当地での内ゲバ(内戦)を利用する事から始まって居た。日本でも、薩長にはイギリスが、徳川幕府にはフランスが着いて居た。もし薩長はイギリスの力を借りて、徳川幕府はフランスの力を借りて内戦に勝とうとして居たら、ドチラかの勝利も束の間で日本は植民地に為って居ただろう。
日本人の偉大な処は、外国の脅威を前に内ゲバを辞めて手を取り合い、一致団結して国を統一した事である(明治維新)。これが出来なかった国は植民地に為った。植民地時代が終了し、冷戦時代が終わってもなお、この様に中東では延々と内ゲバ(しかも宗教)を続けて居る。こんな様では強者に利用される続けるだけで先が見えて居る・・・と言え無いことも無い。更に大きな目で見れば、これ等は「アラブの春」の反応の様にも見える。
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民主化の地平線
チュニジアに始まったアラブ世界の民主化の波「アラブの春」が起こったのは、2011年の事だった。携帯やネットで急速に世界が小さく為る今、長い目で観れば、世界の国々は民主化して行くのが必然だと思う。アラブの春は、ヨーロッパに近い北アフリカから始まった。今は揺り戻しの時期と為って居る。これが終わる時代には、どう云う新しい時代と為るだろうか。
アルカーイダもイスラム国も、それに乗じたり反対したりする勢力も、花火が消える前には最も大きく燃え上がる時が来る様な、そんな感じを受ける。
中東は、北アフリカよりも更に遅れて居るが、それでも時代の波には逆らえ無いだろう。アノ欧州に遣って来た大量の難民は、戦火で追われた人達だけでは無い。俗に云う「経済難民」も多く、彼等は自国では中流以上の人達である。
彼等は、遅れた自分の国に居るのが嫌なのだ。お金の為だけでアノ様な危険は犯せ無い。自分の国には存在しない自由の輝きを求めて遣って来て居るのだ。そして彼等は一度遣って来たら、決して自国に完全帰国しようとはし無い。
中東の国々が民主化して行く様子を、筆者が生きて居る間には見られ無いかも知れない。それでも、新たな地平線の方向だけは、ズッと見続けて居たいと願って居る。それは文明の大きな転換なのだから。
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今井佐緒里 欧州研究者・物書き・編集者 フランス・パリ在住 追求するテーマは異文明の出合い EUが変え行く世界観 社会・文化・国際関係などを中心に執筆 ソルボンヌ大学(Paris 3)大学院国際研究・ヨーロッパ研究学院修士号取得 日本EU学会 日仏政治学会会員
編著に「ニッポンの評判 世界17カ国最新レポート」(新潮社)欧州の章編著に「世界が感嘆する日本人〜海外メディアが報じた大震災後のニッポン」「世界で広がる脱原発」(宝島社)連載「マリアンヌ時評」(フランス・ニュースダイジェスト)等 フランス政府組織で通訳 早稲田大学卒業 日本では出版社で編集者として勤務 仏英語翻訳 ご連絡 saorit2010あっとhotmail.fr
以上
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【管理人のひとこと】
アメリカとイランの関係・・・と云うだけで無く、宗教が絡む紛争関係と云うのは・・・特にイスラム教の中東問題は、これにイスラエルが加わると、私には一度読んだだけでは到底理解出来そうも無い、複雑で入り組んだ関係で整理も着きません。今井氏のレポートを何度も何度も読み返してみようと考えています。
それにしても筆者の今井氏は、美人なのに余り素顔を公表されて無いのか、ヤッと一枚ゲットし冒頭に掲載させて頂きました。顔より中味で勝負・・・の様な強い思いが有るのでしょう。鋭い切り口と的確な筆致・・・歴史から紐解き解説する親切で丁寧な文章に感謝致します。今後もご活躍を祈ります。
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JALダイナミックパッケージ
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