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2020年01月09日

記者が目の前で見たゴーン氏会見 日本メディアには笑顔なく




 記者が目の前で見たゴーン氏会見 日本メディアには笑顔なく


            〜NEWS ポストセブン 1/9(木) 7:00配信〜

 ゴーン氏は身振り手振りを交えて2時間以上、語り続けた

 〜1月8日22時(日本時間)からレバノンで行われた、日産の元会長カルロス・ゴーン氏の記者会見。注目を集めたこの会見には、世界から約80媒体のメディアが参加したが、その中で日本メディアは、朝日新聞とワールドビジネスサテライト(テレビ東京)そして本誌・週刊ポストとNEWSポストセブン合同の現地取材班の3媒体のみだった。
 本誌現地取材班の1人、ジャーナリストの宮下洋一氏は、会見をどう見たのか。会見が行われたレバノンの首都・ベイルートからリポートする〜


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              ジャーナリストの宮下洋一氏

 アッと云う間の2時間半だった。140人にも及ぶ記者達がゴーン氏に詰め寄り、会場はカオス状態だった。この熱気は半端なかった。兎に角熱く、会見が続くに連れゴーン氏の顔もハッキリ判る程上気して行った。
 ゴーン氏が日本の司法をバッシングする事は、最初から予測出来ていた。会場に詰め掛けたフランス、地元レバノン、アメリカ、イギリスを初めとする海外メディアの報道陣は、日本の司法に対して批判的な考えも有るからか、ゴーン氏に同情する様な表情を見せる場面もあった。

 例えば、レバノンの報道陣はゴーン氏の地元愛を聞く度に笑顔を作り、時折、拍手をし、日本での検察や司法制度に対して納得して居ない様子だった。彼等が会見の話を聞きながら寄り添う様な姿勢を見せると、ゴーン氏はより強くトーンを上げて嬉しそうに答えて居た。
 フランスのメディアも、日本の司法制度の被害者だと主張するゴーン氏に同情を込めた様な質問をする記者が居た。日本の司法に対しゴーン氏がどう思って居るかに付いて、質問が次から次へと出て来る。そんなフランスメディアの質問が出る度に、ゴーン氏は笑顔を見せた。

      1-9-10.jpg

 フランスの大手テレビ局の質問が来れば「オー、LCIか!」とニコリと笑って長々と答えて居た。彼の表情は、全く疲れて居なかった。解放感に溢れるこの状況で、寧ろ生き生きとして居る様に見えた。ヤッと自らの思いを世界の報道陣を前に話が出来ると云う気持ちが前面に出て居た。

 一方で、ゴーン氏が眉毛を歪める程険しい表情をする場面もあった。イギリスの記者が「火の無い処に煙はたた無い」と、皮肉混じりのトーンで日本を逃れた事に付いて聞かれた処、声を大きくして弁明する場面もあった。
 もしかしたらゴーン氏は、ここに集まる全員が味方に為って呉れると思って居たのだろうか。その為に報道陣を選んだのだろうか。質問するメディア側が余り彼の話に乗って来ない場面では、ゴーン氏のジェスチャーは大きく為って行った。そして日本の司法批判を繰り返し、要所要所でキャロル夫人への愛情を口にしていた。「愛するキャロルに会いたかったんだ・・・」.

 最前列に座って居たキャロル夫人の横に移動して居た私は、夫の愛情の言葉を聞く度に、両手の指を絡める反応をしたり、微笑む表情を作ったりして居る様子を見る事が出来た。
 質疑応答が進むに連れてヒートアップし、世界中から集った記者達の側も、もう当てられる順番はどうでも良く為って居た。当てられて居ないのに立って質問を始める者も居れば、何人も同時に話し出す者も居た。ゴーン氏は「待ちなさい、待ちなさい」と困惑して居たが、瞳の奥には笑顔も見えて居た。
 私も順番が来る前にマイクを渡されたので、ワザと立ち上がって質問した。ゴーン氏が私を見て居た事が判って居たからだ。

 「この会見の場に日本のメディアがそれ程多く集って居ない事に驚いて居る。何故一部のメディアしか招か無かったのか。それと、独房での生活に付いて少し詳しく教えて頂きたい」
 私がそう尋ねた時、ゴーン氏の表情は険しかった。興味深いのは、我々日本のメディアに対しては、殆ど笑顔を見せ無かったことだ。眉間にシワを寄せ、終始、厳しい表情で訴えて居た。私の質問には、

 「私は日本のメディアを差別して居る訳では無い。又、日本のメディアだけ締め出した訳でも無い」
 「正直に言って、プロパガンダを持って発言する人達は私に取ってプラスには為ら無い。又、事実を分析して報じられ無い人達は私に取ってはプラスに為ら無い」

 と答えた。そして結局、言いたい事は只一つだった。「私は無実。何もして居ない」と云う事。

 ゴーン氏の会見は、社長時代に日産をV字回復させた時のプレゼンを見て居る様だった。自信溢れる彼の姿を見ながら、今後の日本との戦いに恐れ等感じて居ないだろうと思った。それはキャロル夫人も同じだった。彼等2人は、このママ何処に辿り着くのかは分から無い。
 会見終了直後、最前列で夫の会見を見守って居たキャロル夫人に「日本で出た逮捕状に付いて、今の心境を聞かせて下さい」と聞いた。キャロル夫人は硬い表情でこう一言だけ答えた。


 「日本の司法は残酷よ」

                 以上








 
 【関連記事】単なるショーだった「逃亡ゴーン会見」の舞台裏

             〜東洋経済オンライン 1/9(木) 7:50配信〜


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 記者会見場に約100席用意された席は、主にフランス・レバノン・アメリカメディアで埋まって居た(写真Mohamed Azaki ロイター)

 〜約2時間半に及んだショーで彼は、4カ国語を巧みに操りながら、嬉々として会場を仕切り、時折会場からは拍手すら起こった・・・1月8日、レバノンの首都ベイルートで開かれたカルロス・ゴーン日産自動車元会長の記者会見。世界中からメディアが詰め掛けた会見では何が起こって居たのか〜

 会見を仕切った辣腕フランス人女性

 会場と為ったベイルート・プレス・シンジケートは、ベイルート中心部から車で約20分、市内西部に位置する。市内に滞在して居た海外メディアの記者達は、中心部から右手に美しい地中海、左手に荒廃したビルと新しいビルが混じった町並みを眺めながら会場へ遣って来た。
 元々ベイルートの交通事情は最悪だが、この日は波乱の展開を予想するかの様に大雨で道路は更にカオス状態だった。

 会見が始まる午後3時(日本時間8日午後10時)前には、会場前は多くの人でゴッタ返して居た。今回、ゴーン氏に選ばれ、会見に出席出来た100人に及ぶジャーナリストの殆どはフランス人・レバノン人・そしてアメリカ人で、日本のメディアはホボ参加が許され無かった。その所為か、会場前ではイライラした様子の日本の記者団の姿が見受けられた。
 民間警備員や広報関係者が駐車場へ車を入れようとする中、建物の前は混乱状態と為って居た。これ迄のフランスの著名人に注目が集まった時と同様、今回のショーを仕切って居たのは、危機に陥ったフランスの著名人や大企業が頼りにする広報会社「イメージ7」だ。

 同社を率いるのは、ビジネスマン・ジャーナリスト、政治家の間に極めて大きなネットワークを持つアン・モーと云うブロンドヘアのフランス人女性である。この日もモー氏は会場に訪れ、会見では質問の際にマイクを回す役割まで務めて居た。
 2018年11月18日に逮捕されて以来、ゴーンはアメリカや日本向けの広報担当企業を何度か替えて居るが、グローバル向け戦略に付いては逮捕直後からズッとイメージ7及びモー氏に任せて居る。今回、会見に入れる人選をしたのもゴーン氏の支持を受けたモー氏である。(彼女の画像を探したが、今の処見付からなかった)

 本当は会場の「真ん中」で話したかった

 会見には、CNNやニューヨーク・タイムズ、ウォールストリートジャーナル等、多くのアメリカメディアも訪れて居たが、奇しくもこの日、関係が悪化するイランが、イラクにある米軍基地に弾道ミサイルを発射。アメリカメディアはゴーン会見処では無かったかも知れない。
 他国のジャーナリストからも「自らがイランの支援を受けたヒズボラの誘拐ターゲットに為るかも知れないから大変だ。必ずセキュリティガードと行動しないと危ない」と危惧する声が聞かれた。実際、ヒズボラの支配下にあるベイルートの空港には、殺害されたイランのソレイマニ司令官のポスターがそこら中に掲げられて居る。

 会場はとても暑く、参加者は窓を開けて欲しいと頼んだ。緊張感に包まれた会場では、カメラマン同士や記者が揉めているのも見受けられた。ゴーン氏が妻のキャロル氏と会場に着いたのは、現地時間の2時55分(日本時間21時55分)会見が始まる5分前だ。会場に入る時も多くの報道陣に取り囲まれた。
 会場に入るとゴーン氏は前方に用意されたステージ迄進み、そこで話をしたが、実は会見前は報道陣の「真ん中」に立って話す事を希望して居た。ドナルド・トランプ大統領や、エマニュエル・マクロン大統領がそうする様に、多くの人々に取り囲まれて居る姿をテレビに映したかったのだ。アリーナの真ん中に立って居るボクサーやミュージシャンのイメージだ。

 更に今回、ゴーン氏は会見を出来るだけグローバルなものにしたいと考えて居た。1時間以上に及んだスピーチ後、質疑応答までの休憩時間にゴーン氏は、報道陣の中に分け入って彼等と言葉を交わした。そして「アメリカ人は居ませんか?フランス人?日本?イギリス?アア、イタリアの人ね」と聞き廻り、どの国の報道陣にも1つは質問を出して欲しいと頼んで居た。
 そうして集めた質問に対し、ゴーン氏は英語・フランス語・アラビア語・ポルトガル語と云う4つの言語で対応。会場には、ゴーン氏の家族や友人の為にも2列の「関係者席」が用意されて居た。妻のキャロル氏は勿論、彼のレバノンの弁護士であるカルロス・アブ・ジャウデ氏、フランスの弁護士の1人であるフランソワ・ジムレ氏、そして時には、彼のレバノンの友人が、彼の回答に拍手して居り、マルで政治集会の様な雰囲気に包まれて居た。

 会見後、ゴーン氏は主にテレビメディアの単独インタビューを受けた。フランスはTF1・M6・France24・そしてCNNフランスの4媒体だ。France24は多言語放送をして居り、ゴーン氏はアラビア語と英語を含めた3つの言語でインタビューを行ったと云う。

 目新しい事は語られ無かった

 フランスメディアの反応はおおよそ肯定的だ。筆者が話した記者の殆どが、ゴーン氏のショーマンとしてのパフォーマンスに感心して居た。しかし、当初からこの事件を追って居るジャーナリスト達は不満気だった。結局、何一つ目新しい事が語られ無かったからだ。「レバノン政府に迷惑は掛けられ無い」として、陰謀を企てた日本の政府関係者の名前を挙げる事も無かった。
 又、今回、日本のメディアの参加が限られて居た事に付いて「締め出した積りは無い」「中立的なメディアを選んだ」としたゴーン氏だが、2時間以上に渉って日本の司法制度を批判するのであれば、モッと日本のメディアの参加を許すべきだっただろう。この日、日本メディアから受けた質問は僅か2問だった。

 一方、この日、世界で最もゴーンに関心を寄せ無かったのはレバノン人かも知れない。深刻な経済危機に陥って居るレバノンでは「貧困だけで無く、国の一部では飢餓問題も出て来て居り、ゴーンを気にして居る余裕が無い」と、弁護士でエコノミストのカリム・ダハール氏は言う。
 今回のショーが外国メディアに残したもの。それは、日本の刑事司法制度とゴーン、両方に対する不信感かも知れない。


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 レジス・アルノー 『フランス・ジャポン・エコー』編集長 仏フィガロ東京特派員  以上







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