こんばんわ、土斑猫です。昨日はえらい醜態を晒してしまい、申し訳ありません。つきあってくださった方、本当にありがとうございます。…見捨てないでね( TДT)
さて、月曜日です。前回言ったように、今回からライトノベル・「半分の月がのぼる空(当作品をよく知りたい方はリンクへどうぞ)」の二次創作を掲載していきます。
ひょっとしたら、原作のイメージを壊してしまう可能性も無きにしもあらずなので、原作ファンの方、その時はすいません。どうぞ、エーゲ海の様に広い心でお許しください。
それでは、どうぞ。
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「水仙月」
――カシオピイア、
もう水仙が咲き出すぞ
お前の硝子の水車
きっきと回せ―― (宮沢賢治・「水仙月の四日」より)――
― 1―
ゴロゴロゴロゴロ―――
回る。
世界が回る。
ゴロゴロゴロゴロ―――
白い世界が。
真っ白に回る。
「うわぁあああ―――っっ!!??」
ドシ――ンッ
ドサドサドサッ
なんちゅうベタな…。
ゲレンデを一直線に転がり落ちた挙句、コース外れの木にぶち当たり、その振動で落ちてきた雪に埋まるという、まるでギャグ漫画みたいな真似を地でやってしまった僕はそんな事を考えながら、冷たい雪の中からモゾモゾと這い出した。
「アハハ、裕一、かっこ悪い。」
途端、後ろから跳んできた声に、僕は一瞬ビクッとなり、そのままギギギ、と顔を振り向かせた。
その視線の先にあるのは、淡いピンクのニット帽と同じ色のダウンジャケットを着た女の子の姿。
「…里香、見てたのか?」
「うん、見てたよ。上から落ちてきて、ここに埋まるまでずっと。」
綺麗な顔に満面の笑みを見せながら、ケラケラとそんな事を言う。
「裕一、滑れなかったんだ。」
そう言ってニンマリとする里香に向かって、僕は思わず、
「い、いや違うぞ!滑れないなんて事は、ない!!断じて、ない!!」
なんて虚勢を張ってしまう。
「ふ〜ん?」
その顔が、ますますニンマリとするのを見て、しまったと後悔するが、もう後の祭りだ。
「じゃあ、これは何?」
そう言いながら雪にまみれた僕の頭を、可愛いポンポンの付いた手袋でポンポンと叩く。
「こ、これは…これはだな…そ、そうそう、たまには滑れない奴の気持ちを味わってみようと思ってやったんだ。」
「へぇ、じゃあ、わざとなんだ。」
「お、おうわざとだ!!全然、わざとだぞ!!」
「へぇ〜〜〜。」
目の前の小悪魔の笑みが、ますます深みを増してくる。
だけど、墓穴を掘り続けていると分かっていても虚勢を張った手前、今更撤回するわけにはいかない。
そして、その事は里香も十二分に承知している訳で…
「じゃあ、滑って見せてよ。今度は本気で。」
満面の笑みでそう言って、リフトを指差す。
そうだよ…。そういう女だよ…こいつは…。
サァッと吹いた風にふわりと舞った長い黒髪が、今に限っては悪魔の翼の様に見えた。
「うわぁあああ―――っっ!!??」
数える事十数分後、結局僕は最初と同じルートを同じ様にたどって、里香の待つ木の根元に帰る事となった…。
― 2 ―
「いててて…」
「全く、無理はしないようにって言われてたでしょ?ちょっと間違ったら大怪我よ。これ。」
腕に出来た大きな青あざに温湿布をしながら、付き添いの保健の先生がそう説教をくれた。
「あ、雪。」
誰のせいだと思っているのか、部屋の窓辺に椅子を置いて座っていた里香が、薄暗くなってきた外を見てそう言った。
その言葉につられて外を見ると、なるほど。雪が降ってきていた。
「そりゃ冬だもんな。降るだろ、雪くらい。」
僕の言葉に、里香がムッとした態で振り返る。
「風情がないんだから。裕一は。」
知るか、んなもん。
そうやって、しばし睨み合う。
傍らでは、石油ストーブに置かれたやかんがしゅんしゅんと音を立てている。
保健の先生が苦笑しながらそれを取り、ととと、とティーパックの入ったカップにお湯を注いだ。
民宿風の小部屋の中に、ちょっとミスマッチな甘い香りがふわりと流れる。
「そろそろ皆、戻ってくる頃ね。」
僕と里香に紅茶の入ったカップを渡しながら、先生は薄闇と雪の降る外を覗いて、そう呟いた。
――と、その声に応える様に、部屋の戸の向こう側からどよどよと大勢がざわめく音が聞こえてきた。
今日、僕らの高校は毎年恒例、一泊二日のスキー教室に来ていた。一年と二年は全員、三年は希望者で、今後の受験に差し支えなしと判断された者が参加する事になっている。
「裕ちゃん、里香、晩ご飯だよ。」
部屋の戸がガラリと開いて、そんな言葉とともにみゆきが顔を覗かせた。
ちなみに、もうほぼ進路が決まっているみゆきと司は今日も一緒にきている。山西は希望したがこの成績で何言ってんだと却下されたらしい。
結構な事だ。
里香は参加出来るかどうか難しい所だったけど、極力無理をしないと言う事で病院から許可がおりた。
もちろん、滑ったりはしない。見学だけだ。
「おう。」
「分かった。」
僕と里香はそう言うと、残っていた紅茶を飲み干し、保健の先生にお礼をいって部屋を出た。
部屋を出た先には長い板張りの廊下が伸びていて、その奥から皆のざわめく声が聞こえてくる。時折混じる怒声は引率の鬼大仏だろう。
一歩足を踏み出すと、板張りの廊下はギシギシと軋んだ音を立てる。
僕達の泊まっているこの旅館、民宿風と言えば聞こえはいいが、何の事はない。ただの年期の入ったぼろ旅館である。トイレが汲み取り式でないのがせめてもの救い、といったところだ。
「…雪、強くなってる。」
廊下を歩きながら窓の外を見た里香が、そんな事を言った。
つられてみて見ると、なるほど、空から注ぐ雪はその量を増していた。もっとも、水分を多く含んだ所謂べしゃ雪ではなく、軽く風に舞うサラサラしたパウダースノーだ。
すっかり日の落ちた漆黒の世界を、淡く白い粉が舞う様は、なかなか幻想的で綺麗だった。
「カシオピイア、もう水仙が咲き出すぞ。お前の硝子の水車、きっきと回せ。」
窓の外を見ていた里香が、唐突にそんな言葉を口にした。
「何だよ?それ。」
僕の問いに里香が怪訝そうな顔をする。
「知らないの?宮沢賢治の「水仙月の四日」で雪童子が詠ってた台詞。」
「すいせんづきのよっか?」
「知らないの?」
すんません。知りません。
「もう。駄目だなぁ。裕一は。今度、貸してあげるから読みなさい。」
「・・・ふぁい・・・。」
「そんな顔しない。短い話なんだから、すぐ読めるよ。」
僕の気の無い返事に、里香はそう言って苦笑した。
続く