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2011年12月19日

水仙月・2(半分の月がのぼる空・二次創作作品)










 毎度どうも、土斑猫です。さて、月曜日。ライトノベル・「半分の月がのぼる空(当作品をよく知りたい方はリンクへどうぞ→)」二次創作作品掲載の日です。
 前回同様、ひょっとしたら、原作のイメージを壊してしまう可能性も無きにしもあらずなので、原作ファンの方、その時はすいません。どうぞ、カリブ海の様に広い心でお許しください。
 それでは、どうぞ。



半分の月がのぼる空〈2〉waiting for the half‐moon (電撃文庫)

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                      「水仙月・2」 

                        ―3―

 夕食の後は自由時間だった。皆が思い思いに過ごしている中、あたしはリビングホールで本を読んでいた。
 「里香先輩。」
 声をかけられて顔をあげると女の子が二人、外着を着た格好で立っていた。確か、同じクラスの松島加奈と長瀬千恵だ。二人とも、手には懐中電灯を持っている。
 私が「何?」と聞くと二人はえへへと笑って暗い窓の外を指差した。
 「民宿の人から聞いたんですけど、このスキー場の近くで樹氷が見れるそうです。それで、里香先輩、一緒に見に行かないかなって。」
 「樹氷?」
 「はい。先生には許可もらってますから、大丈夫ですよ?」
 そう言って、持っていた3本目の懐中電灯を差し出してくる。
 樹氷…。
 そんなもの、写真でしか見たことが無い。心の中でモゾリと好奇心が蠢く。
 「先生の許可、もらってるんだ。」
 「はい、ゲレンデのコース内ならいいそうです。」
 二人はキラキラと目を輝かせて、こっちを見てくる。断るのも、可哀想だ。
横目でちらりとホールの隅を見る。裕一は司君と楽しそうに話をしている。
 声をかけようとも思ったけど、みゆきや司君はもうすぐ卒業だ。二人とも卒業後は伊勢市を出て東京へといってしまう。裕一と一緒に過ごせる時間はもう幾ばくも無い。その少ない時間を削りたくはなかった。
 「ちょっと待ってて、仕度してくるから。」
 あたしは差し出された懐中電灯を受け取りながら、そう言った。

                      ―4―
                   
 「うぅ、さむ〜い。」
積もった雪をサクサクと踏みながら、横で加奈がそう言って自分の身体をかき抱いた。
 しゃべる口元から、ふわりと白い息が漏れる。
 「大丈夫?ちゃんと着ないと、風邪ひくよ。」
 「大丈夫ですよ。先輩こそ、大丈夫ですか?身体、弱いんでしょ?」
 自分達で誘っておいて。大丈夫も何もないものだ。
 「大丈夫。ちゃんと着てるし、懐炉も入れてるから。」
 苦笑しながらあたしがそう答えると、加奈は「良かった。」と言ってまたサクサクと雪を踏み始めた。 
 その後はしばらく、皆無言でサクサクと雪を踏み続けた。
 「あ!!あそこ!!」
 突然千恵がそう叫んで、それまで足元を照らしていた懐中電灯を前に向けた。
 光を受けた雪がキラキラと光って、「KEEP OUT(立ち入り禁止)」のロープが浮かび上がる。そして、その向うに…
 「「「わぁ…」」」
 三人がいっせいに声を上げていた。
 深い世闇の中で、透き通る様な純白に身を凍てつかせた木々。それが雪の光を纏ってそそり立つ姿は、この世のものとも思えないほど綺麗だった。
 「凄い…。」
 「綺麗…。」
 加奈と千恵の二人がそう呟いて、魅せられた様にフラフラと近づいていく。
 「あ、ちょっと…!!」
 二人が立ち入り禁止のロープを超えるのを見て、あたしは思わず呼びかけたが、まるで聞こえてない様に奥に進んでいく。
 「もう…。」
 仕方なく、あたしも彼女らを追った。

 「わぁ…凄い!!」
 「素敵…!!」

 樹氷の森のただ中で、あたし達は感嘆の声を上げていた。周囲一体を包む凍麗な輝きの光景は、まるで俗世とは遠く離れた、別世界のものの様だった。
 「来て良かったですね!!先輩!!」
  二人はそんな事を言いながら、周囲の風景を携帯のカメラでパシャパシャ撮っている。
 「気をつけて。そっち、崖になってる。」
 立ち入り禁止になるのも頷ける。樹氷の森の直ぐ外れは、深く切り立った崖になっていた。
 そんなあたしの言葉を真面目に聞いているのかいないのか、大丈夫大丈夫と言いながら、二人はパシャパシャとシャッターをきるのに夢中だ。
 あたしは一つ溜息をついて、視線を周りの樹氷達へと戻す。
 ああ、本当に綺麗だ。
 (やっぱり、裕一も連れてくれば良かったかな?)
 今の彼なら、この情景をもっと上手くフィルムの中に留めてくれるに違いない。
 (あ、でも学校行事にカメラなんか持って来てないか。)
 そんな事にも気が回らないなんて、結局あたしも浮かれているのかもしれない。
 そう思って、クスリと苦笑いした時 ――

 ズ・・・

 「・・・え?」
 「先輩、どうしました?」
 急に訝しげな声を出したあたしに、加奈が不思議そうに声をかけてきた。
 「あ・・うん・・・。」

 …何だろう?
 何か、変な感じがする。
 …この感じは、何だろう。

 ズズ・・・

 おかしい。
 何かが。
 「里香先輩?」
 「…何か変な感じがする。もう、戻った方がいいかも。」
 あたしの言葉に、二人は不満を露わにする。
 「え〜〜、何でですか?こんなに綺麗なんですよ。もうちょっと見ていきましょうよ。」
 「そうですよ。先生にも許可とってありますし、もう少しだけ。ね?」
 そう言って、二人とも目の前の光景から目を離そうとしない。
 先生に許可とは言っても、こんな処まで入り込むとは、言ってないんだけどな。

ズ・・・

 けどまぁ、仕方ないかもしれない。
 この光景をもっと見ておきたいっていう気持ちは、よく分かる。
 あたしだって、そう。
 もう、次はないのかもしれないのだから。
 仕様がない。もう少しだけ。
 そう思った、その時――

 ―――ズッ

 「――え?」

 背後で響いた無気味な音。

 振り向く。

 その先で、ゴパッと白が弾けた。

 まるで、堰き止められていた水が決壊する様に。

 弾け、溢れた白。

 そのまま奔流となって押し寄せる。

 こっちに向かって。

 冗談みたいなスピードで。

 間にある、全てのものをなぎ倒しながら。

 白い、白い、“白”が迫る。

 「――っ!!」
 とっさに視線を巡らすと、直ぐ隣で、加奈がボケッと立っていた。
 目を見開いたまま。
 竦み上がったまま。
 どうしようもなく。
 どうする事も出来ず。
 ただ、立ち竦んでいた。

 ドンッ

 それを見た瞬間、あたしは彼女を力いっぱい突き飛ばしていた。
 驚いた顔が、舞い散る粉雪の向こうに遠ざかって行く。
 そして、次の瞬間――

 ドゥッ

 (―――あっ・・・)
 物凄い、本当に物凄い力に身体が弾かれる。
 宙に浮く感覚。
 回る景色。
 真っ白に染まる視界。
 遠のく意識のその中で、一瞬、けれどはっきり、“彼”の顔が見えた。
 こっちを見つめる、心配そうな、情けなさそうな、けれど優しい、優しい、彼の、顔。
 手を伸ばす。
 届かない。

 まって。

 まって。

 やだ。

 お願い。

 だって。

 だってこんなの。

 こんなの――

 ないよ――

 そして、意識が、白い、闇に、堕ちて―――

                                                続く


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