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2012年02月06日

水仙月・9(半分の月がのぼる空・二次創作作品)







 月曜日。ライトノベル・「半分の月がのぼる空・二次創作作品掲載の日です。原作を知りたい方はどうぞリンクの方へ。
 なお、別の某作品とクロスオーバーをしてますのでそういうのが苦手な方はスルーの方向で。



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                           ―13―

 ウトウトしていた僕は、不意に射した光にふと目を覚ました。
 見ると、小屋の窓から光が差し込んでいる。気付けば、それまで唸る様に聞こえていた吹雪の音が止んでいた。
 「ん・・・なぁに?裕一・・・。」
 僕に身を寄せて眠っていた里香も、僕が身動ぎしたせいで目を覚ました。
 「あ・・・吹雪、止んでる?」
 里香と僕は、そろって窓から外を覗いた。
 
 ・・・いつしか雲の消えた空に、無数の星とともに大きな半月が浮かんでいた。
 太陽の様に強くはないけど、優しく、柔らかい光。
 深々と降り注ぐその光が、大地を覆った真っ白な雪に反射して、キラキラと世界を明るく照らし出していた。
 月の光と雪の光。その二つの光に包まれた光景は、息を呑むほどに綺麗だった。

 「わぁ・・・。」
 僕の横で、里香が感嘆の声を漏らす。
 子供の様に目を輝かせてその光景に見入る里香の顔は、それに負けないくらい綺麗だった。
 僕は外の光景に見入る振りをしながら、その顔を心に留めた。いつまでもいつまでも残る様に、強く心に焼き付けた。

 ―やがて僕達の無事を見届ける様に、空に輝いていた半月は山の向うへと消え、代わりに眩しい朝日が白い世界を輝かせ始めた。
 
 そして数時間後、僕達は小屋を発見した救助隊によって保護された。

 救助隊の人達に連れられて旅館に戻った僕達を待っていたのは、たくさんの歓声と同じくらいたくさんの涙だった。
 僕は帰った途端、鬼大仏に頬を思いっきり引っぱたかれて雪の上に転がった。
 その後、鬼大仏は僕と里香を痛いくらいに抱き締めると、誰にも聞こえない様にボソリと言った。
 「良くやったな。戎崎。」
 その時の鬼大仏の、怒った様な照れた様な、それでいて微笑んでいる様な顔を、僕は一生忘れないだろう。
 例の二人組、松島加奈と長瀬千恵は里香に向かって泣きながら、何度もあやまっていた。里香も最初はいいよいいよと言っていたけれど、二人がさっぱりあやまる事を止めないので、最期には苦笑しながら黙って二人の頭を優しく撫でていた。
 泣いていたのはみゆきも同じだった。涙で顔をクシャクシャにしているみゆきの横で、微笑みながら立っている司の頬には、僕と同じく、大きな手形がついていた。
 僕と司はお互いに顔を見合って、ウハハ、と笑い合った。
 
 心配された里香の心臓は、救助隊に動向していた山岳医によって取り合えずは大丈夫だろうと診断された。けれど念のため病院に行って検査を受けた方がいいだろうという事で、里香だけ先に救助隊の車で帰る事になった。
 本人は至極残念そうにしていたけれど、仕方ない。
 場合が場合。お得意のわがままを言う事も出来ず、里香はスキー場を後にした。
 僕の方は、低体温症あたりを心配されたけど、それも起こしておらず、何の心配もなしという事で予定通り皆と一緒にバスでの帰宅となった。

 帰りのバスに乗る直前、僕は小屋のある方向を振り向いてみたけれど、そこにはただ、いつもの通りのスキー場の風景が広がっているだけだった。
                            

                            ―14―

 「二人っきりで一夜過ごしたんだって?何か進展はあったのかい?」
 「な、何もないですよ!!ある訳ないでしょ!!」
 検温に来た亜希子さんにそうからかわれ、僕は真っ赤になって喚いた。
 ベッドの上の里香も、同じ様に真っ赤だ。
 ここは市立若葉病院。スキー場の最寄の病院で一通りの検査を受けた里香は、その後さらに大事をとって掛かりつけのこの病院に移され、一週間の検査入院となっていた。

 亜希子さんは散々僕と里香をからかうと、ケタケタと笑いながら病室を出て行った。
 まったく、なんて看護師だ。
 「裕一。」
 憤慨する僕に、里香が話しかけてきた。何だと訊くと、屋上に行きたいという。行きたいってお前、足捻挫してるだろと言うと、僕に向かって両手を伸ばしてきた。
 ああ、そういう訳か。

 「ほら、着いたぞ。」
 そう言って、僕は背負ってきた里香を降ろした。
 「ん。」
 里香は礼を言う訳でもなく、屋上の床に足を着くと、そのままヒョコヒョコと屋上の金網の方へと歩いていく。
 「おい、無理すんなよ!!足、捻挫してるんだぞ!?」
 慌てて駆け寄って手を貸すと、じゃあ連れてってとその身を預けてきた。
 僕は半ば抱き締める様に里香の身体を支えると、そのまま金網の方まで連れて行った。
 里香は金網を掴んでその身を支えると、その無効側の景色をじっと見つめた。
 その方向は、例のスキー場のある方向だ。
 「ねえ、裕一。」
 「ん?何だよ。」
 「夢じゃ、なかったよね。」
 里香の問いに、あの夜の事だと悟った僕は黙って頷いた。
 「何だったのかな?あの娘。」
 その問いに対する答えは、僕だって持っていない。だから、こう返した。
 「雪童子(ゆきわらし)だろ?」
 「ほんとに、そう思ってるの?」
 「ああ。だから、雪婆んごの目を盗んで、助けてくれたんだろ?」
 あの夜、里香が話聞かせてくれた物語に出てくる雪童子(ゆきわらし)は、優しかった。
 雪の山で迷った子供を、とってしまえと言う雪婆んごの命に背いて助けてくれる。
 その時、雪童子(ゆきわらし)が子供にかける言葉は、冷たくて優しい。
 ちょうど、真っ白だったあの娘の様に。
 だから。
 「いいだろ。そういう事で。」 
 「・・・そうだね。」
 そう言うと里香は、僕によりかかる様に身を寄せてきた。
 僕はそれを、そっと抱きとめる。
 「あ、雪。」
 里香が空を見上げて言う。
 つられて僕も見上げると、灰色の空から白い結晶がフワフワと落ちてきていた。
 それを手に受けながら、里香がその詩(うた)を口にする。
 僕もそれにならって、覚えたばかりのそれを紡いだ。

 ―カシオピイア、もう水仙が咲き出すぞ
  おまえのガラスの水車
  きっきとまわせ。

  アンドロメダ、あぜみの花がもう咲くぞ
  おまえのランプのアルコオル
  しゅうしゅと噴かせ―

 空から舞い落ちるそれは、町をゆっくりと冬の色に染めていく。
 振り落ちる幾つもの結晶の中、それと戯れる様に舞う、あの真っ白な姿が見えた様な気がした。
                                                     

                                             
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