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2018年07月23日

スペイン巡礼記 @ プロローグ パンプローナからフランス人の道を歩き始める

Pilgrimage in Spain @ Prologue : Start walking French Way from Pamplona【4.2011】


目覚めると、そこはスペインだった。
人々が静かに身支度をする音が大きな建物の中で反響しながら耳に入ってくる。うっすらと目を開けると、ぼんやりとした暗がりの中に金網が浮かび上がった。

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ああ、私の真上にベッドがある。そういえば二段ベッドの下に寝たのだった。頭がゆっくりと現状を認識する。
誰かが通路のオレンジ色の灯りを点けると、私のお腹と舌を満足させていたすき焼きの味は一瞬にして消え失せた。
せめて匂いだけでももう一度、と目を瞑ってみるが、水面に投げられた小石によって広がる波の輪のように、バックパックに物を詰める音や服を着るときのシュルっという音が耳に広がり、もはや夢の世界に戻ることは不可能なのだった。懐かしいすき焼きのたれの香ばしい匂いは、かび臭い修道院の陰気な匂いに変わった。

日本を出て2か月が過ぎた4月最初の日、私はスペイン北部の牛追い祭りで有名な古い町、パンプローナの修道院にいた。
正しくは元修道院で、今は巡礼者のための宿、アルベルゲに改装されている。私はこの中世の石造りの建物や石畳が残るパンプローナから巡礼を始めるのだ。

カミーノとは? What's Camino?

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古くは中世の時代から、ヨーロッパのカトリック教徒たちがスペイン北部キリスト教の聖地サンティアゴ・デ・コンポステラを目指して歩いた道が、カミーノと呼ばれる巡礼路である。その昔多くの巡礼者が通ったが、追いはぎや過酷な環境による死者の続出で一時忘れられていた時代の遺構であった。
しかし1980年代後半、パオロ・コエーリョというブラジル人作家が書いた一冊の本「星の巡礼」によって再び注目されたことにより、巡礼者が戻ってきた。
荒れていた巡礼路はフランス国境付近から整備され、年々巡礼者は増え続けている。そして今や世界中からの巡礼者が年間数十万人という最も有名な巡礼路となった。

遠くはフランスのパリやイタリアのローマなどヨーロッパ各地からの巡礼路が幾つも存在するが、最も有名で巡礼者専用の安宿アルベルゲが整備され、巡礼者数も多いのが、ピレネー山脈手前のフランスの小さな村サン・ジャン・ピエ・ド・ポーから出発する「フランス人の道」と呼ばれるルートだ。

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フランス人の道 The French Way

サン・ジャン・ピエ・ド・ポーを出てすぐにピレネー山脈を登り始め、山頂手前で国境を越えると、スペインの町ロンセスバージェスにたどりつく。次の町ララソアーニャやパンプローナで、トゥールーズやマルセイユ、更にイタリアからの巡礼路と合流し、最も主要な巡礼路となったこのフレンチ・ルートは、スペイン北部のナバラ州、リオハ州、カスティーリャ・イ・レオン州を通り、ガリシア州に入ると、ようやく海に程近いキリスト教三大聖地のひとつサンティアゴ・デ・コンポステラへと到達する。

多くの人はサン・ジャン・ピエ・ド・ポーから出発するが、初日から1,430メートルというピレネー越えをしてロンセスバージェスに辿り着かなければ泊まる場所がない、という約26キロの過酷な山登りということもあり、私はサン・ジャン・ピエ・ド・ポーから約70キロ進んだスペインのパンプローナから出発することにしたのだ。

ズルといえば言えないこともないが、雨が多く(3月までは雪も多い)滑落による死者も毎年のように出ているという危険な山越えに対して、全くスペイン語がわからないにも関わらず、同伴者なし、ガイドなしという単独でのチャレンジにいささか不安を感じたゆえの苦渋の決断だった。
Sanfermines_Vaquillas_Pamplona_08[1].jpg
が、今思い返してみると、なぜ山を越えた次の町ロンセスバージェスではなく、ララソアーニャでもなく3番目の比較的大きな町パンプローナだったのかが今ひとつわからない。
恐らく牛追い祭りの町として名前を聞いたことがあり、スペイン巡礼の情報をほとんど日本で得てこなかったため、現地に行ってみないと詳細がわからないという状況の中、大きな町のツーリスト・インフォメーションなら容易に情報を得て、安全に巡礼を始めることができるだろう、という判断があったものと思われる。

しかし、ただ単にバルセロナから高速列車一本で行ける町だった、というシンプルな理由かもしれない。特にパンプローナに特別なものがあった訳ではないが、とにかく自分自身よくわからないうちに何となくバルセロナ発パンプローナ行きの、スペイン国鉄アルビアに乗っていた。それが2011年4月1日のことである。

スペイン巡礼記Aへ続く…

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