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2012年01月23日

水仙月・7(半分の月がのぼる空・二次創作作品)







 月曜日。ライトノベル・「半分の月がのぼる空・二次創作作品掲載の日です。原作を知りたい方はどうぞリンクの方へ。
 なお、別の某作品とクロスオーバーをしてますのでそういうのが苦手な方はスルーの方向で。



半分の月がのぼる空〈7〉another side of the moon―first quarter (電撃文庫)

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                           ―11―

  裕一が、火を起こしてくれた。
 小屋の中にあった囲炉裏に、同じ様に小屋の中にあった木切れをくみ上げて、持ってきてたマッチで火を点けて。
 チロチロと小さな炎が、暗闇に沈んでいた小屋の中をぼんやりと照らし出す。やがてゆっくりと、微かな、けれど確かな暖気が部屋の中を満たし始めた。
 「あったかいね。」
 そう言うと、
 「そうか?」
 そう言って、裕一は得意そうにニッと笑った。

 
 焚き火のおかげで大分暖まったとはいえ、小屋の冷気を完全に払うには至らなかった。
 見れば、里香はまだ青い顔で小刻みに震えている。
 僕は自分のジャケットを脱ぐと、それを里香に被せた。
 「裕一?」
 「俺、大丈夫だから。着てろ。それからこれ。」
 そう言って、僕は身に付けてたありったけの懐炉を里香のジャケットの中に突っ込んでやった。
 里香はきゃっと小さく叫んで、エッチだの変態だの騒いでいたが、取り敢えず無視した。
 
 ―さて、格好はつけてみたものの、寒いのは僕も同じだった。まぁ、火は焚いているわけだし、セーターは着ているわけだから、凍死はしないだろうと自分を納得させ、どっかと炉辺に腰を下ろした。下ろしたはいいが、やはり身体は正直だ。ブルブルと身体が震え、歯がガチガチ鳴り出した。気合で抑えようとしたが、そこは悲しきかな、人間であるが故の生理現象。僕の気合如きでは頑として言う事をきかなかった。
 「裕一。」
 「ん?」
 名を呼ばれ、歯をカタカタ鳴らしながら里香の方を見る。
 見ると、里香が僕が掛けたジャケットを半分広げてこっちを見ていた。
 「おいで。いっしょに、入ろう。」
 少し、いや、かなりドキリとした。
 「ば、馬鹿。それ、一人用だぞ。二人いっしょじゃ小さいって・・・」
 「いいから。言う事聞きなさい。」
 「…はい。」
 こんな時、僕は彼女に抗う術を知らない。すごすごと里香の広げたジャケットの中に入る。格好悪い事この上もない。
 それでも、二人分の温もりは容易く独り身の寒さを溶かす。情けない歯の音は程なく止まり、気付けば二人分の息遣いと吹雪の音だけが静かに小屋の薄闇の中に響いていた。
 里香の呼吸が、鼓動が、温もりが、密着したジャケットとセーターを通して伝わってくる。
 僕はせめて彼女のそれより高鳴る自分の鼓動が、里香にバレない様に祈るばかりだった。


 それからしばらく、僕達は司のくれたカロリーメイトを食べたりして過ごした。
 「裕一。」
 「うん?」
 不意に呼ばれて横を見ると、里香がこっちを見ていた。
 薄闇の中で、暗く深い瞳が僕を見つめている。
 「どうして、ここが分かったの?」
 「あー、それは、だな・・・」
 さて、困った。幽霊に案内されたなんて馬鹿げた話、この女にしたらなんて言われるか分かったもんじゃない。
 「あ、足跡だ、足跡。お前の足跡を見っけてだな・・・」
 「あたしが小屋(ここ)に来てからどのくらい経つと思ってんの?この吹雪の中で、足跡なんて残ってる訳ないじゃん。」
 その通りだ。僕がたどって来た足跡は里香のものじゃない。里香のそれよりも小さい、恐らくはあの白い娘がつけた足跡。
 「裕一、なんか隠してない?」
 「えー、あー、それは、その・・・」
 里香がぐっと顔を近づけてくる。
 「裕一?」
 「その・・・」
 里香の目が剣呑な光を放った。
 ヤバイ!!と思った時にはもう遅い。
 里香の両手が、悪魔の魔手の様に伸びてきて僕の口の両側を掴む。そのまま力いっぱい、グイーと外側に引っ張ってきた。
 当然、痛い。
 「ひ、ひふぁい、ひふぁい!!やへろって!!」
 悲鳴を上げる僕の口をさらに上下に嬲りながら、里香は小悪魔の笑みを浮かべる。
 「言う気になった?」
 「わ、わひゃった、わひゃった!!」
 こうなりゃ自棄(やけ)だ。馬鹿にでも阿呆にでもすればいい。僕は洗い浚いぶちまけた。
 ところが、里香の反応が予想外だった。
 大笑いするかと思いきや、目を丸くして驚いている。
 「・・・あたしも見た。その娘・・・。」
 「・・・へ?」
 そして里香は話し出した。雪崩に弾き飛ばされて、谷の下に落ちた事。目が覚めた後、黒猫にここまで案内された事。凍えそうな中、その黒猫に助けられた事。小屋の中に突然現れた白い少女の事。その少女と猫の会話の事。そして、その両者が雪の様に消えた事。
 唖然とした。
 話だけで言ったら、そっちの方が荒唐無稽だ。
 だけど、僕にはその話を笑い飛ばす事は出来ない。
 なにせ、僕自身がその白い少女に助けられているのだから。
 僕達はそのまま、黙りこくってしまった。
 再び、小屋の中は再び二人の息遣いと吹雪の音だけの世界になった。

 「・・・雪童子(ゆきわらし)?」

 だから、里香が独り言の様に呟いたその一言は、ひどく大きなものになって僕の耳に響いた。


                                             続く
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