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2018年07月25日

スペイン巡礼記 A 1日目:散々な初日 何とかクレデンシャルをゲット!

Pilgrimage in Spain A Day 1 : The terrible first day 【4.2011】


「アルヴィアでパンプローナへ To Pamplona by Alvia」


スペイン国鉄通称Renfeは、ここ数年で国内超高速列車AVEの運行路線を各地に拡大して急速に成長し、今やフランス、ドイツを超えたといわれる優秀な鉄道である。

200px-Renfe_clase_130[2].jpg

しかし、バルセロナ ― パンプローナ間の準高速列車Alviaは、この日に限ってなのかはわからないが、途中何度か止まり、走り出しては左右に激しく揺れ、ジェットコースターに乗っているがごとく、もしくは地震でも起きているかのごとく体を揺すられ、眠ることはおろか、本を読むことも、飲み物を飲むこともできないのだった。

予定時刻の13時6分を大幅に過ぎた14時10分、ジェットコースター、アルビアはパンプローナ駅にヨロヨロと滑り込んだ。牛追い祭りで有名なこの町は、大きな闘牛場のある旧市街、よく整備された広い公園のある新市街とを合わせるとかなり大きな規模なので、駅には当然インフォメーションがあり、そこで訊けばどこでクレデンシャル(巡礼手帳)を手に入れられるか簡単にわかると思っていた私は甘かった。

駅の窓口では、かろうじて英語がわかるらしい中年の痩せたおばさんに約2キロ先の旧市街にあるツーリスト・インフォメーションへ行けと言われただけであった。仕方なく肩に食い込むバックパックをよいしょ、と担ぎ、おばさんが示した広い通りを歩き出す。


「クレデンシャルを求めて彷徨うパンプローナ
Seeking for Credential in Pamplona」

4月の始めとは思えない暑いくらいの陽気の中、慣れない重い荷物を背に歩くこと30分、ようやく旧市街の入口らしい城壁に突き当たり、ⓘの標識を頼りに街へ分け入るが、地方都市の旧市街というのは迷路のように入り組んでいて、標識があまり頼りにならない。

この辺にツーリスト・インフォメーションがあるはずなんだけど、と公園の入口でキョロキョロと周囲を見回した私の頭に閃いたのは「シエスタ」の言葉だった。目の前の降ろされたシャッターに小さく書かれた Tourist Information の文字を見て、呆然と立ち尽くす。

一般にスペインのシエスタは2時から4時とされているが、地方によって前後することもある。ということは最悪5時頃まで開かない可能性もあるということだ。まったく、こんな観光客が一番観光する時間によりによってツーリスト・インフォメーションが閉まるなんてどういう国だろう!
アルビアが遅れていなかったら2時までに来られたのに、と何かのせいにせずにいられない気持ちが働くが、それは意味のないこと。

インフォメーションが必ず開くというあてもない今、どうしたらいいのだろう。明日から歩き始めなければならないのに…。暑さと重い荷物とでクラクラになりながら、とりあえず公園のベンチに腰を下ろす。

IMG_20180725_093024[1].jpg
そしてぼーっとする頭でしばらく考え込んでいた私の耳に飛び込んできたのは、3時を告げる教会の鐘の音。
そうだ、教会へ行けばクレデンシャルを発行してもらえるはず。立ち上がると、幸い教会の鐘楼が少し遠くに見える。私はいつものように勘を頼りに教会のあるであろう方向に歩き出した。


早く今日の宿を確保して落ち着きたい、この私の体重の5分の1程度と思われる重い荷物を下ろしたい。その一心で旧市街の迷路を進んでいったのだが、教会の標識に従い歩けども辿り着かない。おかしいな、ほかのヨーロッパの街では地図や標識通りに歩けばすぐ目的地に着けるのに。

いくつかの坂道を上ったり下りたりしてようやく教会か博物館かわからないがレセプションのある建物を見つけ、これ幸いとばかりに入り、受付らしき場所にいたお姉さんに「クレデンシャル?」と尋ねる。
お姉さんは「ああ、巡礼の…」といった顔で私の言いたいことは理解してくれたようだが、返ってくる言葉は全てスペイン語。何を言われているのかさっぱりわからないまま、指さされた方へ再び歩き出すが、教会内部へ入れそうなドアには行き着かず、また旧市街のよくわからない通りへ出てしまう。

標識を探してまたしてもキョロキョロ辺りを見回した私の目に入ったのは、今度は「Albergue アルベルゲ」のサイン。
そうだ、アルベルゲ(巡礼宿)でもクレデンシャルを発行しているとどこかのサイトで読んだ気がする。ひとすじの光を見た思いでサインに従い歩いていくと、大きく重そうな木の扉にホタテ貝のマークが取り付けられた修道院のような巨大な建物が現れた。

恐るおそる足を踏み入れると左手にカウンターがあり、ちょうど女性がいたので「アルベルゲ?」と勢いよく尋ねると「シィ、シィ」とスペイン語でイエスの返事。
やったー、これで荷物を下ろせる!と心の中で狂喜乱舞した私は、またしても甘かった。このアルベルゲではクレデンシャルを発行していないというのだ。

希望を打ち砕かれた私に残されていたほんの少しの幸運は、その女性が多少なりとも英語を話し、教会の場所にボールペンでマル印を付けた地図をくれたことだ。クレデンシャルがなければアルベルゲに泊まることはできないので、今荷物を預けることはできない、と言われ、仕方なく再び石のように重く感じられるバックパックを背負い、アルベルゲを後にする。

親切な女性のおかげでマル印の建物に無事辿り着き、大声で「エクスキューズ・ミー!」を繰り返した後に現れたシスターは何事かスペイン語で繰り返しながら外に出て向かいの建物を指した。
またしても違うのか、と半分泣きそうになりながら向かった教会の一部らしい建物の端の部分に小さく開けられたドアをくぐると、男女が話をしていて私の存在に気付いた男性が「なんだね?」というふうに顔をこちらに向けた。またしても違うのか、と一抹の不安を感じつつ「クレデンシャル?」と訊いてみる。

すると男性はニッコリとほほ笑んで「シィ」と答えるではないか!
この時の私の安堵した気持ちをどう表現すればよいのだろう。無罪判決を受けた被告人というと大袈裟だが、まさに天にも昇る気持ちで男性に案内されつつ教会事務所へと入って行ったのだった。

クレデンシャル(巡礼手帳)は、旅人がサンティアゴ・デ・コンポステラを目指す巡礼者であることを証明する手帳である。アルベルゲと呼ばれる格安の巡礼者専用宿に泊まるためには、このクレデンシャルにスタンプを押してもらう必要があり、アルベルゲや教会に立ち寄るたびにスタンプを押してもらったこのクレデンシャルこそが、最終目的地サンティアゴ・デ・コンポステラのカテドラルに辿り着いた際に巡礼を終えたコンポステーラ(巡礼証)をもらう証明書となるのだ。

アルベルゲは中世の時代から巡礼者のために整えられた無料の旅籠であったが、近年はドナティーボ(寄付)という形でわずかながらお金を取る。確かにこの時代、無料でベッドやシャワー施設を旅人に提供するのは厳しいに違いない。
P1030293.JPG

Municipalと名の付く公営のアルベルゲ以外は寄付ではなく料金が決まっているところがほとんどで、クレデンシャルにスタンプを押してもらった後に、5〜10ユーロの料金を支払うのが現状であった。寄付は通常5ユーロ、夕食や朝食が提供される宿では10ユーロ。料金制のアルベルゲは私設なのでピンキリだが、私が泊まったところは4〜10ユーロの幅だった。(2011年時点で)

めでたくクレデンシャルをゲットした私は再び先ほどのアルベルゲへ戻り、今度は正式に巡礼者として、手にしたばかりのクレデンシャルに初めてのスタンプを押してもらい一夜の宿を確保したのだったが、自分のベッドを選び荷物を下ろした時にはすでに4時になっていた。

俳人、黛まどかさんの巡礼記『星の巡礼』には、サン・ジャン・ピエ・ド・ポーでクレデンシャルを発行してもらうのに30分近く、なぜ自分がこの道を歩きたいのかを懇々と説明しなければならなかったことが記されていたが、私がパンプローナでクレデンシャルを発行してもらった時は、理由など聞かれずものの1分で終了してしまった。自分の思いをちゃんと英語で説明できるかな、とかなりナーバスに考えてきていたので拍子抜けしたほどだ。発行してくれた人がスペイン語しか解さなかったからか、サン・ジャンのマダムだけが厳しかったのか、真実は知りようがない。


★スペイン巡礼記 Bへ続く・・・
(表題上部の>>をクリックしてください)
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